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果てなきは空の彼方  作者: 天野 みなも
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罪ある者①

見なければ良かったのだ、とアロイスは思った。


あの時見て見ぬふりをしていれば、こんなことにはならなかったのだ。


でも後悔してももう遅い。もう戻れない道を進んでいくしかない。


森と村の境界にアロイスは立ち尽くしてそう思った。


夜の森は不気味で、生き物がじっと息をひそめているかのように感じた。ふいに雲間から現れた月明かりに照らされて浮かび上がるのは人間の躯。


50代と思われる人間2人分の遺体だった。


ふと自分の手を見る。


真っ赤に濡れているであろう手を見つめ、ガクガクと震えそうだった。


気づくと手だけではなく、上着にもズボンにも、至る所に血がついていた。しかも少量ではない、大量の血だ。


それはアロイスの血ではなく、遺体となった二人のものだった。


彼女らに罪はあったのか。それは分からない。ただ、彼女たちは既に死んでしまったことは変えられない事実だった。


問題はこの遺体をどうすればよいのか。村の外に運べばイシューの餌になってこの殺人が隠蔽できるか。


そんなことを考えあぐねていると、遠くの方から声が聞こえた。


「そこにいるのは誰!?」


鋭い口調で問い詰められると同時に、月明かりよりも明るいランプの光がアロイスのシルエットを際立たせた。


ゆっくりと明かりの方を向く。


「リン……姫?」


「アロイス……なの?」


リンは息をのみ、驚いた表情を浮かべた。無理もない。血まみれになって友人が立っているのだ。


そんなことを冷静に思えているあたり、自分はもう狂っているのかもしれない。そんな風にも感じられた。


「アロイス……なんてことを……。」


リンの後に駆け付けたのは神官であるアロイスの父ヨーゼフだった。


ヨーゼフはアロイスの姿とその傍らに横たわる二体の遺体を見て、全てを察し、そして地面に崩れ落ちた。


「親父……。ごめん……」


神官の息子がこんなことをするとは親不孝者だとは思っている。でももう遅いのだ。


あの時の選択ですべてが歪んでしまった。


「確保!!」


リンとヨーゼフの後からばたばたと足音がして、屈強な男たちがアロイスを取り囲んだ。


皆、手には剣を持っていた。それを突き付けられて、アロイスは両手を上げ、降参のポーズをとった。


そしてアロイスは駆け付けた自衛団に拘束された。


後ろでに縛られて身動きが取れない状態だったが、アロイスは抵抗しなかった。ただ、全てを受け入れるかのように、自衛団本部へと移送されることとなった。


※ ※ ※ ※


視界がぼやける。今寝る場合ではないのは分かっているが眠気が酷く、瞬間眠ってしまう。


ここは自衛団本部の一室。先ほど今回のイシュー騒ぎの容疑者としてアロイスの身柄が確保された。


現在アロイスは自衛団の別の部屋で事情聴取を受けていた。


「リン、大丈夫?」


耳元でささやかれ、リンはハッとして目を開けた。


「私……寝てた……。」


その様子をみたサイソルフィンは小さくうなずいた。


「そろそろ朝日が出る時間だから、家に帰れるって。」


昨日は夜にアロイスが拘束されたが、イシューが村にいるかもしれないということで、距離のある家に帰るのではなく、自衛団に身を寄せることになった。


リンとしてはセシルの申し出はありがたかったが、現場検証やアロイスのことをいち早く聞きたかったので好都合だった。


「それで……アロイスは?」


「うーん。だんまりだって。」


「黙秘ってこと?」


「うん。何も喋らないんだって。」


「そう……。」


リンはまだアロイスが犯人だとは信じられずにいた。


それはサイソルフィンも同じなようで渋い顔のまま、二人で壁に背を預けたまま黙っていた。


その時、かちゃりと扉の開く音がして、リンはそちらを見やった。扉から姿を現したのはセシルと……そしてアンリだった。


「アンリ!?」


「リン、大変でしたね。」


「もう釈放されたの?」


「おや、抱きしめて喜んではくれないのですか?」


「は……?な、なに言ってるの?」


不服そうな表情を浮かべるアンリにリンは唖然とした。


「昔は『アンリー』と言って、何かあるとすぐに抱き着いてくれたものですよ。」


もちろんそんなこと全然覚えていない。


「そんな子供のころの話しても、意味ないだろ。」


アンリの様子に少々腹立たしいと思ったような口調でサイソルフィンがため息をついて言った。その様子を見ていたセシルがいつものように腕組みをしながら言った。


「一応自首してきた犯人がいるということで一時釈放ってところかね。」


「……と、いうわけです。」


アンリがにっこりとほほ笑む。


「念のため、この事件が片付くまでは村に滞在してもらうよ。」


「はい。私もまだ用事が終わったわけではありませんし村にいるのは問題ありません。それに……」


「それに?」


「リンもこの事件、もう無関係ではいられないでしょう?」


つまり、リンがこれからも事件を調査しようとしていることを見透かしてこの男はこんなことを言っているのだ。そして、その調査には自分も力になると言っているのだ。


「はぁ……そうね。もう乗りかかった舟だし。それに、アロイスが犯人とは思えないわ。」


「今回ばかりはリンの言うことはもっともだね。」


珍しくリンの提案に賛同したサイソルフィンにリンは驚きながら言った。当然反対されると思っていたからだ。


「兄さんは、調査をすることに反対しないの?」


「アロイスは親友だし。……それに僕も犯人は別にいると思っているから。」


「では、現場検証と行きましょうかね。」


「なんでアンタが仕切るんだよ。」


「アロイスの件は様子を見るよ。現場にはこの証書を持っていくといい。規制線の中の現場も見せてもらえるだろうよ。」


そう言ってセシルは小さなメモを手渡した。



※ ※ ※ ※



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