三日目 恋するロージルと残念なコニス
「……ですよね? あぁ、恥ずかしい」
両手で顔を覆って俯くロージルさん。
「お色気たっぷりで、ガラムさんを悩殺するつもりかと思った」
「ぇえっ?! そっ、そこまでしたつもりはなかったですよ! ただディナーに誘って戴けないかと……」
「いやロージルさん。今もそうだけど、仕草や表情がめちゃエロいから」
赤い顔をして片手の拳で口元を隠し、反対の手でタイトのミニスカートの前を押さえて、脚をモジモジさせてる姿は十分エロい。俺じゃなくてもずっと見ていたい男は少なくない筈だ。
「そ、そんな?! わたくしはエロくないです!」
自分の両二の腕をヒシッと抱き締め、涙目で否定するロージルさん。その仕草が美乳を掻き寄せ谷間を強調して、男の(俺の)視線を釘付けにしているんだが……。どうやら自覚はなかったらしい。
「あー、いや。仕事の時とかはビシッとしてて、仕事のできるイケてる女って感じでさ、エロさは感じないんだけど、今みたいな仕事じゃない普通の会話の時はもう凄いから。エロいから。これまで周りの男の反応とか見て気が付かなかった?」
「はあ……。わたくし自分の姿が殿方の目にどのように映るのか、あまり気にしたことはありませんし、わたくし自身が恋愛に疎いせいかスキルの反応も鈍くて、好意を抱いて戴いてるかまでは分かりません。先程のガラムさんの反応もなかったですよね? 脈がない感じでしたよね?」
「ん~どうだろ? ガラムさんとは付き合いまだ数時間だけどさ、あの人、色恋沙汰にはなんか鈍そうな感じするんだよな。まぁさっきはこの街に来てからドはまりしてる『キィマ』のカレーに夢中だったし、はっきりとは言えないんじゃない?」
若しくはわざとはぐらかしているかだな。なんかかなり大変な人生を過ごしてきたみたいだし、何年か旅をして、この街に来てやっと落ち着いてきたみたいだから、まだ嫁さんが欲しいとか考えていないとか……。
これはロージルさんには言わないでおこう。俺の勝手な感想で振り回してもいけないし。
「で、ガラムさんのことはいつから? 昨日店を教えてもらった感じだと、割と前から知ってそうだったけど」
ロージルさんは少し俺から視線を逸らし、強く目を瞑った後、気持ちを落ち着かせ話してくれる。
「ガラムさんが五年前にこの街にお店を開いてから、割とすぐにお鍋を買いにいったので、それから年に何回か買いに行ったり修理を頼んだりしていますので、お客と店主という間柄では五年目になりますね」
でも、初めは全然そんな気持ちはなかったんですよ? と、はにかむロージルさん。照れ顔が可愛い。
「初めは無愛想な御店主だな、くらいにしか思っていませんでした。でも彼が造る調理器具は本当に使い勝手が良くって、お家の調理器具を少しずつ買い換えていくのが楽しみになってきていました」
確かに金物なんて、一度買うと一生使える物だってあるもんな。そんな理由でもなけりゃ年に何回も通う類いの店じゃあない。
「わたくしが使いやすい物も、相談をすれば作って戴けましたし、ちょっとした修理にも親切に対応してくれますし。包丁もわたくしの手に合わせて造って下さったのですよ」
一年ほど前に包丁を研ぎに出すと、奥の部屋で包丁を研いで戻ってきたガラムさんは、
「あんた、包丁の扱いが実に上手いんだな。食材を傷めることなく上手に切れている」
と、褒めてくれたそうだ。その時ロージルさんは、ちょっとキュンとしたらしい。
「使った包丁を見るだけで、使い手の技量が計れるのはまだ分かりますが、切られた食材のことまで分かるなんて、流石に凄腕の職人はすごいのだなと驚かされました」
いや、うん、ガラムさんが凄腕なのは分かるけど、それが彼のスキルだからね。包丁の軌跡を見たんだな。
「そしてお礼を言い、店を出る時に三人の冒険者が入れ違いで店に入っていったのです。この街のギルドではまだ見かけたことのない三人だったので不審に思い、店の外からスキルを全開にして覗いて見てたところ、ガラムさんが帝国で名を馳せた武器防具の職人だったと知ったのです」
武器造りはもうしていないと断るガラムさんに、しつこくせがむ冒険者達。
仕方なく彼らの武器をガラムさんが鑑定すると「こんな使い方をする奴らに打ってやる武器はない!」とはっきりと断ったのだそうだ。
憤慨した冒険者達がガラムさんに掴みかかろうとしたところ、手近にあったフライパン二刀流で、三人ともあっさりと伸してしまい店の外に放り出したそうだ。
冒険者達もすぐに動けるくらいに手加減されていたようで、立ち上がり文句を言いはじめたが、そこに諍いを感知したクロブさん登場。
クロブさんの容姿に恐怖で固まる冒険者達を置いといてガラムさんが事情を説明。そこにロージルさんも自分が冒険者ギルドの職員であることを明かし、見知らぬ三人を不審に思い見張っていたとガラムさんを援護。クロブさんが三人を兵の詰所に連れていったそうだ。
その一件があってから少し話をするようにはなったが、まだ食事を一緒にする仲にはなっていないらしい。
「実は、本気で好きになってしまったのは今日なんです」
モジモジと俯きながら言うロージルさん。なんと! もしやさっきのカレーマニア全開だったのに惚れ込んだのか? いやまさか。
「木工ギルドにいた時のことなんです。いつもお店で見る少しボンヤリしているガラムさんと違って、真剣な眼差しで図面に向き合い、的確に説明していくその姿に心を奪われました」
なるほどそっちか。真剣に仕事に取り組む人って、男でも女でも容姿の良し悪しに関わらずカッコいいんだよね。ましてやガラムさんは厳ついがイケメンだ。凄腕の匠で真剣に働くイケメンガラムさんだったら、俺でも変な嫉妬や劣等感を抱かずに、そのかっこ良さに尊敬できる男として惚れ込んでしまうかもしれない。
ロージルさんは語りながら頬を紅く染め、目を煌めかせる。目がハートになるっていう顔、こういうのを言うんだろうな。
「わたくしの殿方の好みにピッタリ過ぎるのです。年上で頼りがいがあって、仕事が出来る男って感じで凛々しくて、逞しく優しくて、ミステリアスなところも良いのです!」
なるほどな~。確かにガラムさんは条件にはまり過ぎてる。ロージルさんにとっては、もう二度と見付けられないかもしれない好条件なお相手ってわけだ。
しかし、路上でちょっと大きな声でのろけられると、聞いてるこっちも周りの視線が気になり恥ずかしくなってきた。
「まぁまぁロージルさん。ちょっと隅に寄ろうな? あと周りの視線気にしような?」
彼女の肩を押して道の隅に寄せると、ロージルさんも周囲に気が付いてさらに真っ赤になる。
「す、すみません! どうしましょうわたくしったら往来で大声出して……穴があったら入りたい」
踞りそうになるロージルさんをなんとか留まらせ、ギルドまで速足で歩かせる。
「穴に入ってる暇ないから、かわりに冒険者ギルドに入ろう、すぐそこだから。思ったより話し込んじゃったから急がなきゃ」
「そ、そうですね」
秘めてた想いを(外からはバレバレだったが)話せたので少しスッキリしたらしい。普段から仕事は人の数倍こなしているみたいなのに、兵士達への怒りの感情だったり、ガラムさんへの恋慕だったりと忙しい人だね。俺も綺麗でエロいお姉さんは大好きだが、残念ながら脈は全然なさそうだ。
さっき始まったばかりの恋心なんてロージルさん可愛すぎる。是非とも頑張ってほしいものだ。
ギルドに戻った俺は受け付けカウンターにいたコニスに話しかける。ロージルさんは一度奥の事務所まで戻っていった。
「コニス悪いけどさ、さっき借りた剣と盾をもう一度貸して欲しいんだけど用意できるかな?」
「はい、多分そうなるかと思ってましたのでこちらに置いておきました」
ニコパと笑顔で応え、うんしょっと剣と盾をカウンターの上にゴトリと置く。
「おお! すごいなお前。こんなに気のきく奴だったのか」
俺の言いようにムッと上目遣いに睨むコニス。あざとい。
「マビァさんわたしのこと見くびりすぎてませんか? わたし、マビァさんの前で仕事をミスしたことまだないですよ」
そう言われたのでコニスとの出会いから思い返してみる。確かにあざとい仕草が目立っただけだし、適性検査の試験でのリアクションはこちらの常識では誰もが同じ反応をしそうだ。
仕事上のミスはしていない。ただ昨日、俺に対して自分のあざとさが通用しないと分かりだして、俺を信者の対象から切り捨ててからの気の抜き方が露骨だったのが減点要素だ。
別にそれまで通りに接してくれてもコニスに惚れたりしないし、態度が変わったからといって裏切られたと思ったり嫌いになったりはしていない。
寧ろ素で接してくれるようになったので、媚びを売られてイラッとする機会が減った分、気は楽になったんだけどなぜかプラスになった気がしない。
なんとなく「俺に対する仕事の手を抜かれてる」感じがしないでもない。
「そうか……? いやーコニスってなんか残念な奴って最初の印象が抜けなくってさ。悪い悪い」
「なんですかその評価は?! 謝るのと一緒にそんなこと言われて許せるわけないじゃないですか!」
ムッキーッと拳を振り上げて怒るコニス。ああ、これは素のリアクションぽいな。
「いやいや、良いところを今朝から見せてもらってるから俺の中のコニスの評価は急上昇だぞ? すっげえ褒めてるベタ褒めだ」
「え……えぇ~? そうなんですか? じゃあ何が残念だったんですか?」
いきなり褒められたコニスは照れながらも胡散臭いものをみる目で俺を見てくる。
「そこは自分で考えてみろよ。俺が何で評価を上げたのかちょっと思い返してみればわかる筈だぞ? これはお前が女として成長できるチャンスだと思ってがんばれ」
「えぇ~~……」
適当に励ましているように見えるかもしれないが、まんざらいい加減なことを言っている訳でもない。
こいつは初対面の男とみると取り敢えず自分に惚れさせようとする癖だか趣味だかがある。
そして相手が自分の好みでなかったり、自分に惚れなかったり、自分にとって有益でなかったりしたら徐々に距離を置いたり、時にはバッサリ切ってコニスマイルを見せることもなくなるみたいだ。
信者になっていない人との会話は最低限の営業スマイルでの事務対応みたいで、最初の頃、俺の気を引こうとしていた時の態度と別人のように違っていた。この三日冒険者達に接する態度を見て大体分かってきたよ。
俺に対して素の態度を見せるようになったのは、俺がコニスのアイドル(笑)属性を見抜いていて自分に惚れないと分かり、愛想を振り撒かなくても俺の態度が変わることがないと判断したからだろう。
今は何故か俺が中心になってギルドの大改革を進めているから、変化についていき自分の地位を上げるには一番都合がいいから率先して動いてくれているように思える。この辺りの人を見る目と判断の速さは大したものだ。
さらにさっきコニスが言った、
「わたし、仕事でマビァさんの前でミスしたことまだないですよ」
ってセリフから読み取ると、常に自分に対する自己採点をしており、場合によってはわざとミスすることで相手の庇護欲をそそるとかそんな打算が裏に隠れている気がする。
自分の周りにいる職員や冒険者それぞれに、さらに街でよく使う店とかご近所さん相手にも、自分をどう見せるか計算ずくで動いているとしたらそれはそれで凄い才能だ。もちろんギルド職員としての働きぶりは完璧なので相当優秀な人材だと言える。
それなのにコニスがなぜ残念なのかというと、その才能の全てを自分が大勢の男達にチヤホヤされるアイドル(笑)でいることだけに注ぎ込んでいるということだ。その先に何か野望があるようにも見えないし展開があることも望んでいない。
個人のスペックはかなり高いのに小さなアイドルで居続けることだけを望んでいる。こいつ実は『アイドル(笑)』のスキルとか持ってたりして……。
まあ何をどう考えたらコニスがいい女になれるかなんてバカらしくて俺も考えてないし、どうなろうと知ったことじゃない。結局さっきの励ましの言葉は超いい加減だった訳なんだけど……。
そう思いつつ「ん~……」と唸り考え込むコニスにもう一度「がんばれ」と、さっきロージルさんに抱いた気持ちとは正反対の心無い励ましを贈る。その時奥からロージルさんが出てきた。
「マビァさんお待たせしました。急ぎましょう」
「おう! じゃあなコニス」
剣を腰に吊るし盾を装備してロージルさんと出口に向かって走り出す。考え込んでたコニスがハッとこちらに気が付いて顔を上げる。
「え……。あっ、マビァさん街の外に行くんですか?」
「ああ、ウェル達と罠の設置場所の視察に行ってくる。待ち合わせに遅れそうなんだ。じゃあな!」
俺は出口を出てから振り返り、早口で言い放つと手をコニスに振って走り出した。中からコニスの「あ……」という声が聞こえた気がしたが何か用があったのかな?
帰ってきてから聞いてみるか。今はホントに遅れそうなのでロージルさんと駆け足で東門に向かった。
次回は十一月一日(日)の正午に更新予定です。
よろしければまたお付き合い下さいませm(_ _)m




