家族①
予想外のトラブルはあったが予定通りリン達はお花見を実行できた。日が傾き夕刻になった頃、リン達は各々岐路に着いた。
「じゃあね!また明日。」
いつもの分かれ道に差し掛かり、リンは笑顔でそう言った。
それを心ここにあらずな表情で生返事をしたカティスの顔を覗きながらリンは言った。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫よ。じゃあね!」
どうしたのだろうか。今日は少しカティスの様子が変である。
でもそんな様子を隠すかのように、カティスは明るくリン達に背を向けて自宅へと歩みを進めていった。
その光景を見て、リンはなぜかとても心配に思った。なんだかわからない不安。
いや、不安というより何かが変わり始めている、そんな予感だった。
「リン、どうしたの?僕たちも帰ろう」
「うん……なんでもない。あーあ、お腹すいちゃった!」
「さっきお菓子たくさん食べてただろう?もうお腹すいたの?」
リンの言葉にサイソルフィンが呆れた声を上げた。
リンの燃費が悪いらしく、人一倍食べても太らない体質のようだ。
育ち盛りとはいえ、サイソルフィンと同じくらいの量はペロリと平らげてしまう。
帰り道、他愛もない話をしながら家に着くと、誰もいないはずの家の電気が煌々とついているのが見えた。
「あれ?今日お母さん仕事じゃなかった?もう帰ってきたのかしら。」
家に向かう足を急がせる。
「ただいま!母さん、もう帰ったの?」
扉を開けると、リコがソファーに横たわっている。
そしてその体は包帯で巻かれていた。ところどころ出血している。
「母さん!?どうしたの!?ケガしたの?!」
村一番の使い手のリコは護衛の仕事でも軽い傷を受けたことがあってもこんなにひどい傷を受けることなどなかったため、リンは驚きを隠せなかった。
「心配ない。……出血はひどいが、大したケガではないんだ。」
「そんなことありませんよ、リコ。もう少し爪でえぐられていたら、失命したかもしれません。」
母親の惨状に気を取られて気にしなかったが、室内に1人の男性がいた。
その青年が真剣な顔でリコに話しかけている。
「……えっと、母のご友人ですか?」
アメジストの瞳を持つ、不思議な雰囲気の青年。
懐かしいような、心をざわつかせるような、人であって人ではない雰囲気。
その端正な顔立ちの青年はリンを見て驚いたように言った。
「リン……ですか!?」
「はい、そうですけど……。」
「リン、会いたかった。」
青年は泣きそうな、それでいて嬉しそうな顔をしてつぶやくと、跪いてリンの手を取る。そして、恭しくその手に口づけた。
「!!!」
リンはパニック状態になった。
何が……起こっている……?
その状況を見て、サイソルフィンが割って入る。
「ちょ、ちょっとなにやってんだよ!……ってかお前誰だよ!?」
「あなたは……サイソルフィンですか?」
「そうだけど、あんたは?」
間に割って入ってきたサイソルフィンを無視するように、青年はリンだけを見つめて少し悲しげな表情になった。
「リン、覚えてないのですか?」
「あなたを……ですか?どこかでお会いしましたか?」
「そうでしたか……。では私との契約も覚えていないのですね。」
「契……約……?」
青年は小さくため息を着くと、少し間を置いて気を取り直した様子でリンに向かって言った。
「……私は、アンリ・ヘルヴォール。貴女の剣です。」
「アンリ……さん?」
「アンリ、とお呼びください。私は貴女のためにある存在。」
「そ、そんなこと言われても……。」
とまどうリンにリコが助け舟を出した。
「アンリ、そこまでにしておけ。リンが困っている。落ち着いたら順を追って話せばいいだろう。」
「……ふふっ、そうですね。今回の要件は別件。まずはリコ、あなたの話でしたね。」
「断る。」
「そう回答を急がなくても。」
「要件はそれだけか?」
「手紙に書かれていたこと。それが全てです。リコ、あなたのことも、そしてリンのことも。」
「手紙……?……私のこと?」
突然の話についていけず、リンは首を傾げながら質問した。
「エンティア国国王、フェイガロンからの手紙ですよ。」
「アンリ!!」
アンリの言葉を遮るようにリコが静止の声を上げた。
「こ、国王からの手紙!?」
「今朝ほど届いているはずですが……」
「えっ!?今朝届いていた手紙?でもあれって父さんからじゃ……」
「リコ……あなたはリン達に何も話していないのですか?」
驚きの表情を見せるアンリの問いかけに、リコは深いため息をついた。
「サイ、リン。夕飯ができるまで部屋にいってなさい。」
「え!?え!?どうして?」
「ここから先の話は大人の話だ。いいから部屋に行きなさい。」
リンとしてはどうやら自分も当事者のようであり、事の顛末を聞きたい思いが募った。
国王からの手紙
謎の青年
なぜ母は自分をこの話題から遠ざけようとしているのか、納得がいかなかった。アンリという青年の口ぶりでは自分も十分話を聞く権利があるように聞こえた。
「リン、行こう。」
サイソルフィンがリンを誘った。
「でも……。」
「いいから。時期が来ればちゃんと母さんも話してくれるだろ?な、母さん。」
「……あぁ。」
「……分かった。」
しぶしぶと言った体で、リンはサイソルフィンと共に部屋を後にした。
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