残り香⑤
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朝になった。昨日あれほど激しい戦闘があったとは思えないほど普通の朝だった。
気づいたときにはリンは自宅のベッドで起き、その状況を理解できなかったが、現状を認め一目散に戦闘のあった現場に駆け付けた。
その時にはすでに自衛団が現場検証を行っており、見慣れた黄色いロープで規制線が張られていた。
そして今、リンの目の前にはエルマーとゲートルトの遺体があった。
どちらの遺体も致命傷となった傷が痛々しく残っていた。
それから目を背けることができず、リンは遺体の前で立ち尽くしていた。
「私のせいだわ……。」
ぽつりリンが呟いた。
「リン……。」
サイソルフィンがリンの肩を抱きよせた。
「私が……敵を待ち伏せるなんて言わなければ!!エルマーもゲートルトも死ななかったかもしれない!!」
後悔で押しつぶされそうだった。自分の非力さを、浅はかさを、こんなに恨むしかできないなどと。
「それに、聖具を持っていたのに。また私は守れなかった!!」
ジャン達の時は聖具の使い方もその存在も分からなかった。だが今回は戦えたのに自分の実力がないばかりに二人を置いて結果的には逃げてしまった。
「リン、恨むなら僕を恨んで。リンを戦いから遠ざけたかったんだ。リンが悪いわけじゃない。」
そう囁くサイソルフィンにしがみつくように、リンは泣いた。
「リン……。」
ふと傍による人影を感じてリンは顔を上げた。そこにいたのはアンリだった。
「すみません。私がイシュラの相手をしている間に、エルマーもゲートルトを守ることができませんでした。」
「ううん。アンリが悪いわけじゃないもの。……それは?」
アンリの右手に握られた黒衣を認め、リンはそれが何かと尋ねた。
「これは……クグツが被っていた布ね。」
「えぇ。エルマーが最期の力でもぎ取ったようでした。」
その布を受け取るとふわりと香る。独特のこの匂いにはリンは覚えがあった。
「これは……!」
頭の中で何かが弾けた。
第一の事件。第二の事件。第三の事件。そしてこの第四の事件。
繋がらなかった一連の事件が一つの人物によって線となり、今までの違和感が音を立てて崩れていく。そんな感覚だった。
「まさか……嘘。」
「どうしたの、リン。」
「兄さん、私犯人が分かったわ。今からちょっと行ってくる。」
「ちょっと、待ってよ。行くってどこに?まさか犯人のところ?!」
だがサイソルフィンの静止も聞かずリンは走って行ってしまう。
サイソルフィンはそのままリンを追いかけるが、リンはそれすらも気づくことなく一心にかけた。
まさかそんな。
否定したいことばかりだったが、どう考えてもその答えにしか行きつかない。
やがてリンは自衛団に拘束されているアロイスの独房を開けるとアロイスの首を掴んで立たせた。
「お、おい、リン姫。どうしたんだよ。」
驚く顔はいつものアロイスで。だけどそんな様子が逆にリンの神経を逆なでした。
「アロイス。あなたは基盤石がどこに埋められているか知ってたの?」
「なんだよ突然。」
「答えて!!」
アロイスはリンの剣幕に押され、最初は茶化した様子であったが観念したかのようにため息をついて降参のポーズをとった。
「……知っていたよ。一応神官の息子だし。」
「じゃあそれを誰かに話した?」
「……言いたくない。」
「アロイス、これは重要なことなの。さらに二人が殺害された。それにもう村の結界は崩壊するわ。そうしたらさらに被害者が出ちゃうわ!」
「……。」
答えようとしないアロイスにリンは切り札を突き付けた。自分の推理を説明する。
恐らくアロイスは犯人を庇っているのだ。そして犯人は二人に絞られた。
リンの話を聞くとアロイスは力なく崩れ落ちるように床に座った。
それがすべての答えだった。
リンはそれを認めると静かに独房を出た。
「リン。こんなところにいたの?探したんだよ。」
遅れてきたサイソルフィンに構うことなく自衛団の外に出ると雲行きは見る見る間に悪くなっていき、やがて雨が降り始めた。
雨。最初の事件も雨の夜だった。
こんな形であの人物と対峙するとは思わず、リンは自分の手を握る。
「リン?」
「兄さん。行きましょ。きっと待っている気がするの。」
そう。きっと彼女は待っている。自分が来るのを。そんな気がする。
リンはそう思うと彼女に会うために歩みだした。




