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三日目 訓練

 「なんだコニス。今日は休むんじゃなかったのか?」

 コニスは昨日、夜勤明けの後の長い残業をして昼の三時頃までギルドにいた。夜勤開始が夕方の六時だったとして二十一時間労働だ。通常勤務がまた夜勤なら、今は九時半過ぎ。九時間ほど早い働き始めだし、ギルマスには無理させたコニスに休みをやるように言ったんだが、なぜ今コイツがここにいる?

 俺のそんな思いと『会いたくないヤツに会った』という感情が露骨に表情に出ていたのか、コニスはムッとして両腰に拳を当ててプクッと頬を膨らませる。あざとい。

 「こんな大変革やらかした本人が何言ってるんですか! 放心気味なギルマスには休んでいいっておざなりに言われましたけど、最初に頑張っとかないと取り残されて困るのは自分なんですよ。休むどころか時間外出勤で対応中です!」

 そうかぁ? 元々昼行灯(ひるあんどん)扱いののんびりした組織なんだから、全員が急激な変化になんて対応出来るわけないんだが。

 周りを見ると魔獣の討伐対象の変化でどうしたらいいか分からない冒険者の群れと、なんでそんなことになったのかイマイチ分かっていない職員の対応とでまともに機能してそうにない。思ってた以上にぐだぐだなんだ。

 「あ~。そりゃ悪かったな。それで現状どうなってんだ? 俺は何すりゃいい?」

 「ギルマスは色々一杯一杯な上に市議会に行くので不在ですが、ロージルさんが指揮してくれているのでなんとか機能しています。職員は交代で『幻獣召喚』を覚えて、今試験場で上位ランカー達に弱い魔獣を出して訓練中ですが、まずはそっちで動き方の基礎を教えてやってください。キラーウルフの仔犬一匹に逃げ回ってて酷い有り様なんですよ。それから裏庭でも何人かが練習してますが、そちらもぐだぐだです。後はそこの彼らですね。昨日のアレを見てなかったから、見てた人達との温度差が酷いんですよ」

 じとっとした目でコニスは冒険者達に目を向ける。あー。昨日のを見てない奴らはそりゃ意識改革出来るわけないわな。

 ボロボロになるまで現実を突き付けられた後の昨日の五人でも、持ってたプライドを捨てて心を入れ換えるのにかなり面倒くさかったんだ。

 アレを見ていた観覧席にいた冒険者や職員は、どうすればいいかは分からずともそれなりに足掻いているんだろうが、ここに群がってる奴らは何も知らなかった昨日の大尉や黒いなんたら達と同じなんだ。


 あーもうっ! 面倒くせーな!! 頭をガシガシ掻いてコニスに言う。

 「アイツらにも昨日と同じ事見せなきゃ分からねーだろうな。コニス、ワニを出せる職員を何人か試験場に集められるか? 三~四回出せりゃ何とかなると思うが人数は任せる。俺はアイツらを試験場に連れて行くから試験場にいる奴らにも説明頼むわ」

 「分かりました。それじゃお願いします」

 コニスは素直に頷いて奥に走って行った。「も~っ!後でなんか奢って下さいよ!」とか言われるかと思ったが、予想以上に対応に困ってたんだろうな。

 あいつはさっきの様なあざとさ抜きの方が可愛いし魅力的なんだが、まぁ気付かねぇよな。放っておこう。


 コニスを見送り、俺は冒険者達の方に歩み寄る。

 「あーあんたら、ちょっといいかな?」

 「ああっ? なんだオメーは。……ん? お前新聞の……?」

 凄んできた歳上の冒険者とその他の者も、俺に気付いたらしくザワザワし始める。

 「今朝の新聞読んで俺の顔を知ってるんなら話は早いや。俺が昨日ここで色々やらかしたマビァってもんだ。あんたらは昨日のアレを見てないんだろ? 昨日の再現してやるから試験場まで着いてきてくれ」

 俺みたいな若造に生意気な口を利かれて、殆ど全員がいきり立つ。「あぁ?! ナメた口利いてんじゃねえぞ!」とか「俺達をなんだと思ってやがる!」とか「お前がやったのは詐欺って話じゃねーか! 騙せると思うなバカにしやがって!」とか……。くそ、ハンセルめ。

 しょうがないので『威圧』を強めに効かせることにする。

 「黙って付いてこい」の一言で完全にビビった十数人の冒険者達は足が震え、中には腰が砕けてへたり込む奴もいて、なかなか試験場まで行けなかった。くそぅ加減が難しいな…。


 試験場に着くと、黒い三連狩りの三人の他数名がキラーウルフの仔犬一匹に逃げ惑っていた。俺はキャンキャンと冒険者達を追い回すキラーウルフに歩いて近付き蹴り一発で消し、騒ぎが収まるのを待つ。

 「あ、マビァさん、おはようございます」とゼーゼー言いながら挨拶してくる黒い三人達や他数名と、「おい…キラーウルフをあんなにあっさりと」とか「武器や防具無しでなんで立ち向かえるんだ」とかブツブツ聞こえてくる付いてきた冒険者達の声を聞いているうちに、上の召喚する台に三人職員が集まっていて、入り口からコニスが剣と盾を持ってきてくれた。重そうに運ぶ姿があざとい。

 「おー。頼もうと思ってたんだ。ありがとう。気が利くな」

 剣の形状も盾の大きさも俺のに近い物を持ってきてくれた。装備して使い心地を確かめる。うん、重さも良い。剣は俺のと比べたらナマクラ同然だけど、そこは仕方ないだろう。コニスやるじゃん。かなり見直した!

 「うん、使い勝手良さそうだ。大した目利きじゃねーか」

 褒めるつもりでコニスの頭をポンポン叩いてやる。予想外だったのかコニスは顔を赤くしてザザッと身を退いた。叩かれた頭を両手で押さえて狼狽えてる。

 「な…ななっ?! ダメですよそんな! いえあの当たり前じゃないですか。私は気の利くギルドの受付ですのよ!」

 おーおー動揺しまくっとる。

 コイツ男を自分に惚れさせて手玉に取ることは慣れてても、こーいう上から扱われることに慣れてねぇんじゃね? 意外とチョロいかも。

 まぁ俺にはその気は無いからこれ以上は止めとくか。コニスをアイドル扱いしてる多数の男の視線に殺気が籠っている。面倒事を増やしてる場合じゃねーしな。


 疲労困憊している黒い三連狩りとその他数名を隅に下がらせて休ませる。そして皆の前に立って向き合った。

 「さて、今からあんたらにも出来るバーンクロコダイルの簡単な倒し方を見せてやる。昨日そこでバテてるあいつらにやって見せたのと同じことをだ。自分達の目で俺が詐欺行為をしてるかどうか見極めてみろ。特別大サービスで二回実演してやるから、しっかり見てよく覚えるように。俺の後であんたらにもやってもらう。全員で一頭相手にしてもいいから頑張ってくれ」

 新聞は読んできたみたいだから、これからすることは大体分かってるだろう。タブカレだけ読んでそれを信じ込んでるようなバカは面倒見る気にもなれんけど。

 ザワつく冒険者達を後ろに下がらせて、上で待っている職員にワニを出すように合図を送る。

 まだ『幻獣召喚』を覚えたての若い男性職員が、緊張した面持ちでジェムを掲げワニを呼び出した。

 さあ、昨日の再現の始まりだ。


 で、どうなったかは想像通りだったので割愛する。

 ただ昨日のワニ一頭対五人よりも、今回の一頭対十五人の方が酷かったのには呆れ返った。

 十五人もいれば流石にこの試験場も手狭で、逃げ惑う先でぶつかりお互いの足を引っ張りあい、足が竦んで動けないところに幻の火球を食らってショックで気絶し、手に持った武器や盾で無駄に仲間を傷付けていた。

 十分くらいで見ていられなくなったので、俺がワニを倒して終わらせる。

 神官職の冒険者が十五人の中にふたりと、先にヘバッてた奴らの中にひとりいたので怪我人の回復をさせて、昨日と同じお説教タイムを経て無事に意識改革を終わらせる。

 コニスはいつの間にかいなくなっていた。まぁ忙しそうだったし、昨日も見た内容だったからまた退屈する前に逃げれるうちに逃げたのかもしれない。


 取り敢えず今回の十五人は、黒い三連狩り達よりも格下だということが動きで分かったので、中庭で素振りでもしてろと言って追い出す。まずはこのギルドでの上位ランカーらしい黒い三連狩りとその他六名を優先して鍛え直すことにする。

 「お前ら、まず逃げること禁止な。それから攻撃はするな。防御を徹底的に身に付ける。敵の攻撃を手持ちの武器や盾で弾き返すなり逸らすなりしろ」

 それを聞いて「えぇ~?!」と驚く冒険者達を適度に間を空けて立たせ、立ち位置から半径一メートルの円をそれぞれ地面に引かせる。

 「その円から絶対に出るな。攻撃をかわすのはいいが逃げたら魔獣よりも怖くて痛いお仕置きを俺がしてやる。目を瞑るな、敵の動きをよく見ろ。そうすれば敵の弱さを実感出来るはずだ。恐怖に打ち勝ってみせろ!」

 俺の檄に感化され真剣な眼差しで頷いてみせる冒険者達。

 「制限時間は三十分! 休憩を挟んで三セットやるぞ。 キラーウルフ四匹だ。職員さん達、四人で対応宜しく」

 いきなり仕事を振られた職員さん達が一瞬ワタワタと慌てたが、すぐに四人が決まり他の手の空いた職員さん達は他の仕事に戻っていく。

 俺は観覧席に上がり上から見ることにした。隅で座ってたらキラーウルフがこっちに来るかもしれないからな。

 召喚されたキラーウルフ達がランダムに冒険者達に襲いかかる。

 及び腰ながらなんとかその場に留まり続ける奴らにキャンキャン吠えてから飛びかかるキラーウルフ達。

 実に単調で直線的な攻撃なので正面から落ち着いて対処すれば何も怖いことはないんだが、「ひぃ!」とか「うぁ!」とか言いつつも、盾や武器でなんとか防いでいた。

 それでもランダム攻撃なので、たまにひとりに二~三匹が同時に襲いかかることもある。そんな時はやはり攻撃を食らって倒れ、恐怖が込み上げてくるようだ。それに俺が檄を飛ばす。

 「四匹の動きを大体でいいから把握しろ! 誰かひとりに攻撃が集中しそうなら周りの奴らが声をかけてやれ!」

 「ひとつ防ぐ前に防いだ後どう動くのか考えとけ! そうすりゃ心に余裕が出来る。常に先を読め!」

 「よし!今のはいい防御だった。その動きを忘れるな。もう一度やってみろ!」

 一セットが終わり、十分休憩を挟んで二セット目に入った頃には大分動きが良くなってきていた。

 とはいえ普通以下の最低最悪の動きをしていた奴らが、やっと素人並みの防御が出来るようになったくらいだ。

 小柄の中型犬くらいの大きさのキラーウルフに突撃されて防げたのはいいが、まともに衝突の力を受け体勢が崩れて次の動作に移るのにタイムラグが出来てしまう。そうなると焦りもするし、また恐怖が振り返す。二セット目が終わった後の休憩でアドバイスするために下に降りる。


 「敵の十の力を同じ十で受け止めるからこちらの体勢が崩れるんだ。武器や盾で受け流せ。ガイヤーンちょっと打ち込んでこい。手本を見せてやる」

 ガイヤーンに打ち込ませ、受け流しの基礎をみんなに見せ、三回ほどスローでもやって見せる。

 やれやれ、ホントに元の世界の仲間達には見せられない光景だろうな。ハンターCランク内で一番下手クソな俺がこんなに大勢に偉そうに教える立場になるなんて…。


 三セット目が終わる頃にはキラーウルフの突撃で倒される奴はいなくなっていた。

 恐怖で逃げ惑うこともなくなり焦りも大分減ってきている。

 最初の一時間半でこの成果なら大したもんなんじゃないか? でもまだまだ実戦に出るには程遠い。繰り返し経験させつつも徐々に難易度を上げていかないとな。


 取り敢えず一回に十人くらいで一日三十分を三セット。『幻獣召喚』を使った修行の基礎はこんなもんでいいだろう。後は職員さんがどれだけ対応出来るかによるがそこはまた相談だな。

 今のこの九人が上達し、奴らをコーチにして教えさせりゃ俺が帰った後でもなんとかなりそうだ。

 俺は疲れきった職員さん達にお礼を言い、冒険者達にもお礼を言わせ、剣と盾を武具置き場に返してから試験場での修行のお試しは一旦終わることにする。


 「次は中庭だな。そういや木剣の手配って済んでるのか? 必要な数の在庫がギルドにあったんなら問題ないんだけど」

 俺の呟きを聞いたマッチューがおずおずと言いにくそうに小さく手を上げる。

 「な、なぁマビァさん。昨日も言ってたその『ボッケン』って何なんだ? それで自主練するように言われてたけどさ、どんなもんか分からなくてそれぞれ自分の武具で練習してるんだが、それじゃまずいのか?」


 なんとこの街には木剣の知識すら無かった。

 お互いに剣で打ち合う試合も訓練さえも無いのだから仕方ない事なのか? いやしかし木剣は護身用の安全な武器としてはもってこいだし、弱い魔獣なら十分倒せる。

 子供のオモチャがわりにも無いのには驚いた。そのくせ真剣は店売りしてるんだから、平和すぎる街のおかしな点なのか? 俺との価値観が違いすぎてよく分からん。


 「木剣は訓練用の木の剣の事だよ。お互いに打ち合う訓練を真剣でやると、かすっただけでも大怪我になるかもしれないだろ? だから当たってもせいぜい打撲か骨折で済む非殺傷の武器が必要なんだ。

 斬れない刺さらない打撃用の武器だけど剣の形をしてるから練習にいいんだ。知らないのか? まいったな」


 俺は中庭より先にロージルさんのところに向かった。適当に職員さんを捕まえて、いる場所に案内させる。二階に上がり、広い沢山机の並ぶ事務室の責任者的な位置にロージルさんがいて、立ち上がって俺を迎えてくれる。

 「マビァ様、この度は早速朝から冒険者達を鍛え直して下さったそうで、まことにありがとうございます」

 「ロージルさん、様はやめて下さい。マビァでいいよ。それより木剣の手配をお願いしたいんだけど。あ……、剣だけじゃないんだっけ。

 訓練で怪我をしないように、それぞれの冒険者が得意とする武器の木製品が欲しいんだよ。早急になんとかならないかな?」

 俺のこの言葉だけで内容を理解したらしいロージルさんは、すぐに部下に指示を出す。

 「冒険者の使う武器は主に片手剣と両手剣、片手斧、両手斧と弓です。剣と斧は木工ギルドに緊急依頼を出します。訓練中の冒険者の主武器を数えてきなさい。木工ギルドへは私とマビァさんで向かいます。弓使いには矢の先を非殺傷な物に変えるように指示を。片手棍と両手杖は布でも巻き付けなさい。その他のマイナー武器は訓練で仲間を傷付けないように工夫をさせて下さい。さあ動いて!」

 手をパンッと叩くと、数人の職員さん達がバタバタと動き出す。すごい状況判断の早さと統率力だ。


 「今から(たちま)ち必要な種類と数を調べますので、暫くお待ちください。あと、私どもには『木剣』の概要が分かりかねますので、マビァさんには木工ギルドに同行して戴き、どの様なものか説明をお願いしたいのですが宜しいでしょうか?」

 「じゃあ待ってる間、中庭の方を見てきますよ。準備が出来たら教えて下さい」

 やった! 綺麗なお姉さんとおでかけ出来るのは楽しみだ。心の中で拳を突き上げながら俺は暇潰しに中庭へと向かった。


 次回は9月20日(日)の正午予定です。


 宜しければまたお付き合い下さいませ。

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