表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/119

初日 古代文明の遺産

 「まずは遺産の事ですね。約二百十年前の遺跡調査でこれくらいの四角い物が幾つか、この街のすぐ近くの遺跡で発見されました」 

 そう言ってギルマスは両手を四角く動かす。両手で胸に抱えると丁度持ちやすい大きさかな?

 「その石でもガラスでもない素材でできた、表面が虹色に揺らぐ立方体は全部で五つありました。調査隊員の一人が普通に触ってみたのですが、なんの変化もなく、別の隊員が試しに魔力を込めて触ると、頭の中に古代文字が浮かんだそうです。驚いて手を離すと文字な消えました」

 なんと、俺達がスキルを手に入れる時みたいな感じでいいのかな?

 「急いでその立方体を研究所に運び込み、文字の解読が行われました。当時はまだ今よりも古代文字の解読が進んでいませんでしたから、かなり苦労したそうですね」

 そうだろうな。元の世界でも別の大陸の国の文字を見たことがあるが、さっぱり読めなかった。その文字を使う者が生きていて、言葉が解らなくてもなんとかやり取りをしていけば、まだ解読はしやすいだろうが、既に滅んだ文化の文字だと困難だろうことは学のない俺でも想像はつく。あ、今の俺はプレイヤーに異世界の会話と文字を読むスキルを付けてもらったから、古代文字もスラスラ読めるかもしれないな。

 「そして、数年かけて解読した結果、立方体に魔力を込めると脳裏に現れるすべての文字が判明しました。『槍単発スキル、ストライク』『釣り』『イーグルアイ』『解読』そして『魔獣使役スキル、獣使い』の五つでした。そしてこの立方体は『スキルキューブ』、または略して『キューブ』と呼ぶ事になりました」

 なんだってーっ?! はっきりと『スキル』って言葉出てきちゃったよ。俺は軽く腰を上げそうになるが、ギルマスは「まあまあ」と宥めて俺を座らせる。なんか思わせ振りな視線をこちらに向け、続きを話始めた。

 「まず、研究員達が試してみたのは『解読』でした。一人が魔力を込めると脳裏に古代語で『ノーマルスキル『解読』を修得しますか?』と出て『はい・いいえ』の二択があります。迷わずその研究員は『はい』を選んでみると、古代語を現代語との変換表もなくスラスラと読めたそうです。それを見た他の研究員も、我も我もとスキルを身に付けて行ったのですが…」

 ここで間を取ったギルマス、あぁ、なんかあったんだ。

 「十人を過ぎた辺りでキューブ表面の虹色の揺らぎが消えました。そうです。力を使いきったんですね。慌てて魔力を供給しようとしたりしたらしいのですが、一度能力を失ってしまうともう元には戻らなかったそうです」

 やっぱりな。そんな便利な装置が無限に使えるわけないわな。

 「一番大事にしたかったスキルを失った研究員達はさすがに慎重になり、他の四つのキューブには手をつけずに、『解読』のキューブの構造解析に取り組みました。残念ながら謎の素材や機構が様々ある為、一から作り出すことは不可能でしたし、二百年たった今でも進展のないままですね」

 俺は、なんとなくリズさんならさらっと解析できるかもな~、と思ってしまった。数分しか会ってない人だけど、あの人が全身あちこちに着けてた宝飾品の数々は、素人の俺が見ても驚く程の、強い未知のオーラの護符ばかりだったので、あんな物が作れるなら古代の技術でも簡単に解析してしまう気がするのだ。

 「しかしこの解析で、キューブへの魔力の補給が可能なことが分かりました。ジェムからの魔力ならキューブが消耗した分を補充することができる様です。人が直接自分の魔力を注ごうとしても受付ないですのですが、ジェムをキューブの上に置くと勝手に吸い取るんです。『解読』のキューブのように魔力を使いきった物はやはり何をやってもダメでしたけどね」

 それから、他の四つのジェムの実験が続けられたそうだ。まず『釣り』は修得して始めの内は素人同然の釣果しかなかったが、続けると魚ごとの特性や河の釣りポイント等の見極めが速くなり、釣果も上がったらしい。また、漁師の志願者にこのスキルを試したところ、最初から能力がアップして、漁獲量が二倍三倍となったらしい。これが全漁師に広まれば、一時的に需要を超える漁獲量になって、価格が大暴落した上に、あっという間に魚が全滅する。そうなれば漁師全員が路頭に迷うので、この釣りスキルは封印された。

 次に試したのが『イーグルアイ』。多分俺の世界の弓使いがよく使う『鷹の目』と同等のスキルだと思う。『釣り』で学んだのを生かし、素人の研究員とプロの狩人や見張りの得意な兵士で試したところ、やはりプロの方が早く効率的に活用できたので、運用は全てのキューブの研究が終るまで保留にされた。

 次に『槍単発スキル、ストライク』。ここからはプロにだけ修得させることにする。兵士に三人修得させたが結果はバラバラで、一人は使いこなし、一人はたまに発動し、最後の一人は使えなかったらしい。

 俺達の世界のハンターなら、スキルの手引き書や有料で師範が教えてくれたりで、まずスキルの型を覚えてそれを反復練習する。あと技の動きのイメージ力が大事で、発動前から終わりまでのイメージを明確に脳内に描けていないと発動すらしない。そういう基本が分かっていないから、兵士達にバラつきが出たんだろうな。

 最後の『獣使い』は酪農家に試したそうだ。やはり普段からモウモに触れている酪農家はすぐに使役することが出来たらしいのだが、ここでひとつ問題が起きた。その酪農家とモウモの間に強すぎる友情と愛情が芽生えた。もう他のモウモも屠殺するなんて出来ないと被験者は酪農家を廃業。家族の反対を押しきり、愛するモウモを連れて森で一人陰遁生活をしたらしい。モウモが死んだ後も他の魔獣を色々と飼い続け、歳を取り亡くなったそうだ。

 研究員達は、その酪農家が家を出た時点で考えを切り替え、まずは魔獣の特性を知るべく魔獣研究家と共同で、誰がどの魔獣を使えば役に立つのかを調べたそうだ。ノウトスとトトスは荷を牽くのに昔から使われていたので、まずは彼等から試すと、使用者とノウトスやトトスとの心の親和性が高くなり、思い通りに操れるようになったらしい。そこから色々な魔獣で試していって、活用可能な職種と相性のいい魔獣を選び抜いた。


 それぞれのスキルの実用段階まで進み、一般への普及となったのだが、キューブが一人にスキルを修得させるのに必要なジェムが結構必要になる。金貨にすれば五枚分くらいになるので、修得可能な『イーグルアイ』と『槍単発スキル、ストライク』には人気がなく、魔獣の使役により作業効率が格段に上がり、金貨五枚分くらい取り戻せる『獣使い』だけが普及して今に至るらしい。

 『イーグルアイ』だけは国の特殊な任務に就く者が使用しているそうだが、平和ボケするぐらい長年平和過ぎるこの国では、近隣諸国の情報収集でしか役立てていないそうだ。


 その後、他の国でも続々とキューブが発見されたらしい。しかしキューブによるスキルの修得は、スキルの種類によっては国の在り方を左右しかねない程の力があるので、基本国家機密として研究される。だから各国で公開されているキューブは当たり障りのない能力の物ばかりで、この街の『釣り』のように封印されているキューブが世界中にどれだけあるのか皆目見当もつかないらしい。

 もしその中に俺の求める『危機探知スキル』が世界のどこかに封印されているとしたら、探すのが困難になるな。


 長い説明を終え、ギルマスは「喉が乾きましたね」と言って席を立ち、扉の近くにある腰くらいの高さの戸棚を開くと、飲み物の入っているらしいガラスの容器を取り出す。その戸棚の上にあるこれまたガラスのコップ二つに飲み物を注ぎ、向かいに座りながら俺に一つ勧めてくれた。

 手に取ると冷たいので驚く。口に含むと爽やかで仄かな甘味と少しの苦味が口の中を冷やし、喉も心地よく鼻に抜ける香りもいい。

 「美味しいですね。これが冷たいのはあの戸棚に魔法が?」

 「はい、ジェムに氷の魔法を溜め込んで少しずつ流れるように魔方陣を書いてその上に置いておくんです。密閉すると冷気も長持ちするんですよ。あ、これは遺産の技術じゃないですから」

 そういってお互い笑うと、ギルマスは少し神妙な顔をしてこちらを見つめると言葉を切り出した。

 「マビァさん。確認させて欲しいのですが、キマイリャを仕留めたあの技、もしかして…」

 やはりそう来たか、まあ異世界がどうとかは言っても信じてもらえないだろうから、適当に誤魔化そう。

 「はいスキルです。」

 「おお! やはりそうでしたか。技が出る時に赤く光っていたのが、槍のストライクの研究記録の記述と似てましたので、もしやと思いましたが…」

 確かに『槍単発スキル、ストライク』は名前からして初級の突きスキルっぽい。それなら俺の『ライトニングシュート』も突進の突き技なので似てても仕方がない。

 「そのスキルはどうやって修得されたのですか?」

 やっぱりそこだよね。うーむ、ここの人達がどうして遺産以外でスキルを手に入れられないのかも気になるんだよね。

 「俺はひたすらこの片手剣の技を鍛え、修練に修練を重ねて様々なスキルを身に付けています。古代の遺産なんて今ここで初めて聞きましたから、全然関係無いですよ。キューブらしき物も見たことがないです」

 「そうですか…いや、新たなキューブの発見に繋がるかと思ったのですが、まさか個人でスキルを身に付けられるなんて思いも依りませんでした」

 「そこが俺にとっては不思議で仕方がないんです。聞いた感じですと、冒険者のランクに関わらず誰ひとりとしてスキルの一つも修得していないんですよね?」

 「はい、ここの支部でも近隣の町の支部でも、聞いたことがありません」

 「これは俺が査定に出した戦利品の結果が来てから聞こうと思っていたんですが、このギルドの冒険者って、俺が感じた通りの弱さで本当にやって行けてるんですか? 例えばさっきのコカトリスなんてやって見せた通りに剣も盾も要りません。ひとりで十分ですし三時間もかからないんです。そんな討伐を精鋭が出来ないと聞くと、組織として機能出来ているのか疑問に思われても仕方ないのでは?」

 「それは…。討伐に関してはマビァさんの戦いを見た後で恥ずかしいのですが、キラーウルフ以下の小物を狩って細々とやっているのが現状ですね。当ギルドは薬草などの採取で成り立っていると言っても過言ではなく、討伐依頼の貼り紙は増えるばかりですし、Cランクに昇格出来る冒険者もいません」

 いやいやいや。さっきのあれを戦いと言われるとこっちが恥ずかしくなるわ。最後のスキルだって全く使う必要なかったんだからな。まぁ、これまでの流れから大体予想していたが。さて、どうやって話を運ぶかな、と思っていると廊下をパタパタと走って来る音がして、勢いよく扉を開いたのはコニスだった。

現在、キャラのイメージイラストを作成中!

……上手く描けてたら各話に挿入していこうと思ってます。


次回は5月31日(日)正午に更新予定です。

また読んで戴ければ作者も喜びます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ