四話 赤ん坊
ダレオの家に滞在して三日が経過した日、
「我はそろそろ帰るぞ.......」
と、ヴィンゼフは何故か寂しそうに言った。ヴィンゼフはこの三日間何かと文句を言えども、ダレオの傍にいたのだ。
「傷は大丈夫か?」
「あぁ、問題はない.......」
終始寂しそうにしているヴィンゼフをダレオは心配していた。
「じゃあ、また会えたらな」
笑顔で見送ろうとしているダレオに比べ、ヴィンゼフは下を俯いたまま一向にダレオに顔を合せなかった。しかし、顔を合わせられない理由は明確であった。
「.......またな? 次が.....次がッ! ないのかも、知れないの......だぞ?」
そう、もう会えない可能性があるということだ。ダレオたち人族とヴィンゼフたち魔族は、敵対関係。これがどういう意味を示しているか誰が見ても分かることであろう。
またヴィンゼフにはもう一つの心配があった。敵対勢力とは別に中でのこと、いわゆる人族にも狙われる可能性があるということだ。魔族である自分を助けたことによる罪の重さは少なからず大きいはずだ。そのことがヴィンゼフにとってはすごく重荷になっていたのだ。
「まぁ、そうかもな。でもよ、俺はヴィンゼフを助けたことに後悔はないぞ」
今までにない真剣な表情、声のダレオにヴィンゼフは少し驚いた。ダレオには、ヴィンゼフの思っていることは全部お見通しであった。
「..............................」
「お前はすぐ顔に出るからよ、バレバレだっつーの」
さらにダレオは言葉を続ける。
「ヴィンゼフはヴィンゼフの道に戻って欲しい。どんなことが待ってようが、俺は絶対にこのことを後悔はしない。ヴィンゼフという一つの命を助けられたことに俺は誇りすら感じる! だからさ、そんな顔するなよ」
ダレオの言葉にヴィンゼフは堪えきれなったのか、涙腺の決壊が壊れた。涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、とことこと歩きたての赤ん坊のように歩き、ダレオの元に戻ってきた。そのままダレオの胸に頭を預けた。
「もう、泣くなよ」
ダレオは少し戸惑いながらもヴィンゼフの頭を撫でた。
ヴィンゼフは辺りが明るくなるまでしばらく泣き続けた。
—————————————————————まるで、赤ん坊のように
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