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二日目 ワニの長期保存法

 「コカトリスだよ! コカトリスの『石化』を使うんだ!」

 なんと、それには思い至らなかった。俺達の世界のコカトリスの『石化』は尾の蛇がブレスの様に吐き出す毒煙に触れるか、蛇に噛み付かれるかのどちらかで発症する。つまり蛇の毒が石化の主成分なんだそうだ。幸い俺達パーティはコカトリスを相手にしていいランクではなかったので、それにやられたことはまだ無い。神官の神聖スキルで『石化解除』があれば解毒出来るのだが、こちらのあの(にわとり)はどうなんだろう? キマイラも姿はよく似てたが、一文字違いで生態が全くの別物だった。

 離れた場所にいたウェルとロージルさんもこちらにやってくる。

 「数年前に参加した学会で知り合った若い研究者の事を思い出した。

 彼の論文では、コカトリスの蛇の『石化』はどうやら呪いだと判明したそうだ。実は石化は魔獣に依っては毒でなるものと、呪いでなるものの二種類に分けられる。この二つの石化の進行具合が違うんだ。

 まず毒の方は毒に触れたり咬まれたりした患部から、第一段階で数秒で全身を固め罹患者を仮死状態にする。第二段階で患部からじわじわと完全に石となっていき、頭部が石になった時点で回復不能となるらしい。例えばバジリスクは毒系の石化だそうだ。罹患者の体の大きさにも依るんだが、頭から一番遠い足の指先からその毒が入ったとして、大体五~六時間で回復不可能だ。そして解毒が間に合ったとしても、患部へ解毒効果が届くまでに時間が掛かるらしい。下手に途中で動かすと罅が入ったり割れたりするので、最低二十時間は安静が必要だ。また石化が毒の魔獣でも種類別で進行時間や解毒の効き具合も違うとあった」

 やはりこちらにもバジリスクはいた様だが、脅威度もかなり高いんじゃないか? 出来れば会いたくないな。もっとも俺達の世界のバジリスクは視線で石化をしていたから、避けるのは更に困難な筈だ。『対状態異状』の神聖スキルか、『石化無効』の護符がなければまともに正面に立てないと聞く。

 「そして呪いでなる方だが、体の一部を咬まれるかブレスの類いに触れると、全身が衣服ごと一気に石化するそうだ。罹患者の石化中の時は完全に止まっていて、解呪効果も全身一気に解けるので、こちらの方が危険度は低いらしい。コカトリスの呪いによる解呪可能な期間の実験も、大小様々な魔獣で試したそうだが、大体どれも二年くらいという結果が出たと書いてあった」

 同じ石化でも毒と呪いでは全然効果が違うんだな。確かにこの方法なら食材の長期保存にも使えそうだが…。そういやこっちでは、どうやって石化を解くんだ?

 「あの、ナン教授。俺は『石化』の状態異状をあまり知らなくて。どうやって治すんですか?」

 「ん、ああそうだったな。どの魔獣の石化の状態異状攻撃でも聖職者による解呪魔法で元に戻すか、教会や神殿で売ってる『聖なる雫』で解除するんだ」

 なるほど、俺達の世界でも各宗教の神官や司祭様が神聖スキルを使って治してくれていた。こちらではスキルではなくて、神聖魔法になるのかな? どちらにしても神様の御慈悲が必要になる訳だが、なんかこんな使い方すると、罰が当たりそうで怖い。と、ここでナン教授が少し苦笑を漏らす。

 「この論文を書いた研究者はな、病気で余命が限られた父親と遠くにいる妹を会わせてやりたくて、この研究をしていたそうだ。残り僅かな命を少しでも延ばす為に、魔獣の能力を利用することを思い付くとは若いのに見事なもんだと、この美談とともに感心したもんだが、かたや延命の方法。こなた食材の長期保存で、目的は近いのに美談とは程遠い。やれやれ、なかなか思い出せん訳だ」

 確かにこちらの欲に塗れた使用法とは、志が随分と違う。研究者が聞いたら怒られるのかな?

 「ちなみに、その妹さんはお父さんに会えたんですか?」

 「ああ、研究者と父親の決意で早めに処置がされて、一年近く石化された父親は、無事に帰ってきた娘に会い、亡くなるまでの半年間一緒に過ごせたと聞いた。さすがの俺も貰い泣きしたぜ」

 そう言うナン教授の眼は、やはり少し潤んでいた。

 「なんかその話聞いちまうと、オレがその方法使うと罰でも当たりそうだな。でも実際どうやって硬い皮を持つワニのどこへ、コカトリスの蛇を咬ませるか、だよな? ん? 呪いなんだから皮の上からでもいけるのか?」

 ウェルも俺と同じ心配をしていた。神様にしっかり御布施した方がいいかもな。それと蛇が噛む場所か…。外皮の柔らかいところは脇下から脇腹にかけてだが、そこでも厚さは五ミリくらいある。とても蛇の小さな歯では貫けないし、ワニもじっとしていないから、大人しく咬ませる訳がない。

 「いや、コカトリスの呪いの発動条件は、『呪う相手を傷付け痛みを与える事』らしい。蛇の小さくて短い牙が刺さりそうなのは舌か………。あるいは総排泄腔の内側だな」

 「総排泄腔?」

 「鳥なんかと一緒だな。糞尿を出す場所であり、雌なら卵を産む場所でもある。硬い外皮とは違い内臓との境だから、出口を少し入ればすぐに粘膜に触れる」

 「触れるったって。石化が毒だったらコカトリスから毒を集めて注射器で刺すなりすりゃ何とかなるかも知れねぇけど、呪いなら蛇頭は生きてなきゃいけないんだろ? だったら切り離す訳にもいかねぇから、あのでっかい鶏を抱えてそうしなきゃいけねぇって訳だ。しかもそのケツの穴は地面に押し付けてるじゃねぇか。ちょっと想像するだけでも難儀な仕事だぜ?」

 ウェルの言う通り、俺も想像してみる。コカトリスは普通の鶏の大きさの三倍はある。その大きな体を縛り上げ鶏頭と蛇頭に攻撃されないように袋でも被せる。五メートルのワニを何とかひっくり返し、四肢や尾や胴体がジタバタ大暴れしている時に、穴に蛇頭を差し込んで咬ませる。うーん大怪我する未来しか浮かんで来ない。

 大体あの巨体って重さ何キロあるんだ? 七~八百キロはありそうだから、近くで暴れられたら骨折では済まないかもしれない。

 「いや、さっき描いた図があったろ。あれを持ってこい。ちょっと改良を加えりゃ上手くいく筈だ」

 ウェルが取ってきたナンさんが描いたワニ獲り用の罠の絵。それにナンさんが手を加えていく。

 「ほら、こうしてワニが乗る天板を一部金網にするんだ。総排泄腔が大体来る辺りを広めにな。天板の下にコカトリスを入れた鉄籠を、下に車輪でも付けた移動式の台に載せて、蛇の頭を出しておけば準備オーケーだ。

 罠にワニを引寄せ、天板に登らせたら端の方に魚でも置いとく。それを食ってる間に下の台を総排泄腔の下に合わせ、蛇頭を金網の下から上へ出し総排泄腔に差し込めばそれで終わりだ」

 「なるほどな。でも天板の上で石にしちまったらあの巨体だ、一トンは無いにしても持ち上げることも出来なくなるよな。ここに溝でも作って太い鎖で吊し上げるか。だとすると荷揚げ用のクレーンもいるなぁ。分かっちゃいたが、やること多すぎるぜ~」

 なんせ全員にとって今回の話し合いの全ては、初めてのことばかりなので、最初からそうそう上手くいくことなんてない。それでも思い付いたことは、どんどん紙に書き込んでいるウェルとナン教授。ロージルさんもウェルの近くに座り、「草案の続きをします」と言って、バリバリと書き始めた。

 ギルマスはひとりキマイリャのことで、ああでもないこうでもないと色々書きなぐっている。いきなり他国に謝罪する羽目になったんだ。どういう順で話を進めるかだけでも悩めることだろう。


 窓から外を見ると、かなり陽が傾いてきていた。もうすぐ夕焼けも近いのだろう。この街に来てまる一日が経った。やる事が多すぎて物凄く速く時間が流れたような気もするし、体感的には二日くらい前のはずの元の世界での激戦が、遥か遠い過去のようにも感じる。

 でも忙しくしていても、まだ目的の手掛かりらしき可能性を聞いただけだ。そっちは今は待つしかないので、まずはこちらを頑張ろうと決意をしかけて、ふと気付く。


 ウェルとの約束があるからワニを食用にする為の準備は、楽しいしやり甲斐も感じる。しかし、ギルドの冒険者達や軍のヘタレ大尉どもを、性根から叩き直す必要はあったのだろうか……?

 あいつらのちっぽけなプライドを守る為のふざけた言い訳に、怒りの限界まで耐えた反動で、ほぼ自分がスッキリする為だけに自分の考えを押し付けてしまった気がしないでもない。


 その後の話し合いにナン教授が加わったお陰で、戦闘の素人でも可能なワニの簡単捕獲法が机上論ではあるが確立しつつある今、いずれワニと戦わせると煽った冒険者と軍人が早々に不要になりかけている。それがバレないようにワニの捕獲にも無理矢理参加させ、観察日誌のような仕事も押し付けた。

 まあ訓練をして強くなってくれる分には損はないし、新しい魔獣の討伐対象が変わったことも無駄ではないし…。うん良いことしてるじゃん俺。と、ほぼ俺の怒りのとばっちりで引っ掻き回されてバタバタとしているギルド内の空気を感じながら、あれこれ気付かなかったことにしてあくびをする俺であった。

 私がこれまでに触れた数少ない作品には、石化で食糧保存というネタは見たことないので、一応パクりではないと思いますが、もしどこかで被ってしまっていたらごめんなさいorz


 次回は8月9日(日)の正午に更新予定です。


 今さらですが、基本こんなのんびりした会話劇で進みます。よろしければまたお付き合い下さいませm(_ _)m

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