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初日 ギルマスとの会話

 扉を開けて冒険者ギルドのロビーに戻った俺は、待合室にあるソファーにぐったりともたれかかり、大きな溜め息を吐いた。どうするよ、思った以上に使えんかも知れんぞここは。いや、求めていたのはギルドの物理的な強さではなく、まずは登録証があれば街に再び入る際の通行税も無くなるし、今あるバーンクロコダイルの戦利品の換金が第一の目的だ。次に『危機探知スキル』の手掛かりを見つけるのが第二の目的であり、そっちが本命だ。しかし、あんな犬ッコロや鶏にピーピー言って逃げ回る程度の奴らしかいないのなら、簡単な攻撃スキルの一つも碌に修得出来ていないだろう。と色々考えていると受付のコニスがこちらへパタパタと走って来た。

 「マビァさ~ん。お待たせ致しました。先程は取り乱してしまい申し訳ありませんでした。冒険者を証明するタグの発行を致しますので、奥の部屋までお越しください」

 大分立ち直って営業スタイルが戻ってきている。

 「で、おれのランクは…」と質問しようとすると、コニスは口に一本指を当て「シッ!」と俺を黙らせる。異世界でも同じ仕草なんだなと、どうでもいいことに感心する。

 「その事でしたらギルドマスターよりお話がありますので、まずはこちらへ」

 俺を急かす様に奥の部屋に連れていくコニス。もう一人のカウンターの受付嬢は首を傾げ不思議そうにこちらを見ていた。食堂の冒険者達も少し気になるのか、チラチラとこちらを伺う気配があった。


 奥へ進むとギルドマスターの部屋に案内される。

 コニスが扉をノックすると「どうぞ」と返事が来たのでコニスが扉を開けてくれて入室を促されるので、大人しく入る。

 「ようこそマビァさん。我らがカレイセム支部においで下さりありがとうございます。先程は失礼致しました。ギルドマスターのコリバトと申します。どうぞこちらへお掛け下さい」

 現れたのはなんて事はない、先程の試験官のおっさんだった。間抜けな悪の首領感がすっかり抜け落ち、随分と腰が低くなっている。俺もあまりの試験内容の酷さに切れて暴言吐いた後なので、少しだけ襟を正す。

 「あんたさっきの試験官さんだよな。まさかギルマスとは思わなかったよ」

 と、勧められたソファーに座りながら余裕の態度を崩さずにギルマスを見つめる。

 「あ…いえ、その、申し訳ないです…久々の適正検査だったので、つい調子に乗ってしまって…」

 向かいに座ったギルマスは、俺のエラそうな態度に萎縮したのか、それとも先程の試験場での自分の言動を反省してるのか、とてもギルドの長とは思えないほど『蛇に睨まれた蛙』感を醸し出していた。

 うん、俺も思った以上にデカイ態度に出てしまった。まぁさっき素の態度をぶっちゃけちゃったし、ギルマスは俺の事を強者だと勘違いしているみたいなので、あまり強くは出れないらしい。よっしマウントを取った! と、心の中でグッと拳を握る。

 …いやまぁ若造のクセに脅して偉そうにしてると、余計な波風を立てかねない。俺は少し態度を軟化させ、言葉から威圧感を消し、申し訳程度に敬語を付け加える。

 「それで、ギルドには入会させて貰えるみたいだけど、ランクはどうなったんです?」

 「それでしたら、あのキマイリャを倒せたのはマビァさんだけですので、最高ランクのAになりますが…」

 それを聞き俺は大きな溜め息を吐いた。それだけでギルマスはビクッと肩を揺らすが、考えをまとめたいので放置する。

 前にも言ったが、俺はハンターとしてはCランクで最弱だという自負がはっきりとある。ただあのキマイリャを倒せた事でAランクってのが腑に落ちない。ヤツがそれなりに強いのなら俺の『ライトニングシュート』ごときで一撃死することはなかった筈なのである。バーンクロコダイルとキマイリャの両方と戦った俺から言わせてもらうと、バーンクロコダイルの方がずっと強い。それなのに、この街で増えて少し困っているバーンクロコダイルが伝説の魔獣扱いされてないのはどういう事なのか、考えてみてひとつの仮説を立てた。まだ情報は少ないが多分間違いないと思う。それは取り敢えず置いといて…。

 「ギルマス。その評価は間違っていると思うのでまずは保留にしてもらってもいいですか? それより先に確認したい事があります」

 「は?……あ、その、なんでしょうか?」

 カチカチのギルマスに俺は自分の荷物をテーブルに置いて見せる。

 「冒険者ギルドってのがどんな組織か全然知らないので、色々教えてもらいたいんだけどそれは後にして、実はこちらに到着するまでの旅路で、魔獣を一体倒して来たんですよ。何が戦利品としてギルドが回収してくれるのか、またそんなシステムがあるのかすら知らないもんでして。俺が今冒険者だったとしてこちらの荷物の査定と買い取りをお願いしたいのですが、可能でしょうか?」

 テーブルにはバーンクロコダイルの背の皮一枚と、腹の皮三枚。かなり乾いてくるくる巻き始めている。他に大きい歯二本と前足の爪五本、燃える粘液の入った内臓袋にジェムで全部だ。ゴブリンロードのは混乱させるといけないからしまっておく。

 「や、もちろん討伐された魔物の素材はジェムを始め他の物も、需要があるものは状態を見て値段を付けて購入させて戴きます。コニス君! 準備を」

 コニスは「は、はいっ!」と言って走って出ていくとがらがらと台車を押してきて、俺の荷物を積んでがらがらと出て行った。緊張したギルマスと二人で無言ってのは間がもたないので、聞けることを先に聞いておく。

 「それで、冒険者ギルドとは何をする組織なんですか?」

 「はい、主に近隣に被害を及ぼす魔獣の討伐と、薬草などの採取。各地に眠ると云われる古代文明の遺構や遺跡の探索になります」

 「古代文明?」

 おっと、新しいワードが出てきた。

 「はい。この世界には今の文明の前に、全く違う文化を持っていて、今との繋がりも見えてこない古代文明が存在していました。長年の調査で分かっていることはまだそんなになく、世界中で同じ文明が栄えていたということと、発見された物の中には我々にも有効活用できる凄い技術があるということくらいでしょうか。

 あ、もちろん本格的な探索や調査は専門の調査員が行いますので、我々冒険者の役割は未発見の遺跡を偶然見つけた場合の報告と、調査員に随伴しての護衛ですね。

 遺跡を発見した場合、その冒険者は勝手に遺跡に踏みいってはいけない規則になっています。大抵の遺跡には罠が仕掛けられていますので、調査員が罠を解除しないと命取りなんです。

 つまり、『遺跡に勝手に入ると規則違反で罰則食らう前に罠で死んじゃうから、入らずに報告に戻って来てね』ってことですね」

 通常業務モードに入ったからか、ギルマスの緊張が解れ舌の滑りが良くなる。元来魔獣討伐とかより遺跡やら発掘品やらの方が好きなんだろうな。

 「遺跡ってなかな怖い場所のようですね。それで、例えばどんな技術が有るんですか?」

 「そうですね、こちらに来るまでに街灯を見られたと思いますが。道の端に等間隔に立っている、背の高い灯りのことです」

 「ああ! 確かに見ました。毎日凄い本数の灯りを着けて廻るなんて大変な作業だなと思ってたんです。あとあの灯りには炎の揺らぎがなかったけど、ランプみたいに火じゃないんですか?」

 「そうなんですよ。あれは技術的な話になると難し過ぎるんですけどね。簡単にいうとジェムの魔力を増幅して、魔力が流れる線を利用して街中に魔力を流しているんです。そして柱の尖端に魔力で発光する装置を取り付けて、自動的に夕方に光り、朝には消えるという素晴らしい技術なんですよ!」

 ギルマスが目をキラキラさせて興奮してきた。普段誰にも相手にされず、話を聞いてもらえない人特有のオーラみたいなものを彼からは感じる。いかん、ヤバいスイッチ押しちゃったか? まあいいや、もうちょっとつついてみよう。

 「じゃあこの部屋の灯りや看板を照らしていた灯りも?」

 俺らの世界では普通なら屋内はオイルランプや蝋燭。ギルド前の入口には夜は篝火を焚いていたな。

 「そう! ここや各ご家庭の夜の灯りといえば、街灯と同じ仕組みのこの魔光灯(まこうとう)なんです。

 遺跡から発掘されたのは、幾つかの小さなガラス板に書かれた設計図でした。それを分析して今のジェムからの魔力増幅と各地への送魔線と魔光灯を再現してこの街に設置してあります。まだ今のところは明かりだけですが、まだ色々と研究されていますからこれからも期待できる技術なんですよ」

 確かに便利だな。俺達の世界でも魂石を使った技術が『ゲート』の発現以来進められているが、殆どが兵器開発の為だ。生活する上では他に使えるものがあるんだから、そこまでして便利にならなくてもと思ってしまう。それに俺達の世界で共有する最終目的は、『世界からゲートを全て排除し、二度と現れないようにすること』だ。だから魂石に頼りきりの便利な生活を手に入れて、それにどっぷり嵌まってしまうと、ゲートを排除した後、元の生活に戻れなくて困ることになる。だから俺のいた貧民街なんかでは昔ながらの生活が引き継がれていて、技術の進歩も魂石に頼らないから緩やかなもんだ。

 でも、この灯りのシステムも研究所などや、便利で新しい物が好きな王族、貴族などでは宮殿や屋敷に取り入れていても不思議はないかな。実際にシーヴァの夜の貴族街は貧民街では有り得ないくらい明るい光が灯っている。どれだけの魂石を一晩で使っているのやら。

 てことで、気になるのはその便利の代償だ。

 「凄い技術だとは思うがタダじゃないんですよね? ひとつのジェムからどれだけ魔力を出せるのか知らないけど、やはり大量に毎日必要になるんじゃないですか?」

 そういうとギルマスは少し苦笑をし、肩を落とす。

 「察しがいいですね。その通り、ジェムは魔獣にしかないので、街の灯りの為に魔獣の乱獲をするわけにはいきません。今のところ、キラーウルフのジェムなら一日十個ほど。ノウトスのジェムなら一日にひとつで十分ですが、ノウトス自体が有益で、食用にも向きませんから、もしノウトスからジェムを回収しようとすると、殆どジェムを採る為だけに殺すことになるので、そんなこと出来るわけありません。他の獣使いが使役している魔獣も同様で、事故や寿命、病気などで死んだ場合だけジェムを購入するようにしていますが、それでもまだ足りていません」

 ハンターが魔物を狩り魂石を手に入れるのは『ゲート』が出ている内は無限に手に入るもんな。それと違ってこちらは魔獣全体が人類の敵な訳でも無さそうだし、悪い魔獣でも乱獲をすれば絶滅する。魔光灯の利用は消費するだけ、というのがよくないのかもしれないな。

 「牧場は、モウモは見ましたか?」

 「ええ。あれはモウモって言うんですね。初めて見ました」

 「おや? モウモは世界中で家畜として飼われている魔獣ですが…? ご存知ない?」

 ありゃ? 世界の常識的な魔獣だったんだ。しまったかな? しかしギルマスはそう気にすることなく話を続ける。

 「あれは食用と搾乳用に育てられている魔獣でモウモと言います。魔光灯の再現以前から肉食として育てられていた魔獣で、今は街で手に入るモウモのジェム+買い取るジェム+討伐で手に入るジェムの合計が街で消費されるジェムの数とギリギリ釣り合っているので、何とかなっている、という感じですね」

 それでは現状、もう発展のしようがないじゃないか。その通りだったようで、ギルマスは「今のままでは現状維持だけで精一杯なんですよね」と残念そうに言う。

 「まあ、古代文明って滅んだから今の人達が居るんですよね。そのジェムを使った技術が進歩したその先が滅びなんなら、あまり再現しない方が身の為ってことなんじゃないですか?」

 ギルマスはぽかんとこちらを見詰めた後、こう言った。

 「そんな考え方したことありませんでしたよ。あ…いや、考えたくなかったのかもしれません。そうですよね、滅亡した文明の物なんですね。実際に前例もありますし、それを踏まえてこれからは考えてみることを議会で提案してみようと思います」

 目から鱗って感じだな。こんなに早く資源供給の危機になるような技術はもっとよくみんなで考えるべきだ。『前例』ってのが気になるが、そこを突っ込むと話が逸れそうなので、別に感じた疑問を聞いてみる。

 「そのジェム技術が再現される前は、ジェムは何に使われていたんです? モウモから取れるのも使わなきゃ貯まる一方ですよね?」

 「あぁ、それなら普通に魔法の補助として使っていましたよ。この国に限らず生活に使う魔法は誰でも使えますから。水を出したり火を着けたりと。あれ? マビァさんのところでは魔法で使ったことないんですか?」

 突然予想外の話を振られて内心焦るが適当に誤魔化す。

 「ああ、俺の所はど田舎の隠れ里みたいなところで、いたのが魔獣だったのかもしれないけど、どれも狂暴で使役出来るとも思わなかったくらいなんです。食えもしないので解体してジェムを取り出したこともないし、だから生活で魔法を使う習慣はあっても、ジェムを使うことは無かったもんで…」

 まさかこの世界の人間が全員魔法を使えるとは思わなかった。ヤベェ俺いっこも使えねえ。しかし、なるほどねぇ。そっちでも使ってるから益々消費が激しくなった訳だ。そこで何かを思い出したギルマスがポンと手を打つ。

 「そうだ、獣使いの能力も実は古代の遺産のお陰なんですよ」

 と言った。なんと個人の能力が遺産に関係してると?

 「なんだって? 魔物の使役は歴史ある古いものじゃないんですか? 魔光灯みたいに割りと最近の発見?」

 「いえいえ、獣使いは二百年以上ある文化です。魔光灯を発見した遺跡とは時代も場所も違うんですよ」

 そういって獣使いと古代の遺産の事をギルマスは教えてくれた。

説明回が続きます。

嗚呼、PV数が減る予感しかしない…。


次回は5月24日(日)正午更新の予定です。

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