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三日目 中庭の冒険者達

 中庭への扉を開けた俺の目に映ったものは、かなりグダグダな光景だった。

 ここにいるのは昨日試験場でアレを見ていた冒険者達で、さっき試験場にいた黒い三連狩りと他六名以外の奴らだろう。

 あの九名には休憩と早めの昼飯を済ませて来いと言ってギルドの外に出した。さっきボロボロになった十五人もここにいるが、彼らは素振りでもし終えたばかりなのか、隅で息も荒くヘタリ込んでいる。そいつらに職員さん達が主武器の種類を聞いてまわっていた。


 問題は先に挙げたグダグダな奴らだ。

 うん、彼らなりに特訓のつもりなんだろうな。武器を素振りしている奴らが数名いる。

 こいつらはまだマシな方で、本人達なりに素早く力強く武器を振るっているが、実用性も型もあったもんじゃない。その動きで何を斬っているつもりだ? 何のためにそのステップがいる? 振り下ろした後でバランスを崩して隙だらけだ。その体勢でどうやって次の動作に繋げる?


 まるで強い剣士の戦いぶりを見て感化され、興奮してその真似をしている少年の様だ。カッコいい剣士になりきったつもりで、他人から見れば無様な動作でも、本人達は満足している様子なのが始末に終えない。

 いや、俺もガキの頃はそうだったからその気持ちは分からなくもないんだけどな。俺より歳上のヤツが多そうな冒険者達が、眼を輝かせながら汗だくで役にも立たない素振りをしている姿は痛々しいとしか言いようがない。

 でもこいつらはまだマシな方だったりする。


 他の連中は一応一対一で対戦しているつもりみたいだが、武器で傷付け傷付くのを恐れる余りに、非常にスローリーに動き、しかも相手の隙を突いたり防御を掻い潜ろうとしているのではなく、盾や防具がある場所を狙ってお互いに交わしやすく反らしやすい攻撃(?)をしている。

 あれではまるで演劇の殺陣の練習だ。あんなことをしたって実戦ではなんの役にも立たないし、遅い動きだから汗ひとつかいていない。それでは身体の強化にも繋がらないのだが、こちらも嬉しげに眼だけは輝いている。なのに相手の武器が近付いた時には怖くて目を瞑っているのだから、やはり始末に終えない。


 俺はパンパンと手を叩いて奴らのソレを止めさせる。こちらに気付いた冒険者達は俺の前に集まってくると、やはり眼を輝かせてこちらを見つめてくる。うん分かるよ。頑張っているところを見られたから褒めてほしいって従順な犬の眼になってるね。


 「あー…。熱心にやっているところ申し訳ないんだが、あんたらの動きじゃあ実戦だとまるで役に立たないんだ。えっと…そうだな…。そっちの汗だくで素振りをしていた奴らはほんの少しだけ肉体の強化になるから無駄じゃないかな? 安全に訓練する為に木製の武器を作るので、今職員さん達が聞いてまわっている。まだ聞かれていない奴はこっちに並んでメインの武器の種類を教えてくれ。作る木の武器は片手、両手の剣と斧だ。それ以外の武器の使い手は自分の物に布や綿を巻くなどして、人に当たっても酷い怪我をしないように工夫をしてくれ。短剣やナイフなんかは鞘の上から布でも巻いてりゃいいだろ。弓使いの奴らにも対人戦の訓練に遠距離攻撃をしてもらうから、(やじり)に代わる非殺傷の矢を用意してくれ」


 ここまで一気に言うが、やはり冒険者達にとっては予想外の発言だったのだろう。脳みそに言葉が浸透しにくかったらしく、

 「え、なに? どうゆうこと?」

 「お前と俺は剣だからあっちに並べばいいのか?」

 「私、両手持ちの杖だからどうすればいいのかしら?」

 「……えっと……。弓使いでダガー使いだと……」

 等々……。ガヤガヤとざわめいて中々動かない。


 「あー。質問ある奴は聞くぞー。取り敢えず斧と剣使ってる奴とそれ以外に別れてくれや」

 そう言うと、三分の二が右側に移動して職員さん達の前に並ぶ。こいつらが剣と斧な。

 「じゃあ、残りの奴らは何が分かんなかった?」

 「あ、あたしメイン鞭なんすけど。なんか巻き付けると動き変わり過ぎるんで使えないんすけど…」

 いきなり難問きやがった……。 女の盗賊風の冒険者が小さく手を上げて困り顔で言ってくる。確かに腰に束ねて括ってるのは革製の鞭だ。


 「うーん…。確かに鞭だと対人戦の訓練には攻撃では参加出来ないな。なら防御はどうするつもりなんだ? 見たところ革製の鞭だけどそれじゃあ防御には使えないよな? 中距離で攻撃して敵に近付かずに回避だけのスタイルか?」

 元世界でのハンターにも鞭使いは少数いたが、大抵が金属製で鞭全体に無数の刃を持つチェーンウィップや鋼線を編んだ鞭の類いを使用していた。

 鞭の利点は剣等の近接攻撃よりは射程が長く、弓や投擲武器等の遠距離よりは短いが、いわゆるその中距離射程で、単体または複数にどんな武器よりも素早く鋭い攻撃を繰り出せる所にある。しかも女性の弱い腕力で使ったとしてもだ。しかし、技を修得するのは困難な武器だとも云われる。

 特に、使用者の力が鞭の先端に伝わる瞬間は、重量武器を叩き付ける力に匹敵すると云われ、上級ハンターがパァンッという空気を裂く音と共に大型の魔物の頭を爆散させるところを見たことがある。

 もちろんそれは、鞭の射程内の標的を自在に打ち払う技量があって初めて出来ることらしいのだが……。

 目の前の彼女はとてもそんな達人ではなさそうだし、革製では威力はたかが知れている。本当に雑魚な魔獣にしか通用しないだろう。

 それに俺でなくとも簡単に切断出来る。そうなればちぎれた革製鞭などゴミ同然だ。せめて鋼線を編んだ物だったら良かったんだけど……。


 「はいす。今まで離れた位置からの攻撃しかしていないので、回避もあまりする事なかったっすけど」

 うん、その限られた戦闘状況がまずおかしいって事に気付こうね。それって反撃しない無抵抗なイモムシみたいなのとしか戦ってないんじゃないかなぁ?

 「なら、サブは腰に付けてるダガーだな? それを対人戦の訓練にはメインで使え。鞭は自主練で命中精度を上げたり、複数を同時攻撃出来るように訓練しろ。後は飛んでくる矢を叩き落とす訓練もありかな」

 そう聞いた女は、少し困惑気味な表情をして聞き返す。

 「あの……。あたしは冒険者っすから、魔獣相手にしか戦わないすけど、人との対戦訓練って役に立つんすか? 矢を射られる事なんてまずないんすけど」

 やれやれ。ここまで戦う経験が少ないと、ホント頭が碌に回っていないんだな。呆れて溜め息を吐き説明する。

 「いいか? よく考えろ。魔獣でも虫系や鳥系は飛んで突っ込んでくるかもしれんだろ。そいつらを叩き落とす練習を矢を相手にするんだよ。中には毒針や石礫を飛ばしてくるかもしれん。そういったもんから仲間や自分を守る訓練だ。複数の敵と同時に接近戦をする事もあるし、鞭だと狭い場所じゃ使い物にならんだろ。その為の近接戦闘をダガーで練習するんだよ。出来るなら鞭とダガーの両方で仲間を守る方法を身に付けるんだ。そうすれば戦術にも余裕が出来るし、討伐の効率も上がる。お前の活躍次第でパーティは飛躍的に強くなれるってわけだ」

 「なるほどっす! じゃあダガーは鞘の上に布巻いて縛っとくすね」

 ……まぁ、かな~り大袈裟に煽ってみたわけだが、こちらの思惑通りに納得した女盗賊は離れていく。


 次は若い男の弓使いが手を上げた。

 「俺は弓しか使わないんだが、訓練はその魔獣代わりの役だけなのか?」

 「駄目だ、近接戦闘は全員に出来るようになってもらう。それ用の武器を新たに用意しろ」

 そう言うと、男はムッとした顔で言い返す。

 「今まで必要になったことはないんだよ! 使わない物までぶら下げて重くなるのは無駄じゃないか?!」

 ……コイツ本気で言ってんのか? まったくアホ過ぎて呆れ返るぜ。なぜそこまで想像力が足りないんだ。

 「お前は今まで移動力のないイモムシとかを遠くからチクチク倒してきただけなんだろ?」

 図星だったようで男はグッと息を詰まらせる。他の弓使いも全員同じ感じだった。おいおい、どれだけ無能の集まりなんだここは?

 「いいか? ギルドはこれまでとは大きく変わるんだよ。殆ど反撃してこないイモムシみたいなのを相手にするような任務じゃあ、やっても稼げないと思え。最低でもキラーウルフ数頭相手をひとりで駆除出来ないと使い物にもならないからな」

 「なっ?! そんなこと出来るヤツがどこにいるんだよ! バッカじゃねぇのか!」

 「バカはお前だ。少なくとも俺ならキラーウルフが数百頭いようが簡単に出来るし、今朝試験場で訓練した奴らはあと何回かすれば数頭なら対処出来るようになる。無能な自分を基準に考えてんじゃねーよ。安全な狩りばかりしてきて危険を冒せねぇなら冒険者(・・・)を名乗っていいわけないだろうが。嫌ならさっさと辞めちまえ」

 俺よりも歳上に見える弓使いの「自分の常識が絶対」と信じて疑わないこの幼稚な態度に、カチンときてこちらもつい本音をぶつけてしまう。


 あぁヤっちゃった。と思った時にはもう遅かった。

 「うぐっ! お、俺を見下すなぁっ!!」

 激昂した男が背の弓と矢に手を伸ばす。

 ……あ~ぁ、弓に矢を番える時に相手から目を放して手元を見てんじゃねーよ。

 その隙に俺は走法スキル『スワローダッシュ』で一気に男と距離を詰める。

 このスキルは燕が猛スピードで地面すれすれを飛ぶかのように、地面をかするほど低い姿勢で猛烈なダッシュをする走法だ。本来大型の魔物の視界から瞬時で消え、背後に回ったりする為の走法だが、今回のように五メートルほどある男との距離を一気に詰めるのにも効果的だ。

 まだこちらに気付かずにモタモタと弓を番える男の隣をすり抜け、後ろから回し蹴りで前に蹴倒す。

 「ぐぁ!」という地面に叩き付けられる男の呻き声を聞きながら、近くの冒険者の腰からダガーを抜き取り、男の横腹を蹴り上げて仰向けにし、宙に浮いてる胸を踏みつけて喉にダガーを突き付ける。ここまでで大体四秒くらいかな? 俺より強いCランクの連中なら三秒を切るだろう。


 背中を蹴られ地面に胸と顔面を打ち、横腹を蹴り上げられ更に踏みつけられたのだから、打撃の連打による圧力と痛みであちこちの筋肉や内臓が萎縮し呼吸すら苦しくなっている筈だ。男は油汗を吹き出し、青い顔で涙を流して呻く。

 「お前、今何をどうされたかも分かんねぇんだろ? だったら見下されても仕方ねぇんじゃねぇのか?」

 冷めた目で男を見下ろし、ダガーの刃でトントンと首筋を叩く。周りの連中も何も出来ずに固まったままだ。俺の行動に気付けなかった他の冒険者や職員達にも緊張が伝わっていく。

 中庭の空気が一気に冷えて、静寂に占められるのを感じた。

 「人に殺意剥き出しで武器を向けるってことは、逆に殺られても文句言えねぇってことだ。それくらいは分かってんだよな? じゃあ覚悟決めて死んどくか?」

 首筋ギリギリの地面に、ドスッ、ドスッ、と何度もダガーを突き立てて脅す。

 少し『威圧』も強めに掛けたのだが、それは余計だった。今まさに人を一人殺そうとしてる(ふりの)殺気が、中庭全体に伝播して俺に対する畏怖の感情が広がっていくのが分かる。


 「ひっ…ひぃっ!」とその都度小さく悲鳴を上げ、目を瞑りたくても瞑れずに歯をカチカチと鳴らし、震えながら涙を流す男は漸く思考が追い付いたらしく「す、すみませんでしたぁっ!」と大声で謝ってきたので許してやることにする。

 ちょっとやり過ぎたかなぁ……? レイセリアやメイフルーにやらされる特訓はこんなもんじゃないんだけどなぁ……。


 しかし、よくこんな短気でバカで喧嘩っぱやい男が、この平和な街で今まで問題を起こさずにやってこれたもんだ。

 ……それともアレか? こいつはタブカレしか読んでないから、昨日試験場で見てたにも拘わらず、新聞の俺が詐欺師だってのを信じて騙されたとでも思い込んだクチか? だとしたらホントに面倒くせぇなハンセルの奴……。


 「冒険者の仕事の中には未開の地の探索や古代文明の遺跡調査の護衛なんかもあるんだろ。だったら木の密度の高い森の中や狭い通路等での戦闘がある可能性が出てくる。そんな場所で自分達が戦うところを想像してみろ。弓や鞭に出番があると思うか? 常に遠距離戦闘をしてればいいって訳じゃないんだよ。せめて自分の身を護るくらいの技術をサブの武器で鍛え上げるんだ。弓使いは遠距離の精密射撃と超近接戦闘の両立が理想形態だ。いきなりそこまでなれとは言わねーけど、冒険者を続ける気なら考えといた方がいいぞ」

 倒した男を起こしてやりながら、他の弓使いにも向けて説明する。やっと全員まともに聞くようになってくれた。見せしめと言うと聞こえは悪いが効果はバツグンだったらしい。真剣にこちらを見つめ返して聞いている。


 「魔獣としか戦わないから対人戦は無意味だと思っているならそれも間違いだ。一つ相手に戦えればどんな魔獣相手にでも応用が利く。さっきも言ったがお前らがやってた対戦ごっこじゃ実戦では死ぬだけだ。安全な木製武器が揃えば訓練を始められるが、仕上がって来るのはいつになるか分かんないから、取り敢えずランニングでもして体力作りにでも励んでくれ。まずは街の外を外壁に沿って三周! 武装したままでな」


 この街に来てからの大体の目測だが、長方形の外壁の外を一周すると六キロくらいありそうだ。三周で十八キロ、長距離走に慣れてないならかなりキツいし、武装してたら満足に走れないだろう。

 三周と聞いて全員が不満の声を上げる。だが体力や持久力は戦う職種なら一番大事な事なんだ。俺が『ゲート』防衛戦で最後まで立っていられたのは、鍛え続けた体力や持久力に他ならない。こればかりは小手先の技と違ってすぐに身に付くもんでもないしな。


 「サボりたいなら好きにサボってもらっていいぞー。但し頑張った分だけ強くなれるが、サボった分は今の弱っちいまんまだ。俺としてはお前らが頑張って強くなろうが弱いままだろうがどっちでもいいが、誰かが頑張ってどんどん強くなっていくのを見て、悔しくて自分も頑張れないような奴は冒険者は諦めた方がいいな。この先弱いまま、どこかで命を落とすだけだ」

 皆悔しそうに俯いてるが、たった今俺が弓使いを簡単に捩じ伏せた現実を見せつけられたんだ。『強くなる』ということを肌で感じることが出来ただろう。その捩じ伏せられた男が躊躇いながら俺に聞いてくる。

 「な…なぁ。俺でも頑張ればバーンクロコダイルをあんたみたいに簡単に倒せるようになるのか? とても信じられないんだが…」

 気持ちは分かる。俺もアルフレイド達の戦い方を見た時に同じ気持ちになった。まぁあれはトーツ曰く普通では絶対に辿り着けない領域らしいんだが、それと違って俺程度のヘッポコなら大抵の奴が追い抜けるんじゃないかな。

 「もちろん! 努力次第だが俺なんかよりもっと強くなることだってありえる。怪我に気を付けて途中リタイアしなければ可能だと思ってるさ」

 そう力強く言ってやると、皆の目に輝きが戻った。ホントは異世界人である俺と、この世界の人達との間にどれだけの差があるのか分からないから断定出来ることじゃないんだけど。うん、いつでも希望は必要だよな。


 「わかった! 俺、短剣買ってくる」

 「お、おれも」

 「ダガーやナイフでもいいんかな? よ、予算が…」

 近接用の武器を持たない奴らが出口に向かって走っていく。やる気が戻ったなら取り敢えず良かった。後はやる気を持続させる為に、何か励ます方法を考えた方がいいかもしれない。


 丁度その時ロージルさんが中庭に出てきた。

 「マビァさん、準備が出来ました。参りましょうか」

 「了解。彼らもやる気になったみたいなんで、こちらも急ぎますか」

 まだ昼には少しある。急げば午前中に木剣の注文を出来るかもしれない。俺は急ぎ木工ギルドに向かうことにした。

 次回の投稿は9月27日(日)の正午予定です。

 よろしければまたお付き合い下さいませm(_ _)m

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