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初日 カレイセム市街

 城壁の薄暗い内側を通り抜け、街側の扉を抜けると、夕陽に映えるオレンジ色の美しい街並みが目に飛び込んでくる。漆喰のような白壁と緑色に染まった材木造り、ふんだんに使われたガラス窓とあちこちを綺麗に飾る花々。そう、まるで来る途中に寄った美しく小さな農村を、そのままのデザインで大きな街に造り上げたかのような、拘り抜いた統一性の美しい街並みだった。

 俺は城壁を抜けた後、またもや魅とれて暫し立ち尽くす。呆けているとすぐ横からブフォォ…となにやら音がしたので驚いてそちらを向き一歩足を引くと、検問を抜けた馬車を牽く見たことのない動物が俺の顔に鼻を近付け、スンスンと匂った後、顔を前に向け歩き出す。 

 「お…おおお~…」と、仰け反って固まりその動物を見送っていると、上の方から笑い声が聞こえた。

 「がっはっはっは。いや悪い悪い。兄ちゃんノウトスが怖かったかい。大人しい魔獣だから取って食やしねぇから安心しな」「あんしんしな!」「しなぁっ!」

 見上げると、その動物が引いている荷馬車の御者台に髭面で白髪混じりの焦げ茶色の髪、鍔の短い帽子を被ったおっさんと、荷台に括られた大きな包みの上に寝転んだ五歳くらいの金髪の女の子と、もっと小さな焦げ茶色髪の男の子がこっちを見てニコニコしてる。

 「ノウトスっていうんですか…。って魔獣? 魔獣って危険はないんですか?」

 俺は大きな動物を見上げる。元の世界にいた農耕馬よりも大きそうだ。身体もがっしりとしていて顔はそんなに長くなく、頭に大きく長いいくつにも枝分かれした角が左右に一対。足も太く力強そうだ。

額から鼻先までと両肩に鎧の様に硬くなった黒く光沢のある皮膚が特徴的だ。これ一頭で農耕馬二頭分の力がありそうだが、その分速度は出ないだろう。さっき兵士が乗る馬も見かけたんだが、実はあれも魔獣だったんだろうか?

 魔獣というのは、さっき兵士さんから聞いたばかりだが、あのバーンクロコダイルもそうだと言ってた。おもいっきり食われそうになったので、勝手に魔獣=危険という頭になっている。俺達の世界の魔物がそうだったんだから仕方がないだろ。

 「なんだ兄ちゃん。魔獣自体も知らないのか? 何処の出身だか知らんが相当珍しいぞ。魔獣ってのはまあ世界中に色んなのがいるんだが、基本的に心臓にジェムを持つ動物の事でな。うまく魔力で通じ合えればこういう風に使役することが出来るんだ。普通の動物よりも魔力を持っているから、それぞれ色んな能力を持っていて便利なんだぞ」「なんだーっ!」「だぞんだー!」

 おっさんが説明してくれて子ども達がキャッキャとはしゃぐ。馬車…じゃないノウトス車に着いて歩きながら周りを見る。門を潜ってすぐに、ノウトスの厩が壁沿いにズラーッと並んである。その中に積んで来た荷物を別の小さな荷車に載せているのが見えた。その荷車の前にはノウトスを小さくしたような動物がいて、商家の屋号のようなマークと店名が書かれた布を背中から脇腹に括り、走る看板の役割もしているみたいだ。

 「あれも魔獣なんですか?」

 と、その小さな動物を指差して聞いてみる。

 「ああ、あれはトトスって言ってな。街中をノウトスが往来すると色々大変だからよ、ここからの荷物運びはあいつらがやってくれるんだ。どの商家のトトスも人懐っこくてな~。すり寄ってきたりして可愛いぞ」「トトス好きーっ!」「めっちゃかわいーよーっ!」

 おっさんはニヤニヤが止まらない。子ども達もそうだがこの一家は魔獣好きなんだろうな。

 「この国は魔獣の使役で発展してきた国なんだ。力仕事や林業での材木切り、漁業でも漁に使われてるし農業でも大活躍だぞ」「カゼノカマがねーっ!すぱーっときるの!」「ライノノコギリもすごいぞーっ!」

 子ども達の言ってるのは魔獣の名前なんだろうな。何かを切ってる仕草で暴れている。

 来る時に寄った農村は小さいのに畑は広大だったので、収穫期は大変そうだなと思っていたが、そんな仕組みだったんだ。作業効率が格段に上がるなら人手不足を心配して子沢山になることもないし、子沢山になって食い扶持が増えるからいつまでも貧しいってこともない。俺達の世界の農業と違って、理想的な農業の形に思える。

 「検問のところでバーンクロコダイルが増えて困ってるって聞きましたけど」

 「あぁ、奴等は肉食の魔獣だからな。人まで食う奴はやっぱり使役するのは難しいみたいだ。大抵肉食のは討伐対象で、使役してるのはコイツらみたいに草食の魔獣が多いな」

 ん? さっきまで賑やかだった子ども達が静かだと思ったら荷台の上で寝ていた。自由な奴等だな。

 「もし街の事や魔獣の事が知りたかったら、すぐそこに観光案内所がある。そこにいけば大抵分かるぜ。じゃあな」

 「色々教えてくれて、ありがとう!」

 おっさんは俺に言うと少し速度を速め、手を振ってくれた。俺も手を振り返し大声でお礼を言う。子どもらが寝ちゃったから急いだのかな? これから荷を降ろし、自分の停車場に止めて宿に行ってと忙しいのだろう。俺は歩みを止めてぐるっと見渡す。すぐに観光案内所を見つけ、そこに向かった。まずは冒険者ギルドの場所を聞かないといけない。


 カレイセムの街は、西門から入ってすぐに大きな噴水広場になっており、噴水の大理石の彫刻は女神だと思われる女性と水を噴き出している様々な動物が彫られている。あのモチーフになっている動物も魔獣なんだろうか。

 立ち止まり少し離れた所にある噴水を眺めながら、その世界に来た目的を考える。

 俺がここに来た目的は『事前に危険な物や生物を感知するためのスキル』、プレイヤー風に言うと『危機探知スキル』だったか。そしてプレイヤーはその願いを叶える為に、この世界に送り出してくれた。まだ来たばかりで予測を立てるのも早いかもしれないが、この街や人達は魔獣を使役して生活を随分便利にしているらしい。もしここで手に入るという能力が魔獣を使役する力で、感知能力の高い魔獣を使役して、それが君の欲しかった力だよ!って言われたらどうしよう…。と少し不安になる。

 いやいや大丈夫だろ。プレイヤーには言葉で伝えただけじゃなく、俺の脳内のイメージもぼんやりとだがそのまま伝わっているはずだ。その上でこの世界に送り込んでくれたんだから信じて探してみよう。さっきの親子にほんの短い会話でぐいぐいと魔獣を推された上に、この魔獣押しの噴水を見たせいで考えの基準が魔獣よりになっているだけだ。

 まだ来たばかりじゃないか! と心に言い聞かせ、観光案内所の方に歩み寄ると、ごちゃごちゃと考えているうちにそこはもう営業終了していた…。

 

 空を見上げると夕焼けの気配が終わり夜になろうとしている。特に高い西の城壁のすぐ内側なので陰は早く訪れる。人影がないわけじゃないし、誰かに聞けばわかるさと歩き出す。

 噴水広場は西門の壁面を底辺とした半円形をしている。西の城壁沿いに一本道が通っているのとは別に、噴水を中心として三本放射状に道が延びていて、真ん中のがメイン通りのようだ。その一番手前に観光案内所がある。公園に面した場所にはギルドらしき建物が見えないので、メイン通りを進んで探していく。道の端には尖端に灯りの灯った柱が等間隔に並んでいて、足元が暗くなくてありがたい。どうやってあんな高い位置に何本もある街中の灯りをつけて廻るのか不思議に思うが、やはり元の世界より文明が進んでいるということなのだろう。左右の店々も物を売っている店はもう閉まっていたが、店の奥や二階のガラス窓から明かりがもれている。酒場や飲食店も賑わっていて楽しそうだが、まずはギルドを目指す。

 話を聞くには酔ったヤツだと絡まれる可能性もあるし、ウェイトレスのねーちゃんも忙しそうなので、店ではなく歩いてる人に聞く。

 「あのすみません」

 俺に声をかけられて振り向いたのは、商人風の小綺麗だがかなり派手な格好をした若い男だった。

 「ん~? なんだい?」

 彼は俺の下から上までをさっと振り向き様に見て、聞いてくる。

 「冒険者ギルドの場所を探しているんですが、教えてもらえないでしょうか?」

 質の良さそうな細身の紫のスーツに薄いピンク地に細い黒のストライプのシャツ。ツヤツヤの赤茶の革靴。浅黒い肌に髪は濃い緑に黄色が何房か混じり、後ろに撫で付けている。両耳ピアスとネックレス。左右の指には指輪だらけでアクセサリーも満載だ。奇抜過ぎる格好だが、この男には似合って見えた。

 ちょっと難しい相手かなという第一印象だが、どうだろう?

 「ああ、それならここをまっすぐ行ったら中央広場があるから、そこまで行けばすぐに見つかるぜ」

 と思ったよりもあっさり教えてくれたので、俺はお礼を言って去ろうとした。

 「ありがとうございます。助かりました」

 お辞儀をすると、「ちょっと待ってくれないか」と声をかけてきて、周りをキョロキョロ見渡し俺に近付いてきて、今度は小声で話しかけてくる。

 「なぁ、兄ちゃんのソレってバーンクロコダイルだよな? 良かったら少し話させてくれないか?」

 あっさりバレたので、俺は少し警戒モードに入る。相手にもそれが伝わったようで彼も少し慌てた。

 「いやいや、俺は怪しいもんじゃないんだ。ちと商売をやっててね。オレの名前はウェルゾニア。言いにくいならウェルって読んでくれ。さんは要らねえよ」

 俺の警戒心を解こうと、少し離れて両腕を広げるが、俺は態度を変えずに彼を見据える。

 「すまない。俺にはこれがまだなんなのかよくわかってないんだ。それを確める為もあってギルドを目指してる。今はダメだし、この後もギルドでの結果次第なんだ。悪いな」

 「そうか、それなら時間が出来てからでもいい。俺は手広く商売しててね。店も何店舗か構えていて割りと有名なんだ。ウェルゾニアの店って誰かに聞きゃあ誰でも知ってて教えてくれるだろうが、中央広場の北通りに『キィマ』ってレストランをやってる。あんた外国の人だろ? 俺は顔が広いから色々役に立てる筈だぜ。良かったら店に寄ってくれ」

 ウェルゾニアはそう言って小さな四角い紙を取り出し俺に渡してくる。それには彼の名前と店名と場所等が書いてあった。「また会いたいぜ」と言い手を振って去っていく。

 俺はまあ役に立つかも知れないな、と思い紙をポーチに入れておく。ギルドの場所も分かったことだし小走りで道を進んだ。

 今回は二話続けての投稿です。


 やっと冒険者ギルドに到着します。

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