日常④
※ ※ ※ ※
午後の授業後。
リンは付け焼き刃であったが脳内に叩き込んだ記憶をフル回転し、テストを乗り切った。
「もう…………頭がオーバーヒートしそう…………」
机につっぷして嘆くリンにカティスが声をかけた。
「とりあえず終わってよかったじゃない」
「でも…………赤点ではないけど、補習ぎりぎりの点だよ」
「赤点じゃないだけマシでしょ。今日の数時間で覚えただけなんだから。」
「カティスはさすがだね。満点じゃない。」
カティスはリンの言葉に曖昧に笑った。
「ね、今日はどうするの?」
まるでその話題には触れられたくないようにカティスは放課後の予定を聞いてきた。
「そうだね。天気もいいし、お花見もいいね。」
「そうしましょ。いつもの喫茶店で甘いものとお紅茶をテイクアウトしていくのはどうかな?」
「それ、いいね!」
ふふふ、と顔を突き合わせて笑顔になる二人。
「じゃあ、サイにも声掛けなくちゃね!」
「もう授業も終わっている頃だろうから、教室に押しかけちゃおう!」
「え?上級生の教室に行くの?!いつも通り待ってたらいいんじゃない?」
「大丈夫、大丈夫!!」
「あ、リン。リンってば!!」
いつもはリン達を迎えにくるサイソルフィンだが、たまにはこちらから押しかけてみるのもいいだろう。上級生の教室に行くのはいささか勇気がいるがすぐにでも自分達の考えた案を実行したい思いに駆られたリンは、渋るカティスを半ば引っ張るようにして高等部の教室へと向かった。
そんな高等部の教室も午後の授業が終わり、人がまばらな状態であった、
「お?リン姫じゃん。久しぶりー」
声をかけてきたのは、サイソルフィンと仲の良いアロイスだった。
お調子者で、軽薄な感じのする人物ではあるが、面倒見がいいのか、リン以外のことには面倒臭がりのサイソルフィンとは仲が良く、リンもよく遊んだりしていた。
「あ、アロイス。兄さんは?」
「アロイス先輩だろ?」
「えー全然先輩っぽくないし。その呼び方は却下ね」
「リン姫は冷たいあなぁ。それがさぁ、事件なんだって」
吹き出すのを我慢しきれず満面の笑みで耳を貸すように促して来た。
「何よ。早く言いなさいよ。」
「実は……」
アロイスはリンとカティスの耳元で衝撃的な内容を告げた。
「告白!?」
「しー。今裏庭にいるんじゃね?」
「ただ、呼び出されただけじゃないの?」
「いや、あれはどう見ても告白だな。ライカが思いつめた顔してたしな。」
ライカというのは高等部でサイの同級生だったはずだとリンは思い出した。
華やかな雰囲気で、村でも金持ちの部類に入る家柄の娘で、顔も美人の部類に入るだろう人物だ。ただ、プライドが高く、リンはあまり好きなタイプでは無かった。
「ということで、裏庭に行ってみようぜ!」
アロイスがにんまりと笑いながら提案してみた。
正直兄の告白現場など全く持って興味はなかった。ただ、兄があのライカと付き合うとなると、それはそれで複雑なものもあった。なんとなく……あの2人のツーショットは違和感がある。
まぁ、それでも兄が幸せなのであれば、妹としては暖かく見守るべきだろうか。
そんなことを思案していると強引に腕を引っ張られていることに気づく。
「ちょ、ちょっとアロイス!!私は行かないってば!!」
「いいからいいから。」
気づけばカティスも腕をつかまれ、アロイスにリンとカティスが引っ張られる形でとうとう裏庭の茂みまで連れて行かれてしまった。
教会の裏庭にはサイソルフィンとライカが何やら神妙な顔をして立っていた。
それを茂みから見つめる3人。
「アロイス!覗きなんてちょっと悪趣味よ!」
「しー。バレたらまずいだろ!!……うーん。声は聞こにくいなぁ。」
「アロイス先輩、確かに人の告白現場を覗くのは……。やっぱり帰りましょ。」
それまで先輩であるアロイスに気を遣っていたカティスもとうとう口を開いた。
その時だった。
二人のやり取りが風に乗ってリン達のいる茂みのほうに聞こえてきた、
「サイ……、好きな人、いる?」
「……急になに?」
「質問に答えて!」
思わず聞き入ってしまう三人。微動だにできず、思わず息を潜め、目を凝らしてしまう。
「……好きな人か。たぶん……いる。」
リンは衝撃を受けた。
今までそんな話をしたこともなかったし、そんなことを聞いたこともなかった。
誰かに恋している様子も見られず、その事実にリンは内心動揺した。




