六日目 冒険者ギルドでコニス達に報告する
冒険者ギルドのロビーに入ると、職員達が集まってきて整列し中将を出迎えた。
そうだ。ここからはもう公の場になるから侯爵や大佐に対しての態度や言葉使いに気を付けないと。
「コニス君、すまないが職員の制服を貸してはくれまいか? この形での面会は良くないだろう。変に勘繰られたくないしな」
あちこち切り裂けた革ジャケットに血が滲んだシャツをつまみながら苦笑するカイエン侯爵。
「畏まりました。カンタルさん、制服の準備を。更衣室への案内をお願いします」
「わ、分かりました!」
的確なコニスの指示に動き出す職員達。チラチラと私服のロージルさんを見て顔を赤くしていた男性職員が侯爵と大佐を案内しようとした時に、侯爵の持つリムスの端末から声が聞こえた。
【カイエン、その端末をマビァに渡して下さい。少し話があります】
「うむ? あぁ分かった」
リムスの声を発した小さな道具に俺達以外のその場の者全員が驚き固まった。この地の領主を呼び捨てする謎の女の声。しかもしゃべったのが侯爵の手の中にある小さな物体だ。驚かないわけがない。
そんな中で平然と俺に端末を渡す侯爵。受け取りにくいなぁもう。
「えーと、なんだよリムス。明日じゃダメなのか?」
リムスに聞き返すと周囲が一斉にざわめく。今度はロージルさんもイルマさんもコニスも驚いた顔でこちらを見ていた。なんだよ? 俺変なこと言ったか?
周囲を見回していると、侯爵がやれやれと苦笑をした。
「マビァ、お前がリムスに話しかけると古代文明の言語になることを忘れているだろう?」
「あ」
そうだった。自分になんの変化もないもんだからすっかり忘れていた。
【説明ありがとうカイエン】
「うむ、ではな」
侯爵は軽く手を上げて、大佐とともに奥へと入って行った。
【マビァ、どなたかにその端末を預け、我への返事はその方を我だと想定して話しかけて下さい。そうすれば周囲の方々の言語で話せる筈です】
「なるほどな……。じゃあコニス頼むわ 手ぇ出せ」
「え? わ、わたしですか?!」
慌てて両手のひらを上にして出すコニスにポイッと放り投げる。「わっ、わっ!」と両手で弾ませながら端末を受けた。掴めば落とさないのに。
【ではコニス、少しのあいだよろしくお願いします。それにロージルとイルマ、貴女方も認識しました。我のことはリムスと呼んで下さい】
「「「えっ?!」」」
いきなり小さな物体に名指しで呼ばれたお三方。その見事なシンクロリアクションに思わず吹き出しそうになるのを堪えて平静を保つ。
「は、はい。……あの~、リムスさん? わたし達状況が全く見えていないんですけど……」
冷や汗ダラダラでカチカチに固まりながら、助けを求めるように俺やロージルさん、イルマさんに視線を泳がせるコニス。 まぁ、なんの事情も知らずにいきなりしゃべる謎の小道具を渡されたらこうなるか。
ロージルさんもイルマさんもコニスの手に載った物体を凝視しているだけだ。仕方ないなぁ。最低限の説明は必要か。
「俺もよく解ってねーんだけど、遺跡であったことをかいつまんで話すよ。リムスが補足してくれるだろうし」
【簡潔に説明いたしましょう。カイエンが戻る前に済ませたいですから】
「で、でしたら……あちらの席でお伺いしましょうか」
ロージルさんが周囲を見渡して、ロビー窓際の四人掛けテーブルの席を指す。食堂側には冒険者が何組か居て、今は仲間がワニ料理をもらいに行っているらしく、残っている者が酒だけ呑んでいる。俺達の帰還と謎のしゃべる端末のせいでまだ静かだが、料理が届けばにぎやかになるだろう。そんな中でどこまで広まっていいのか分からない遺跡やリムスの話を聞かせるわけにはいかない。できるだけ知らないヤツには聞かれない方が良さそうだ。
座る配置は俺の前にコニス。となりにイルマさん。斜向かいにロージルさんが座った。これは俺がリムスに話しかける際に、コニスを仮想リムスと見立てて話さないといけないからだ。
昨日のように隣がコニスだと、コニスとリムスへの返答を無意識に区別して返してしまいそうだし、そうなるとリムスに答えた言語が古代文明語になり他の三人には理解できなくなるので、お願いして変えてもらった。なにこの面倒臭ぇ状況。
その反作用として隣のイルマさんが不機嫌になってしまったのは辛い。正直怖いので話し合いは早めに済ませたい。
「朝六時に遺跡に突入して、二~三時間かけて奥まで進んで出会ったのがこのリムスです」
時間があれば誰がどう戦ったとか、シャルの付与魔法がすごかったとか、どんな魔獣が出たとか話してもいいんだけど、反省と後悔の多い戦いだったのでばっさりカット。そんな俺の説明にリムスが溜め息を漏らす。
【端折り過ぎですマビァ。……我は多次元並列式人工頭脳『区域統合管理システム』 型式名称リムスDー28と申します。不本意ながらマビァに『リムス』と呼び名を簡略化されました。我は人間でもその他の生命体でもありません。機械または道具の一種と認識して下さい。我の本体は地下二十メートルの位置に存在し、コニスの手にあるのは我の声を届けるための端末に過ぎません。そんなに怖がらなくても噛みついたりしませんよ】
「は、はぁ」
「ん? なんかこっちが見えてるみたいな言い方だな」
【マビァ、また言語が変換されてますよ】
あ、も~、結構難しいなこれ。ついリムスに直接話しかけてしまう。改めてコニスに向けて言い直す。
【今もそちらを見ていますよ。先ほど一号から分離した観察用個体をマビァに取り付けましたから】
「はぁ?」
なに言ってんだ? と、自分の身体を触ろうと両手を上げたその時、鎧の隙間から赤い小さな物がテーブルの上に飛び乗った。それは一センチくらいのまるっこいクモだった。
新たに現れた謎のクモを周りから四人が覗き込むように見つめていると、それは「よっ!」とでも言わんばかりにシュタッと腕を上げてみせた。
「わ~! かわいい!」
コニスが指を出して近づけると、クモが腕で指先をテシテシと叩いた。その可愛い仕草に興奮を押し込めるように、目を輝かせて身震いをするコニス。ロージルさんもイルマさんも身をのり出して見つめる。
女の人ってクモが嫌いな人の方が多いんじゃなかったっけ? 少なくともウチのメイフルーやレイセリアは毛嫌いしてたと思うんだけど。メイフルーなら戦杖でテーブルを粉砕するまである。
まぁこのクモは本物っぽさがあまりしないし、コロコロ丸くて可愛いく感じるからいいか?
「じゃあ、みんなはこの小さいクモがリムス本人だと思って話しかけてよ。俺はコニスをリムスと見立てて話さないと言語が勝手に変わるからさっきまで通りだけどさ」
変な物が増えたせいで、ますますやり取りが難しくなった。さっきまで煙を噴いていた脳ミソで上手く処理できるだろうか?
「話を戻すと、リムスはずっと昔にここにあった街を管理していたんだけど──」
当時、街の治安を守るためにリムスが『鐘』を鳴らしていたこと、突如世界から全ての人々が同時に消えたこと、リムスとその仲間達が何百年探しても誰一人見つけられず、色々朽ちて探す手段を失い長い間眠ってたこと、やがて今この街に住むご先祖がやってきて石柱を中心に街を築き始めたこと、それに気付き目覚めたリムスは、地表は見られないが取り敢えず治安を守ろうと『鐘』を再び鳴らし始めたことを一分もかけずに話す。
【なんともぼんやりとした説明ですね】
「大まかな流れが伝わりゃ取り敢えずはいいだろ。リムスがどういう存在で何をしているのかが解ればいいんだから。解るだろコニス?」
「つまりわたし達が『ヌーメリウスの鐘』と呼んでいるあの石柱を制御しているのがリムスさんで、それは古代文明人の治安維持のためだったってことですよね?」
コニスの言葉にロージルさんもイルマさんも頷く。問題なさそうなので話を続ける。
「『鐘』の本当の名前は『調和のオベリスク』といって、その機能は『人々が抱く怒りなどの負の感情を、ポジティブな方向へと導く』ものだったらしい。かっと頭に血が上った時に、すぐに暴力を振るったり喧嘩腰になったりせずに、ひとまず落ち着かせより良い解決法を考えさせようとする……って感じか?」
【おおむねその理解であっています】
「『恐怖』の状態異常ではなかったのですか?」
「当時の人達と今の人達って、存在自体が根本から全く違うんだってさ。そのせいで今の人達には『調和』の機能がうまく働かなくて『恐怖』の状態異常って形での不具合が出ているらしいんですよ」
【現在、半径三・五キロ内に存在する人数は五万三千七百二十一人。その全てに簡易スキャンを行いましたが、やはり我の知る人種との繋がりは見つけられませんでした】
淡々と現状を説明するリムス。その声に感情は感じられなかった。
「それで、侯爵がリムスに『恐怖』の不具合をなくして、『調和』の機能が今の人達にも効くようにお願いして、改良版がさっき鳴った筈なんだけど」
【我が貴方に聞こうとしていたのはそれですよマビァ】
「え?」
みんなに『調和』の音色を聴いて何か感じなかったか、特にロージルさんに聞きたかったんだけど、リムスに入られる。
【貴方、先ほどコニスに暴力行為を働きましたね。『調和』が機能していれば、あのような突発的な暴力は行えない筈なのです。少なくともあんなに力を込めて頭を締め上げ続けるなんて行為は行えません】
「へ? そうなの? じゃあ暴力ってほど酷いことしてなかっただけなんじゃないか?」
「そんなわけないでしょ! 今だってジンジン疼いて痛いんですから! 昨日だっておフロ入ったあと髪乾かしてたら頭皮に指の痕がクッキリと赤く付いてるの見つけて思わずギャーッて叫んじゃってご近所さん集まってきちゃって大家さんに叱られちゃったんですからね!」
思い出し怒りにテーブルをバンッと叩いて身をのり出し、一気に捲し立てるコニス。
温風が出て髪を乾かす『どらいやー』とやらの魔道具があるらしい。それで鏡を見ながら髪を乾かしていたら、靡く髪に透ける頭皮に俺が掴んだ指痕が赤く付いていたそうだ。
そういやその時の怒りに任せて、二~三回コイツの頭を掴んだっけ? 軽く宙吊りできるくらいの力で掴んだから、そりゃあ内出血しててもおかしくないか。ってことはさっき掴んだことでまた痕が増えているかもしれない。それが痣にでもなったら一生消えないかもしれないので、ちょっぴり罪悪感を感じた。
「お、おぅ。そりゃ大変だったな。……こんな感じの怒りには『調和』は作用しないのか?」
怒ってこちらを睨むコニスを指差してリムスに聞いてみる。
【精神衛生上、ある程度の発散は必要ですので、これくらいは問題ないかと。現在も街の各所で負の感情が検知されていますが、『調和』は機能しているようです。ですが人種の基礎データにかなりの誤差が見受けられますので、サンプルデータを回収中。分析後、『調和』を改修し再起動いたします】
「……ドライクル人とヨーグニル以南の人達とは人種が違う筈ですから、現在のカレイセムには数種類の人種が混在していると思われます。そのせいでしょうか?」
【なるほど、そうなのですね。参考にさせていただきます。ありがとうロージル】
ああそうか、侯爵から聞いたこの国の昔話で、この国の民族は海を渡ってやって来たって言ってたし、川向こうの民族とは別の人種ってことになるかもな。長い歴史の中で血はかなり混じっているのかもしれないから、色々複雑になっている気がする。
遺跡に入った九人からだけじゃ得られなかった情報が五万三千人も調べりゃたくさん見つかっていそうだ。
それにガラムさんなんか明らかに異国人に見えるし、クロブは巨人族にしか見えない。彼らと基礎データとやらが俺らと一緒だと言われたら、それはそれで驚くかも。
フーッフーッと鼻息の荒いコニスに「ごめんごめん」と謝り宥めて座らせていると、黙って聞いていたイルマさんが口を開いた。
「じゃあマビァくんだけが『調和』の影響を受けないってことか? この男なら何が起こっても不思議じゃないんだけど」
ポケットからタバコ入れを取り出し、一本火を着けずに咥えながら、俺を親指で差し言うイルマさん。相変わらず俺への当たりがキツい。
でも言われてみれば、俺自身になんの変化も感じられない。今結構疲れてるから、そのせいで感覚が鈍ってて感じないのかもしれないけれど。
【我としても、彼は不可解な点が多いのです。マビァは明日、我の元へ来た際にもう一度調べます。それとロージル、貴方も来てください】
「え? わたくしも?」
クモがロージルさんの方へ向き、腕で指し示す。
「そうそう、ロージルさんの『無自覚痴女化』とエリ公の『ド変態紳士』は『鐘』のせいだったんだよ。治るんだよなリムス」
「それ! わたしもシャルちゃんから聞きました! ホントなんですよね詳しく聞かせて下さい!」
事前にシャルから聞いていたコニスはすぐに反応したが、ロージルさんとイルマさんはポカンとしたままだ。そんな二人にも解りやすいようにリムスが説明してくれた。説明を聞き終わると二人の肩から力が抜ける。
「はぁ、あれほど迷惑の塊だったマビァくんが、初めて役に立つ情報を持ってきたとはね。まさか君に感謝の念が芽生えるとは思いもしなかったよ」
「俺ってそんなに迷惑なことばっかしてましたっけ?! いや、自覚して反省もしてる部分もいくつかあるんですけど、基本的に巻き込まれているだけな気がするんですよね」
「そうだな。いや、すまない。今日は朝からウチの旦那やリーデルに相談して、この子のあれこれの原因が解ってきたんだけど、アレになるのだけはまったく解らなかったから、どうしたもんかと悩んでたところなんだ。ありがとう、希望が見えてきたよ」
深い溜め息を吐いたあと、涙目になって微笑み礼を言うイルマさん。いつも刺々しくて喧嘩腰なイルマさんに素直に感謝されるとこっちが戸惑う。
「では、わたくしのこの症状は、元々わたくしが持っていたものではなく、外的要因による異常だったのですね? 無くせるものなのですね?」
【貴女個人を詳しく調べてみなければ断定できませんが、初期シミュレーションでイレギュラーを解消可能な確率は高い数値にありました。長年にわたり蓄積したエラーのため、即問題解消というわけにはいかないかもしれませんが……】
ロージルさんは安心したのかぐったりとソファーに沈み込んで、こちらも涙目で頬をほんのり朱に染めて「あぁ、良かった……」と吐息を漏らした。
痴女化してないのに妙に艶っぽくエロく見えるので慌てて目を逸らす。チラリと目に留まった男性職員の何人かが、そんなロージルさんを見て鼻の下を伸ばして赤面し呆けていた。イルマさんもそれに気がついたようで、やれやれと肩を竦めてみせる。
あの天然男タラシっぷりは別の方法で治すしかなさそうなんだけど、その辺の解決策をイルマさんは見つけられたんだろうか?
【現在、ロージルと同じようにイレギュラーを発症しているのはあと一人。先ほどシャルンティンと合流していた男性です。彼がシャルンティンの兄ですね。彼も一緒に明日我の元へ来てください。詳しく検査して早期解消を目指します】
「エリンテルさんも行くんですか。まぁそーですよねぇ。わたしも遺跡の中見てみたかったんですけど、ご一緒しない方がよさそうですよね……」
観光好きなコニスはロージルさんに同行するつもりだったようだ。
「父親で大神官のゴルディーさんだっけか? その人を侯爵が連れてくって言ってたから、あの聖書を持ってきてもらっといて、エリ公との出会い頭にアレになったらぶん殴ってもらえれば、あとは通常のエリ公になるんだ。行けなくはないんじゃないか?」
「ダメですよ。マビァさんも見てたでしょ? 聖書のジェムが光るまでわたしが堪えなきゃいけないんですから。人通りの多い中でもしアレになっちゃったらまた大騒ぎになりますよ」
「いや、どっちみちギルドから責任者が居なくなるのは避けたい。今日のように突発的に何かが起きた場合に対処できなくなるからな。悪いがコニスにはまた留守番を頼みたい」
「ですよねぇ。分かりました。また今度でいいです」
俺の提案を否定するコニスと、待ったをかけるイルマさん。イルマさんは同行するんだろうから、コニスはギルドから離れられないか。
「今度って言ってもなぁ。俺らがリムスを徹底的に追い詰めたせいで、リムスの上の人種に対する警戒レベルが跳ね上がったから、観光気分じゃ入れてもらえないんじゃないか?」
【我にとって現在の地表文明は未知の世界です。十分な情報の構築と、他のリムスとのリンケージが整わない限り、気を許すわけにはいきません。ですが、人々との接触は情報収集には不可欠です。コニス一人が我の元へ訪れるのは問題ないでしょう。その条件として貴女の基礎データのスキャンと危険なスキルの接収はさせていただきます】
「……マビァさんが何やらかしたか気になりますし、その基礎でーたのすきゃんってゆーのがどういうことするのか気になるんですけど、まさか裸にされて隅々まで調べられるってことじゃないですよね?」
恥じらいながら己の薄い肩を抱き身震いをするコニス。俺らは知らないうちにリムスにすきゃんとやらをされていて、身体の内側にあるらしい情報を読まれたから気にしなかったけど、普通身体を調べるって言われたら、裸にひん剥かれることを想像するよな。
コニスの貧相な裸なんて、あんまし興味湧かないけど。と、不埒なことを考えてたらコニスに睨まれた。素知らぬ顔をしてリムスの端末の返事を待つ。
【衣服の脱衣は不要です。肉体ではなく、内包される情報のみ分析させていただきます】
「む~、それはそれでちょっと怖いですねぇ……」
コニスが悩んでいると、カランコロンと出入り口の扉が開き、ウェルがクロブを連れて戻ってきた。
両開きの扉をいっぱいに開き、中腰になってやっと入れたクロブにロビーや食堂にいる全員が驚きざわめく。
クロブは、先に来て待機していたウェルの部下の女性と同じワゴンを押してきたのだが、サイズがクロブが押すのに合っていないので、やたらと小さく見えた。
俺達四人もウェルに合流しようと立ち上がると、リムスの小グモが俺の鎧にピョンと飛び移り、カサカサと登って肩装甲の上で止まる。どうやらついて来るらしい。
「よぉ、待たせたな。侯爵様はどちらだい?」
「今奥で着替えてるよ。結構血塗れだったからな。クロブを連れてきたんだ」
「やぁマビァ。主に護衛として呼ばれたのです」
「状況的にかな~り失礼なお貴族様みたいだろ? 紅月だとキレたら相手を殺しかねねぇし、余所もんに存在を曝したくねぇからな。その点コイツなら居るだけで抑止力になるだろ?」
クロブの太股をパンパン叩くウェル。クロブが照れたのか微笑むが、その顔がちょっと怖い。
「コニスちゃん、料理を貴賓室用と職員さん達用に分けたいんだ。手伝ってくれるかい?」
「は、はい。じゃあこれマビァさんに返しますね」
俺に端末を返すと、コニス、ウェル、クロブの三人は待機していた女性の元へと進んでいった。
【なんとも大きな人間がいるものですね。ああいう人種なのですか?】
「さぁ? 俺には分かんねぇけど。ロージルさん達ってクロブのこと知ってる?」
リムスの疑問に答えようにも、こちらの世界の人種について何も知らないのでロージルさん達に話を振る。
「い、いいえ。クロブさんのような大きなお方は王都でも見かけませんでしたし、世界に大きな人種がいるという話は聞いたことがありません」
「お伽噺や作り話には色んな人種や妖精が出てくるけどね。巨人族とかピクシーにエルフ、ドワーフとかかな。実物が存在してるなんて確証はない筈だよ。迷信の類いだね」
……それ全部、元の世界に居るんだよな。
レイセリアのヤツ、作り話の住人になっちゃってるよ。
こっちの人達から見たら元の世界は物語の中みたいに感じるのかもしれない。
【簡易スキャンでは基礎データは貴方がたと大きく変わりませんね。興味深い存在です】
肩の上の小グモが両腕を組んで頷いた。リムスの感情も表現できるのかコイツ。
さて、ぼちぼち俺らも動いた方がいいのかなと、カウンターの方へ向かい始めたところで、侯爵と大佐が奥から事務員の制服に着替えて戻ってきた。
髪も綺麗に整え変装のためか伸ばしていた無精髭も剃りこざっぱりとしていて、とても先程まで地下で戦っていた様には見えない。二人とも腰には護身用に愛剣を佩いている。
「待たせたな。無礼な若造と対面するとしようか」
「カイエン侯爵、この端末いかがいたしましょう? それとリムスのヤツ、こっちを見るためにこんなのを俺に取り付けてたんですけど」
肩の上の小グモに指差して示すと、侯爵も大佐も目をパチクリと瞬かせて小グモに顔を近づけてしげしげと見つめる。そんな二人に小グモは腕を振ってみせた。
【お二人とも綺麗な身形に整いましたね】
「おお、こんなに小さい物で本当にこちらが見えているのだな。ふむ、どちらともまだマビァが預かっていてくれまいか?」
「ではもうしばらくお預りします」
ここは公の場なので、俺なりに礼儀正しく返答し一歩下がってお辞儀すると、侯爵も大佐も貴族らしい態度で頷いた。
「では貴賓室へお願いいたします」
コニスが通路の入り口から呼びかけてきたので、みんなでそちらへと向かう。さて、どんな野郎がイチャモンつけてきやがったのか。




