基盤石の在処①
鳥の声がアンリの耳について、目が覚める。
もう朝か、とアンリは思った。うっすらと目を開けると格子付きの小さな天窓から朝日が降り注いでいる。
さすがに独房というだけあって、布団もなく、冷たい石づくりの床は体を強張らせた。
ふと耳を澄ますと何やら外が騒がしかった。
何かあったのだろうか……。
瞬時に思いを巡らせる。
真犯人を捕まえたか。それとも新たな被害が出たのか。結界が新たに破壊されたのか。
いづれにせよあまりいい答えは期待できなかった。
すると複数人の足音が廊下から聞こえてきた。
「アンリ、入るね。」
そういってガチャリと鍵が開けられ、外からリンとサイソルフィンとセシルが入ってきた。
「おやおや、大人数ですね。」
「聖騎士さんはきちんと寝れたかい?」
「はい、セシル殿。おかげさまで。」
「それは何より。」
リンはその会話を聞ききながら、持ってきたバスケットからサンドイッチを取り出した。
「はい、アンリ。朝食よ。」
「リン、ありがとうございます。」
微笑むアンリだったが、リンの様子がおかしいことに気づき顔を曇らせた。
「リン、どうしたんですか?」
「あ……ちょっと食欲がなくて。」
「まぁ、昨日の今日だからね。」
サイソルフィンも同感と言った体で返事をした。
「と言いますと?」
「僕もリンも、ライカのことは知っている。特に先日……その……トラブルがあって。それなのに、急に殺されましたって言われても、なんかそういうの受け止められないというか。」
何か先ほどの騒ぎと関係しているのだろうか。
「あぁ、聖騎士さんには言ってなかったね。また事件が起きた。」
「イシューですか?」
「たぶんね。学校でライカ……この子たちの同級生が殺されているのが発見された。」
そこまで言われてアンリは納得したと同時に、少し動揺した。
自分は聖騎士として戦い、多くの死に立ち会ってきた。そしてそれが普通になっていたのだ。
だがリンはこれまで戦いとは無縁の生活を送っていたのだ。そして友人の死に際し、少なからず動揺しているのだ。
それに気づいてあげることができない自分に、アンリは孤独感を感じた。
「すみません……。配慮が至らなかったですね。」
「え?いいのよ。ただ、ずっと胸騒ぎがして。早く解決しないと、もっと被害者が出るかもっていう焦り……みたいなのがあるのかもしれないわね。」
「そうだね。自衛団としてもこのまま見過ごすわけにはいかないね。」
セシルは苦虫を噛み潰したような渋い表情のまま言った。
それを聞き、アンリは一つの疑問に思い至った。
「リン、私が気になっていることを言ってもいいですか?」
「なに?アンリ。」
「イシューは通常群れで行動します。ただしイシュラは基本単独で動き、時としてイシューを従え村を攻撃します。今回の事件はどちらなのかが問題ですね。」
イシュラは人の形をした化け物。その戦闘力はイシューの何倍もある。圧倒的な闇の支配者。
「もう一つ疑問点があります。前回のジャン達が殺されたのはたまたまイシューと居合わせていたと思ったからなのですが、今回のライカ殺人を考えると両者には何か共通点があるように感じます。」
「共通点?」
「えぇ、どちらもリンの知り合いということです。」
「イシュラが僕たちの世代をターゲットにしていると言いたいのか?」
「いえ、サイ。ジャン達が殺されたのは本当に偶然だったのでしょうか?」
「えっ?」
「一回目の事件だけであれば偶然と言えましょう。ですが今回もとなると状況が変わってきていると思います。」
静かに聞いていたリンは、気合を入れてアンリに答えた。
「分かったわ。まずは現場である学校に行ってみるわ。何か手がかりがあるのかもしれないし。」
「ちょっとちょっと待ってくれよ。現場を見に行くっていうけど大丈夫なの?」
「サイ、大丈夫。私無茶しないし。それにサイも来てくれるんでしょ?」
悪戯っぽく笑うリンに、サイソルフィンは大きなため息をついた。
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