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果てなきは空の彼方  作者: 天野 みなも
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空の彼方①


コツコツコツ。


教会の地下にこんな地下空間があるとは知らなかった。螺旋の階段を果て無く降りていく錯覚に陥る。


真っ暗い闇の中を蝋燭の灯りだけを頼りに降りていく。


下の方に見えていた青白い光がリン達の生末の道しるべのようだった。


やがて突然空気が変わった。


リンとした何かこの世のものではない世界の空気だった。


その光の中を進むと天井が天高く吹き抜ける蒼の世界が広がっていた。


地上にある村の礼拝堂よりも厳かだった。


その先には赤い結晶が壁に埋め込まれているのが見えた。ぼんやりと光るそれは子供の身長くらいの大きさでまるで生きているように脈売っていた。


「リン。あれがコアです。女神の力を感じます。」


アンリが耳打ちした。リンはコアを見つめたまま小さく頷いた。あれを破壊されてはいけない。そう本能が告げていた。あれは何人も犯してはいけない聖域への扉。そう感じた。


そのコアの前に悠然と立つのはカティスだった。


カティスは握ったレイピアの刃を艶めかしく舐めて言った。


「さぁ、リン。殺し合いをしましょう?」


「カティス……。兄さんを放して。今ならまだ間に合うわ!」


「何が間に合うというの?私はもう人ではないの。リンが知っていた私じゃないのよ。」


「でも、カティスはカティスでしょ?優しくて穏やかで、陽だまりみたいなのがカティスでしょ?」


そう、リンにとってはカティスが村で気を許せる唯一の親友だった。


「リンには分からないわ。だって血が繋がってなくても愛してくれる家族がいるもの。」


「え……?」


「カティス!!」


カティスの傍にいたサイソルフィンが制止の声を上げたが、カティスは侮蔑の笑みを浮かべた。


「あぁ……そうだったのね。リンは知らなかったのね。リン、貴方は貰われた子供なの。サイとは兄弟じゃないのよ」


「う……そ……。」


「カティス!!」


「だって本当のことでしょ?」


呆然とするリンを尻目にクツクツと喉を鳴らしながらカティスは笑った。


「なんて顔しているの?私のこと酷いって思う?でもね、私は楽しいの!そのリンの顔が見れて!」


カティスの声もリンには遠くに聞こえた。


自分がもらわれた子供?ということは父も母も本当の両親ではなく、サイソルフィンすら血が繋がっていない。


体が凍り付いたように動かない。


その時だった。


「リン!!」


アンリの言葉に弾かれたように反応したが、カティスがレイピアを片手にリンに攻撃を始めた。


「ねぇリン!!リンは、私のあこがれ。大好き!でも……大嫌い!!」


繰り出される剣戟を何とかかわす。そこにアンリが割って入る。振りかざした短刀をかわしてカティスが間合いを詰める。


「リン!!詠唱を!」




慈悲深き女神ラーダよ

暁の光の如く

その聖なる力で闇を切り裂く力を

我が手に



 「聖具・解放!」



リンの右に一振りの剣が現れる。


今は戦いに集中しなくては。


「アンリは兄さんを!」


そう言われると同時にアンリはサイソルフィンに向かって走り出そうとした。だがその行く手にいつの間にか獣型のイシュー達が現れた。


「くっ!!」


「アンリ!」


「大丈夫です!」


反射的に飛びのいたアンリとリンの前にイシューが立ちはだかる。その奥にカティスが悠然たる笑みを浮かべていた。


「リン。提案があるの。私はアンリさんの血が欲しいの。だからアンリさんを私に頂戴。代わりにサイはリンに返すわ。」


なんていう取引だろうか。


狙いは……アンリだったというわけか?


「なぜアンリなの?血なら私の血をあげるわ!」


「ううん。アンリさんの血じゃないといけないの。だってアンリさんさえいなければ、また三人でいつもみたいにいられるでしょ?私にはアンリさんが邪魔なの。」


「そんな……。」


「ねぇ、こうしましょう!みんなでクグツになればいいのよ。そうすればずっと一緒にいられるでしょ?」


そうカティスの願いはただ一つ。三人でずっと一緒にいられることだった。


「ふふふ……そうよ!!そうしましょうよ!!」


カティスの笑い声が天井の高い地下神殿に響き渡る。それを呆然と見つめるリンに、アンリが声を潜めて言った。


「リン。もうカティスは人間に戻れません。クグツになった人間は理性を無くし、やがてイシュラの命令にしか反応しなくなります。」


「なにか……方法がないの?」


「道は一つです。カティスを殺すこと。それ以外の解放はないでしょう」


残酷な言葉にリンは迷った。


囚われた兄


狂った親友


自分に残された道は……この聖具でカティスを倒すことしかないのか。


リンは息をついた。大丈夫だ。まだできる。


「アンリ。お願いがあるの。アンリはイシューの相手をして。私がカティスを止める。」


「分かりました……。それが貴女の願いなら。」


1、2、3


タイミングを示し合わせてリンとアンリが同時に床を蹴った。


幸いイシューは一匹。アンリにとっては苦戦しない程度の獲物だ。


そしてそのイシューの攻撃をすり抜けてリンは一気にカティスの間合いに入る。驚いたカティスだったが、リンの剣をレイピアで受けた。


鍔迫り合いが続く。


瞬間リンは剣に力を込めてカティスを後ろに押しやった。バランスを崩すカティスだが、とても素人とは思えない身のこなしでリンに再び襲い掛かる。


これもクグツとなったせいだろうか。カティスの体の動きが化け物じみている。


リンはそれを件で弾いたが、カティスは回転を使ってリンの肩に傷を負わせた。


痛みで剣を落としそうになるのを必死にこらえて、リンはカティスに剣を振り下ろした。刃はカティスの柔らかい栗毛を少し切り落としただけだったが、これに危機感を感じたのか、カティスは間合いを取って様子を見始めた。


これがチャンス。

リンは隠し持っていた護符を取り出して叫んだ。


女神ラーダの御名により

哀れな闇の者へ光を与え給え



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