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六日目 SIDEロージル 憂鬱な夜明けと予想外の一日の始まり

 日付はそのままに時刻は朝まで戻りまして、ロージルさんの一人称でお話を進めます。

 マビァ達が地下遺跡で奮戦してたその頃、ロージルさんとイルマさんはどうしていたのか?

 楽しんでいただけたなら幸いです。

 あぁ……。夜が明けてしまいましたわ。


 昨日のガラムさんのために作ったお弁当に、イルマの薦めでお手紙を忍ばせたのですが、小さなお手紙でしたから、見付けてもらえたのか読んでいただけたのか、読んでいただけたのならどのように思われたのか、気になって気になって一睡もできなかったのです。


 ……まぁ四回ほどアレになってその度に気を失っていたのですけれど……。

 いえ、気絶と睡眠とでは覚醒時の疲労回復度が全く違うのです。睡眠は起きていた間に得た情報の処理を脳が行い、一日活動した脳疲労を癒す働きがあるのですが、気絶は脳の血流が一時的に低下して起こるもの。睡眠と比べて覚醒も早いので脳疲労が癒される時間はほぼ皆無なのです。

 ですからわたくしは短い気絶の後、再び悶々と手紙のことを考え続け、一~二時間後にアレになっては気絶、を繰り返してしまいました。


 アレの度に全身ぐっしょりと汗をかいてしまうものですから、三回も着替えをしてシーツを取り替えていました。今着てる物とシーツで四枚目……。今日は朝からお洗濯が大変です。


 ぐったりとベッドに横たわり、汗で貼り付く下着とベビードールを少し不快に感じながら、濡れた前髪を耳にかけ、カーテンの向こうから照らす朝日をぼんやりと眺めます。チュンチュンと小鳥達が元気に囀ずっているので、今日は良い天気になるのでしょう。


 マビァさん達はもう遺跡に潜っている頃でしょうか? それに今日は嘗てないほどに大勢の人がこのカレイセムに押し寄せる予定なのです。恐らく歴史に残る一日になるでしょう。

 そんな日にギルドを休んでしまって良かったのでしょうか?

 イルマ曰く、


 『あんたのアレになる頻度が確実に増えてるし、今日の出血量はハンパなかったんだ。あたしには殺人現場にしか見えなかったんだからね。だから明日はちゃんと休むこと! とは言ってもアレの対処法を早く考えないといけないからさ。さっきマビァくんに気になる話を聞いたんだ。それについてウチの旦那に相談しようと思ってね。ほら、あの人って人当たりがいいしそういうの得意だからさ』


 だそうです。


 前半の体調については確かに今日は少し不安ですし、一晩に四回もアレになっているのですから、仕事中に人前でアレになってしまうかもしれません。

 お弁当とお手紙という形で一歩前に踏み出してしまった今は、ちょっとそのことを思うだけでアレになる波が押し寄せてきて、抗い切れなくなったらあっという間に気を失ってしまうのです。

 ガラムさんのことを考えないようにするのですけれど、考えないって意識すれば当然ガラムさんのお顔が脳裏に浮かぶわけでして、ご丁寧にもわたくしのスキル『情報管理』がわたくしの記憶にあるガラムさんのとても好ましい表情ベスト百くらいを、次から次へと連続再生してくれるものですから、とても抗い切れないのです。


 だから、今日お休みを取るのは仕方がないことだと思うのですが、後半のマビァさんに聞いた話とはいったい何のことなのでしょう?

 それをイルマの夫、サミュエルさんに相談? 

 サミュエルさんは美容室を経営しておられて、カレイセム中の女性に大人気のカリスマ美容師なのです。

 確かにいつもニコニコして人当たりも良く、美しい容姿と中性的な雰囲気ですし、美容の腕もさることながらお話もとてもお上手で、恋愛相談を兼ねて通うお客様も多いそうです。

 そんなお方に何故わたくしについての相談が必要なのでしょう?


 イルマはたまにあのように説明を省くクセがあるので、何の相談なのか教えてもらえませんでした。


 『明日になったら分かるから』


 と、面倒そうにわたくしをあしらうのです。やっぱりイルマはちょっと意地悪だと思います。


 休日は美容室の書き入れ時ですので、サミュエルさんは朝から大忙しな筈ですから、朝の開店前か閉店する八時以降でないと、お仕事の邪魔になってしまいます。

 となれば閉店後でしょうか? 「しっかり休め」と言っていたのですからそうなのでしょう。


 だらだらとベッドで過ごしていたら七時半を過ぎてしまいました。

 サイドテーブルからメガネを取り、寝不足と貧血で重い身体をなんとか起こし、シャワールームへと向かいます。朝の冷たい空気と汗で濡れて冷えきった身体を、熱めのシャワーで温めれば少しは楽になるかもしれません。


 濡れたシーツ四枚と着替えた下着とベビードールを洗濯用魔道具に畳んで入れ、着ているものも脱いで入れ、魔道具を起動。『入水』の印に魔力を注ぎ、ザバザバと注がれる水に洗濯石鹸をナイフで削り入れてから魔道具の蓋を閉めます。

 水が溜まるのを歯を磨きながら待ち、溜まったら水を止めて『洗濯』の印に魔力を注ぎ、左右の回転で洗濯を始めました。その間に熱いシャワーを浴びてくることにします。


 シャワールームから出てバスローブを羽織り、頭にタオルを巻いて洗濯を止めます。

 洗濯槽の栓を抜き水を抜く間にキッチンに移動。パンを切りサラダの野菜を用意している内に洗濯槽から水が抜けたので『脱水』でしっかり水分を飛ばし、栓を閉め、また『入水』して『洗濯』に触れ濯ぎをします。少し経って最後に『脱水』すれば洗濯は終わりです。

 キッチンに戻り、ベーコンと玉子を焼きながらパンをトースターで焼き、サラダをお皿に盛り、小鍋にお湯を沸かして固形スープを溶いてマグカップに注いで朝食の準備が終ります。

 玄関の外にあるポストに新聞を取りに行ったその時に、来客のベルが鳴りました。

 誰かしらと扉を開けてみると、そこに立っていたのはイルマでした。イルマはベルを鳴らしてすぐに扉が開いたことに驚いたあと、わたくしのことを上から下まで眺めてから深くため息を吐きました。


 「まったく、なんて格好で外に出てるの……」

 「新聞を取りに出るだけですもの。誰にも見られたりしないでしょう?」


 大きく開いていた胸の合わせ目を閉じながらちょっと拗ねて見せます。イルマは扉の外の脇にあるポストから新聞を抜き取り、それを丸めてわたくしの頭をパシンと叩きました。


 「いいわけないだろ。向かいの建物からも通りからも丸見えなんだから、女なら気を付けないと。このあいだ男の怖さを知ったばかりじゃないか」

 「ううぅ……」


 わたくしを部屋へと押し戻し、靴を脱いでキッチンへと向かいます。


 「なんだ、今から朝ごはんだったのか。ちょっと急ぎなよ。旦那の時間を開店前しか押さえられなかったんだからさ」


 朝食を用意しているダイニングテーブルに新聞を放り投げ、イルマがとんでもないことを言い出しました。


 「ええ!? 昨日しっかり休めって言ってたじゃない。急にそんなこと言われても困るわよ」

 「悪いと思ってるよ。ウチの旦那、今晩は先約があったみたいなんだ。朝しか空いてないんだってさ。ほら、あたしも手伝ってあげるから、急いでごはん食べな」

 「もう! じゃあ洗濯物を干してちょうだい」


 新聞を読みながらゆったりと朝食を楽しむのが日課なのですが、今日はそうも言ってられないようです。熱いスープをふうふうと冷ましながらトーストに齧りつきました。




 「……あんたこんなエロいもん着て寝てるの?」

 「姉さんがあなたに似合うからってくれたの。ベビードールっていうのですってね。大人の女性はみんな着てるんでしょう? ワンピースのパジャマやキャミソールとそんなに変わらないからいやらしさなんてないと思うんだけど」


 イルマが広げて見せるベビードールを見て首を傾げます。パジャマやキャミソールよりフリフリスケスケしていて、丈も股下五センチほどと短いですが、そんなに大きな違いはないと思うのです。

 姉さんが時々くれるので、もう十着はあるのですが、どれも可愛らしくてとてもお気に入りなのです。


 「またリーデルの策略か……。こんな寝間着着て寝てる女の方が少ないよ。こんなの着てる女なんて自意識高くて自分のスタイルの美しさに絶対の自信があるナルシストか、男の欲情を煽って激しいエッチがしたいドエロな腐れビッチくらいさ」

 「ええっ!? そ、そんなまさか」


 いつも着ているベビードールにそんな酷い評価を受けるとは思わなかったので、洗っていたお皿を落としそうになりました。でもこれまでも姉さんがわたくしに色々してきたことを、イルマは次々と間違いだと指摘してくれました。くされびっちの意味は解りませんが、今度もイルマの方が正しいのでしょう。


 「そう言うリーデルだって普通のパジャマだろ?」 

 「……はっ! そういえば」

 「あんたに似合うってのは嘘じゃないんだろうけどさ、いつもみたいに遊ばれてるんだよ」


 まったく気が付きませんでした。姉さんは昔からわたくしのことを甘やかし過ぎなくらい可愛がってくれるのですが、ほんのちょっと変わった可愛がり方をされているようです。いつもイルマに指摘されるまで気が付かないのですけど。


 「ガラムさんの前でこんなもん着てたら、自分でどんなにエロくないって言ってもまったく説得力ないからね」

 「はうっ!」


 ガラムさんの前でこんな格好をするなんて! 誰にも見せることのない寝間着だったからこれまで気にしていなかったのですけれど、ガラムさんに見られているところを想像してしまい、一気にアレの波が襲ってきて巻き込まれます。


 「あぁ!? しまった! こらロージル、気絶するな!」


 洗濯かごを放り出して駆け寄ってきたイルマに叩き起こされました。


 「イルマ痛い……」

 「あぁ、今のはあたしが悪かった。……いや、あたし()だ。あんたも色々気付かなきゃいけない。今はもういいから着替えて、髪も乾かさなくちゃ」

 「はぁい……」


 わたくしは着替えのために寝室へと向かいます。寝室からベランダに出るとそこが物干し場になっているので、イルマも一緒に来てベランダへの窓を開けました。冷たい爽やかな風がそよそよと部屋へ入ってきます。それがバスローブを脱いだ素肌に心地好く、さらりと肌が乾くので下着がとても着やすくなりました。ほら、ストッキングもスルスルと履けます。


 「シーツにショーツに寝間着が四枚ずつ。珍しくため込んだんだね?」

 「いいえ、昨日一晩の分よ」

 「は?」

 「昨日晩眠れなくて……。ガラムさんにお手紙を書いたでしょう? あのことが気になって気になって、もう抑え切れなくて四回もアレになって、四回ともグショグショに濡れちゃったから、その度に着替えたの」

 「な……ななななな!?」

 「どうしたのイルマ? 顔赤いわよ?」


 シーツを握りしめたイルマの顔がみるみる赤くなっていきます。わたくし何か変なこと言ったかしら?


 「あんたねぇ! いくら女同士で相手があたしだからって、そんなに明け透けに言う話じゃないでしょ! 恥ずかしくないの!?」


 叱られました。どうやら怒っているようですが、何が恥ずかしいのでしょう?


 「アレになるのはそりゃ恥ずかしいけど、それはもう端から見てるイルマの方が詳しいくらいじゃない。あ。あんなに大汗をかいたのも初めてだったから、三回も着替えたってのはちょっと恥ずかしいかしら?」

 「…………あ、汗?」


 イルマがポカンと口を開けてこちらを見てきます。何か思い違いをしていたのかしら?


 「汗以外にグショグショに濡れることなんてないでしょう? あ、わたくしオネショなんてしてないわよ!? 変な勘違いしないでよイルマったら!」

 「……あ、あー、汗ね。そうだね」


 いやですわもう! イルマにオネショをしたなんて思われていたなんて!

 やっぱりアレは変な誤解を招いてしまいます。なんとか早く克服しないと。


 パチリとガーターベルトでストッキングを止めれば下着は着終わりました。次は服を着る前に髪を乾かさなくてはいけません。

 メガネを外してサイドテーブルに置き、頭に巻いたタオルを外してベランダに向かいます。

 洗濯物を干しているイルマがわたくしに気が付き振り向きました。


 「ん? どした?」

 「そこを通して、髪を乾かしたいの」


 イルマの脇を抜けて、まだシーツを干していないスペースへと進もうとしたところ、「わーっ!?」と叫んだイルマに肩を掴まれ止められました。


 「もう、なによ」

 「またあんたは! そんな格好で外へ出ちゃダメだって言ったばかりじゃないか!」

 「十秒ほどですもの。誰も見てないわよ」

 「それはあんたがメガネ掛けてないから分かってないだけだろ。絶対誰かに見られてるって! ほら! あそことかあの窓とか、気配するし!」


 持ってたシーツで身体を巻かれ、わたくしを背に隠したあと辺りを睨み指差します。指された辺りでカタッと音が聞こえた気がしましたが、十数メートルも離れた場所なので、メガネの無いわたくしには建物の形がボンヤリと見えるだけです。


 「服を着てからか部屋の中でやりな。レースのカーテンもちゃんと閉めるんだよ」

 「えぇ~、部屋の中でやると湿気でモワッとするから嫌なのに……」


 わたくしを部屋へ押し込んでカーテンを閉め、


 「すぐ窓開けて換気すりゃいいだろ。さっさと服も着な」


 と言って窓を閉められました。


 「下着までエロいのだし……。あれもまたリーデルが絡んでるね、どーせ」


 と、窓の向こうでの独り言が聞こえます。

 確かにその通りで、最近下着を買いにいく時はいつも姉さんと一緒に出掛けます。下着の選び方ってわたくしには難しくて、品質が良く可愛いものをいつも姉さんが選んでくれています。


 それは置いといて、問題は髪の方です。

 わたくしの髪は腰まであるし量もそれなりに多いので、タオルでしばらく巻いていても水分を多く含んでいるのです。

 普通の魔道具のドライヤーも持っているのですが、あれだと二十分近くかかるのでその間なにもできなくなってしまいます。

 それで、一気に乾かすために自作の魔術を使うのですが、これを閉め切った屋内でやってしまうと突風が吹き荒れて大変なことになりそうです。

 仕方がないのでもう一度頭をタオルで巻いて、先に服を着ることにしましょう。


 クローゼットの扉を開け、薄緑色のワンピースを取り出します。今日は日中が暑くなりそうですからノースリーブでいいでしょう。上からレースのボレロを羽織れば脱ぎ着して調節できて丁度良いかと思いますわ。


 服を着終わるとまた頭のタオルとメガネを外して、ベランダへのカーテンと窓を開きます。外を眺めていたイルマがこちらに振り向き、わたくしの姿を見て「よし」と頷きました。


 「あんたドライヤーは持ってなかったっけ?」

 「あるけど、あれだと時間がかかり過ぎるのよ。だからすぐに乾く魔術を組んでみたの」

 「へぇ」


 わたくしと場所を入れ替わり、部屋に一歩入ってから壁にもたれかかり、こちらを見てます。どんな魔術か気になるのでしょう。イルマがやると火の魔法が強過ぎて大惨事になりそうですけれど。


 わたくしは部屋側を向いて立つと両手のひらを上に顔の前まで上げ、大きな空気の玉を作るイメージをします。硬いシャボン玉とでもいいましょうか。球状の膜は魔力で空気を圧縮したもので、内側と外側に空気を遮断するためのものです。

 その内側に一秒間だけ魔法で炎を燃やし、内側の空気を百度ほどに熱します。次に風の魔法を玉の周りで加速させ、膜を解除。熱気を風魔法に混ぜ、頭を激しめの乱気流で包むように広く纏わせます。

 水分で貼り付いた髪同士が乾いて一本一本に別れ、頭皮表面の水分も粗方飛んだと感じたら、後方に飛ばすように一気に魔法を解放。こうすると髪にクセが残りにくいのです。そして、冷風で冷ましたらこれで髪の毛の乾燥は終わりです。


 「ね? 早いでしょう?」


 サラサラに乾いた髪に手櫛を入れながらイルマに見せます。

 わりと複雑な魔術の構築だったのですが、展開から終了まで十秒もかかりません。一度魔術構築を完成させますと『情報分析』と『情報管理』のスキルで保存され、二回目以降の魔術の展開はオートで発動しますので、わたくしは必要な魔力をそそぐだけ。とても簡単に扱えるので、もう時間のかかるドライヤーには戻れません。


 「……あんた、毎日そのやり方で髪乾かしてるの?」


 何故かまた溜め息を吐いて、呆れた顔でこちらを見返してきます。


 「ええ、そうね。雨の日は窓を開けて部屋の中からするわ。でも晴れた日はベランダへ出た方が気持ちいいから、いつも出てるわね」

 「いつも下着姿で?」

 「寒い時期ならバスローブを着たままでするけど、服を着る前の方が効率が良いでしょう? 服を濡らさなくて済むし」

 「あんた、気が付いていなさそうだけど、最後の突風、ドッパァン! ってスッゴい音してたよ?」

 「まぁ、そうなの?」


 なんということでしょう。風の中にあったわたくしの耳にはゴーゴーという風を切る音しかしていなかったのですが、外ではそんな破裂音がしていただなんて。


 「それじゃあ朝からご近所に迷惑だったかしら?」

 「その様子だとこれまでに一度も苦情が来てなさそうだね? まぁそうかもしれないねぇ」

 「……?」


 イルマが何を言いたいのか解らず、首を傾げてしまいます。


 「毎日朝からそんな大きな音出してたら、大抵苦情が来るのが当たり前だろ? 『うるせーっ!』とか『静かにしやがれ!』って怒鳴られても仕方ないよね?」


 そう言われてみれば確かにその通りです。この方法で始めてから既に半年は経つのですが、まだ一度も苦情やお叱りをいただいたことはありません。


 「そうしようと思った連中は何人もいた筈さ。でも誰もしなかった。何故だと思う?」


 もう呆れ返っているようで、こちらに問いかける言葉にも力が入っていません。わたくしも答えが解らずに首を捻りますが、そうなることも解っていたようで、すぐに答えを教えてくれます。


 「それはねロージル、怒鳴ってやろうとした相手が半裸のあんただったからだよ」

 「…………へ?」

 「エッロい下着を着たあんたが痴女のように毎朝ベランダで姿を晒すんだ。毎日拝むのを楽しみにしてんのに、苦情なんて言って止められたらせっかくの眼福が台無しだろ?」

 「な、な、ななななな………………!?」


 ななななんということでしょう!? わたくし毎朝知らない殿方達に下着姿を晒していたのでしょうか!? あわてて周囲を見渡しますが、まだメガネを外したままでした。何も見えません。

 今更ながら恥ずかしくなって、身体を抱いてしゃがみ込みます。


 「遅いよまったく。今日は服着てるんだから平気だろ? これからはちゃんと服着てからやるんだね。それとさっきの魔術は調整して、大きな音が出ないようにするんだよ。ここは工業地区だから昼夜問わず大きな音がする場所だけどさ、迷惑なのには違いないからね」

 「……分かったわ」


 イルマに立たされ鏡台へと向かい、髪を結い上げます。今日はお休みなので上半分だけ緩く捻って後ろでまとめ、バレッタで止めてハーフアップで仕上げます。お化粧もいつもナチュラルメイクなのですが、より軽く仕上げました。


 「……あぁもう、思ったよりも重傷だったよ……。マビァくんから聞いといて良かった。長い付き合いなのにこれほど酷いとは知らなかった……」

 「んー? 何か言った?」

 「いーや、何でもないよ。そろそろ行くよ」


 イルマが何か小声で言ってたのが聞こえたのですが、パタパタと風ではためくシーツの音にかき消されて何を言ったかまでは分かりませんでした。

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