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六日目 この遺跡の真の使用用途

 リムスの右隣の映像は、この部屋から一本の通路がどんどんと伸びるものだった。


 【毎日一本ずつ、いくつも掘られこちらへと迫ってくる試掘坑。この真上にはオベリスクがありますし、そこの広間の上部には頑強な層でできています。真上からの侵入は当時の地上人種の技術力では不可能と音響で判断しました。そこで、我が最も遠く通路を伸ばせる地点に試掘坑が掘られるのを待ち、掘り抜かれるタイミングと合わせて通路の端を伸ばしたのです。遠くにしたのはもちろんここに入る入り口をできるだけ近づけさせないためです】


 なるほど、俺らの入った遺跡への入口は偶然に通路の端を捉えたのではなく、リムスの都合で掘り抜かされたものだったのか。

 映像では通路の一番奥の壁際の天井から細い何かが壁を崩しながら降りてきた。あれが掘削に使う道具の先端なんだろう。


 【この時からおよそ一年後、人が降りられるように大地を掘り広げ、壁を打ち壊し向こうから人が三人現れました。バスクーレル人によく似た人種に見えましたので我々の言語で話し掛けたのですが、言葉は通じませんでした。彼らの話す驚いた言葉のひとことふたこともデータベースにない言語でした。外部の情報収集は必要でしたが、対話ができない以上侵攻させるわけにはいきません。ガードボットで通路を守ろうとしたところ、怯えた様子で道具を放り投げ逃げ帰ったのです】


 当時の様子が映像で流れる。ツルハシで壁を崩しておっかなびっくりと入ってきた三人は、リムスの警告に飛び上がり、衛兵(ガーディアン)……ガードボットと言ったか? を見ると悲鳴を上げて逃げ帰った。当時からここの人間は相当ビビりだったのがよく分かる。

 そのあとゆっくりと壁はふさがり、投げ出したツルハシや荷物は床に沈んでいった。


 【それからまた一月ほど経って現れました。壁や床に何か貼っているように見えましたが、解析しても何も検知されません。ガードボットを差し向ければすぐに逃げ出すので、しばらくこのやり取りが何日も続きます。通路に何かされているのか不可解で気持ちの良いものではありませんでしたが、百三十二日後ぱったりと彼らは来なくなりました】


 『スニーキングリザードの皮』の効果は見事にリムスを騙していたようだ。確かに虹色の四角い何かを貼っている姿が映っているのに、貼り終わった時には何も貼られていないようにただの壁や床になっている。

 壁を壊して入ってきては数枚皮を貼り、ガードボットから逃げる。その様子がチャカチャカとした素早い動きで何度も何度も映される。いや、貼る位置が毎回違うので作業は進んでいた。時間表示を見ると何倍もの早さで時が流れている。

 あぁ、時間をぎゅっと詰めて見せてくれているんだ。そんなこともできるんだな。


 【それから約百十六年もの間、地上の人種からの接触は途絶えました。伝わる音響で人々は生存していてオベリスクを中心に街を築いているのは感じていたのです。このまま何も起きないのであればそれでも良かったのですが、二年前、カイエン、テイレル、チーダスと他二名が突如通路の端に現れました】


 その時の映像が流れる。何もない通路の袋小路。壁から四メートルほど離れた空間に、見えない壁から歩き出すように五人の人間が現れた。

 確かに中将と大佐、チーダスさんだ。残りの二人は研究員か? 知らない顔だった。

 中将と大佐は既に剣を抜いていて、チーダスさんはワクワクと周囲を見回している。残りの二人は及び腰で震えていた。


 【カイエン、テイレルは警告にも従わず進みます。スキャンでそれぞれの技能を調べました。二人は我の知るどのバスクーレル人よりも多くの技能を所有していました。最大限の警戒をしなければならないと判断し、ガードボットで通路を塞ぎました。二人に計七十五体倒されたところで彼らは迷い無く踵を返し、また通路の端で姿を消しました】


 中将と大佐の正確な突きで次々と砂と化すガードボット。ある程度倒すと不敵に笑った中将が撤退の号令を出し、そのまま通路の端で姿を消した。床に溜まった砂が通路の左右隅に吸い込まれるように消えて、そして映像も消える。


 「いやはや、まさか二年前の自分の姿を見ることになるとはな。俺はあんな悪そうな笑い方をするのか。気を付けねばな」


 自分の顔を擦りながら苦笑する中将。……反省するところそこかよ。


【そして今日、戦力を強化した貴方がたに侵攻されたのです。我にとってはそちらの過剰なほどの攻撃になりふり構っていられなくなりました。巨大なガードボット作成などという新たなプログラムを急遽作成し慣れない活用をしたり、『スキルリムーバー』で弱体化を謀るなど本来の使い道とは違う手段を取り、なんとか侵攻を阻もうとしたのですが、力及ばず武装解除に至ったというわけです】


 もう悔しそうな顔はしていない。対話で解決する覚悟の決まった凛々しい顔で俺達を見回したあと、俺に向かって言葉を続けた。

 

 【マビァ、貴方は我の言葉を最初から理解していたのでしょう? あの時の貴方は我の警告文を音だけ真似て繰り返しているように我には感じました。ですから内容までは理解しておらず対話は無理と判断したのです。ですがこの部屋に突貫する時から、流暢に我らの言語で語りかけてきました。なぜ最初から対話で解決しようとしなかったのです? であれば先程までの戦闘と破壊は必要の無い行為であった筈です】

 「………それは………」


 リムスに詰め寄られてそういう選択があったことに初めて気が付いた。でもあの時はリムスの言語とこの国の言語との区別ができていないことの方に驚いてたし、直前のザンタさんとチーダスさんの会話で「どこの生きた遺跡も侵入者に警告めいたことを喋り出す」というのを聞いていたからだ。

 生きた人が発する言葉ではなく、侵入者に対し自動的に発せられる定型文。それが今聞いているものだと決め付けた。

 他の遺跡でもそうなら遺跡はそういうものだと思い込んでいた。まさか会話のできるリムスのような存在がいるなんて思いもしなかった。


 「すまないリムス。それは俺のせいだ。俺がマビァに武力で突き進むよう依頼した。今回の作戦の立案も指揮も俺がやったことだ。マビァは俺の指示に従って動いてもらっていたに過ぎない。俺自身もこの地下深い古代遺跡の中でリムスのような存在と対話で解決する方法があるなんて想定外だった。だからマビァを責めないでやってほしい」

 「中将……」

 「マビァ、お前の役割は前衛での戦闘と中衛の護衛だ。それ以上の働きをしてくれたお陰で我々は誰も欠けることなく今ここにいる。更に幸運と言ってもいいだろう。お前が『異言語変換』を持っていたお陰で、こうしてリムスとの対話が成立してるんだ。これ以上の僥倖はないだろう?」


 そう言って中将は俺の背中をバンッと叩く。俺は苦笑し、リムスと向き合った。


 「すまない。リムスの警告は聞いてたけど対話できる相手とは考えてもみなかった。中将の言う通り俺は戦うためにここに来た。敵と戦ってみんなを護ることしか考えてなかったよ」


 リムスは小さく溜め息を吐いて頷いた。


 【貴方が仲間を護るために必死だったのは我も理解しております。では仕方のない事だったと致しましょう。先に貴方がたの誤解を解いておかなければなりませんね。貴方がたの侵入したこの施設は防衛機構が必要な場所ではなかったのです。ここはアエレフィー人とバスクーレル人にとっては娯楽の施設だったのですよ】

 「娯楽施設だってぇ?」


 リムスの予想外の答えにザンタさんが大きな声を上げた。かなり痛い思いもしたし結構ギリギリまで追い詰められたんだ。そんな場所が娯楽を楽しむ施設だって言われても信じられる筈がない。


 【施設の説明の前に一つ質問があります。一万三千年前、地上の大地や川、海などあらゆる場所に生息する様々な野生動物の中には、心臓に石を持つものが何種もいました。今でも生息していますか?】

 「魔獣のことか? それなら世界中に色々といるな」


 この中では魔獣に一番詳しいのはチーダスさんだろう。中将が顔をそちらへ向ける。


 「それはもう凄い数の種がいますよ。人類はまだ全ての魔獣の種を発見できていないでしょうね。さっきの大きな三体も本物が存在していますよ。あっちはもっと小さいですけどね」

 【今は魔獣というのですね。我々は『ソウル・コア』を持つ生物、『コア・クリーチャー』と呼んでいました。街の外の農地や河川で害を成すコア・クリーチャーを間引くのがバスクーレル人の役割で、回収したソウル・コアをエネルギー源とした様々な機械や機器を発明開発するのがアエレフィー人の役割でした。それが二人種の歴史であり文明発展の基礎となったのです】

 「あ、あの……。たくさんの魔獣を殺しすぎたとか、何種類かの魔獣をぜつめつさせちゃったとかってしたことなかったですか?」


 シャルがおずおずと小さな手を上げてリムスに問いかける。


 【そんな酷いことは二人種ともしていません。コア・クリーチャーであれ他の動植物であれ、一種でも欠けると生態系のバランスが大きく崩れることを皆良く理解していました。異常気象や疫病で絶滅しかけた種を保護して繁殖させ、数を増やして野生に戻していたほどです。狩っていたのは食用とするものと害悪として駆除するものだけでした。討伐数の制限も厳しく行っていましたよ】


 リムスがまた映像を映し出す。農地を荒らす虫系の魔獣を、両手で変わった持ち方をする杖から光線を飛ばして狩る者。川辺でガチガザミらしき魔獣を光る剣で斬り裂く者などなど……。彼らがバスクーレル人なのだろうが、みんな顔が隠れる兜と身体に密着する細身の鎧で全身を包んでいるので容姿は分からない。

 剣や槍で戦う者は攻撃スキルを使っていた。変わった杖を使う者も、杖が赤く光ったあとに威力の強い一撃を放っていたので、あれもスキルみたいだ。魔法じゃないのか?


 次の映像はアエレフィー人がジェムを使って研究したり、何かを造っているものだった。大抵は何に使うのか分からない物ばかりだったが、印象的だったのが人が着るには大き過ぎる、身長八メートルはあるだろう鋼の全身鎧だ。細身のアエレフィー人が変わったスーツを着こんで、前面が開いた大きな鎧に嵌め込まれ閉じられると、鎧は立ち上がり試すかのように両手を動かした。


 「なるほど、魔獣とジェムの扱い方と文明の発展の仕方は我らとそう違いはなさそうだな。文明の差は天と地ほどもあるが。ナクーランド帝国ならかなり近い技術を持っていたかもしれんな」


 中将が顎を撫でながら言う。その辺は元の世界でも似たようなもんだった。こっちはここよりもっとずっと遅れてるっぽいけど。

 なんせ対『ゲート』最前線の街『シーヴァ』は、国内で最も魔物から採れる魂石の研究が進んでいる最重要拠点だ。

 『ゲート』からの侵攻を防ぐために少しでも有効な研究成果があれば、すぐに軍事活用するのが当然の環境だった。

 とはいえ、攻防で役立つほどには研究が進んでいないらしく、精々(かまど)代わりになる魔道コンロや、ランプ代わりの魔道ランタン。室内を夏涼しく冬温かくする寒暖調整具などなど、がある程度らしい。

 それすらお貴族様連中が優先的に使えている程度で、平民で使えるのは裕福な商家だけって聞いた。

 もちろん平民にだって賢いヤツはいて、魔物討伐で大量に手に入る魂石をどうにか活用できないものかと研究してきた。結果発明されたのが、武器や防具に埋め込み様々な効果を付呪するという方法だ。

 最前線で戦い続けるハンター達に役立つことこそが、自分達の命や暮らす街を救うことになる。そう考えて付呪士達はがんばってくれている。

 お陰で俺の剣や盾もなんとか壊れずに使えてるんだけど、最初の改造費がバカ高いし維持費も大変なんだよな……。本当は鎧にも付呪したいんだけど、予算が全然足りねぇ……。


 っと、考えが逸れた。つまり、魔物あるいは魔獣から取れる石をエネルギー源として人の営みに活用するのは、どこの世界でも同じなのだろうか。


 【コア・クリーチャーを狩るのを専門とするバスクーレル人のことを『コア・ハンター』と呼びます。彼らコア・ハンターの養成と訓練を目的として創られた組織『コア・ハンターギルド』。ここがそのディエラ28支部に所属するコア・ハンター達に養成と訓練を施す場であり、そして鍛え上げたコア・ハンター達が様々な様式のゲームに挑戦できるよう用意された施設『バトル・アリーナ』です】


 そういうとリムスがまた上を示し部屋が暗くなるとドーム状の天幕に新たな映像が映る。そこには一人の派手で美しくチャラそうなアエレフィー人の男がいた。男の周りをキラキラと星が飛び交ったり鮮やかな色の線が走ったりしていてキレイだけどややウザい。


 〔さぁまた今夜もやって参りました! 週に一度のお楽しみ『激烈バトルアリーナ!』の時間だぁ!

今宵も会場を盛り上げるMCはこのわたくし、毎度お馴染みのエウエニアス・リビニストス・オーキュレイがお届けするよ! レッツエンジョイ! イッツアスタートッ!!〕


 パーパラッパーと、ド派手で喧しい音楽に合わせて、やたらと立体的に書かれた『激烈バトルアリーナ!』の文字が、その男の前にこちらへと飛び出すかのようにババーン! と現れた。

 俺にはコイツの言葉は解るが、リムスの声ではないからか他のみんなに解るように変換されていないらしく、映像の下の方に通訳された文字が流れていた。


 〔今日は久々のロングステージだ。複雑な読みが必要になるよ? 観覧席及びお茶の間の紳士淑女達、張りきってベットしてくれぇ! では早速最初の挑戦者達の紹介をしようか。ベテランコア・ハンターパーティ『フェンリルナイト』の六人だぁ!!〕


 ワー! と響く歓声。映像が切り替わり兜を外した六人のバスクーレル人の男女が笑顔で手を振っている。それを見下ろし拍手を送る観覧席らしき場所にひしめくアエレフィー人達。


 「…………なんだこりゃ?」


 先程までの日常を切り取ったような映像や、人が突然消える衝撃的な映像と違って、祭りか何かなのか非日常的でマヌケな映像に呆気にとられて思わず声が漏れる。


 【当時の大人気番組『激烈バトルアリーナ!』です。週に一度、腕に自信のあるコア・ハンターが実力に応じたレベルの障害を突破し、最奥部に到着すれば賞金を得ることができるエンターテイメント番組です。アエレフィー人はコア・ハンター達がどこまで健闘できるのか、最奥部へ到達できるのかを自宅または観覧席で観ながら賭け、配当具合でコア・ハンター達の賞金も跳ね上がるという、二人種ともに熱くなる娯楽でした】


 ………………………………。



 リムスの言葉を聞いても映像が予想外過ぎて、誰も言葉を発せずにただボ~ッと観ていた。いや、シャルだけがワクワクと瞳を輝かせて見上げていた。

 映像はエウ……(覚えられるか!)チャラいのがコア・ハンターひとりひとりに質問をし談笑する姿が映しされている。


 「……なんか抱いていた古代文明のイメージがぶっ壊れるね……」


 チーダスさんの言葉にシャルを除いたみんながうんうんと頷く。映像ではコア・ハンター達がゲームを始めていた。


 【この時のゲームはレベル3の中級ロングステージ。ご覧のような二層の迷宮に隠された鍵を集め、最奥部の扉を開き、奥の部屋に出現する疑似コア・クリーチャーを倒せばゲームクリアというルールでした。制限時間もあり、この時は二時間でした】

 「この時のということは、毎週違う様式で催されるのですか?」

 【はい、我がその週に挑戦するコア・ハンターに合わせて、番組が一番好評になる確率を割り出し迷宮や疑似コア・クリーチャーを配置致します】


 リムスが別の板に映し出したのは二階層の迷宮の地図だった。複雑に曲がり枝分かれする道を迷わず進み、あちこちに配置された鍵を入手して最奥部へ到達するだけでも大変そうだ。

 大佐の質問にリムスはあっさりと答えていたが、この規模の迷宮の生成を毎週作り替える? とんでもない技術じゃないか。


 「お、戦いだしたな」

 「キラーウルフとトラガラバチみたいだねぇ」


 キャンキャンと吠えるキラーウルフが二十匹ほどと、大きなハチが十五匹、先の十字路からパーティへ襲いかかる。

 コア・ハンター達は冷静に光線を放つ杖や光る剣で迎え撃つ。今の冒険者達と比べるのもなんだが、普通にちゃんと戦えている。でもなんか……。


 「あの程度の魔獣の数じゃあ実力は見えねぇが、動きは平凡だよなぁ」

 「だねぇ。なんか強力な武器に頼り過ぎって感じに見えるねぇ」


 うん、ザンタさんとアリアさんの言う通り武器が良過ぎるんだ。触れるだけで斬れる剣に、無詠唱で攻撃魔法らしきものを連射できる杖。どちらも軽そうだし、慣れた者なら手首と指を動かすだけで魔獣を倒せる。だから体さばきがあまり上手くない。


 それからも様々な魔獣がコア・ハンター達に襲いかかった。しかしどれも弱い魔獣ばかりで映像に迫力がない。


 「なぁリムスちゃんよぅ。こんなつまらねぇ戦いなんて見せられてアエレフィー人って連中は満足してたのかい?」


 ちょっと飽きてきたらしいザンタさんがリムスにボヤく。確かに戦い慣れてる俺達にしたら単調でつまらない映像だ。喜んでるのはシャルと各種魔獣モドキの再現具合に感心しているチーダスさんくらいだ。


 【二層目に入れば擬似コア・クリーチャーのレベルが上がります。一層目はコア・ハンター達の基本戦術を見せるための準備みたいなものです。これを観て観客がどのプランで掛けるかを見積もります。二層目に降りた時点で投票が締め切られます。この時の各種プランと配当はこのようになっていました】


 リムスが示す窓を見ると、パーティのゲーム攻略の可否、六人中誰が最後の魔獣モドキにとどめを刺すか、誰の討伐数が一番多いか、攻略時間はどれくらいかなどなど、色々な賭けプランがあり、それぞれのプランの横の数値が上下に変動している。そして締め切りまでの残り時間が表示されていた。

 む~……。この手のギャンブルはしたことないからよく分からん。


 【全ての行程を映すと二時間近くかかりますので、この先はダイジェストでお送り致します】


 リムスそう言うと画面が切り替わる。コア・ハンター達が二層目に降りてきたところだ。だいじぇすとって何だ?


 【ここからが本番です。とはいえそれでも貴方がたから観れば退屈なものになるでしょうね】


 パッと画面が変わり、二層目初の魔獣モドキとの遭遇戦。「カゼノカマだ!」とチーダスさんが声を上げる。五体現れた。

 ここでようやく人より大きな魔獣の登場だ。大型の鳥であるカゼノカマの戦い方は俺も三日前に体感済みだ。戦えば多分余裕で勝てるだろうけど、アイツらの飛ぶ斬撃は十分脅威になる。


 戦いは始まったが、コア・ハンター達の攻撃が当たらない。距離を取り機敏に跳ね回りながら飛ぶ斬撃を放つのでなかなか近付けない。しょっぱい戦いだなぁ、と顔をしかめるとパッと迫力のある映像に変わる。


 【退屈そうですので更に省きますね】


 全てのカゼノカマが飛ぶ斬撃を周囲から同時に放つ。真ん中に固まった六人はそれぞれ左前腕を構えると、腕を中心に六角形を組み合わせた半透明の膜が身体前面を包むように広がり、飛ぶ斬撃を防いだ。


 「あんな薄い膜の盾で防げるのかよ。防具までインチキくせぇ防御力じゃねーか……」


 あの斬撃は実際に見てるからどれだけの威力かは知ってる。バーンクロコダイルの強靭な外皮だったから大して効いていないように見えていたが、革鎧の戦士のひとりやふたり、簡単に真っ二つに切り裂けるだろう。それをあんな重さの無さそうな膜で防げるとは、ウチのトーツの頑張りがバカらしく思えてくるほどだ。


 「仕方がないのだろうな。それほどに文明が違い過ぎる」


 中将の言葉にみんな頷く。戦いは囮と攻撃の二組に別れ、攻撃側がスキルを連発して方が付いた。

 途中の移動はバッサリと省かれ、続いてノウトスやブルケラトプスとの戦いを見せてくれる。


 「今のカレイセムでもよく見かける魔獣と戦っていますけど、あんなに怖いカゼノカマやノウトスは見たことないのですぅ。さっきまでの街のえいぞう? でも、魔獣はいっぴきも見なかったのですが、『獣使い』のスキルは誰も持ってなかったのでしょうか?」


 シャルの言葉に大人達がハッと気が付く。そうだ、ナン教授一家みたいに自力で修得可能なスキルらしいけど、そのスキルを最初に知ったのは『キューブ』で見付かったとギルマスから聞いた時だ。当然大人達は『獣使い』のスキルを『キューブ』で売る事が、この街の売りの一つだと知ってる。


 「街の魔獣は全て産まれた時から人の手で飼育されているからね。野生のカゼノカマやノウトスはあんな感じで結構荒々しいんだよ。でも確かに『獣使い』のスキルは遺跡で見付かってるんだ。なのに使役された魔獣が一頭も見えないってのはおかしいな?」

 【チーダス、貴方から搾取した『獣使い』のスキルは我らの施設から奪取したスキルリムーバーから得たのですか?】

 「い、いや、僕は自力で修得したよ。君達の時代には『キューブ』……スキルリムーバーにはあったのに誰も使わなかったのかい?」

 【スキルリムーバーを使用する理由についてはこの映像の後に説明致します。『獣使い』のスキルは彼らが消失する少し前に入手したばかりで、あまり研究が進んでいませんでした。自力での修得は困難らしいので、普及されてはいませんでした】

 「なるほど……あれは修得条件知ってても難しいからねぇ」


 『獣使い』のことをよく知るチーダスさんは頷く。その間にも映像は最奥部の部屋を複数の鍵で開き、中へ入るところだった。周囲の壁の上が観覧席となっており、そこから観客のアエレフィー人達が歓声を送る。

 六人が広い部屋の中央へと近付くと、床から湧きだした赤い砂が大きな塊を三つ作り、獣へと変化していく。出来上がった姿は三頭の大きなクマだった。

 立てば体高六メートルを超えるその熊の首には、ネックレスのように五芒星の星が大小並んでいる。


 「ほう、懐かしいな。ホシノワグマじゃないか」

 「色以外は大きさも同じみたいですね……」


 中将は懐かしそうに微笑み、大佐は嫌そうに顔をしかめる。そういやこの二人は若い頃コイツを狩ってたんだっけ?


 ホシノワグマはなかなかの強さだった。巨体のクセに俊敏だし、左右の大きな掌はコア・ハンター達を軽々と殴り飛ばす。巨体による突進と左右の爪が繰り出す飛ぶ斬撃波は赤いスキル光を纏っていて、六人を追い詰めた。

 傷付いて息も荒い彼らが腰のベルトから取り出した小さな小瓶はポーションか? 飲むと全身が白い光を放ち傷が癒され体力も戻ったようで戦いへと戻る。


 彼らの作戦は二人が一頭ずつ引き付けて、その間に残りの四人で一頭を確実に倒すという堅実な方法だった。スキルとポーションを使ってガンガン攻める。まぁゴリ押しな戦い方だからあまり面白くない。それでも観客達は沸き立った。


 最後の一頭が崩れ落ちると、派手なファンファーレが鳴り響き、キラキラと光がコア・ハンター達に降り注ぐ。

 映像の真ん中にゲーム攻略までの時間と、挑戦者達への賞金額らしき数字がバーン! とにぎやかに飛び出す。


 〔コーングラッチュレィショーンズ! 『フェンリルナイト』の皆さん、素晴らしい戦いありがとうございましたー!〕


 またチャラいのが出てきて、褒め祭り上げる。六人それぞれに感想を聞いて、観客から届いた感想を読み話を盛り上げた。


 〔それではお待ちかねの最後のコーナーに参りましょう!『スキルオークション!』はっじまっるよー!!〕


 チャラいのが踊りながらこちらへと駆け寄り、映像いっぱいでおどけてウィンクをしてくる。バチョンとまばたきをした時に星が飛んだのに無性にイラッときた。俺コイツ嫌いだわ。

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