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シーヴァ絶対防衛戦2

 俺は立ち上がり服の泥を叩きながらトーツ達の方に目を向けると、丁度ふたりがオーガに止めを刺すところだった。トーツはオーガの棍棒を盾で横に払い、盾付き剣でのカウンターで心臓を一突き。ガジィーは右足を断ち切り倒れるオーガの首を下からはねる。俺もCランクなんだからオーガはタイマンで倒せるけど、ふたりのように鮮やかにはいかない。


 周りを見渡すと他のハンターパーティがいくつもまだ戦っているが、すぐ近くにはもう余っている魔物はいない。遠く、大きく口を開く『ゲート』からはまだ魔物が溢れて来ており、最前線の方では俺たちより格上のハンター達が、オーガ等よりずっと強い魔物を相手に戦っているのが小さく見えた。


 さて、次はどうする? と思いながら俺達はトーツの元へ駆け寄る。トーツも同じ事を考えていたようで皆に確認を取る。

 「みんな、ポーションは大丈夫だな。メイフルー魔力は?」

 「ほとんど使ってないからまだまだ行けますよ。それより皆さんの疲れを癒しておきましょう。特にマビァくん。ね?」

 ニッコリとこちらを向くメイフルー。だから怖いって。…とはいえ癒しはありがたい。俺ひとりで疲労感を感じているみたいだけど。


 メイフルーは俺達の中心に立ち、範囲神聖スキル『戦う者への癒し』を発動する。戦の女神センティススのシンボルが地面に光で浮き上がり、立ち上る光のヴェールは俺達の筋肉疲労や精神的な疲れを洗い流していくようだ。

 『戦う者への癒し』は肉体と精神を癒す神聖スキルで、負傷などの治癒スキルとは別に使われる。『戦う』なんてスキル名だが、戦闘以外でも頑張っている者には女神様は労って下さるのだ。ちなみにダラダラと過ごしたり酒に酔い潰れて「あ゛~、ダリぃ」なんて言ってるヤツには効果がないそうだ。


 神聖スキルは神官等の強い信仰心がないと使えない特別なスキルだ。女神から力を借りるので、魔力を少し女神へ捧げる必要がある。魔力は休息を取らないと回復しないので、先を読んで使っていく必要がある。

 「ふぅ~。きっもちいい~。女神様メイフルー様ありがとう!」

 ガジィーが嬉しそうに指を組んで感謝する。俺もしておこう。一番ありがたいのは俺なんだし。


 その時、後方のハンターギルドの陣から魔法による信号弾が撃ち上がった。

 「ようやく増援のお出ましだ。本番はこれからだから後退して飯を食っておこう」

 入れ替わりに鬨の声を上げながら駆けてくる大勢のハンター達に手を振るトーツを追い、俺達も陣へと帰ることにする。

 そう、まだ何も始まっていない。今までは魔物がこれ以上進まないように食い止めていただけだ。

 これから本格的に『ゲート』を閉じる戦いが始まる。

 一度振り返り荒れ狂う魔物の群を見ながら、俺は気合いを入れ直した。



 世界にはいくつか大陸があると聞く。今俺達がいるのが『オウタリア』って大陸らしい。俺は学も知識もないから詳しくはないけど、ここはその南西端にある国『カンカルドア王国』のさらに端っこの防衛砦の街『シーヴァ』 『ゲート』から溢れる魔物を防ぐ最前線であり絶対防衛拠点だ。

 『ゲート』が出現したのが何百年か前。それまでは大陸の国々は好き勝手に戦争をしていたらしい。それが『ゲート』が出るようになってそれどころではなくなり、各国の兵力では防ぎ切れなくなるのを危惧して協定を結び『ハンターギルド』を設立した。

 ハンターギルドは魔物の討伐を主とする組織で、ギルドメンバーのハンターが魔物を討伐するとその懸賞金を貰えるという簡単な仕組み。資金源は各国からの支援の他にも、ゲートの出現によって獲られるようになった魔物の素材や核にある魂石(こんせき)で新たな産業が発展し需要ができたので、それらの売却で賄っている。


 創設当時のギルドは広くメンバーを募集した。世界には浮浪者や無職、貧困層、跡取りになれない農家の三男坊などが溢れており、昔の彼らは戦争があると駆り出されているだけだったので、皆喜んで加入。国側もそれまで未納税者だった彼らを働かせ税収を増やせるし、使い捨ての戦力として魔物を間引き、犯罪も減って治安は良くなり、さらにはハンターの中には突出して優れた者が育つことがあるので、それらを優遇し国の防衛戦力を高めるという、良いことずくめな大変革であったらしい。

 まぁ俺も孤児院出身だし、独り立ちする時にはハンターになるって決めてたから、ハンターギルドがもしなかったらどうなっていたかね?


 俺が所属している『銀晶鳥の羽』は全員Cランクのパーティだ。

 ハンターランクはSが最高ランクで、下からE、D、C、B、Aと六段階ある。加入時がEでE+、E++と昇格し、次にDって具合で細かくわけて十六段階。Sランクは別格の化け物ばかりなので一括りにされているらしい。

 ってことで俺達は中堅ってところだな。この防衛戦に参加の許される最低ランクだったりもする。

 だからといって捨てたもんでもない。一番数の多いランクだけあって集めやすく、今回の防衛でも戦力が揃うまでの足止めにはなっている。

 もっとも今も最前線でワイバーンやヒドラ、サイクロプスにマンティコア等とやりあっているA・Bランクのハンター達がいなければ、まとめて潰されていたとは思うけど。


 俺は最前線の方を眺めながらギルドの陣の中にあるテントの下で、シチューを啜りながら黒パンを囓っていた。

 国とハンターギルドからの要請で、商業ギルドから派遣された町の食い物屋の店主達が炊き出しをしてくれている。彼らも街が陥落したら全てを失うから協力的だ。無料で好きなだけ食わせてくれるのはありがたいね。

 ガツガツとあれこれ食ってるとトーツに注意される。

 「あんまり食うと動けなくなるぞ。程々にしとけ」

 「そうそう、腹でも刺されたら助からないぜぇ?」

 「わたしの治癒でも無理かもですよ~?」

 ガジィーとメイフルーにも脅され渋々食べる手を止める。レイセリアも「浅ましい」とでも言いたげにチラッとこちらを見て静かに茶を啜っていた。

 しょうがないじゃないか。こちとら貧しい孤児院で育ってんだから、食えるときに食っとかないと罰があたる気がするんだよ。

 名残惜しいが腹八分で止めておき、俺も茶に手を伸ばしながら周りを見渡す。まだまだハンター達は増え続けているようだ。


 街の南西角の門の外側に、西側が国の騎士や正規兵達の陣。南側が俺達ハンターギルドの陣に別れている。これは仲が悪いとかではなく、集団戦闘の訓練を受けている国の軍隊と、パーティ単位で自由に動くハンターとでは余りにも動きが違いすぎて、ごちゃ混ぜになると機能しなくなるからだ。軍隊の方にも騎士隊長クラスや師団長クラスともなればAランクハンター以上の強さを持つ者もいるらしいので戦力で劣るわけではない。


 「見ろ。弩弓砲(バリスタ)が動き出したぞ。俺達もあれの防衛に参加する」

 今回防衛に初参加の俺にトーツが弩弓砲を指して教えてくれる。全長十メートルを超える大きな弩が二頭立ての馬に引かれテントから出てきた。

車輪付きの台と一体化しているそれには数人の工兵が取り付き各部のチェックをしているみたいだ。後方からもう一台馬車が続くが、あれには矢が積んであるのか?


 「『ゲート』の左右にある水晶体を破壊しなきゃ『ゲート』が閉じなくてな。だがあれはやたら硬い上に剣では届かない空中に浮いている。そこでコイツの矢に爆裂魔法を仕込んでガンガン撃ち込むってわけだ」

 馬車に向かいながらトーツが説明する。なんでも『ゲート』が出現してから長年掛けて開発した兵器であるらしい。

 「じゃあ、あれが開発される前はどうやって閉じてたんだ?」

 俺が当然に思う疑問を口にすると、

 「当時の騎士団や傭兵にもSランク相当の戦力が何人もいてね、あれを使うよりは速く破壊できていたそうよ」

 となりのレイセリアが答えてくれた。なるほど、Sランク相当の戦力がなくても閉じられるようにあれが開発されたわけか。今この戦場にはSランクハンターはまだいないし、軍隊の方にもいないそうだ。こんな時のためにあるわけだ。

 「あれって撃ってから次に撃つまでの準備が時間かかんだよ。さらに水晶体の方にも再生能力があるみたいでなぁ。だから本腰入れようってわけだ」

 ガジィーが前を向いたまま親指で後ろを指す。見てみるともう一台弩弓砲(バリスタ)がテントから出てきていた。

 「万が一破壊された時の予備ってこともあるのでしょうけど、左右に二機ずつで短期決戦ってことでしょうね」

 メイフルーが西側の方に顔を向ける。ここからは見えないがあちらにも弩弓砲が二台あるのだろう。

 「もう昼を大分過ぎているだろうからな。陽が落ちれば魔物が活性化して『ゲート』から出る量も増える。そうなる前に方を付けたいんだろう」

 しばらく接敵もないので、暇潰しがてらトーツが『ゲート』について教えてくれる。


 『ゲート』とは後からついた俗称だそうだ。発現当時は各国のお偉いさん達が『魔界からの門』だの、口に見える形状から『悪魔の冷笑』だの、それだと出てくる魔物が吐瀉物みたいで嫌だの、だったら『魔王の子宮口』はどうだなどと下ネタを言ってたりしたらしいが、いちいち長い名前を言うのが嫌になり、ただの『門』に落ち着いたらしいが、これにも下の者からクレームが出た。


 『門』だと、どの門の事を指すのか分かりにくい。人が暮らす街や大きな建物などには沢山の門があるからだ。あと音的にも耳に残り難い。『門』が開く地域には同時に他の『門』が開くことはないのだから、これだけを『ゲート』と呼ぶことにすれば他と混同することはない、と決まり呼んでいるらしい。


 形状が横にして開いたファスナーのようであり、上下の異界との境目が綺麗な凹凸の列びで、まるで口を開け歯が覗いていて笑っているかのように見える。その左右のエクボのところに黒い大きな水晶体が地上から五メートルほどのところに浮いていて、闇のオーラを揺らめかせながら仄かに光っている。


 『ゲート』は決まったエリアには一度にひとつしか現れないらしい。横幅は小さいものだと十メートルほどの時もあり、これは頻繁に開いては数体から数十体の魔物を排出し、勝手に閉じて消えるのだが、国中あちこちに、時には街の中にも現れハンターも兵士も油断できない。


 しかし小さいゲートほど弱い魔物が現れ、大きくなるにつれて強い魔物の出現率が上がるという法則があるようで、弱い魔物ならEランクのハンターや見習い兵士でも対処できるので、俺も駆け出しの頃はこれを狙って経験を積んだ。

 今回のような大きなものは決まってここでしか開かず、出現頻度も数年から数十年。大きさも数百メートルから二千メートルほどとどちらもまちまちで、今回のはかなり大きい方なのだそうだ。


 進むにつれ、最初は遠くに見えていた左側の水晶体にもかなり近づき、襲ってくる魔物も増えてきた。『ゲート』の出口まですぐそこなので様々な強さの魔物がやってくるが、走りながらでも、グリフォン、ロックリザード、オーガキングぐらいまでなら俺達Cランクでもなんとか戦える。護衛のハンターは俺達Cランクが一番多いが、敵も弱い方が多いのでバランス的には丁度良い。

 範囲攻撃を得意とする大型の魔物は、弩弓砲のかなり手前で上級ハンター達に対処してもらう。サイクロプスの巨大棍棒による水平振りや、ヒドラの火炎ブレス、バジリスクの石化ガス。どれも一撃で俺ら全滅できるね。


 弩弓砲は水晶体を挟んで『ゲート』の真横三十メートルくらいに着けると、工兵達が一斉に動きだし長い杭で本体を固定する。ひとりが照準を定め、ふたりで弦をハンドルで巻き上げ、残りのふたりで馬車から丸太のような矢を運び設置する。そして準備完了の信号弾を打ち上げた。

 すぐに反対の水晶体側からの信号弾も上がり、両陣からも作戦開始の合図が上がる。

 第一射が発射され、爆音と共に水晶体が激しい爆発と炎に包まれ、俺達にも衝撃波が襲い来る。

 「…すげぇ…」

 俺は始めてみる兵器の威力に唖然とした。

 「ほら、集中!」

 すぐにレイセリアに突っ込まれ周囲に気を配る。水晶体への攻撃を感知した魔物達が、弩弓砲の破壊に動き出した。飛行型の魔物は身を呈して射線に入り攻撃の邪魔をするので、それを落とすのがレイセリア達弓使いであったり魔術師であったりする。


 Cランクの魔術師でも、さすが火力特化の攻撃職。火炎、光線、氷の矢、岩の槍、雷撃、風の斬撃。あらゆる魔法がガーゴイルやデスクロウなどの飛行タイプを、弓使いの矢と競うように落としていく。ウチのパーティには魔術師はいないけど、やっぱほしいなぁ。


 弩弓砲の次弾装填には急いでも二分は掛かりそうだ。コボルトをまとめて数匹切り捨て、俺は水晶体を見た。水晶体を覆う煙が徐々に晴れ姿を現すと、拳大くらいの小さな傷が見えた。そこにもう一機の弩弓砲の矢が着弾する。

 「あれっぽっちかよ!?」

 あまりの傷の浅さに俺が叫ぶが、爆音にかき消される。それでも聞こえていたのかメイフルーが声をかけてきた。

 「あんなもんなんですよ。これを交互にテンポ良く撃ち続けるしか今は方法がないの」

 二メートル以上あるあの水晶体を、一分置きにあまり自己修復させないように少しずつ傷を増やしていくしかないらしい。

 ならばAランクの魔術師や弓使いが参加すれば破壊が速まるのではと思うが、現状の戦力だと防衛に穴が開く上に、魔力や矢の兵装が先に尽き、こちらの全滅もありうるのだとか。今そんなにギリギリなの?!

 「愚痴ってねぇで、活躍しろよ? オレは期待してやってんだからさぁ!」

 少し離れたところから舞うように魔物達を切り刻んでいるガジィーから檄が飛ぶ。

 俺はハッと強く息を吐き、「だったら、がんばらねぇとな!」と強がりながら、周囲との連携に目を配り、近くのオーガに斬りかかっていった。


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