第二の被害者④
その一報は朝のエンロ村を駆け抜けていた。
「おはよう。」
眠い目をこすりながらリビングへと降りてきたリンはいつものようにサイソルフィンとリコに挨拶をした。
が、今日は2人は何やら難しい顔をしている。
「どうしたの、二人とも。」
リンの問いかけにサイソルフィンが暗い表情のまま答えた。
「……ライカが死んだ。」
「え?」
言っている意味が分からない。ライカが……死んだ?
「どういう意味?」
「イシューが出たんだと思う。全身の血が抜かれていて血肉を食らった跡が残されていたという。」
「どこで?いつ!?」
「学校で。昨日の夜半だと言われている。」
「学校って……イシューはどこから侵入したの?」
学校は町の中心から離れたところにある。だが町の中にあることには変わらずイシューがどこからか侵入したとは考えにくかった。
「分からない。今、自衛団が現場を確認している。」
リンはそれを聞くやいなや、自室に外套を取るために踵を返した。
「リン!?」
「ちょっと町に行ってくる。」
町の様子がどうなっているか知りたい。それにアンリのこともある。今どういう状況なのだろうか。
「一人では行かせられない。僕も行くよ。」
「うん。ありがとう。」
そんな二人のやり取りを見て、リコが冷静に言った。
「イシューは確かに夜に活動をするが、日中も気をつけたほうがいい。とにかくイシューにあったら護符を使って逃げろ。サイ、分かってるな。」
「うん、母さん。大丈夫だよ。」
「リンはサイの言うことを守れ。決して無茶はするんじゃないぞ。」
「分かってる。」
リンはリコの目を見てしっかりと頷いた。
「アンリにご飯を持っていくといい。どうせ自衛団本部に行くんだろう?」
「あ、母さん。僕がやるよ。」
サイが朝食のサンドイッチをバスケットに3人分手早く詰めた。
その間にリンは身支度を整える。
「じゃあ、行ってくるね。」
「あぁ、気を付けて。」
リコが心配そうに見送るのを見て、リンは気を引き締め家を後にした。
何か大きなことが起ころうとしているような、胸騒ぎを感じながら歩を進めているとサイソルフィンが声をかけてきた。
「そんなにあの男が心配?」
あの男……と言われても、リンはピンとこず首を傾げた。
「アンリのことだよ。気になってるんだろ?」
「あぁ、アンリのこと。まぁ、気になっていないわけじゃないんだけど。」
「けど?」
「確かに得体のしれないところがあって用心は必要だと思う。ただ母さんの知り合いみたいだし、今回のイシュー騒ぎの犯人じゃないと思う。」
「まぁ、そうだね。」
「それよりも、なんか不安なの。何か今までとは違うことが起きそうな、漠然とした不安みたいなのを感じているの。」
「不安?」
「うん。兄さんは感じない?」
「どうだろう。僕はリンが無茶しないかそればっかりが気がかりだけどね。」
「え!?そ、そんなに無茶してないわよ!」
「……夜抜け出してイシューに遭遇したよね。」
「う……。」
「……その当日のうちにまた抜け出してアンリのところに行ったよね。」
「はい……。」
「そういう無茶をするのを止めてくれれば僕ももっとのんびりできるんだけどね。」
「……すみませんでした。」
自分では注意しているが、やはり無茶をしているのは確かだろう。
「リン、強くあることと無謀なことは違う。だから今度イシューと遭遇しても全力で逃げて。」
あの日、自分は逃げることで精いっぱいでジャン達を救えなかった。
だからこそ、次こそは仲間を助けたい。そう思っていたのは事実だ。
それを見透かされリンは顔を曇らせた。
「逃げる……か。うん……気を付ける。でも、今度もし兄さんが襲われたら、やっぱり助けると思う。」
「それはアンリでも?」
「うん。カティスでもアンリでも、兄さんでも。仲間が窮地に陥ったらやっぱり助ける。」
「はぁ。こういうところ、リンは頑固だよね。」
「ふふふ。なら兄さんも私がイシューに襲われたら全力で逃げてね。私なんて構わず。」
「確かに難しいね。」
「でしょ?」
そんな会話をしているうちに村の中心街にたどり着いた。
「狙いは子供か?」
「自衛団は何をしているんだ?」
「犯人は捕まったんじゃなかったのか?」
自衛団の周りには人だかりができており、村人たちが様々なことをいいながら団長のセシルに詰め寄っていた。
「現在調査中なんでね。関係ないものは家にお帰りよ。」
その時、ふとセシルと目が合うと、セシルはリンとサイソルフィンの腕をつかみそのまま本部へと入ってしまった。
「え!?」
「ちょうどいいところに。」
リンは突然のことで驚いているとセシルはにんまりと笑って言った。
「まだ賭けは終わっちゃいないよ。」
「え……だって、アンリの拘束中に事件があったんでしょ?それならアンリの疑いが晴れるってことじゃないの?」
「そう。そこだ。あの男のほかにも仲間がいるかもしれないだろう?」
「自衛団は問題をすり替えているね。」
黙って会話を聞いていたサイソルフィンが異議を唱えた。
「そもそも自衛団の仕事だろ?それをアイツの身を盾にして子供を事件に巻き込むのが自衛団なのか?」
「おっしゃる通り。だが、我が自衛団も人数の制約がある。結界の揺らぎに伴った村の境界線を守護する仕事もある。商人たちの護衛もある。」
「だから僕たちに危ない目に合えと?」
「なに。イシューと戦えとは言っていない。それにリコの娘は自衛団に入りたいと聞いている。これは1つの取引だ。お前たちは犯人を見つける。その見返りとしてあの男の身柄の解放と自衛団への入団を認める。これでどうだい。」
確かに魅力的な取引だ。
「僕としてはリンに自衛団に入ってほしくないし、母さんもそれを望んでいない。」
「だが、当事者のリコの娘はどうやら乗り気のようだ。」
自衛団に入れる。その魅力的な誘いがリンの表情を明るくしたのをセシルもサイソルフィンも見逃さなかった。
サイソルフィンはがっくりと顔を落としてため息をついた。
「それに……これは私の勘だがなにか大きな陰謀のようなものを感じてる。そしてそのことの発端はあの聖騎士にあるような気がするのさね。」
セシルが視線を向けた先はアンリが囚われている先。
その不安はリンも感じていただけに、セシルも感じていることに内心驚いていた。
「ま、これ以上被害者が出ないように、自衛団も調査はする。」
「分かったわ。」
「サイの坊やもいいね。」
サイソルフィンはまだ納得していない様子であったが、ひとまずはアンリに朝食をということでその場は解散となった。




