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果てなきは空の彼方  作者: 天野 みなも
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エピローグ②


どれくらい経っただろうか。


ゆっくりと階段を上がる音を聞いて、リンはうつむいていた顔を上げた。


コンコン


ドアをノックするのはサイソルフィンだろうか。


「なに……?」


涙を拭いていつも通りの声を上げるように気を付けたが、少し掠れてしまっているかもしれない。


「リン、入るよ。」


「サイ……兄さん……。」


「……突然のことで驚いた?」


「ねぇ……兄さんは知ってたんでしょ。私達が血のつながりがないって。」


「うん……僕はその時八歳だったしね。父さんと母さんはクリスおばさんやラルフおじさんと家族ぐるみで仲が良くて。特に父さんとラルフおじさんは親友で子供の頃からの付き合いだったんだって。」


まだ見ぬ本当の父の話をリンは聞きたくなかった。だから興味のない返事をリンはした。


「ふーん。」


「僕たちのこと怒っている?嫌いになった?」


「正直言うとね。なんでこんなことになったんだろうって思った。」


「そっか。」


「でもね……嫌いじゃないの。母さんのことも父さんのことも大好きよ。もちろん兄さんのことも。でもね、なんか胸の中がざわつくの。ざわざわして真実を求めずにはいられないの。」


「お話し中すみません。リン、ちょっといいですか?」


扉越しにアンリの声がした。承諾するとアンリが聖騎士の服を着て入ってきた。


「アンリ、どうしたの?その恰好。」


「事件は終わりました。イシュラが事件に関与している以上、早く王都に帰って報告しなくてはなりません。」


「アンリ、帰るの?」


いつかはアンリも王都に帰るとは思っていたが、あまりに急なことでリンは動揺した。


共に戦い、アンリと共にいた時間は短いものであったが頼ることも多く、リンは一抹の寂しさを覚えた。


そんなリンの様子を知ってか知らずか、アンリはクスりと笑ってリンの正面に立った。


思わずそのアンリの瞳をリンは見上げて見つめた。


「えぇ。一つ貴女に提案があります。……王都に来ませんか?」


「えっ?」


予想だにしなかったことを言われ、リンは一瞬何を言われているか飲み込めなかった。


「貴女が真実を求めるなら、王都で聖騎士になるのが早いです。貴女の本当の父であるラルフ様も聖騎士でしたし。」


自分が聖騎士になる……そうすれば本当の両親のことが分かる。


それにカティスの仇であるウラニアの情報も手に入るかもしれない。


リンは暫く考えて、そして決断した。


「私決めたわ。王都に行く。そして聖騎士になってウラニアを倒すわ。そして両親のこと、調べるわ。」


「はぁ~!?」


傍らでサイソルフィンが声を荒げた。


「ダメだよ!!何言ってるんだよ!!王都に行くって、こんな得体のしれない男信じるわけ?」


「だって父さんは私の本当の両親の行方を捜しているから旅に出たまま帰らないのでしょ?私が本当の両親のことを見つけ出したら父さんはこの家に帰ってこれる。それにね、私知りたいの。真実を。すべてを。」


「だからって……。」


「サイ、ごめん。」


サイソルフィンにもリコにも、リンは自分が受け取った『翼』の力のことは言えなかった。


たぶんこの力を受け入れたことは何らかの意味があるようにリンには思えた。そのためには片翼であるアンリと共に行く必要を感じていた。


サイソルフィンがばたばたと階段を降り、リコに何か言っているようだった。


だが、リコは騒がなかった。止めもしなかった。


「ではリン、支度してください。準備にはどのくらい時間がかかりますか?」


思い出のある部屋を見回す。


持っていくのはごく僅かな衣服くらいなものだ。


「すぐに発てるわ。」


「行くって、今日行くの!?」


慌てて止めようとする義兄を尻目に、リンは黙々と準備を始めた。


「母さんも!止めてよ。」


旅立ちは突然だった。


だけど、立ち止まってはいられない。


ようやくリコはリンの部屋にやってきて、そしてぎゅっとリンを抱きしめた。


「リン。たとえ血が繋がってなくても私達は家族だ。辛くなったらいつでも帰って来なさい。いつでも待っているから。」


「ありがとう。母さん。」


リンは母のぬくもりを忘れないためにぎゅっと抱きしめ返した。


きっとこのぬくもりを感じることは当面できないだろう。


「じゃあ行ってきます。」


リンがそう言うと、リコは名残押しそうにリンを放し、最後に頭を撫でた。


いつもと変わらないぬくもり。リンが本当の子供であろうとなかろうと、本当はどうでもいいことなのかもしれない。


だが、今のリンにはこの家にいることが苦しくもあった。


だからこそ、リンは旅立つことを決めたのだ。



※ ※ ※ ※




「アンリ、ごめん。ちょっと寄りたいところがあるの。」


「いいですよ。」


リンはいつもの丘に登った。


もうあの時のように三人でここに来ることは永遠にない。


リンはカティスの面影を探し、そして一滴の涙を落とした。


あの時、最期にとどめを刺したことは、本当に正しかったのだろうか。


まだ答えは出ない。


だが、リンは一歩を踏み出した。


この先にあるのは激しい戦いだとしても。


リンの前には遮るものの無い、蒼穹の空が広がっていた。


この空の果て、自分が見るものがどうなるか。それは誰も分からない。ただ、真実を追い求めるだけ。


いつかカティスとのことも受け入れられる日が来ることを信じて……。



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