表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/122

二日目 秘密の話とワニ対策

 「おいおい、大改革とは大きく出やがったな。これで軍も、この街の駐屯地だけでも変わるしかなくなっちまった。確かに前から存在価値のない軍だったが、ここで他所から来たお前が大きく変えようとは思いもしなかったぜ!」

 試験場を出て会議室へ向かう途中で合流したウェルが興奮気味にこう切り出した。ナン教授もついて来ている。

 「仕方ないだろう。俺達の目的は安全で定期的にバーンクロコダイルの肉を確保し続けることなんだ。それなのにこの街で戦闘が専門職の筈の冒険者ギルドと軍がああもへっぽこだと、根底から覆すしかないじゃないか。

 俺には力を手に入れ次第戻らなきゃいけない所があるからな。こっちの奴らを強くするしかないんだよ。それだってまだどうなるか分かんねぇほど使えないからな。先が思いやられるよ」

 正直、パーティでも下っ端な俺が何を偉そうに仕切ってんだってのは重々承知してる。戦いの指導なんて元の世界でならまだまだやる資格のない行為だ。でもウェルの願いを叶える為なら必要だし、それが自分の為になると信じたからやったまでの事だ。

 「兄ちゃん、マビァくんと言ったな。その戻らなきゃいけない場所というのはさっき言ってたところなのか?

 何百年も昔から魔獣に絶え間無く襲われ続け、君が十歳から凶悪な魔獣を何十万体も討伐してきたという場所が出身というのは、あれは本当のことなのか?」

 やはりナン教授に詰め寄られた。真剣な眼差しでこちらをじっと見据えて聞いてくる。うう、なんて説明しよう…。

 「あ~~…。ナン教授? この世界のどこかにそういう場所に心当たりはあったりします?」

 「いや、俺は若い頃から世界中を巡って魔獣を研究してきたが、そんな可能性のある街にも土地にも心当たりはない。稀に大量発生で農作物に被害を出す昆虫系の魔獣がいるが、どれも人間には無害だ。

 マビァくんがワニ相手に見せた、あんな戦い方を身に付ける必要がある魔獣じゃあない。

 二年半くらい前まで、遠くの国がひとつの大陸から魔獣を全滅しかけた大事件があったが、あれは別物だろう。五年間ほどの出来事だったし、犠牲になった魔獣の殆どは無害なやつらだった。

 何百年も昔からって言葉に当てはまらない。君は一体何処から来たってんだ」

 この世界でもそんな物騒な大事件が起きてるんだ。確かにこの国では数百年戦争のひとつもないといっても、その前は戦争があったんだ。一度も争いが無いってほど平和でもないよな。

 ん~~。無理だよな。誤魔化す方法がみつからん。でもこのふたりには嘘は吐きたくないんだよな。しょうがない。話すしかないか。

 俺は通路で周りを見渡し、周りに誰も居ないのと近場の部屋の扉が開くこと、部屋の中にも誰も居ないのを確認して、ふたりに頷いてみせる。

 「分かりました。ふたりにだけは本当のことを話します。信じてもらえるかどうか分かりませんが、ついて来てください」

 俺が真剣な眼で言うと、ふたりも重大なことと察したのだろう。俺に付いて部屋に入ってくれる。部屋に入って扉を閉め、小声でウェルに問い掛ける。

 「あの記者達はどうした? もうここにはいないのか?」

 「ああ、さっきオレが玄関から放り出した。今日のここでの出来事は十分大スクープだ。満足して急いで帰って記事にしたがるだろうぜ」

 ウェルも小声で答えてくれる。少しの間扉に聞き耳を立て、扉をそっと開けてもう一度左右に誰も居ないのを確認してから閉める。部屋の真ん中まで行きふたりに話し始めた。

 「俺はこの世界ではない、別の世界から来た異世界人だ。…って言ったら信じられるか?」

 俺のあまりにも突飛な発言にふたりとも呆れてバカにするかと思ったが、暫く目を閉じて思案した後ウェルは口を開く。

 「だったとして、こっちに来たのはいつのことなんだ?」

 「あ、ああ。バーンクロコダイルを倒した少し前だ。だから昨日の朝八時かそこらだったと思う」

 「なるほどなぁ。どおりで数百年時代遅れな格好や反応の仕方をするわけだぜ。新聞もカメラもコーヒーも何もかも知らなかったもんな。でも言葉はどうなんだ? 別の世界の人間ならなんで言葉が分かる? 文字も読んでたよな?」

 また知らない単語が出てきた。かめらってなんだ? まあいい質問に答えよう。

 「なんていうかな……。こっちでも世界を創った神様的な話や宗教もあるだろ? その神様はこの世界だけの神様なんだけど、俺達それぞれの世界をまとめて見ている、もっとすげえ神様みたいな人がいてな、プレイヤーって呼んでるんだけど、俺をこの世界に運んでくれたのがそのプレイヤーで、彼が不便だろうからって異世界の言葉や文字を読めるようにしてくれたんだ」

 俺は思い付いて、ポーチから元の世界の大銀貨を取り出す。

 「これが俺の世界で使っている大銀貨だ。書いてある文字読めるか?」

 そう言ってウェルに渡す。ナン教授も眼鏡を取り出してそれを覗き込む。

 「あー。何となく文字か数字かって区別はできそうだが、確かにさっぱり読めねえな。教授はどうだ?」

 「いや、俺も世界の色々な文字を見たし、古代文字も読めるが、これは見たことないな」

 「そうかー。おいマビァ。お前がこっちにくる経緯なんか話せるんなら聞かせてくれ。それともそのプレイヤーつったか? その偉大な神様に勝手に放り込まれたのか?」

 「いや、ここがどんな世界なのかは知らなかったけど、ここに来たのは俺の意思だ」

 そう言って、俺はこの世界に来た経緯を手短に話す。

 俺の世界は『ゲート』の発現で魔物の出現が各地で頻発し、人類は魔物との攻防で生活の安全が脅かされる事があるものの、逞しく楽しく生きていること。つい先日俺の住む街の近くに最大規模の『ゲート』が発現し、あわや国が滅びかけたこと。なんとか戦いが終息に向かい、戦利品を漁っている時に隠れていた瀕死のゴブリンに刺されて相討ちで死んだこと。目覚めたら知らない空間にいて、なぜかプレイヤーに気に入られ、俺がこの世界で望む力を手に入れられたら元の世界で生き返らせてくれること。時間もないので掻い摘まんでざっと話す。そしてポーチからゴブリンロードの魂石と護符の束を出して見せる。

 「…それでお前が言ってた『危機探知スキル』が欲しいと。また同じ死に方をしない為なんだな」

 「ああ。それに仲間の危機も救えるかもしれない。そっちの方が大事かな」

 「よし分かった。オレは信じることにするぜ。まだざっくりとしか話は聞いてねえけど辻褄はあってると思うし、元々お前が外国人だろうが異世界人だろうが、何も不都合はねえしな。ただオレは今回の一件が済んじまったらもうお前に会えないことの方が辛えよ」

 もう別れを想像したのか、グスッと鼻を啜るウェル。俺も信じてくれた嬉しさと、別れを惜しんでくれている事に胸が熱くなる。

 「ありがとうウェル。やっぱあんたと出会えて良かった。ワニの件、絶対に成功させような」

 「おう! で、教授はずっと黙ってたけど。マビァの話、信じんの? 信じないの?」

 俺とウェルはナン教授を見る。ナン教授は魂石と護符を丹念に見ていたが、俺達に見詰められていると気付いて顔を上げる。

 「うん? おお、俺は始めから信じとるぞ。マビァくんと出会った時に、ノウトスとトトスを知らんかったからな。未開の地の他文化を知らない原住民ならともかく、文明人で同じ言葉を話す人間が、ノウトスとトトスを知らん訳がないからな。人が栄えた文明にはノウトスとトトス、あとギャロピスは欠かせん魔獣だ。あいつらは獣使いのスキルがなくても問題なく扱えるからな。それに馬や牛なんかより扱いやすいし賢い」

 なるほど。魔獣の研究者らしい見解だ。たっぷり眺めた魂石と護符を俺に返してくれながら言う。

 「マビァくんの世界の魔物にも興味が湧くが、ゲートとやらの向こうでしか生態が分からんのでは、俺は到底生きちゃおれんな。こっちの平和ボケした世界の方がお似合いってことだろう」

 そう言ってがっはっはっと大きく笑った。この人にも話して良かったな。この賢くて尊敬できる二人に出会えて本当に良かったと思えた瞬間だった。


 取り敢えず他の奴らには俺が異世界人であることは黙っておこうと、三人とも意見は一致した。これがバレて今度は「異世界人だから俺達よりも強いんだ!」などと言われたら、堪ったもんじゃないからだ。


 俺達が会議室に入ると、大尉とケラルは席に着いておりお茶とお茶菓子を戴いている。三十分程度ではあるが、死に物狂いで逃げてたからお腹も減るかもな。

 ギルマスも何かモリモリ食っている。ウェルが耳打ちで教えてくれるには、あれは魔力を少し回復する効果のある果物なんだそうだ。赤い無花果(いちじく)の様な実は結構甘そうだ。『魔力回復ポーション』的な物はないのだろうか? まぁ魔力切れで失神したり使い物にならないよりはいいので、しっかり食べてもらおう。

 コニスは帰ったようで、別の女性職員さんがお茶を煎れてくれ茶菓子も出してくれた。今度の職員さんはコニスと違い、ふとした仕草に女の色気が香る二十歳前後のお姉さんだ。三角メガネとアップにした黒髪ロングヘアーでキツイ印象が知性を感じさせる、かなりの美人さんである。おお! これなら迸れるぞ!

 つい目で追いたくなる腰の括れと脚線美から無理矢理目を離し、ギルマスを見ると漸く落ち着いたようで、話しかけてくる。

 「ではマビァさん。先程仰ってた、ワニの対処の方法とギルドの魔獣ランク付けの見直し、それに悪いところの洗い出しでしたかな? どのようにされるのかお聞かせ願いたいですが、その前にそちらが御高名なナンチャッツ教授でいらっしゃいますね」

 「高名ってことはないがな。俺のことはナンか教授でいい。俺はウェルに呼ばれて来ただけだから、何をするのか知らんが、魔獣のことなら何でも聞いてくれ。知っとることには答えよう」

 ナン教授もお茶を一口飲み、焼き菓子をサクサク食べる。なら早速頼らせて戴こう。

 「ナン教授、現在この街の外に大量にいるバーンクロコダイルの群ですが、アイツらはここに定住したのですか? それとも季節が変わればまた何処かへ行ってしまうものなんでしょうか?」

 「うむ。アイツらの生態は爬虫類系の魔獣にしては変わっていてな。腹に炎を常に宿している為、気温の暑さには弱いのに、熱には強くて炎で攻撃しても大して効かん。凍てつく様な寒さには弱い。春から夏にかけてが産卵期でな。この辺りの今の気候は奴らにとって丁度良いのだろう。

 夏になれば、卵を残したまま涼しい北へと上がっていく。親達はそのまま冬を待って冬眠に入る。大体十二月から四月までは生命活動を止めて過ごすんだ。

 卵は秋に入る頃に孵るが、子ワニはまだ炎を灯してなくてな、暖かい南へと泳いで下る。冬がなく夏も暑すぎない辺りで五年ほど過ごして、また秋に北へと遡上。北地で親達と合流して群に戻るってわけだ」

 なるほど、こう聞けばなかなか利にかなった生態をしている。あれ? でも何でこの川に群が増えたんだ?

 「このダムラス川の北にはナナイ湖という湖がある。そこから流れる川が他に二本あるから、そこからこちらへと入ってきたのかもしれんし、南方の支流から移って来たのかもしれん。

 魔獣の中には同じ川を往き来して、群が増えると群を分けて他の川に入るものがいる。バーンクロコダイルもその習性を持つみたいだな。多分十数年ほど前に、群から別れた新たな群が川を下りこの街付近で産卵した。その時は数がまだ少なかったのだろう。孵った子ワニは南下して育った後、五年後に北上して親達と合流、その五年間の間にも子ワニは生まれ続け、五年後以降は毎年産む数も増える。元々子ワニの時だけ天敵のいる魔獣だから、大人になれば襲う敵はまずいない。そうやって年々増え続けて今に至るのだろうな。しかし一定量増えればまた群を分ける。もう分けた後かこれから分けるのか、どちらにしても今ぐらいの数がピークだと俺は推察するな」

 おお、すげぇ! さすが魔獣の権威。

 「では、何件か被害届が出ていますが、死者は出ていません。怪我人もこちらから攻撃した兵士だけの様です。アイツらが攻撃に移る要因はなんでしょうか?」

 「そりゃ簡単だ。血だよ。血の臭いに敏感で、臭いを嗅ぐと凶暴性も増す。新聞で見たが最初の事件は魚を捌いてたから、周りは血の臭いだらけだ。他のは釣った魚の口が傷付いて血が出てたり、食われたコロットセイも怪我でもしてたんだろうな。川辺で血を流さなければ食われることもない。本来積極的に攻撃する魔獣ではないんだよ」

 俺が襲われたのも大量の血を洗い流していたからだな。あの川は下ればこの街の南に流れる川に合流しそうだった。たまたま近くにいたのを引寄せたみたいで良かったが、初見で群で来られていたら最低でも怪我は避けられなかったかもしれない。しかも結構少ない血でも遠くから反応するようだ。これは上手く使えるかもしれない。俺がウェルの顔を見ると、ウェルも目を合わせて頷く。話を持ち出すのも頃合いだろう。

 「実はウェルが今日ここにいるのは、バーンクロコダイルの肉をこの街の名物料理にしてこの街の観光に役立てようという目的があるってんで、俺が連れて来たんだ。大尉達は街の治安が第一目的だから、ワニの死体はいらないよな? ギルドは欲しいのは肉ではなくて、他の素材だろう?」

 俺の話は予想外のことだったようで、ギルマス、大尉、ケラルの三人は少し固まっていたが、質問には答えてくれる。

 「あ、ああ。討伐が目的なので、後の処理はギルドに任せるつもりだった。素材やジェムはギルドの収入源だし、ギルドの収入はこの街自体を潤すことになる」

 「はい、ギルドでも魔獣を食用の精肉として取り扱ったことがない為、そこまで徹底した衛生面での準備はされていません。ですから、丸ごと持ち込まれても、解体することはできますが、欲しいのは昨日マビァさんが売ってくれた部位だけで、骨と肉は廃棄か、加工して肥料にするかのどちらかでしたね」

 ここで、待ってましたとばかりにバンッと机を叩いてウェルが立ち上がる。

 「そこでオレの出番ってわけだ。オレには輸送手段もあるし、モウモの牧場と屠畜場も経営してる。兵士さんか冒険者が討伐したワニをオレ達が運んで解体して肉と骨以外の素材をギルドまで運んでやるよ。こちらが肉をもらうわけだから運搬と解体はタダでやらせてもらう。ただし討伐に手間取って肉も素材もボロボロとかなら手間賃は戴かなきゃいけねーかもしれねぇがな。悪い話じゃねぇだろ?」

 う~む、と考え出すギルマスと大尉。いきなり過ぎるから頭も回らないか。

 「確かにバーンクロコダイルの肉はとびきり美味いからな。ウェル、さすが鼻が効くな」

 やはりナン教授も食べたことがあるみたいだ。あの言い様だと他の魔獣も食べてそうだけど。少し気になったことがあるのでナン教授に聞いてみる。

 「先程ナン教授がしてくれた話ですと、ワニは増え続けている様なので、少々の狩りなら絶滅の心配はなさそうです。でも、ワニの狩猟は春から夏までですよね。他の時期には、秋に遡上してくる若い群を捕らえるくらいですが、そうなると季節限定の料理になってしまいます。年中の名物にしようとすると他の季節まで保存するとか、子ワニを確保して養殖するとか…流石にこれは無理かなあ」

 俺の世界では清流で育つ川魚を、人口池を造って本流の川と支流で繋げて綺麗な川の水を流し、その中で養殖している場所があると聞いたことがある。ワニの場合は夏は涼しく冬は冬眠出来る環境を造らないといけないので、設備の維持が大変そうだ。それに火球を吐けるようになったら設備ごと燃やされかねない。

 「養殖はさすがに難しかねえか? 長期保存なら魔法による冷凍法が可能かもしれんが、高位の魔法が必要だし、温度の維持に莫大な設備投資が必要だろうな。ちょっと割りに合わねぇよ」

 ウェルが肩を竦める。さすがに採算度外視でやるわけにはいかないよな。

 「長期保存か…。昔何かの論文でそんなこと読んだ気がするんだが………。何だったかな。思い出せん」

 ナン教授がこめかみに指をトントン当てながら考える。ついでに思い付いたことも聞いておこう。

「ナン教授。例えば他の動物でもそうですが、産卵後や出産後は母体の体力が落ちて肉の味が悪くなったりします。あのワニはそのような影響はあったりしないのでしょうか?」

 「オレも別に産卵前と後を食べ比べたことはないが、あの巨体の割りに卵は小さい。北からここまで下るのに体力を使い切る訳でもないからな。ここに来てからも豊富な餌場でモリモリ食うとるだろう。十分に脂が乗ってて美味いんじゃないか?」

 「なるほど、なら安心ですね。それと捕獲方法ですが、兵士と冒険者だけに頼ってたら上手く獲れない場合もありますし、ウェルが言ったように品質が心配です。なんかいい方法ないですかね?」

 「おう、それならあるぞ。おいそこの姉ちゃん。紙と書くものを貸してくれんか?」

 「はい。こちらをお使いください」

 突然のナン教授の要求なのに、お色気メガネさんは呼び掛けられる前から紙とペンを手持ちのケースから取り出し、持ってきてくれる。おお、出来る女だ。

 「ありがとな、姉ちゃん」とウィンクしてニヤッと笑って見せるあたりもナン教授の粋っぷりが伺える。

 「あのワニはな、夜目が効かねぇんだ。耳も元々良くないから、暗闇じゃ鼻に頼るしかねえ。そこでな………」

 といって、紙に絵を描き始める。なだらかな坂道を上ると平らな場所があり、平らな場所の下には坂道の反対側から人が二人は入れるような穴が空いている。そんな絵だ。

 「陽が暮れてから釣竿かなんかの糸の先に布束でも付けて、魚の血でもいいから含ませて、ヤツの鼻先三メートルくらいのところに投げてやる。ヤツが反応して近付いて来たら、この台の上まで誘い上げる。丁度喉が来る辺りに台に穴をふたつほど空けといてな、下から喉を槍で突いてやるんだ。多少は暴れるし火も吐くかもしれんが、三~四人いりゃあ出来なくはない。後は櫓でも作って縛って引っ張り上げりゃ血抜きも簡単に出来る。あと血布で誘う時は他のワニとくっついている時には使うな。血も水で薄めてからの方がいいだろうな。

 それと上手く釣れたとしても二百メートル以上離れたところで止めを刺すんだ。じゃないとワニから吹き出た血の臭いに誘われて、群が襲いかかって来るからな」

 「それって、一か八かって釣りになりそうですし、かなり危険なのでは?」

 俺は昨日のワニとの戦いが複数相手だったらと素早くイメトレしてみる。あの巨体に十頭近い群で同時に襲われたら捌き切れるだろうか? 一頭の止めを刺す間もないかもしれないと脳が導き出した結果に思わずゾッとした。ワニワニ大混乱だ。

 「なぁに、俺はこんな罠なんぞを使わずに何度もヤツを捕まえとる。しかも一人でな。まぁそれは俺にしか出来んことかもしれんが…。

 とにかく、仲間のワニに血の臭いを嗅がせないこと。これに注意して罠を造ればそう難しい獲物ではない」

 ふんふんとウェルと二人で頷きながら聞く。なるほど、これならいつ使い物になるか分からん兵士や冒険者に頼らなくても、素人でもなんとかなりそうだ。怖がらなければだが。

 「うんうん。いいね。東西のワニのいる沼地に三ヶ所ずつこんな配置でこの罠と櫓を造ろう。ノウトス車が走れる専用の道路も造んなきゃな。それにこの方法なら冒険者雇うよりウチの屠畜場の奴らの方が得意そうだ。こりゃ忙しくなりそうだぜ」

 ナン教授の描いてた紙に、簡単な街の位置関係の図と、罠の設置場所と専用道路の丸や線を引きながら、ウェルは嬉しそうに計画を練る。俺も思ったより簡単に事が運びそうで安心した。よしよし、と頷いて感心していると、「あの~」と大尉とギルマスから声が上がる。

 「その計画だと我々は必要ないのではないか?」

 「ギルドとしても、素材を買い取るだけになりそうですけど…」

 「なにいってんだ。まず軍はワニの状況を観察。春になって街の近辺に現れてから夏に北に帰って行くまでの動向を記録に残してもらわないと。

 夏の間の卵の見回りと、秋に孵ってから南に泳いで行くのと、同じ頃に遡上してくる若ワニの大体の数を記録。それからそれぞれの時期での市民への注意勧告も必要だな。被害をゼロにする為にな。

 あとは、度胸を付けるために、この罠でのワニ狩りにも参加させよう。冒険者も同様でよろしく。役割分担はそっちに任せるから、罠が設置でき次第動き出したいので、それまでに冒険者と兵士が全員参加できるように考えてほしい。あ、訓練も平行してな」

 俺がそう言うと、二人は頭を抱える。いきなり降ってわいた計画なので、頭がついていかないのは良く分かる。

 「そうだな。まだ口頭で計画の骨格が見えてきたばかりだ。誰か文章に上手いこと纏められる人がいればいいんだけど…」

 まあウェルの身内にでもいるかな? と、ウェルに話しかけようとしたところ、意外な人が手を上げた。

 「宜しければわたくしが致しましょうか?」

 お色気メガネさんが、メガネをクイッと上げながら言い出てくれる。おお、とにかくすごい自信だ。

 改めて名前を聞くとロージルさんというらしい。二十二歳独身! いいねぇ。

 「ではあちらの方でウェルザニアさんに確認を取りながら草案にまとめて参りますので、こちらは会議の続きを宜しくお願い致します」

 そう言って、出来る女ロージルさんはウェルと一緒に隅のテーブルへ移る。いい人材雇ってんじゃねえかギルマス! 俺がサムズアップでギルマスを褒めたが、ギルマスも大尉も不安げな顔でこちらを見ていた。

 

 次回は26日(日)正午に更新予定です。


 よろしければまたお付き合い下さい。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ