にべもなく
雨が降ったね
雨が降ってるね
そういえば、と言葉を続けようとして
彼女は笑った 寂しそうに
あぁ 悲しいのだ と 思う
最近 と いうよりは もう ずっと
言葉が途切れることが 多くなった かもしれない
それは 気にするほどのこと ではない かもしれない
なぜか 指先が 湿っている
朝露を 帯びた あの小さな花は 何だっけ
そう 薄紫の 星型の花
名前は はじめから 知らない けど
ずっと 幼い頃から よく知っている花
彼女の喉に は それによく似た石が 埋まっている
小さくて 朝になると ふるふる と 揺れる
そういえば、と 彼女は不意に呟く 微笑む
目元は 寂しくて 優しい それが 悲しい
そういえば そういえば そういえば、と 続ける 何だっけ
爪の中に 三日月を 飼っている
けれど 取り出そうとすれば 血 が 流れる
雨のせい だと 言えば それまでだけれども
唇 を 尖らせた 蝶の羽 が 雨に濡れている
重たい羽 を 背負っている そういえば、
彼女は なんでもない 口振りで 繰り返す
瞬きのたび 重たげに 睫毛 が 揺れる
まるで それすら 他人事みたいに 言う 言葉が 途切れ、る
小さくて それは 悲しいこと だと 思う
晴れてきたね、 彼女は それは 仕方のないことだ と 笑う
傘をさすのを 忘れていた けれど
指先に 溜まった 雨の名残
白い太陽が ふるふると 落とす
そして 繋がらない 言葉に ただ 笑いかえす にべもなく