日常⑤
「そんな!誰よ、私より美人?私より性格がいいの?その人の何がいいのよ!私の方が、サイのことを想ってる。」
「気持ちはありがたいけど……ライカとは付き合えない。」
「まさか、あの子?カティス?」
「……。」
「カティスのどこがいいの?根暗でクラスからも浮いていて、病弱で家族からも見放されている、あんな子のどこがいいのよ。」
「ライカ……。」
心底困った表情を見せるサイソルフィンは、一つため息をついて言った。
「カティスは優しい子だよ。病弱だけど人の悪口なんて絶対に言わない。……だからライカとは付き合えない。」
「そんなの認めないわ!」
ライカがサイソルフィンに抱き着き、そのまま押し倒すような恰好になる。そしてキスをした……ように見えたが実際には寸でのところで、サイソルフィンがライカの口を手でふさいでいた。
「!!」
「ごめん……。」
「わ、私がこんなに想っているのに。こんな侮辱耐えられない!」
パチン
ライカがサイソルフィンの頬を引っ張ったいた。乾いた音が青空に響きわたる。
そして校舎裏からライカは走って行ってしまった。
その様子をリン達は呆然と見守っていると、ズボンの土埃を払いながら立ち上がったサイソルフィンが、リン達の隠れている茂みのほうへと向かってきた。
やばい、見つかる。そっと後退しようとした時だった。
サイソルフィンは、茂みの前で仁王立ちしていて一言言った。
「……そこの三人。出てきなよ。」
観念したように、立ち上がった3人は、まるで猫ににらまれたネズミのように内心おびえていた。
普段何を考えているのかわからないポーカーフェイスのサイソルフィンが烈火のごとく怒っているのがその表情から読み取れた。
「……。」
「覗き見なんてずいぶんと良い趣味だね。」
「えっと……。ごめんなさい……?」
おずおずとリンは謝罪の言葉を口にしたものの、自分はアロイスに連れてこられた成り行き上の問題であり、謝るのも違う気がした。
「なんで疑問形?」
「だって、アロイスが無理やり連れてきたんだもん!!」
「はぁ!?なんで俺のせいになるんだよ。リン姫だって興味津々だったじゃないかよ!」
「あぁ!とにかく。今後はそういうことはしないで。僕より相手に悪いだろう?」
「はぁい。」
ふと気づくとカティスだけが暗い顔をしている。
心配になったリンはカティスに問いかけた。
「カティス。どうしたの?」
「え!?あ、あぁちょっと考え事をしていて……」
その様子を見たサイソルフィンはポンポンとカティスの頭を撫でた。
「さっきのライカが言ったこと気にしているの?」
「え……と。大丈夫。」
「気にしなくていいよ、あんな感情的なセリフ。カティスがいい子だってことは僕たちが一番知っているし。」
「うん……。」
「で、3人そろって人の告白見なきゃいけない用事でもあったの?」
「そうだ!!今日は天気もいいからお花見に行かないかって誘いに来たの。ついでにアロイスも来る?」
「ついでってなんだよ。ったく、姫は俺には厳しいよなー」
もともとの目的を思い出したリンはアロイスも誘うことにしたが、その口調が気に食わなかったのか、アロイスは口を尖らせながらいじけて見せた。
「来るの?来ないの?」
「はいはい、行きますよー」
「カティス、荷物持ちが増えたね」
「えー、俺荷物持ちかよ!」
「いいじゃない、どうせ有り余る体力があるんでしょうし。誘ってもらえるだけ光栄に思いなさい」
いつもの時間が流れる。
馬鹿なことを言い合ったり、穏やかに過ごす日々。
兄がいて、親友がいて、仲間がいる。
リンの中ではそれが世界のすべてだった。
あの運命の出会いがなければ……。




