第二の被害者②
その様子を見て、アンリがほほ笑む。
「……なに?」
「いえ……あまり変わらないなぁと思いまして。」
「変わらない?」
「はい。とても美味しそうにご飯を食べるところとか。」
「がつがつしてる?」
「まぁ……」
そう言って苦笑するアンリを見て、リンは過去のことが知りたくなった。
「ねぇ、アンリ。アンリは私のこと知っているっていうけど、私は全然覚えてないの。」
確かに5歳以前の記憶は定かではないが、それは年を重ねれば普通のことだろう。
だが、アンリほどの印象に残る男性を忘れるような気がせず、リンの心に棘のように引っかかっていた。
「そうですねぇ……こうしてご飯を一緒に食べたりしていたのですが。」
「でもアンリは王都に居たのよね?それともエンロ村に来ていたの?」
「いえ、リンも王都にいた時期があるのですよ?」
「私が王都に!?母さんはそんなこと言っていなかったし。そもそも私はエンロ村しか知らないわよ。」
ずっとエンロ村で生まれ育ったと思っていたリンにとっては寝耳に水の事実だった。
「そうでしたか……。リコは本当に何も言っていないのですね。」
母は何を隠しているのだろうか。
ふと、ポケットに入れていた聖具を思い出す。
そもそも聖騎士の証である聖具が、なぜ父の部屋にあったのだろうか。父は聖騎士だったのだろうか。それであれば辻褄が合う。
「父さんは、聖騎士だったの?それでアンリも父さんと母さんのことを知っているの?」
「そうですね。貴女の推理はたぶんあたっています。でも当時私は聖騎士ではなかったので、半分は不正解ですね。」
確信まで行くとはぐらかされた感じがして、リンはむーんと唸ってしまった。
とはいえ、このまま考えても埒が明かない。とりあえず自分の過去は置いておいて、今はアンリをここから出すことが先決だろう。
「分かったわ。この話はアンリに掛かった疑いを晴らしてからゆっくり考えることにする。」
「そうですね。それがいいと思います。それで……今日はなにか収穫がありましたか?」
脳を切り替える。
今日の行動を振り返ろう。
まず、基盤石の現場を見に行った。そこには破壊された基盤石があった。状況から察するに人間が人為的に壊したことで間違いないだろう。
それに足跡。破壊された基盤石の周囲には残念ながら昨日の雨でほとんどの足跡が流れてしまった。ただ、唯一奇妙な穴が無数に開いていた。
それが意味するのは……
「たぶん、犯人は女。それもハイヒールを履いた人物。」
「ハイヒール……ですか?」
「えぇ。犯人はあのあたりに基盤石が埋められていることを知っていた人物。そしてハイヒールを履いた人物だと思う。あの奇妙な地面に穴が開いた足跡はそうだと思うわ。」
「ハイヒールを履く女性はこの村にも大勢いるでしょう。」
「そうね。少なくとも農家以外の女性……例えば酒場で働いている村人や、学校の先生とか……あとは商売をしている女性なんかはウチの村でもヒールを履いているわね。」
「その中で基盤石が埋められている場所を特定できる人物はいますか?」
「どうやら基盤石の埋められていた場所は普通の村人では分からないらしいの。だから一般の村人ではないと思う。」
「基盤石の知識に触れられる人物……その辺りをもう少し調べると良さそうですね。」
「うん。そうね。あとは……動機も分からないわね。村人なのにイシューを村に引き込むメリットが分からないわ。」
「それは……イシュラだからだと思います。」
「イシュラ?」
聞いたことのない単語に、リンは首を傾げた。
「イシューはたいてい獣の姿をしていますが、まれに人型を取るものもいます。その人型のイシューを通称『人型』あるいは『イシュラ』と呼びます。」
「イシュラはやっぱり人を襲うの?」
「そうですね。普通のイシューに比べ段違いに強いです。まず護符程度では太刀打ちできません。やはり聖騎士の聖具でないと倒せない厄介な敵です。」
「そのイシュラによってエンロ村は狙われている……と。この村の誰かがイシュラであると、そういうこと?」
「はい。イシュラは人間に擬態することができます。ただ、聖具には触れられない。」
「ということは女神の力に触れると弾かれるって事かしら?」
ジャン達が襲われたあの夜。リンを襲ったイシューが聖具の力によって弾かれたのを思い出して言った。
「正解です。」
「で、あればよ。村人に擬態したイシュラは基盤石には触れられないことになるわ。そうするとどうやって基盤石を破壊したのかしら。」
「その辺も調査をしなければならないですね。」
犯人捜しのために必要な情報は次の2点。
①村にイシューを呼び込む理由
②基盤石に触れないイシュラがどうやって基盤石を破壊したか、その方法
既に調査一日目。この調子で調査を進めて犯人に辿り着くのだろうか。
そんな不安や焦りが顔に出ていたのだろうか。
アンリはいつものように微笑みながら言った。
「大丈夫です。前に進んでますよ。」
「うん……。」
とにかく、現状では情報が少なすぎる。明日からは基盤石の情報も掴まなくては。
「さぁ、もう遅くなるからお帰りなさい。」
「分かったわ。」
「ちょうどお迎えが来たようですよ。」
アンリの視線の先に居たのはカティスだった。
「カティス!?どうしてここに?」
「リンの家に行ったら、サイがリンはアンリさんのところにいるって聞いて、迎えに着ちゃった。」
「大丈夫?危なくない?」
「私は平気よ。そんなに過保護にならないで。」
「でも昨日は発作も出ていたし」
「それは過去の話よ。今はどこも悪くないの。」
「でも……」
「とにかく帰りましょう?」
いつものように笑いながら、カティスは帰りを促してくる。
「お気をつけて。」
「アンリも、もうちょっとの辛抱だからね。待ってて。」
「はい。ありがとうございます。リンもくれぐれも無茶はしないでくださいね。」
「分かっている。……じゃあ、行くね!」
「えぇ。」
こうして1日目の調査は終了。リンは自衛団を後にした。
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