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三日目 ワニの処理をする

 全身の疲労と切り傷、特に酷い肘から先の左腕の表面が炭化した大火傷がズキズキと痛む。腰のポーチからとっておきの回復ポーションを取り出して一気に飲み干した。

 中級ポーションなので、左手の完治には至らないが、他の傷は塞がっていく。


 正直情けないなと感じる。バーンクロコダイルは力や火球の苛烈さはなかなかだが、行動は直線的で裏がない。そんな相手に多勢に無勢とはいえ、ここまで傷付けられるとは……。それに太陽の傾き具合から見ても三十分も戦っていない筈だ。数日前の防衛戦では朝から陽が落ちるまで戦っていたってのに、こんなに早くバテるなんて。

 つくづく俺一人での実力はこんなものかと実感する。いや、元々自己評価が高かったわけじゃないが、元の世界で戦っていた時は随分と楽させてもらっていたのだな……と思ってしまう。


 俺の所属するパーティ『銀晶鳥の羽』での俺の役割は、基本的に雑魚の露払いで後衛のメイフルーを守ることと、トーツを壁にして敵の隙を突くことで、先頭に立って全体を守るトーツの役割や、魔物の群れに斬り込んでいくガジィーの役割を与えられたことはない。適材適所だということは理解しているが、いざソロになってみると仲間の存在を大きく意識してしまう。

 「あ~……。もっと強くなりてぇなぁ……」と独りごちて、痛む左手をぎゅっと握りこんで立ち上がり辺りを見渡す。


 細くて燃えやすい葦は一旦火が着くと燃え広がるのは速いが、根の近くは水が張っているので鎮火するのも速い。

 まだチロチロと燃える箇所もあるけど、粗方の火は消えてもうもうと煙が立ち上っている。刈り取った葦原と手前の土の地面に転がるワニの数は二十四頭だった。内四頭はナン教授が無傷で捕らえたもの。俺が狩ったのが十一頭で、紅月が仕留めたのが六頭。後の三頭は土木組の魔獣が何度も傷付けて倒したので傷みが結構酷い。


 「あ~あ~……。まさかこんなことになるなんてな。マビァがいてくれて良かったぜ。……っておい! ひでぇ怪我してんじゃねーか!」

 服も破れてあちこち血に染まっているので、俺の怪我がウェルが思っていた以上に酷く見えたのか、少し慌てる。盾で左腕は隠れてたもんなぁ。遠目で分かるわけないか。

 ロージルさんも青い顔をして、どうしたものかとワタワタ動いていた。

 紅月は戦闘中も近くで出たり消えたりしてたから、こっちの状態は分かっていた筈だ。でも戦場慣れしているのか、慌てることなく周囲を警戒している。

 「応急措置はすんだから、取り敢えずは大丈夫だよ。治り切らなかったのは左腕の火傷だけだ。そういやこっちには回復ポーションってあるのか?」

 右手に持ったままだった回復ポーションの空瓶を振って見せる。

 「こーいうヤツ。飲むと傷を治して体力を回復させる薬なんだけど。俺らの世界では錬金術師が作って販売していたんだけとな」

 「ほう? 飲むだけで怪我を治せるのか。錬金術ギルドもあるし滋養強壮の飲み薬ならあるが、傷薬は患部に直接塗って治すのしか知らねーな。それもすぐに傷口が塞がるほどの即効性はないから、街の教会の神官に治癒魔法で治してもらうか、冒険者ギルドに戻って冒険者の神官に治してもらうのが早いかもな」

 ウェルは紅月に目を向ける。

 「私もそんな便利な薬は知らない。でも私に敵の攻撃は掠りもしない。マビァのような無様な怪我はしないから必要になったことないけど」

 「またお前は! 言い方ってもんがあんだろ」

 ペシンッと紅月の頭を叩くウェル。

 「いやいや、紅月の言う通りだよ。紅月は姿を消せるとはいえ、一撃で急所を貫く腕はすげぇよな。無駄のない動きと刺 突の鋭さに驚いた。俺は今回、自分の未熟さを痛感したところさ」

 褒められると思ってなかったのか、きょとんとする紅月。その様子に俺は苦笑する。

 「ふーん? 落ち込んではいないんだね」

 「なんだよ、落ち込んでて欲しかったのか? そりゃ結構ヘコんださ。で、反省して立ち直った。俺、ネガティブ入るといつまでも引き摺る時あるんだ。今はまだやりたいこと沢山あるから、無理矢理にでも前向かなきゃな」

 「そう……」

 紅月はこちらから目を逸らして呟く。なんだ? この()は顔を隠してるせいもあるが、よく分からんヤツだな。俺をからかって楽しんでいる節もあったが、心の内がさっぱり読めない。


 「まぁお前が身を挺して守ってくれたお陰で、誰一人怪我することなく済んだんだ。ホント助かったよ。ありがとうな」

 そうウェルが労ってくれる。それだけでもありがたい。

 「いや、念のために来といて良かったよ。しかし……。どうするよコレ……」

 まさに死屍累々のワニ達に目を向ける。


 「そうだな。折角だから全部有効に使いたいもんだ。魔獣達が仕留めたワニは皮がかなり傷んでるし、皮革加工には使えそうにねぇから、火燃液の袋と歯と爪、ジェムくらいなら使えるか。肉や内臓は研究に使えんこともないか。なんにしても血抜きしなきゃな。おーい、クロブ! こっち来てくれ」

 ウェルが沼の方まで行っていたクロブさんを呼ぶ。状況が落ち着いたので、他のみんなも戻ってきた。


 「やれやれ……。とんでもないことになったな」

 ナン教授がワニを縛った鎖の様子を見ながらやってくる。

 「あんな微かな血の臭いで、ここまでワニを引き寄せるのなら、あの罠の案は見直した方がいいんじゃないですか?」

 シヌモーンさんがナン教授に問いかける。他の木工ギルド職員達も大きく頷いていた。

 「うむ、俺が昔捕らえた時は夜だったし、ここほど密集してなかったからな。釣りで引き寄せに使った血も、今回のように原液の血じゃなくて、水でしっかり薄めたもんだった。ワニをバラしたのも百メートルは離れた場所だったし、血抜きの臭いを消すのと明かりのために焚き火を焚いてた。状況が違いすぎて比べられんが、より安全策をとるなら大幅な変更は必要だろうな」

 鞄から紙束とペンを取り出して木工ギルドの面々と話し合いを始めるナン教授。


 ウェルは戻ってきたクロブさんと紅月に指示を出す。まず傷だらけのワニを一頭クロブさんに担ぎ上げさせて、ロージルさんが乗ってきた馬車に載せる。ウェルはそれと共に街へ戻り、屠畜場に運んでから他の馬車を何台も連れて帰ってくるそうだ。

 「そのついでに神官をひとり連れて来てやるから、マビァはここでやれることやっといてくれるか?」


 クロブさんと紅月に血抜きをさせようとしたが、紅月がウェルから離れることを拒否したので、俺が代わりにその手伝いをすることになった。

 クロブさんが、俺が尾を切り落としたワニの後ろ足を持って逆さに持ち上げ、俺が首の太い血管を切って血を抜いていく。

 尾を切り落としたのは血の流れを良くする為だ。

 例えば細い鉄パイプを水に浸して、片方の穴を指で塞ぎ、もう片方を下にして持ち上げると、パイプ内の水は下に落ちない。上の穴の指を離してやると中の水は一気に抜け落ちる。下に落ちようとする水の力に上から空気が吸い込まれるので、パイプ内を速く空にすることが出来る。

 これと同じように、全身の血管に溜まっている血を抜くには、首の太い血管を切っただけではなかなか下へと抜けてくれないので、上の尾の切断面から空気を入れやすくしてやると血は下へ流れやすくなる。

 俺が元の世界で夜営をする際に、野生動物を狩って晩飯にする時に身に付けた技だ。


 本当は心臓を止めずに太い血管を切ってやると、心臓がポンプ代わりになって、血を全部押し出してくれるのできれいに血抜きが出来るんだけど、今回はどれも止めを刺してるからその方法は使えない。

 なにせワニの数が多いので、この作業を早くしないと後になる程血管内の血液がゼリー状に固まって流れなくなる。

 俺は尾と首を切るだけなので簡単なお仕事だが、尾を切り落とすとは言え七百キロはあるワニを十九頭も繰り返し持ち上げて血が抜けるまでキープしなければならないクロブさんは大変だ。

 「おうクロブ。俺の馬車にも一頭積んでくれや。俺も一旦帰ってコカトリスを一羽連れてくる。縛ったコイツらで石化を試してみたい。石化さえしとけば、ここに放置しといて帰っても平気だからな。回収はまた後日で構わんだろ」

 「わたくしも戻って馬車の手配をしてまいります。急ぎますのでマビァさんが乗ってきたギャロピスをお借りしますね」

 ナン教授とロージルさんはそう言い、ウェル達と戻ることになった。


 「お前ら、死闘と緊張の連続で喉乾いただろ? 水を飲んどけ」

 ナン教授がクロブさんに自分の馬車から、下に台の付いた大きな木の樽を降ろさせる。樽には蛇口が付いていて、そこから木のコップに水を注いで俺らの方に突き出した。そういえば喉がカラカラだ。ありがたく戴くことにする。みんな交代で貪るように飲んでいく。

 「悪ぃが、コップは二つしかねぇ。回し飲みしてくれ。それとマビァくんバケツだ。剣や手を洗ったりするのに使いなさい。タオルも何枚かここに置いとくぞ」

 言いながらナン教授はタオルの束を樽の上に置いてくれる。小さな作業台もひとつ貸してくれた。流石フィールドワーク慣れしているだけあって準備がいい。

 「ありがとうナン教授。助かります」

 木工ギルドと土木ギルドの面々も戻ることにする。木工ギルドは罠の安全策の見直しをするために、土木ギルドは頑張って戦った魔獣達を休ませてやるためだ。どうせ今日はもう仕事にならない。俺も帰ることを彼等に勧めた。

 「土木組のみんな。助かりました。俺だけじゃみんなを守り切れなかったよ。ありがとう」

 「ははは……。怖い思いはしたが、皆無事で何よりじゃよ。しかしもう一度はさすがに御免だな。葦刈りは手間だが人の手でやった方が安全そうじゃ。ここは全部燃えちまったから土を盛って道は造れそうだがな」

 ギルマスのノックスさんがヘロヘロながら答えてくれる。他の三人は口がきけないほどバテていた。

 「ゆっくり休んで下さい」とみんなを見送る。



 クロブさんと二人きりになってしまった。黙々と作業をするのもつまらないので、俺はクロブさんに話しかける。

 「クロブさんもありがとう。来てくれなきゃマジでヤバかった」

 「いえいえ、これくらいであればお易い御用です。皆さんご無事でなによりでした」

 七百キロのワニを何回も持ち上げているのに、平然としている。まだ二時頃なので陽が高く、にこやかな笑顔が逆光で陰になってますます怖い。

 「しかし、ウェルはどうやってクロブさんをここへ呼んだの?」

 不思議に思っていたことを質問してみた。

 「あぁ、それでしたら簡単です。主の犬笛ですよ。私、耳が良いので」

 「いやいやいや、レストランからここまで五キロはあるじゃん! いくら耳が良いからって……。あ、それもスキルか」

 それなら色々と納得がいく。ただでさえ彼の戦い方は複数のスキルがなければ説明できないものだった。俺の言いようにクロブさんは少し目を細める。怖い。

 「マビァ様は、フェネリと主のスキルを見抜かれたそうですね。でしたら私がスキル持ちだと気付かれても当然なのでしょう」

 「様はやめてください。こそばゆいので呼び捨てて、お願いだから」

 「では、私のこともクロブとお呼び下さい」

 俺としては尊敬出来る歳上には『さん』付けしたいんだけど、彼の主で彼より歳上のウェルを呼び捨てしてるからな~。仕方ないか。

 「見抜いたってほどじゃないよ。ウェルの鼻は先に答えをもらってたようなものだし、フェネリさんの『認識阻害』はそれに近いスキルを言ってみただけだ。そのものズバリを当てたわけじゃないよ」

 俺はそう答え肩を竦める。クロブは血抜きが終わったワニを降ろして処理済みを纏めてある場所に運び列べる。 

 その間に俺は次のワニの尾を『シャープシフト』をかけた剣で切り落とす。そのワニを持ち上げながらクロブは質問してきた。

 「では、私のスキルは何だと思われますか?」

 またクイズ形式かよ。こっちの奴らはホント好きだな。

 ワニの頭を下にしてぶら下がった喉を切り裂く。火燃液の袋につながる管を切ってはいけないので、それなりの練度がいる。紅月の方が絶対上手いよな。

 「ん~。クロブの戦いっぷりは俺の常識外だったからなぁ。複数のスキルを持ってるのは間違いないでしょ? あれだけのワニの猛攻に傷ひとつつかない肉体となれば『物理攻撃無効』とか『火炎無効』とかみたいなのがないと説明できないよね。あと『身体強化』的なヤツかなぁ? いくらそれだけの巨体があってもあのワニを殴り飛ばすなんて普通は不可能だからさ。こうは言ってみても、正直ワケわかんないってのが本音だよ。俺の知らないスキルばかりだもん」


 『身体強化』のスキルは元の世界ではメジャーはものだった。俺はまだ持ってないが、ウチのトーツが五百キロは下らないバカでかい両手盾を軽々と扱えるのは、このスキルと盾に付呪された『軽量化』のお陰だったりする。

 しかし俺の知っている『身体強化』は、筋力だけで言えばせいぜい通常の五倍~十倍程度を常時発動出来るくらいだった。視力・聴力・嗅覚等も意識して何倍にも強化出来るらしいが、ウェルの『嗅覚分析』ほど強力なものではなかったはずだ。


 クロブのそれは俺の世界の『身体強化』では説明がつかない。

 「私のスキルはどうやら特別なもののようですからね。『種』を作って他人に譲渡できない私だけのものらしいので分からなくて当然なのです。少し意地悪な質問でしたね。申し訳ございません」

 「いや、謝られる事じゃないよ。……ていうか、その口調なんとかなりません? 俺の方が年下だしさ、タメ口の方がありがたいんだけど」

 見た目と口調の違和感が半端なさ過ぎる。拳ひとつで覇王にでもなれそうな外見なのに、口調と物腰がおっとり紳士なんて…。

 「それは、その、私の性分というか。変えられそうにありません……すみません」

  ワニを持ち上げたまま、肩を縮めて申し訳なさそうにする。器用な人だ。

 「じゃあしょうがないけど。それで、どんなスキルなの?」

 「そうでした。私のスキルは『英雄への道標』、『超回復』、『超人化』、『第六感』の四種類になります」

 全く聞いたことのないスキル名が四つも出てきた。詳しく聞くと以下のようになる。


 『英雄への道標』

 一日一回だけ五分間、物理攻撃・魔法攻撃・状態異常などのあらゆる攻撃を無効にする。その間、回復魔法も受け付けない。使用後は大きな負担が全身の肉体にかかるが『超回復』で解消可能。精神的疲労は残る。


  『超回復』

 体内で回復薬を自動生成し、肉体のダメージと疲労の回復を行えるがエネルギーの消耗が激しく、使用後は大量の食事と睡眠が必要になる。

 また健康体への回復はかえって毒になるので、任意で、またはオートでのON・OFFが可能。OFFにした場合『英雄への道標』『超人化』は使用出来ない。


 『超人化』

 任意により常時発動可能。身体のあらゆる能力を二倍~二十倍まで強化調整出来る。二倍~五倍までは肉体的な負担はないが、それ以上は倍率に見合ったダメージを負い、使用可能な制限時間も『超回復』に依存する。

 つまり、空腹と疲労が蓄積された状態だと回復薬の自動生成が行われない為、六倍以上の使用は不可。

 最大値の二十倍で、状態も万全だった場合の制限時間は約一時間。限界まで使い続けた場合、即座にエネルギー補給を行わなければ、寿命を縮める事になる。


 『第六感』

 通常の人間では感じえない、人の強い感情や、範囲内の異変、聴こえない領域の音を感じとれる。有効範囲は半径五キロほど。範囲や強度、能力のON・OFFは任意で調節可能。


 なるほど、さっきの無敵時間は一日五分限定なんだ。で、ワニを殴り飛ばしたパワーと、ギャロピスよりも早くここまで辿り着ける足の速さ、驚異的なジャンプ力などは『超人化』によるもので、ウェルの犬笛の音を聞き取ったのは『第六感』か。今も見せているタフさ加減は『超回復』で疲労を溜めてないからかも。

 あれ? 『第六感』って俺の求めてる『危機探知』のようなスキルに近くない? あ、でもクロブは自分だけのスキルで人に『種』は譲渡出来ないって言ってたな。じゃあ違うのか。

 ウェルも俺が探してるスキルを聞いた時に、クロブの名前は出さなかったもんな。


 「一日に五分だけ無敵超絶ヒーローになれるってわけだ。ん? ってことは今、クロブってすっげえ腹減ってるんじゃ……」

 と、俺が言った瞬間、ぐぎゅるるるるるる……と、盛大にクロブの腹が鳴る。

 「……はい。恥ずかしながら、少し目眩がするくらいには空腹です」

 ポッと顔を赤らめるクロブ。だから似合わねぇって! それにさっきの話だと、何か食べないと寿命が縮んじゃう!

 「わっ、わかった。俺がワニ肉焼くからちょっと待ってて」

 幸いまだ葦原の残り火があるし、近くに雑木林もある。土木組の魔獣達が潰したワニならば食ってもウェルは文句は言わないだろ。それに今日はクロブを働かせ過ぎだ。多少のご褒美があってもいいはずだ。


 「恐れ入ります」という恥ずかしそうなクロブの声を背に聞きつつ、急いで近くの雑木林に走って薪を集める。

 戻ってきてワニを一頭バラし横腹肉の美味いところを大きめの一口大に切り分け、串焼きの準備をしたら火燃液を薪にぶっかけて、火の着いた葦を放り込んで着火する。

 あとは地面に刺した串を時々回しながら焼いていくだけだ。その間も血抜きの手伝いをしたり、追加の薪を拾いに行ったりしながら串焼きの準備をする。

 「マビァは手際が凄く良いですね。感心いたします」と、クロブに褒められる。

 へへん。こう見えて俺はそこそこ生活力が高いのだ。孤児院時代には小さい子の面倒は見てたし、食事当番だってやってきた。今のパーティでも夜営をする時は料理番を任されている。……まぁ、俺しかまともに料理出来ないからなんだけど。


 トーツはあー見えてもお貴族様だから料理をしたことがないし、ガジィーは街にいる時はモテモテなので世話してくれる女はいくらでもいる。問題なのはメイフルーとレイセリアの方だ。

 レイセリアは料理と言うより、もはや毒物の調合と言っていい。どうやれば普通の食材と調味料で毒殺出来る料理になるのか知らないが、食べれば命に関わるので絶対に料理はさせない。

 メイフルーのは普通に不味い。彼女は幼い頃からの神殿生活なので、他の神官達と共同生活をする上で料理当番をやってきている筈なのに、手際も悪くて時間がかかるし、長時間待った挙げ句に不味いのだから始末に負えない。

 なのに二人ともたまに作って俺達に食わせようとするんだから(自分達は食べない)、男三人でヘソを曲げないように持ち上げながら必死に止めるのがいつもの光景だ。



 最初の数本が美味しく焼き上がる頃には、血抜きの作業も終っていた。辺りは堪らなく美味そうな匂いが漂っている。二人とも手を洗い、タオルを濡らして全身あちこちの汚れを拭いてから、串焼きを食べることにする。

 「いただきます」

 そう言い一本の串を取り上げたクロブ。彼が持つと大きめに作った串焼きも少し小さめに見える。二十本以上焼いているが、まだまだ必要そうだ。

 「どうぞ召し上がれ」

 俺はニッと笑って見せて、俺も一本齧りながら次々と串焼きを作っていく。

 「こっ、これは凄く美味しいですね!」

 ガツガツと美味しそうに食べるクロブ。余程腹が減ったんだろう。次々と手を伸ばし食っていく。

 「だろ? 調味料なしの素人料理でこの美味さなんだから、ウェルお抱えの料理人がちゃんとした料理にしたら、とんでもない事になると思わない?」

 俺がそう言うと、クロブはぶんぶんと頷く。

 「主から話を聞いた時には本当に? と疑ってしまいましたが、流石は我が主です!」

 良い食いッぷりだ。肉はまだまだあるから食ってほしいが、このままじゃ串代わりの枝がおっつかない。どうするかと考え、使い物にならなくなった盾で分厚いステーキを焼くことにする。

 薪の左右に石を積み上げて、その上に裏側の半分炭化した革を剥いだ盾を置いて厚切り肉を焼けるだけ焼いていく。結構ベコベコに歪んでいて焼きにくいが、ジュワァァという焼ける音と匂いが堪らなく食欲をそそる。


 二人で串焼きを食べながら、ステーキが焼き上がるのを楽しみに待っていると、街の方から複数の蹄の音が近付いて来た。

 ウェル達が戻ったのか? と振り向くと、ラクスト大尉を先頭に兵士が十人ほどギャロピスに乗ってやって来るのが見える。俺達は立ち上がり待っていると、少し離れたところでギャロピスを止め、皆一様に現場の有り様に驚いて言葉を無くしていた。

 「マビァ君……。これは一体何があった……?」

 次回は十一月二十二日(日)の正午に更新予定です。


 お暇でしたら、またお付き合い下さいませm(__)m

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