三日目 潰れそうで潰れないギルドの資金の仕組み
今回、前半は元の世界のハンターギルドの資金の流れと、カレイセムでの冒険者ギルドの資金の流れの違いを書いております。
ぶっちゃけ読まなくても問題ない、作品の世界観を深めるだけの箇所ですので、「長ぇよ!」って方は流して下さいませ。
後半はロージルさんのスキルについてのお話です。
木工ギルドのギルマス室に戻り、それぞれ挨拶を済ませ、ガラムさんに俺が適当に描いた剣や斧の絵を見せて意見を聞く。
「本来の金属製の剣は重心が手元に近い方が良いんだ。だが全て同じ木で造るとなると金属より軽い為比重の差をつけにくい。だから鍔本に近いこの辺りに金属の塊を埋め込むか上から厚みのある鉄板を張り付けるかすればいい。斧は逆に遠心力を活かす武器だからこの辺に重しを付けるんだ。重さとしては片手剣なら……」
流石本職。俺の描いた雑な絵や寸法を見ただけで最適な修正をどんどんしてくれて、あっという間に図面の草案が完成する。
「いやぁ見事ですね。金物店の貴方が武器職人であったことにも驚きましたが、仕事の速さも感動的です! これはすぐに設計部にまわして清書させてきますね」
シヌモーンさんは紙束を持って急ぎ足で部屋を出ていった。図面の複製を何枚ずつか作って数名の木工職人に依頼を出してくれることになった。早ければ3日程で出来始めるそうなので、出来上がった物から納品してもらうことにする。
「ガラムさんありがとう。すげぇ助かったよ。後は取り付ける金属部品を造るのと、木工職人達への指導が必要ならそれも頼みたいな」
「じゃあシヌモーンさんと相談が必要だな」
そう言ってガラムさんはシヌモーンさんの後を追って出ていく。
「ロージルさん、ガラムさんへの報酬ちょっと多めに色付けといて下さいね」
「分かりました。お任せください」
小さく拳を握って笑顔で応えるロージルさん。少しテンションが上がってるロージルさんの様子に、ちょっと気付いた事があるんだけどそれは取り敢えず置いといて、別に気になることを聞いておく。
「あのさ、冒険者ギルドの運営母体というか、資金提供というか。お金はどこから出てるんだ? 前にギルマスにちょっと聞いたんだけど、正直資金が豊富なギルドとは思えなくてさ」
以前同じようなことをギルマスに聞いたが、あの時は薬草などの採取がメインで、魔獣討伐は弱いのを倒して細々とやっていると言っていた。話してる最中にコニスが乱入してきたからそこで話は終わったんだが。
俺らの世界のハンターギルドはひとつの大陸にある国々が協同で運営しており、資金源は各国の国家予算から出されている。国家予算は勿論税金だ。
税金の大半は大手の企業や商会が納税しており、大手企業が魔物の素材や魔石を研究し魔道具を造る。ハンターや市民に広く売ることによって薄利多売で儲けたり、超高性能で便利な魔道具を少数造り大金持ちの大商人や貴族に売る。更に稀少な素材をA・Sランクのハンターに直接依頼をしたりして買い取り、また造った物を売り捌く。そうして儲けた利益から納税額が割り出され、所属する国に納められる。ハンターギルド→企業→国→ハンターギルドとグルグル金は回っていた。
また、ハンターギルドの資金収入は国からだけではなく、ハンターが魔物を狩って得た魔石や素材をギルドが買い取り、それを各大手企業により高値で売り込む卸問屋のようなこともしていた。
ギルド自体が国営の組織みたいなものなので納税の義務がないから儲けはそのまま運営資金になっていた。
だから各国からの出資金と魔石や素材の売上げの二重取りになるのでかなりの金持ち組織なんだが、A・Sランクのハンターへの報酬は物凄い高額だし、いざ大型の『ゲート』が開くと大勢のハンターを動かし多大な報酬を支払わなければならないので、ギルドばかりが儲かっているイメージはあまりない。
俺らの世界の利点は『ゲート』内から無制限に資源となる魔物が溢れだしてくるということ。反面、少しでも『ゲート』の対応を間違うと先日みたいに大陸が滅びかけるハイリスク・ハイリターンな状況だったりする。
先の防衛戦では『赤竜石隊』のチコさんが召喚したデカイ人みたいなので大物の竜達やその他を消し飛ばしたのでハイリターンが消え失せた。だから閉じかけの『ゲート』から零れ湧く大物の魔物をリズさんが次々狩ることで、ハイリターンの部分を確保しようとしていたのだろう。多分赤竜石隊は国か大企業から何か依頼を受けていたんだろうな。
かわってこの街の冒険者ギルドは、まともに戦える冒険者は殆どおらず、倒される魔獣も害虫害獣の域を出ない。
獲られる素材やジェムも僅かだろうから、普通なら冒険者ギルドを経営していける程の経済が回っているとは思えないし、冒険者達の生活も成り立つ筈がない。それなのに何故何百年も経営が破綻せずに続けられるのか。不思議で仕方がない。
「なんで、あの役立たずの集団が路頭に迷わずに、のたれ死ぬ事もなく自信満々に冒険者をやってこれたのか不思議でならないんだけど、ロージルさんその辺分かる?」
俺がロージルさんに疑問をぶつけてみると、ロージルさんは腕を組み片手拳を顎に当てながらしばし思案する。どう言うべきか悩んでいるようだ。少しして顔を上げ纏まった言葉を話してくれた。
「まず、ギルドの運営資金の大元は国ですが、直接には支部が所属する領地から出ています。国家予算から各領地への運営費が割り当てられ、その中からカレイセム市へ、そしてこの街のギルド支部に年間の運営費が支給されますが、それは全てを運営できる額ではありません。三分の一以上はやはり冒険者達が収穫してきた素材を商業ギルドや錬金術ギルド、教会などに売ることによって成り立っているんです。
マビァさんには少し誤解されているようです。確かに今の冒険者達は少し強い魔獣を倒すこともできない集団ではありますが、冒険者の仕事は魔獣討伐だけではありません」
? が頭から消えない。薬草や食材になる植物等が多く採れるんだろうか? いや多く採れるなら供給が需要を上回るから値崩れして大した稼ぎにはならない。どういうことだ?
「簡単に申し上げますと、この地域一帯は少々稀少で種類豊富な薬草等の素材を採れる場所が多く、広い範囲に点在しているということです。魔獣も出てそこそこ危険な場所なので一般人は立ち入りませんし、一ヶ所で採取出来る量や種類は少なく、複数回るには各々の距離が離れているので一度に大量の採取は出来ないんです。稀少なので取引価格は高価ですし、物によっては短い時間で駄目になる物もあるので、日帰りで夕刻に納品なんて短期の依頼もあります。それらの依頼はさらに割高になりますし、季節毎に必要とされる素材も変わるので依頼が増えることはあっても、途切れるなんてことは未だにありません」
なるほど、常に必要とされるがチョコチョコと少数しか採取されないから値崩れしないし、季節が変わればまた一年手に入らなくなる。極力魔獣とは戦わずに多利薄売を繰り返しているから、戦闘は苦手でもギルドは貧乏になるどころか割と資金潤沢で今に至ると。
魔獣を倒せない昼行灯などと軍と共に揶揄されつつも、街に必要な素材は確保しているから潰れなかったってわけだ。いやでもそれって冒険者ギルドではなくて何か別の…薬草採取ギルドとかに生まれ変わってても不思議じゃないよね?
俺らの世界じゃ調薬ギルドってのがそれに当たるんだが。採取だけじゃなく各種ポーションを作って売っているのでハンターにとってはなくてはならないギルドだった。こっちにはないのかな? まあそれは置いといて。
「結構今回の事で冒険者ギルドはどーんとお金使っちゃってるけど、大丈夫?」
「それを含めた話し合いを今日ギルマスやウェルザニア氏が市議会に提案しに行っています。使われている金額はギルド資金からすれば微々たるものですし、バーンクロコダイルの素材を手に入れる為の先行投資です。そう遠くないうちに取り戻せますのでご安心下さい」
全くの余裕な笑顔で答えてくれるロージルさん。
ここへの帰り道でガラムさんに言われたことを思い出して、早速ロージルさんに相談してみる。
「さっきガラムさんに言われたんだけど、その市議会が終わって計画を正式に進めるためには領主の許可が必要だろうって。俺の情報がここの領主や国王、軍上層部に伝わって呼び出されたりすることになったりする?」
ロージルさんは眼鏡の奥で目を何回かぱちくりさせると、何を今更といった感じで言い放つ。
「勿論そうなりますね。マビァさんがこの三日でやっている事は特殊過ぎます。この街に冒険者ギルドの支部が出来て以来の数百年間、討伐対象の魔獣が間違っているなんて、誰一人として気付かずに何もしてこなかった事です。この大改革はまだ始まったばかりで、今の流れに乗って、変わっていかなければならないと本気で感じている者は、わたくしを始めまだ数十人程度でしょう。しかしもう既に元には戻れないと思えるほどに強い衝撃を受けました。街の人達も今は情報に振り回されて混乱しているでしょうし、変革を望まない者の方が多いかもしれませんが、市議会の決定は明日の朝の新聞には掲載されるでしょう。人々の意識改革は日々進んでいくと思われます。
まだ計画が形になるまでは数週間、数ヶ月とかかるでしょうから今すぐにどうこうということはありませんが、領主様には今日中か明日にでも上申される筈です。いずれ上の方から招待されることは間違いないかと」
そう聞いて俺はげんなりとする。流石にそこまでは付き合い切れねぇ。やはり目的のスキルを手に入れウェルとの約束が果たされれば、早々にプレイヤーに摘まみ出してもらうのが良さそうだ。
そんな事を考える俺の顔を見てロージルさんは眼鏡をキラーンと輝かせ、口に手を当ててフフフっと笑う。
「マビァさん、今逃げることを考えてましたね?」
「うっ…。バレましたか」
流石ステキ眼鏡さんだ。色々とこの人は鋭すぎる。
「バレバレですわ。わたくしじゃなくたって誰だって気付きます。でもいいんじゃないですか? 逆に旅人である貴方がなぜここまでこの街に深く関わり、率先して動いていらっしゃるのか不可解でなりません」
「ハハハ……。ガラムさんにも同じ事を聞かれたよ。ここに来たのは目的があったからで、その目的を果たすためにウェルが協力してくれることになったんで、俺もウェルを手伝ってるだけです。当初はウェルの計画にはギルドや軍と協力するのが必須と思ってたんだ。ナン教授の話を聞いた後だと、冒険者も軍人も要らないかもしれないことが分かったんだけど、それが分かる前にギルドを立て直すって言っちゃったからね。色々俺的に我慢できない事を見せられたから後は私情で動いてるだけなんだ。目的さえ果たせればさっさと逃げることにするよ」
ロージルさんは少し困ったような顔で微笑んでくれた。身勝手な奴だと思われたかな?
「因みにその目的とは何か、お聞きしても宜しいですか?」
「いいですよ。俺はあるスキルを求めてここに来たんだ」
そう言って必要なスキルの事を聞いてみる。残念ながらロージルさんには心当たりはないようだった。
「ついでに聞いてみるけど、ロージルさんスキル持ちだよね?」
ロージルさんの肩がビクッと震えて、一瞬目を見開く。
「いや、言いたくなかったら言わなくてもいいから」
少しの間俯いたロージルさんは顔を上げてこちらを見詰め首を小さく振る。
「いいえ、お話します。先程ギルドの中庭でマビァさんがやって見せた、消えたと思うほどの素早い動き。あれも戦闘系のスキルなんですよね? でしたらもう見せて貰っている以上、わたくしも話すべきだと思いますので」
あの時、建物内からこちらを見ていたのか。別に俺は隠すつもりは無いので等価交換にはならないんだけど。こちらの世界の非戦闘系のスキル持ちは隠そうとするのが基本だと経験で学んだ。だからそんな理由で秘密を話す決断をした事にこちらの方が戸惑う。
「わたくしの使えるスキルは『情報分析』と『情報管理』のふたつです。このふたつのスキルは常時展開しており、あらゆる目に映るものや聞こえたことなど、つまり私が五感で感じた情報を瞬時にスキルが精査し、長期間情報を保存蓄積して分析し続けています。これはわたくしの無意識下でも行われており、膨大な量の情報の精査と統廃合によって、ある程度の一瞬先の未来予測が出来るようになります。例えば計算式などは目に入った時には、既に答えが頭に浮かびますし、先程マビァさんが何か描くものを求められた時に、マビァさんがそれを口にする前に紙やペンを出せたのはこのスキルのお陰です。話の先読みや仕草等から最も高い確立の未来予測を、スキルがわたくしの脳裏に閃かせます」
それは凄いな! 一瞬先の未来予測って俺が求めてるスキルに少し近いかもしれない。『事前に危険な物や生物の場所を感知する』ってのが俺の求めるスキルだから、もうこれが答えってことでいいんじゃないのか? いや、肝心な事を聞いておかないと。
「そのスキルって、隠れている物や危険な罠、不意討ちしてくる敵なんかも予測して見つけることが出来るの?」
俺は結構無茶な問いかけをした。この街でそんな状況なんて冒険者くらいしか経験していない筈なんだ。事務職であるロージルさんに想像させて語らせるなんて我ながら酷い質問だと後悔しかけたが、ロージルは少し悩んだ後ちゃんと答えてくれる。
「残念ながらそこまで便利なものではありません。このスキルを手に入れてからも何回か街角等で人や物にぶつかりそうになったり、実際にぶつかって転んだこともあります。危険……と言えるほどの事ではなかったとは思いますが、わたくしに見えず聞こえず感じ得ないうえ、無意識下でも一度は経験したことでない限りは脳裏に閃きはありません。街中の雑踏の中では角の向こうから来る人の足音は聞こえにくいですし、なんらかの感覚でその人を感知出来ていない限り、ぶつかる瞬間までその人に気付くことはないのです。
せっかくの先読みをわたくしが対応しきれていないのが現状ですね。今回のようなマビァさんの補佐的な立場でしたら危険は全くない状況ですし、先読みをして動くことも可能ですけどね。他には、姪っ子とかくれんぼをした時も、スキルは隠れた姪を勝手に探し出すことはしませんでした。姪が隠れる際に動かした物の位置の変化などで、探すのが少し楽になったくらいでしたね。それも動く前の状態を事前に見ておかなければ分かり得ないことなのです」
それだとやはり俺の求めるスキルとは違うみたいだ。今回欲しいのは俺が感づいていない罠や伏兵にも気が付ける能力なんだ。子供のかくれんぼすら見つけられないようでは意味がない。
しかし、ハンターにとっては『情報分析』と『情報管理』の能力自体は優秀だし利用出来る場面も多いと思う。何十万、何百万と魔物を狩るハンターであれば、情報の蓄積と精査による先読みがあればまさに百戦錬磨。魔物の種類ごとの特徴を把握し、行動を先読み出来れば先の先、後の先も思いのままだ。刹那の命のやり取りをする上で、これ以上の強みはないかも?
欲しいな~、この二つのスキル。いやしかし、これらは戦闘が始まってから役に立つスキルだ。今回ここに来た目的のスキルとはやはり違う。出来れば全て欲しい! ついでに『認識阻害』も欲しいんだよなー。あぁ、後どれくらいスキルを修得出来るのか分かる方法があればいいのに!
その後暫くロージルさんと話をしていると、ガラムさんが帰ってくる。
「ガラムさん、どうだった?」
「ああ、図面を引くのを途中まで見てたが腕のいい職人を揃えれば数日で全部仕上がるんじゃないか? 俺が造る金属部品も図面が出来次第造ることにする。久々に楽しくなりそうだ」
なかなか厳ついガラムさんがニヤリと笑うと結構怖い。俺の向かいのソファーに座り、ロージルさんが用意したお茶を一口飲んで背もたれに身体を預ける。
「それでマビァ。さっき言いかけて止めたことの依頼の話を聞かせてくれないか? やっぱり気になって仕方がねぇ」
そうだった。詳しい内容を話さずにここへ連れて来たんだった。
「ロージルさん、ウェルがこの後罠を設置する場所の下見に行くって言ってたんだけど、ギルドにも話はいってる?」
「はい、ギルマスはキマイリャの件でサドバサン王国への謝罪の相談を市議会で話し合うので、恐らく午後も帰ってこれない事は予測しておりました。現地へはわたくしが同行する事になっています。ウェルザニア氏と一時に東門の前で待ち合わせです」
「ガラムさん、ウェルはバーンクロコダイルをこの街の名産にしようとしてるんだ」
ガラムさんにざっくりと計画を話す。流石にコカトリスの石化を肉の保存の為に使うことを聞くと驚かれた。
「そんな事に使えるのか……。全くの予想外だった」
「帝国は色んな技術がここらより随分進んでたって言ってたけど、肉の長期の保存って別に方法があったのか?」
「瞬間凍結での長期保存はあったな。物凄く冷たい特殊な液に浸して素材の細胞を破壊せずに凍らせる方法だったと思うが、ここでの再現は無理だぞ。凍らせることが出来たとしても、その維持にジェムを大量に使うから非効率だ。帝国のようにジェムのエネルギーを増幅する技術が確立されないと不可能だろうな」
じゃあコカトリスの石化を使った保存はコスト面でも鮮度でも優れた保存法ってわけだ。問題は解呪法が聖職者に限るってのがどうなるかだな。
「まぁそんな訳でその罠を設置する場所の下見をしに行くらしいんだけど、ガラムさんも一緒に行ってみる? 具体的な話はウェルからじゃないと伝わらないと思うんだ」
「……そうだな、ここの図面が仕上がるのが夕方になると言ってたから時間はあるか。いいぞ、行ってみよう」
「じゃあその前に飯食おうぜ。ロージルさんも一緒に食いましょう。奢りますんでいい店教えてよ」
「宜しいのですか? ありがとうございます。では中央通りにある『キィマ』というレストランはいかがでしょう?」
はて? どこかで聞いた名前の店だな。
「あそこなら俺も賛成だ。気取ってない良い店だからな。ウェルザニア氏経営の店だよ」
おお! そうだった。初めてウェルに会った時に用があったら来るように言われた店だ。
「じゃあそこにしよう。急げば昼の鐘には間に合うだろ」
そう言い、俺達は飯を食うために『キィマ』に向かうことにした。
次回は十月十一日(日)に更新予定です。
よろしければまたお付き合い下さいませm(_ _)m




