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二日目 魔獣のランク見直し

 まず口を開いたのはケラルだった。

 「あの、自分は今、ここにいる意味はあるんでしょうか?」

 ああ、だからこいつは最初っから居心地悪そうだったのか。

 「そんなもんあるに決まってんだろ。あのな、お前と大尉はギルドとは違う組織の人間だが、ふたりはこの後駐屯地に戻って、今日ここで決まった内容を軍の仲間に納得してもらわなきゃいけないんだ。だけどどっちか一人だけが聞いて帰ったんじゃ、今回の色々な出来事は信じてもらえない可能性が高い。お前も実際に体験しなければ信じられないことばかりだっただろ? だから大尉の証人にならなきゃいけないんだよ。近い内に俺が実戦でワニを狩ってやるから、その時は駐屯地全員で見に来い。そうすりゃ大尉の話を納得する奴も増えるだろうが、今回大尉に話してもらうのはその下準備と思ってくれ。大勢の同僚や上官もいるだろうが頑張れよ」

 そう言ってやると、「は、はい!」と俺に敬礼し、胸ポケットから手帳を取り出して、なにやら書き始めた。今日ここまでに体験して伝えるべき事を整理しているのかな? 大丈夫そうだから任せてみる。

 でも、実際にはたった二人で数百人を説得するなんてのは無理だろう。人間は自分が見聞きしたもの以外は真剣に受け入れられないものだ。今回は「何かが大きく変わるらしい」と伝えるだけになるだろうな。

 それで、大尉とギルマスが不安げなのは何でだ?

 「あの…。マビァさん、バーンクロコダイルの肉はそんな名物になるくらい美味しい物なんでしょうか? 私にはとてもそうには見えないものでして…」

 「俺もだな…。あのワニはいつも結構泥濘(ぬか)るんだ浅瀬を好んでいて、泥臭いイメージがある。鯰の様に泥を数時間吐かせてから調理するなら臭みも抜けそうだが、陸で殺してしまうとそれも出来ない。本当に美味いのか?」

 なるほど、それは考えていなかった。俺を襲ったワニは川の中にいたからな。泥を十分吐いていてもおかしくはない。川の水も綺麗だったから生臭さや泥臭さは気にならなかった。

 「ナン教授。その辺どうなんでしょ?」

 「ん? おう、アイツらは水中に浮かんで寝る習性が有るからな。別に魚と違ってエラ呼吸をしているわけでもないし、獲物も泳ぐ川魚が殆どだ。夜寝たところを獲るから問題ないんじゃないか? なんなら泥塗れのヤツも獲ってみて食べ比べりゃいい」

 焼き菓子をサクサク食べながら答えてくれるナンさん。お茶とお菓子足りるかな? と思ったらギルマスが自ら動いて準備をしていた。ギルマスもなかなか気が利くな。

 「なるほど、論より証拠ですね。じゃあどっちにしても何匹か狩らないといけないから、まず武器を早く手入れに出したいんだ。数日後にワニ狩って、その後にギルド職員と兵士全員で大試食会でもやるか? どうかなウェル」

 「ああ、駐屯地でやろうか。他じゃ街の人の目に付きやすいからな。街の西か東で狩って北の軍の門から入れりゃ騒がれることもないだろうぜ。こっちも可食部がどれだけあるか研究しなきゃいけねえから、間違いなく美味い胴体の肉なら二頭もありゃ、焼き肉数百人分にはなるだろうな。調理の手配はこっちがしてやる。四日後ぐらいでいいんじゃないか?」

 「大尉、それでいいかな?」

 「ああ、了解した。よし、それじゃあ我々も準備にかかろう。まずは帰ってから緊急会議だな」

 そう言い、大尉とケラルは急ぎ足で帰って行く。この後の話し合いはギルド内部の案件だから、帰ってもらっても問題ないな。

 よし、ワニについての細かいことはまた後にして、これで大体纏まったかな? これ以上は現場を見て罠の設置を始めないと話が進まないだろう。

 では、俺とギルマスとナン教授の三人で早速次の議題に入ることにする。


 「じゃあギルマス、この街のギルドが討伐して記録に残っている魔獣の種類とそのランクを、黒板に書き出してくれないか?」

 本来なら俺の方が下っ端なので、俺が率先して書かなきゃいけないのかもしれないが、まだギルドに未加入なのと、この中でギルドのことに詳しいのはギルマスだけだもんな。トップ自ら書記をしてもらう。ギルマスは紙の束を捲りながら黒板に書き出していく。

 「はい、古い記録も含まれていますので、現在まで 何百年も討伐されてないものもありますが。ではAランクからキマイリャですね」

 「はぁ?! キマイリャだと? 何言っとるんだあんたは」

 いきなり立ち上がり大声を上げるナン教授。……いやホント気持ちわかるっス。言ってやって下さい。「え、え?」と戸惑うギルマス。ギルマスは記録の通り書き出してるだけなんだよね。ここではキマイリャが最強であり最恐の魔獣だと思い込んでるし仕方がないんだが。

 「キマイリャはこちらから手を出さなければ、全く無害な魔獣だぞ。なんでAランクなんぞの危険討伐対象に記録されなきゃならん!」

 「はっはい。我がギルドの三百年ほど前の英雄とされる、冒険者ニッケルとその仲間『ニッケル遊撃隊』の討伐記録によると、

 『特殊攻撃の『歌声』の効果が三段階あり、一段目が『恐怖』の状態異状攻撃。二段目が『麻痺』、三段目が『気絶』』だそうで、これにより仲間が次々と倒れ、一度仲間を担いで必死に逃げたとあります。

 その後再挑戦して討伐を果たしたそうですが、爪による切り裂きと噛みつきでパーティもかなりの怪我を負ったとあります」

 ギルマスが資料を読み答えてくれる。ナン教授は肩を怒りで震わせながら聞いていたが、ふーっと長い溜め息を吐いて肩の力を抜く。

 「三百年も前の件なら、今どうこう言っても仕方があるまい。もしそいつらが同じ時代に生きていたら俺が皆殺しにいているところだ」

 そう言ってナンさんは席に着く。

 「キマイリャはなり(・・)は巨体だが、無邪気な仔猫と変わらん性格をした無害な魔獣だ。マビァくん、試験で幻獣化を見たなら分かるだろうが、アイツの歌声に状態異状効果なんてあったか?」

 「いえ、獅子、山羊、蛇、と良い声でハモられましたが、全くなかったですね。

 ギルマスも歌声は耳塞いでも聴こえていただろ? 状態異状攻撃なんてものは耳塞いだくらいじゃ防ぎようが無いんだよ。あのトリオのハーモニー聴こえてても気絶してなかっただろ」

 「…はっ! そう言われれば」

 今になって、言われて気が付くギルマス。

 「そのニッケルとやら達も、今日のワニを前にした大尉達みたいに、ビビって腰が抜けたとか怖くて動けないとかを、自分の都合のいいように『恐怖』だの『麻痺』だのの状態異状だったと解釈して報告したんだろう。とんだ臆病者の腰抜けな癖に、顕示欲や虚栄心の塊の様な連中だったんだろうな。怯える仔猫をいたぶり殺して英雄気取りとは…。

 その記録から察するに、恐らく歌うキマイリャと突然出会(でくわ)して歌声にビビりながらも攻撃して蹴散らされ、一旦逃げ帰ったようだな。その後、寝込みでも襲って殺したんだろう。

 キマイリャは基本穏やかな性質をしとる。寝起きも暫く微睡んでいるから、子供でも数人で刺し殺せるくらいに容易いことだ。それなのに爪と牙で怪我した? そんなので英雄として讃えられているだと? 片腹痛いのを通り越して怒りしか湧かんわ!

 周りにいた当時の連中も、今のマビァくんの新聞記事を見て騒いどるヘタレどもと一緒だ。真実に目を向けんと思い込みで凶悪な魔獣と決めつけて、仔猫が殺されて喜んどる。三百年も前から何も変わっとらんのかこの街は。まったく嘆かわしい」

 ナン教授は眉間を押さえながら首を振る。

 「キマイリャはこの国では滅多に見ることのない魔獣だ。その件以外の討伐記録が無いのならまだいいが、東の二つ隣の国、サドバサン王国では国旗にシンボルの一部として使われるほど神聖視されておる。

 秋の満月の夜に、森の奥にキマイリャが集まって合唱をするんだが、それは見事なもんでな。研究者達が毎年集まって、歌を聞き語り合う会が行われておる。俺も行ける時には参加しててな、愛好家が多い魔獣なんだよ。まさか自分の地元でこんなふざけた歴史が有るとは思いもせんかったわ」

 ギルマスの言い分では、キマイリャのジェムが資料室に展示してあるが、『伝説の魔獣キマイリャのジェム』と書かれたプレートに討伐された年が記載してあるだけで、誰が倒したとかの記載がない為、詳細を知る者は殆どいないらしい。

 ギルマスは古代文明やこの国の歴史などを調べるのを生き甲斐としており、展示プレートの討伐の年に興味を持ち、資料室で埃を被っている資料や、当時の新聞を図書館で調べて、英雄扱いされてるニッケル達のことを知ったらしい。それを聞いたナン教授はギルマスを睨みこう告げた。

 「ギルマス。すぐにキマイリャの討伐禁止と、誤って殺すようなことがあった場合の罰金を決めて広く知らしめておけ。保護魔獣であることも忘れるな。サドバサンではキマイリャを殺した場合は死罪だからな。展示場所も片付けておけよ。三百年前の件は今さら何かあるとは思わんが、今まで討伐報酬がある対象にされていただけでも問題がある。この街だけなのか、この国全体のことなのか分からんから早急に調べて、サドバサンへ謝罪の手紙を(したた)めた方がいいだろう。

 あっちから言われる前にこちらから動くのが、正しい誠意の示し方だ。忘れるなよ」

 それを聞いたギルマスは蒼白になり、要点を書きなぐり始めた。既にギルマスの思考の許容限界を越えてそうだが、話し合いは始まったばかりだ。

 なのに魔獣ランク付け見直しの一匹目から、他国を巻き込みかねない大きな大失態が出てきて話が進みゃしない。


 その後もコカトリスがBランクだというと「あんなもん家畜じゃないか。他所の国では広く養鶏されて食糧になっとるわ」と、ナン教授に一蹴されたり、Cランクのカマカマスというのも「こいつはアオムーやアゲアゲハ等の、一応害虫扱いされとる魔獣を捕食する益虫の役割をしとる。人を襲うことはまずないからコイツも討伐対象外だな」という感じで、次々と討伐の対象から外れていく。

 そしてとうとう、EランクからFに格下げされたキラーウルフ以外、何もいなくなってしまった。

 「ナン教授…。キラーウルフだけになってしまいましたが…」

 俺もちょっとこの無くなりっぷりには驚いた。

 「なに問題ない。ここのギルドがマビァくんの言う通り、見た目の怖さだけで討伐対象にされとっただけで、本来討伐すべき魔獣が入っておらんかっただけだ。それを今から入れていきゃいい」

 そう言って次から次へと魔獣の名を上げていく。

 川原の砂地に隠れ、近付くものをなんでも捕食する蟹型魔獣の『ガチガザミ』。森の奥に大きな巣を作り、毒針を持つ大型昆虫『トラガラバチ』。異常気象のある年に、稀に大発生して農作物を荒らす『オオキリバッタ』。この国の各地にある森に生息する『ホシノワグマ』等々…。もともとこの国に棲息してたり、大移動で入ってきたりする魔獣が十数種類書き出され、それぞれの脅威度でナン教授がランクに嵌めていくが、問題は単体での脅威度と複数での脅威度が全く違うということだった。


 …いや、当たり前のことなんだけどね。元の世界でのハンターギルドでは、このような『パーティの編成や人数。また、魔物の編成や頭数による討伐難易度の規定』みたいなもんは、ギルド創設時から長い年月をかけて様々な討伐結果が精査され、徐々に擦り合わせて確立されていた。

 しかしなんとここ、冒険者ギルドでは怖く感じる魔獣をそれぞれのランクに当て嵌めただけで、細かい規定は作られていなかったのだ。よくそれでこれまで問題がなかったもんだ。

 例えばトラガラバチの場合は、遠距離から大火力の火炎魔法を撃ち込めば簡単に巣ごと焼き払えるのだが、魔術師のいない近接戦闘のみのパーティだと、危険度が格段に増す。なので、単体の脅威度をDランクとして、散策中に数匹程度と遭遇した場合は積極的に討伐。巣の討伐は魔術師がいるパーティ推奨、Cランク×討伐数+巣の駆除の報酬として扱う。

 また、近接職パーティやソロ剣士等が無理して巣や大群を倒したとしても、前者と同じ報酬のみで危険を冒すだけ損になる。毒の針を食らう可能性が高い近接戦闘と、安全圏から火炎魔法をポイッと飛ばすだけの戦闘が同じ報酬なのだ。

 「苦労して命懸けで倒した」なんて結果より、「楽して効率よく倒した」方が評価が高いのである。

 なので、魔術師がいないパーティ、またはソロでの遭遇は速やかに退避することを勧め、ギルドへの報告を義務として、報告だけならFランクの報酬を出し、現場まで案内すればEランクの報酬を出すことにする。

 

 また、俺がバーンクロコダイルを簡単に倒せたように、ハイランカーが格下の魔獣を楽だからと乱獲して稼ぐことも考えられる。

 ナン教授によれば「魔獣はこの星そのものと直結しており、例えば一種類の魔獣を根絶やしにしてしまえば、生態系のバランスが狂うだけに留まらず、いずれはこの星そのものが滅びるだろう。と言うのが魔獣学者達の共通の見解だ。人間の役割は増え過ぎる魔獣を間引くことにある」らしい。

 なので、一種の魔獣の狩り過ぎを防ぐ為に、依頼書以外で格下の魔獣を狩った場合は、ジェムや素材の買取り額を極端に減らす…等が決められる。


 評価が難しくなったのがバーンクロコダイルで、ナン教授が教えてくれた簡単攻略法と、単体に正面から挑む場合。また、複数との戦闘になった場合とで脅威度が全然違う。

 この街では簡単攻略法を推奨するが、これはウェルが造る設備があって初めて可能な方法だ。

 必要以上の乱獲を防ぐ為に管理された狩り場にする予定なので、狩りに参加したい希望者を募集し、罠を使い、協力して一頭捕獲する毎に、参加者全員にEランク相当の評価ポイントと報酬が支払われることにする。どちらかと言えば冒険者の参加は戦闘要員としてではなく、労働者として働くわけだから、報酬はどうしても安くなるってわけだ。

 俺のような単体との遭遇戦での討伐はCランクとし、複数相手の場合は逃げることを推奨。もし討伐することが出来たのなら、二頭まではCランク。三頭から上はBランクとするなど、ちょっとややこしくなった。

 

 また、オオキリバッタの様な大量発生するものには、ギルドの勅命により緊急出動の命令を冒険者に強制させることを勧められた。


 ほぼ、ナン教授と俺の主導で評価の改訂が進む中、ギルマスがひとりでマンティコラの件とこちらの改訂作業では手が回らないので、ひとり職員さんを他から連れてきて、俺とナン教授の会話で決まっていくことを書き取らせた。どうせ運営しながら改訂していかなければいけないことだ。俺は最後まで付き合えないし、どんどんざっくりと決めていった。


 大体の初期案が固まりかけた頃、ナン教授が突然立ち上がって言う。

 「おおぅ! そうだ、長期の保存方法を思い出したぞ!」

 ナン教授の思い出した長期保存法。何の捻りもないので、あまり期待しないで戴けるとありがたいです(^^;


 次回は8月2日(日)正午予定です。

 よろしければ、またお付き合い下さいませませ。


 ………もう8月ってのが、正直重くのし掛かります。

 今年はコロナのせいで、時間の流れが速く感じ過ぎる○| ̄|_

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