基盤石の在処③
アロイスを探しに来たリンではあったが、この時間にアロイスがどこにいるか検討もつかず、はてと思っていた。
「うーん、この時間だと家かしら。でもこんな事件があったから野次馬に紛れているかもしれないし……。」
それとも教会にいるかもしれない。
セシルも言っていたが、村の結界が揺らぐ大事件が二度も起きているのに、教会が黙っているわけもない。
とはいっても、教会関係者と言えば、アロイスの父とくらいしかいないわけだが……
その時、事情聴取を終えた用務員のおじさんを見つけた。
「あ、おじさん。」
「あぁ、リンちゃんか。」
用務員のおじさんは少し疲れた様子を見せていたが、リンの姿を認めるといつものように優しく返してくれた。
「おじさん、災難だったね。」
「まぁ……ショックは受けたけど、子供たちが発見しなくてよかったよ。」
リンも遺体は見ていなかったが、あの出血量を見ただけで凄惨な現場だということは安易に想像がついた。
「事情聴取、だったの?」
「あぁ。色々聞かれてね。第一発見者でもないのに、困ったもんだよ。」
おかしい。確かカティスは用務員のおじさんが第一発見者だと言っていた。
「でも、噂ではおじさんが第一発見者だった聞いたよ。」
「確かに自衛団に連絡したのはワシだけど、本当はワシが来る前に生徒がいたんだよ。」
「生徒が?」
「うーんと、なんて言ったかな。ほら、リンちゃんとよく一緒にいる……。」
「カティス?」
「いや少年だ。アロ……」
「アロイス?」
「そうだ、そんな名前だったかな。神官殿の息子さんだろう?」
間違いない。それはアロイスだ。
「アロイス君が最初に見つけたんだと思うんだけど、ちょうどワシとすれ違って。通りざま肩がぶつかったんだけど、それすらも気づかないようで逃げて行ってしまったよ。」
「アロイスが……。それで、アロイスはどこに行ったのかしら。おじさん知ってる?」
「礼拝堂の方に行ったようだよ。」
まだいるだろうか。とりあえず教会の礼拝堂の方に行ってみて、もしいなかったらまた考えよう。
「おじさん、ありがとう!」
そういってリンは礼拝堂へ向かった。
村の学校は教会の何室かの教室で授業が行われる。教会に行くというのはすなわち学校にいくということで、リンにとっても慣れた場所だった。
だが、いつも賑やかな学校内は今日はしんと静まり返っていた。
無理もない。二日も連続で生徒が殺されたのだ。学校は当然休校となりそんな学校に来る生徒がいるとは思えない。
無音のなかリンの足音だけが廊下に響いた。
その時だった。前方に人影を見つけた。
「あれは……アロイス?」
後ろ姿を見てリンはそれを追いかけた。
声を掛けようと思ったがいささか距離がある。しかしアロイスはリンに気づかず先を進んでいく。やがてアロイスは礼拝堂の中に入っていった。
「こんな時間に礼拝堂に?なぜ?」
リンはいぶかしげに思いながら、礼拝堂の扉を開いた。
礼拝堂は神聖な空気に満ちていた。小さな礼拝堂ではあったが、三角屋根の上部から陶器でできた女神ラーダの頬を優しく光が降り注いでいた。
リンは信心深い方ではないが、それでもこの空間は天界の清浄さを感じるに十分な雰囲気を感じられた。
礼拝堂に入ったリンだが、その中にはアロイスがいなかった。
「おかしいわね、確かにアロイスがここに入ったと思たんだけど。」
伽藍洞の礼拝堂の中で、リンはなぜ教会が自衛団に結界の揺らぎを報告しなかった理由が分からなかった。
セシルの口調だと、結界の揺らぎが発生したときには教会が自衛団に報告するのが習いのようだったが……。
そもそも基盤石をどうやってしったのだろうか。どこかにそれが記述されている文書があるのか。
もしそうであればどこにそれがあるのだろうか?
「やっぱり……教会のどっかの部屋にその文書があるのかしら。……学校には生徒が入れない部屋は教員室くらいだし。」
ただ原則的には建物の学校部分は生徒の自由に使えるが、教会の部屋は関係者以外立ち入り禁止の部屋もある。
「忍びこんでみる……とか?」
ふと思ってみた後に思わずくすりと笑ってしまった。たぶんサイソルフィンに知れたらすごい形相で怒られるのが目に見えたからだ。
ちょっと適当な部分のあるリンと異なり、真面目な性格のサイソルフィンなら止めるだろう。兄妹なのにまるで性格が違う。
「さて、ここにずっといるわけにはいかないし、そろそろ戻ろうかしら。」
「なにぶつぶつ言っているの?」
ふいに後ろから声を掛けられ驚いてリンは後ろを振り返った。
「兄さん……。驚かさないでよ。」
「ここにいたんだね。それで会いたい人には会えたの?」
「残念ながら見失っちゃって。」
「そう。それにしても、勝手に走っていかないで。何かあったらどうするんだい?」
「ごめんなさい。実はアロイスに聞きたいことがあって探してたの。」
「アロイス?」
「うん。今回の揺らぎに関しては教会も何か隠していることがあるんじゃないかって思って。」
リンの言葉を聞いて、サイソルフィンはうーんと難しい顔をした。
「確かにセシルさんの言うことを聞いていると何かあるのかもしれないね。」
「でしょ?……ということで、アロイスの家に行ってみようと思うの。」
「分かった。今度は走っていかないでね。」
「はーい」




