残り香④
エルマーはリンが倒れすのを視界の隅で認めた。
初戦とはいえ、戦闘中に意識を失うなどそれこそ死を意味する。
やはりまだ子供だ。
「サイ!リンを連れて逃げなさい!!」
アンリがそうサイソルフィンに指示すると、彼はリンを背負って村への道を走っていった。
だが、イシューはサイソルフィン達など目もくれず、エルマーとゲートルトが集中的に狙われてた。
まだ子供とも見えるクグツは人間離れした動きでエルマー達を翻弄していた。動き自体は無駄だらけだが、確実にエルマー達を傷つける。
まるでなぶり殺しのようだった。
「くそっ!!」
防戦一方では埒が明かない。だが逃げることもできない。ここの基盤石を守らなくては。
ふと、エルマーは戦っていて奇妙な違和感を覚えた。リンが目的だと思っていたのに、狙われているのは自分とゲートルトのようだった。
それに獣型やイシュラでさえも、クグツの援護がメインで積極的に戦っているわけではないようだった。
クグツということは村人。しかもまだ子供だ。
体格では細くてもエルマーの方が上だ。エルマーは剣を打ち付けた。クグツはそれを受け流す。力が拮抗して擦れた刀剣から火花がはじき出された。
鍔迫り合いの後、弾かれたのはクグツの方だった。
その間合いでゲートルトの存命を確認する。
「ゲートルト!!」
「まだ生きてるぜ!」
「そいつは良かった。……こいつらの狙いは……。」
「たぶん……俺たちだな。」
イシューとクグツ、エルマーとゲートルトという陣形になった。月明かりに照らされたクグツに、エルマーは問うた。
「お前の狙いは何だ!!この村の制圧か!?」
クグツは意思を持たないと分かっていながらも聞かずにはいられなかった。満身創痍で息が上がっているが、まだ戦える。少し時間が欲しかった。
「あなた達は……私の大切なものを傷つけたから……。」
それは少女の声だった。
「子供だとは思っていたが、女だと!?」
しかも意思をもって喋っている。クグツではないのか?
「私は、私の意思で、あなた達を排除する。私は力を手に入れた。現在を守る力を……。」
風が吹いた。純然たる黒衣はまるでイシューの羽のように風に舞う。
「あの黒衣がなければ、犯人が分かるのに!」
「決めてやる!!」
「やめろ、ゲートルト!!」
エルマーの静止も聞かず、ゲートルトはクグツに向かって剣を振り下ろした。
すぐにゲートルトの体が硬直した。ドスっという鈍い音がして剣が地面に落ち、すぐにゲートルトの体が地面に吸い込まれるように崩れ落ちた。
「ゲートルト!!」
エルマーの言葉にゲートルトは反応しなかった。異様な角度で顔が曲がる。目を見ればすでに絶命したもののそれであった。
「ゲートルト!!」
もう一度呼ばずにはいられない。相棒が……死んだ……?
「大丈夫。あなたも殺してあげる……。」
再び風が舞った。クグツの黒衣が巻き上げられうっすらと表情が見えた。口元に笑いを浮かべている。返り血で真っ赤に染まった口元をペロリと舐める。
艶めかしいその仕草に、魅入られるというより恐怖で目がそらせない。
ほんの瞬間だった。
雲によって月明かりが遮られ、一瞬の闇があたりを支配した。
「ねぇ、死ぬってどういう気持ち?」
気づけば少女が胸元から顔を見上げている。狂気の視線がエルマーを捉えた。そして胸元に鋭い痛みが走った。
二、三歩、後ろにヨロヨロと下がる。再びあたりが月明かりに照らされると、自分の胸に深々と剣が刺さっているのが認められた。
自分は……死ぬのか?
ごほっと血が逆流して口から吐き出される。エルマーは無意識の内に手を宙に泳がせ、そしてクグツの黒衣を剥いだ。
「おま……え……は……。」
風に乗って黒衣からかぐわしい匂いがした。それはクグツとなった人間には不相応な匂いだった。
そしてエルマーは自分が地に倒れるわずかな衝撃を感じるとともに、視界は朧な月を見上げ、そして光を失った。
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