家族②
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リンとサイソルフィンが部屋を出て行ったあと、一息ついてアンリが話し出した。
「お久しぶりですね、リコ。」
「あぁ。お前は……変わらないな。」
リコの目の前にいる男はその記憶の中の人物と何ら変わらない。
十年といえばかなりの年月だ。リコ自身も年を重ね、子供たちも大きくなっている。
だが、アンリはかぶりを振って答えた。
「いいえ。だいぶ人間らしくなりましたよ。」
「あれから何年経つ?」
「十年です。」
「ずっと、リンを探していたのか?」
「はい。ずっと。」
目を閉じて嬉しそうに語るアンリだが、ここを知るまでの十年はいかほどのものだっただろうか。
リンの片翼であるアンリにはこの十年相当つらかったはずだ。
ふと、アンリの左手に赤い宝玉を有した飾りがあることにリコは気づいた。
「その聖具は?」
聖具。
人はその赤の宝玉をそう呼ぶ。
聖騎士団にのみ装着を許された、対イシュー戦闘の道具の一つだ。
「今は一応聖騎士団に所属しています。情報を集めるには好都合でしたから。時間はかかりましたがやはり聖騎士になってよかった。」
「といいうのは?」
「辺境の村エンロに凄腕の使い手がいると聞きました。その情報から王がリコに特徴が似ていると。」
「フェイが?……だからこの手紙を。」
国王の名を愛称で呼ぶのは、リコがかつてフェイとは関係があったからだ。
その頃はリコはもう一つの"人形"であることを望み、フェイ達と敵対する存在であった。
その後は関係を取り戻し、互いに仲間と認める存在となっていた。
「フェイガロンが貴方に?」
「あぁ、聖騎士にならないかとね。まもなく使いを出すから考えておいてくれとな。まさか使いがお前だったとはな。」
「そうだったのですか……。」
「フェイは、どこまで知っているのか?」
「あの夜のことだけ。」
「では、リンのことは?」
「彼女が"翼"であることは、フェイガロンには言っていません。私が聖騎士団に入ったのは彼のおかげですが、クリス様達の配慮を考えると、その事実を知らせてはならないと思いました。」
「それは賢明な判断だな。」
リコは思わずため息をついた。
どうやら自分の正体が王都にばれただけで済み、最悪の事態は逃れたように感じる。
「それで、いつまで……隠すつもりですか?」
「何を?」
「リンのことです。自分の彼女はまだ自分の出生を知らないのですね。」
「……。」
一瞬の静寂があった。
「リンには戦いとは無縁のところで生きてほしいのだ。」
「でも、彼女は真実を求めます。そして戦いの道を選ぶでしょう。クリス様がそうだったように。」
「それは女神ラーダの神託か?」
「そうとってもらっても構いません。」
「私はただリンが愛しいのだ。自分の子では無くとも……」
そう。リンはリコとマーレイの子供ではない。
先ほどアンリが口にしたクリス―クリス・エストラーダとラルフ・エストラーダの夫妻の子供だ。
二人はリコの夫マーレイの親友であり、仲間であった。
十年前に王都に出現した上級イシュー、つまりイシュラとの戦いにおいて命を落とし、代わりにリコとマーレイがリンを引き取ることとなったのだった。
だが、その事実は伏せなければならない。それが、親友であるクリス達の願いだったのだから。
「アンリ!」
「分ってます。私は時が来るまで待ちましょう。ただ、リンが知りたいと望むのなら場、私は真実を告げると思っていてください。」
「……分かった。感謝する。」
わずかな時間でもいい。少しでも残酷な真実を知るのが遅くなるのであれば。
リコはそう祈るしかなかった。
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