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六日目 リムスによる『調和のオベリスク』の機能と効果の説明

 宗教や信仰の概念を持たないリムスへの説明を続けていたシャルと中将だったが、中将は懐中時計を取り出しちらりと時刻を見ると二人を止めた。


 「リムス、一度ここで話を切ってもいいだろうか? シャルは神官としては優秀だがまだ若く含蓄もそう深くない。女神サスティリアのことを知りたければシャルの父親に聞く方が理解も早く情報も多いだろう。我々も神聖魔法の反動でけっこうガタがきててな、一旦上へと戻り面子を入れ換えてまたここへ来たい。どうだろうか?」

 「あ、はい! わたしよりもお父様の方がなんでも知ってますから、リムスさんも話しやすいと思います!」

 【……そうですね。ごめんなさい、一万年ぶりの人との対話と新しい情報に夢中になってしまいました】


 中将とシャルの言葉にハッとしたリムスは恥ずかしそうにはにかんで謝った。


 「こちらこそ申し訳ない。そこで一つ頼まれてほしいのだが、あと一時間ほどで『調和のオベリスク』の鐘が鳴る。今一度それの本来の効果を教えてくれまいか? 時間までに障害の修正が可能ならばそちらも頼みたいのだが」

 【分かりました。では改めて『調和のオベリスク』の効果について説明致しましょう】


 そう言ったリムスは横の窓に新たな映像を映し出す。そこには簡略化された人型の絵が三体、それぞれの腹部に『憎しみ』『怒り』『悲しみ』と書かれていて、それぞれがその感情に相応しい道化師のような動きをしていた。


 【人は様々な負の感情を抱く生き物です。例えとしてこの三つの感情を上げて話してみます。『憎しみ』は『怒り』にも『悲しみ』にも発展しますが、激情ではない押し殺した静かな強さもありますので、別の感情としてお見せします。『怨み』や『嫉妬』といった似た感情も、『憎しみ』と同じ系列と捉えています】


 ううむ、なんとなくだが言いたいことは解るかな。『怨み』や『嫉妬』は何がその原因になったかの違いで、発展すれば『憎しみ』に変わる……かな?


 【アエレフィー人は感情の制御に長けており、このような感情を抱くことはあってもそこから事件性のある行為に及ぶことはありませんでしたが、バスクーレル人は違いました。

 これらの負の感情から引き起こされる事態は、相手に対し傷害や盗難や破壊、そして殺人へと発展。己へと向いた場合は自傷や自殺へと発展していたのです。個々人であれば取り抑え犯行を阻止することは容易なのですが、集団でとなると暴動や抗争にまで発展してしまいます】


 それぞれの人型に相対する別の人型が現れ、『憎しみ』などの文字ありの三人が、相手との関係で何らかの問題が起こり、何かを壊したり盗んだり、人を傷つけたり殺したり、自分を刃物で刺して自殺したりといった動きをする。

 さらに沢山の人型が現れ、一対一で争い始めたのが周囲に伝播したのか、二極に別れ多数対多数の抗争へと大きくなる。

 どの感情のどの局面においても何らかの原因によって起こされる過程は様々だが、行き着く先は壊すか盗むか殺すか自殺するばかりだった。


 ちょっと大袈裟で極端な結論な気もするが間違ってはいないと思う。まぁ快楽殺人とか愉快犯なんてのもあるし、自殺に至る理由も感情も様々なんだろうけど、先の三つの感情は人が誰かと関わったからこそ動くものばかりだ。


 人との間に諍いがあり、こじれにこじれてもうやり直しができなくなった時、もう一切関わらないようにするか、徹底的に相手を打ち負かし屈服させるか、どちらかが死ぬまで殺し合うしかないって場合があるのかもしれない。元の世界の俺が住む街シーヴァはここカレイセムほど治安は良くない。貧困街のさらに裏町となると暴力沙汰はしょっちゅうだし、強盗や殺人もたまにある。

 孤児院時代に座学で人の歴史を少し学んだ。『ゲート』が現れる前は国同士が戦争ばかりしていたそうだ。もし『ゲート』が発現しなくなれば、また戦争ばかりする大陸に戻ってしまうのかもしれない。

 俺だって物心ついてからたかだか十七年の人生でも、人を殺したくなるほど怒り憎んだことや、もう死んでしまおうかと思うほど悲しい経験をした。だからリムスの言い分は解る。人とはそういうものだと。

 

 本来なら誰かと諍いになった時、大抵の場合人ってのは、リムスが見せる極端な結末に至るまでに、手近な物に当たって破壊したり、大声で泣き叫んだり汚い言葉で罵ったり、相手の陰口や軽い嫌がらせをするなどでうさを晴らし、多少の溜飲を下げその場をやり過ごす。

 でも、生まれてしまった怒りや恨みってのは完全には消えないんだよな。何年経ってもふとした拍子に思い出し、ふつふつと怒りが甦るも、理性が働いて気を散らし直視しないようにして心の奥に追いやる。生きていればやらなければならないことも増え、そんな思い出を呼び起こす暇もなく、徐々に記憶から薄れていくが決して忘れられなかったりする。そうやって人は嫌な思い出と付き合っているのだろう。

 俺がそうなんだけど、みんなそんな感じだよな? だよね……? …………うぅ、これはちょっとここのみんなに聞く勇気が出なかった。


 【バスクーレル人達の要望もあり、アエレフィー人達の感情制御能力を分析し、バスクーレル人達にも同様の効果が出るように加工され、犯罪の抑制のために作られたシステム。それが『調和のオベリスク』です。

 その効果は負の感情が芽生えた際に、その感情のベクトルが怒りや憎しみなどに向かわないよう、ポジティブな感情へと促すというものです】


 それぞれの人型がまた動きだす。

 『怒り』の人型は対する人型との口論でカッとなる瞬間に頭から上へと矢印が伸び、彼の心の声が文字となって現れる。

 (もっと相手の話をよく聞けば解り合えるかもしれない)と。

 『怒り』の人型はそれである程度は冷静になり、不満げな態度ではあるが相手の話を聞く体勢を続ける。

 結果は二つに別れた。『怒り』の人型は相手の話に渋々ながらも納得し、怒りを収めて和解した。

 もう一方は、和解はなく決裂する。(相手とは解り合えない関係なのだ)と納得し、それはそれと相手の言い分を認め、それ以上関わらないことを選んだ。それで怒りは収まった。

 しかし、両者ともに燻るものを腹の奥に潜ませたままだ。それは当然のことで、争った記憶が消えるわけではないんだからしょうがないのだろう。

 『調和』の鐘を聴き続けることによって、その記憶は薄れ、怒りも消えていく。まぁ良い結果だと思う。


 同様に、『憎しみ』は相手を憎むのを止め、己を高めることに力を注ぎ相手を見返せるよう精進した。

 『悲しみ』も打ちひしがれる前に、やらなければならないことに目を向け立ち上がり歩きだした。


 【ご覧のように生まれる負の感情を無かったことにするわけではありません。あくまでより良い方向へと導き促す効果が付与されるだけです。ですから挫折を味わうこともありますし、悔しさを消し去るものではないのです。そのどちらも向上心には必要なものですから】

 「なるほどな……。だがたったそれだけで争いの火種を消せるものなのか? 例えば野心や功名心はどうなのだ。この国でも歴史上、問題を起こしかけた野心家が何人も居たが、彼らは(ことごと)く失敗に終わっている。それは『恐怖』の効果のお陰だったのかもしれないな。そんな野心も功名心も貴族社会や軍部、はたまた平民でも商会やギルド内での役職など、あらゆる立身出世においては必要な感情だ。どちらも向上心ある正のものとも言えるし、誰かを貶めるのが目的ならば負の感情と言えるだろう。善悪など立場によって変わる曖昧なものだ。どのように判別し、どのような扱いになるのだ?」


 なにやら引っかかる言い方をする中将。その歴史上の野心家がやろうと目論んでいたのは国の乗っ取りや軍部の掌握とかか? 

 さっき「軍に蔓延(はびこ)る汚職や腐敗を取り除きたい」って言ってたが、今、この国の軍部に良くない前兆があったりするのだろうか?

 ……いや、ヤーデン中尉みたいなクズがいっぱい居るのは知ってるけどさ。


 【グンブとはなんでしょうか? 縦割り社会の組織と推測致しますが】


 おっと、軍自体を知らなかったのか。


 「む…………。そうか、国という概念が無く、対外的な存在が無ければ軍の存在も不要か……。軍とは国を守るための武装組織だ。国の行政の一部であり、外部からの攻撃に立ち向かい、内乱の鎮圧や災害時の救助活動を担う。平時は街の治安維持が主な仕事だな。

 軍人は大まかに言えば、直接戦闘に参加する下士官・兵士という下位階級と、兵士を指揮する士官・将校という上位階級とに別れる。野心や功名心のある者は奮起し上の階級を目指すわけだ。階級が高いほど責任も重いが得られる権力は大きいからな。

 君のいうコア・ハンターの組織や、こん……こんばーじぇんすぎあと言ったか? あれを運営する組織はどうなのだ? 軍に近い役割かと思えたのだが……」

 【コア・ハンターはギルドへの登録が必要ですが基本的に活動は自由です。実力差によるランク分けはありますが、トップランカーだからといって強い権力を有しているわけではありません。

 コンバージェンス・ギアの乗り手、ギアライダー達はほとんど趣味として活動していました。我が活動の順番を決め、コア・ハンターの手に負えない大型コア・クリーチャーの出現時のみに出動します。こちらも成績の順位はありましたが、権力は有しません。

 でも確かに誰もがトップになりたいという野心や功名心がありました。貴方の言うとおり、それらの感情はのし上がるためには必要なものです。

 そういった場合は邪な方法を取らぬように促します。例えば、汚い手法で相手を貶める行為ですね。不意を突いて相手を殺害するとか、毒殺を謀るとか、大勢で脅迫して引退に追い込むなど、どれもオベリスクで管理する前にバスクーレル人が行っていた行為ですが、それを禁ずるプログラムが構築されていますので、やはりポジティブな感情へと導きます】

 「ふむ……」


 中将は顎に手を当てて考える。

 少し俺もリムスの言い様には引っかかった。


 リムスの言い分で理屈が通るのは、国が本当に平和で、貧しい者でもそれなりの幸せが保証されている社会が成り立っている場合だ。それならば問題の多い人種であるバスクーレル人も、治安維持のために『調和のオベリスク』の設置を受け入れられるだろう。

 または、悪い政権下で下階級の者が虐げられていたとして、その人達からの反乱を防ぐために設置されたオベリスクが洗脳装置だったのであれば分からなくもない。

 でもさっきの映像ではみんな幸せそうに暮らしていた。リムスが意図的に俺らに見せる映像を選び、貧しく苦しむ人々を見せないようにしていたのでなければ、こっちの可能性は低そうだけど。


 リムスが言った『不意を突いての殺害や毒殺』が権力者に対して行われるのなら謀略だし、『大勢での脅迫』が武力による反抗ならクーデターだ。どちらも国家や政権を脅かす策略としては王道で、物語などでも何度も出てくる手段だ。

 しかし、状況によってはそれが最善の手で後世の人々には『正義の行い』として讃えられたりするらしい。何が正義で何が悪かなんて今さら取り立たす気はないが、この『調和』は人の心の何を見て良いと思われる方向に導いているのだろう? 高度に進んだ文明ならそんなことも可能だというのだろうか?


 そういった行いをしようとする人々の、本来なら消されることの無かった強い覚悟や決意。その芽を水面下で摘まれていて、無意識下に生き方を誘導されているのであれば、それは紛い物の人生に思えてくる。


 ……いや、そもそもこの街自体がもともと『恐怖』によって統率されていたわけだし? 実際にほとんどずーっと平和なわけだし? 

 『恐怖』から『調和』になれば、負の感情が抑えられるのだから、ロージルさんに向くエロい感情や、ヤーデン中尉達の軍人至上主義派が冒険者に向ける侮蔑。あとついでにコニスに向けられる嫉妬心なんかも無くせるのか? それってすっげぇ良いことに思えてきた。

 あー、ダメだ。疲れた頭じゃ碌に考えられない。目眩は治まったが、頭にモヤでもかかっているように少しボヤ~とする。

 そんな俺の様子を見てか、リムスが語りかけてきた。


 【要するにその地区で取り決めた条例や刑法に反する考えや行いに発動すると考えれば良いのです。マビァ、我は確かに『管理』という言葉を使いましたが、『調和のオベリスク』には人それぞれの人格を否定するような効果は無いのですよ。激しい感情から発する突発的な行動を取る一歩前に、一拍心の余裕を与え、多角的に考える時間を与えるだけなのです。貴方がたを支配するためでは無いのですよ。犯罪もゼロに出来るわけではありません。あくまで極力減らすことが可能なだけなのです】

 「そ、そうか……」

 「そうだな。聞く限りでは悪い影響は無さそうだ。では早速次の鐘の音にその効果を乗せていただけないだろうか?」


 確かに悪い効果では無さそうだ。他のみんなも納得して頷き、取り敢えずは『調和』の効果を受ける気になれた。

 みんなの反応を見て、中将がリムスに頼む。


 【分かりました。貴方がたに合わせた『調和のオベリスク』プログラムの修正は既に構築済みです。インストールをすればすぐにでも実行可能です。それでもシミュレーションと実際に人に与えた効果とでは誤差がある可能性があります。経過観察が必要でしょう。貴方がたたった九人のデータでは情報が不足しています。数千数万単位でデータ収集できれば、より精密な計算が可能になります】

 「どのようにするのだ? 外の様子はまったく解らなかったのだろう?」

 【はい、ですからこれらを一緒に連れ帰って下さい】


 リムスの言葉に五体のヒラグモが壁からカサカサと現れた。丁度ザンタさんが寄りかかる壁の右隣から現れたので、ザンタさんが「うおぅっ!?」と驚き飛び上がって斧を手に取る。


 【心配いりません。このG型には攻撃端子は付いていません】

 「そ、そうかい? 驚かすんじゃねぇよ」


 慌てたのが恥ずかしかったのか、顔を少し赤らめどかっと座り直すザンタさん。隣のアリアさんがザンタさんに見えない角度で笑いを誤魔化す咳払いをした。


 よく見るとヒラグモの一体だけ平たい胴体から上に細い棒が一本、十センチほどの長さで伸びていた。


 【その個体を一号と呼称します。一号はカイエンに付いて歩くよう設定していますので、地上に戻ったらオベリスクまで連れていって下さい。他の四体は一号に付いて行きます。オベリスクに到着したら一号は勝手に先端まで登り、我との直通回線を結びます。その後、他の四体が周囲をスキャンしながら四方へ分散します。あとは見晴らしの良い建物の上などで定置し、周囲の映像や情報を我に送ってくれるでしょう】


 一号と呼ばれたヒラグモがこちらを見上げ、「よろしく!」と言わんばかりに片腕を上げた。なにこれかわいい。


 【それとカイエン、こちらの端末を持っていって下さい。一号が我と繋がれば、オベリスクを中心とした半径三・五キロ内であれば我と通話が可能になります】

 「ほう、そんなに離れていても君と話せるというのか? すごい技術だな」


 リムスの下方の台の一部が小さく開き、長さ十五センチほどの縦長の物体がニョキリと生えてきた。中将はそれを手に取り、手の中で転がしながらじっくりと観察する。


 【それから、この施設の現在地も最下層の地下五十メートルから地下二十メートルの定位置まで上昇します。貴方がたの先祖が掘った大半を無駄にしますが、問題ないでしょう?】

 「ああ、帰りが俺達が来た螺旋階段の位置で、昇りの段数が大幅に減るのならありがたいことだ」

 【では上昇を開始します。と、その前にカイエンとテイレルの武器とマビァの盾をお返ししておきます】


 あぁっ! 盾を放り出していたことをすっかり忘れていた。

 シュコンという音と共に床に長方形の穴が空いたと思ったら、中将と大佐の武器が四本、柄を上にして生えてきた。俺の盾も立った状態で生えてくる。赤い砂に埋もれた際にやむなく放置してきた剣達や盾が何故そこから生える? 仕組みがさっぱり分からない。

 俺は立ち上がって外の大広間に繋がる穴へと走って外を見た。急な俺の動きにみんなが軽く驚くのを感じたが、それより確認が先だ。


 大広間の大半を占めていた赤い砂丘は綺麗さっぱり無くなっていて、俺が破壊した壁も傷一つなく修復されていた。

 あれだけ必死になって大広間を破壊した痕跡が、ちょっと話している間に跡形もなく修復されてるなんて……、と無情な気持ちが湧き上がってくるが、リムスとの対話を思い出していやいやと頭を振る。


 リムスの言う通り、最初に対話が成立していればまったくムダな戦闘だったわけだ。当初俺視点で得られていた情報が片方に偏り過ぎていた上に、立場上カイエン中将に従う状況にあったとはいえ、破壊と前進しか考えていなかった脳筋っぷりに我ながら呆れ果てる。

 次からはもっと考えて動かないと、と反省しつつもどこか何かが心に引っかかり、もやっとした頭じゃあ碌な答えは出ないだろうと、その考えを放置した。




 体感的に感じないが、この部屋と外の大広間はゆっくりと上昇しているという。地中をこの大きな空間が三十メートルも上がるなんてどんな仕組みなのか想像もできないが、一分ほどでリムスが着いたと教えてくれた。


 【通路を進めば貴方がたの先祖が設置した螺旋階段の中程に通じる壁に突き当たります。そこから壁を打ち抜いて出て下さい】


 元来た通路はここを上昇させる時に塞いだそうだ。誰かがスキルで壁を打ち抜けば階段の半分以上をショートカットできるのでありがたいのだが、スニーキングリザードの皮で加工した出入り口が使えなくなったので、新しく扉を作るか来る度にリムスに壁を開いてもらわなければならない。

 螺旋階段の通る円柱形の縦穴とリムスが限界まで伸ばした通路の壁との間にはニメートルほどの土がある筈だ。階段を降りた部屋の扉までの距離がそれくらいだったから、一度はその分だけ穴を掘らないといけない。


 【残念ながら、我はまだ貴方がたを全面的に信頼することはできません。此度の対話は破壊と恫喝により我が降伏する形で成り立ちました。互いのことを全く知らず大きな誤解があったとはいえ、我を破壊しうる攻撃力を一個人が有しているのです。我の安全と存続が確約され、我自身が貴方がたを観察して確信を持てないかぎり、この施設に入る際には制限を設けさせていただきます】

 「悪かったよ……。俺はもう来ないから安心してくれ」


 リムスがじとりとした半眼でこちらを睨みながら言うので素直に謝る。みんなが申し訳なさそうに渋い顔でこちらを見るが、もう済んだ話だ。


 「それは我々が態度によって証明していくしかあるまいな。それで、どの様な制限になるのだ?」

 【今後当施設へと再来する度に、螺旋階段へと繋がる通路に部屋を一つ用意しておきます。そこで入場者の全スキャンを行います。武器などの不審物や攻撃的なスキルをチェックし、もし所有していれば我が一時的に没収致します。そしてこの腕輪を装着していただきます】


 別のヒラグモが壁から湧いて出て、両腕で腕輪らしきものを持ち上げてこちらへ見せた。


 中将が取ろうとしたのを「ここは私が」と大佐が代わって取る。銀色に輝く薄金の細い腕輪は、何の装飾も無く特別な力も無さそうだ。しかし大佐が回して見ていると、輪が切れ半円になるまでシュンと縮む。大佐は一瞬驚いたが半分になった腕輪を左手首に当てると、同じ音を立てて一瞬で腕輪に戻った。便利な機能だ。俺の手甲やブーツもあんな感じに簡単に装着できればいいのに。

 しかし、大佐も躊躇いもなくあんなものを身に付けられたもんだ。多分中将の言った『態度による証明』ってヤツなんだろう。


 「これはどんな効果があるのですか?」

 【装着者が我やこの施設に対し破壊の意思や行動を見せた際に、一時的に麻痺を与え行動不能にするための腕輪です。本来、罪人に使っていた物なのですが了承して下さい。ここを出る際に回収させていただきます】

 「うむ、それくらいであれば受け入れよう」


 こちらももうリムスを傷付ける気はないし、それでリムスが安心できるのであれば、その程度の条件痛くもないよな。


 【マビァ、きつい言い方をしてしまいましたが、話をするだけならば貴方もいつでも歓迎致します。貴方は他の方々とは違う存在なのでしょう? 聞きたいことが沢山あるので、来てもらわなければ我が困りますから】


 フ、と表情を緩めたリムスが微笑んでそう言ってくれた。その言葉にみんなの空気も和む。


 「ありがとう。そういうことならまた来させてもらうよ」





 リムスと別れ、俺達は地上へと続く道を進む。後ろから五体のヒラグモがカサカサと付いてきていた。

 時刻は十一時を半分ほど回ったところだ。六時にここに潜ったから五時間半以上も居たわけだ。

 前半動きっぱなしだった全身の筋肉が徐々に痛み始めている。『ギャロピスの永走』の効果で疲労だけは取り除かれていたが、筋肉痛にならないわけじゃないんだな。

 食べて飲んで目眩も無くなったけど、フル回転した脳ミソの疲れまでは消えてない。一度宿に帰って寝るか、そのまま肉祭りに参加するか悩むところだ。


 通路の端まで到着して、さて誰が穴を空けるかと話し合いになりかけたところで、俺が手を挙げて前に出た。俺の『アスター・ザッパー』ならいい感じに人が通れる穴を空けられるだろう。

 アリアさんもやりたがっていたが、彼女が使った名称不明の無差別破壊スキルは、『アスター・ザッパー』の射程の二倍はあったので、あれを使われると螺旋階段まで破壊しそうだ。それにザンタさんとの連携技みたいなので、ザンタさんの腰がまた壊れる。使用後にまたシャルの治癒が必要になるだろうから、今回は遠慮してもらう。


 みんなが後方へ下がり、俺が技の構えを取ろうとした時、壁が左右に開いて土の面が現れる。リムスが開けてくれたんだな。

 幸いにも遺跡の通路の壁一枚向こう側が硬い岩盤ではなく土と石くればかりだったので、『アスター・ザッパー』の一撃でドパンッと大穴を穿ち螺旋階段への道を作る。

 吹き飛ばした大量の土砂が積もる階段へと足を滑らせないように移動する。


 「この穴は崩れないように早急に補強した方が良さそうだな」

 「俺の技は土木仕様じゃないですからね。ちゃんと通路に作り直した方がいいでしょうね」


 中将が穿った穴の内側を触りながら言う。

 地下二十メートル地点に出来た横穴はそれなりに圧縮された地層だったので、そうすぐに崩落するほどでは無かったが、俺のスキル一つで簡単に二メートルも貫けるってことは掘りやすい地層だったわけだ。職人に調べさせて補強しないとこの先どうなるか分からない。


 階段をひぃこら言いながら昇る。この高さならシャルでも頑張って最後まで昇れそうだ。


 「そういやさぁ、マビァくん」

 「なんですか?」


 一段前を行くチーダスさんが息を切らしながら話しかけてきた。


 「きみ、探してるスキルのこと、リムスさんに、聞かなくても、良かったのかい?」

 「………………ああっ!?」


 なんか忘れてると思ったらそれがあった! まぁそれどころじゃなかったし? 情報量多過ぎて頭いっぱいでコゲ臭くなってたし?


 「はははっ。なに、また来れば良い。お誘いも受けていることだしな」


 後ろの中将が笑い俺の尻をバシッと叩いた。

 痛む尻を擦りながら上を見上げると、地上の部屋の明かりが近付いていた。


 長く苦痛な説明回もひとまず終わりまして、やっと地上に戻って来ました。クソ面倒くさい設定にお付き合いいただき、ありがとうございます。

 次回からはロージルさんの出番となります。息抜き回です。

 興味のある方だけでも読んでいただければ幸いです。

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