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果てなきは空の彼方  作者: 天野 みなも
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変化④


「ただいまー」


家に着いた時にはお昼時間を遠に回っており、日が傾き始めていた。


村はずれの小さな家は、村の中心部からは離れており、若干ながら不便さは感じてはいたが、今日はいつもの帰り道なのにリンはかなりの疲労を感じていた。


ようやく家に帰るとリコが出迎えてくれた。


「お帰り、サイ、リン。」


「なんだか疲れちゃった。母さんはなんか変わったことなかった?」


「それなんだがな、リン。私に何か話すことはないか?」


「話す……こと?」


リンは内心今回のアンリの件を当てられてギクリとした。話すべきか……。でも言えば止められるかもしれない。だが隠しきれないだろう。


リンは覚悟を決めて言った。


「母さん、今日アンリか自衛団に捕まったわ。昨日のイシュー騒ぎの犯人として。結界の揺らぎを起こした犯人だと疑われてよ。でも、私にはそう思えない。だってアンリは私を助けてくれたわ。」


リコはリンの言葉を黙って聞いていた。表情は固く何を考えているのか読めない。だが、リンは自分の思いを続けた。


「母さんもアンリが犯人じゃないって分かってるでしょ?!だから私が助けなくちゃならないの。今度は私がアンリを助ける番なの!」


「だからセシルの賭けに乗ったのか?」


「っ!!なんで母さんがそれを知ってるの!?」


「はぁ……私は自衛団には所属こそしてないが知らない仲ではない。一応状況は理解している。」


「じゃあ、母さんは賭けの事、認めてくれるの?」


「正直に言うと反対だな。」


「でも!」


「でも、お前は犯人捜しを続けるだろう?私が止めても無駄だろうに。」


「じゃあ!」


「あぁ、犯人を探してみるといい。ただし、行動するときは必ずサイと一緒に行動すること。アンリの助言は守れ。自衛団がいるときはその指示に従うこと。これが条件だ。」


「母さんありがとう!」


リンは思わずリコに抱きついた。リコはそれを笑顔で受け止め、その金の髪を撫でて言った。


「あまり、心配かけないでくれよ?」


「うん、気をつける。」


「じゃあ夕食を作ろう。今日はシチューにしよう。出来上がったら夜になる前にアンリにも届けてやるといい。そのくらいならセシルも文句は言うまい。」


「そうね、きっと食べ物も与えられず監禁されてると思うし。」


そんな二人のやり取りを聞いて、サイソルフィンが食事作りを促した。


「さっさと作らないと日が暮れちゃうよ。」


「はーい。」


リンはそう返事をすると、台所に向かった。それを見たリコがそっと立ち上がりサイソルフィンの耳元で囁いた。


「あぁは言ったがリンは一つの物事に集中すると周りが見えなくなるからな。自衛団が護衛兼監視でついてくるから大丈夫かと思うが頼んだぞ。」


「母さんはこの事件、犯人がみつかると思う?」


「まだなんとも言えんな。ただイシューと遭遇することがあれば全力で逃げろ。お前に護符をやるが護符はイシューを足止めするに過ぎないから気をつけろ。」


「分かった。」


すると台所の方からリンが声をかけた。


「サイ、手伝ってー。あ、母さんは休んでていいからね。」


「はいはい。」


「兄さん、はいは一回!!」


「はいはい。」


「ほらまた!!」


とうとうリンが台所から姿を現わす。両手に持ったジャガイモと人参をサイソルフィンに預けると、問答無用で台所まで連行する。リンはぷりぷりと怒りながらジャガイモの皮をピーラーで剥く。その横でうんざり顔でサイソルフィンは人参を器用に包丁で皮を剥いていく。


その様子をリンはまじまじと見つめた。


「なんだよ、リン。」


ため息まじりに聞く。どうせしょうもないことだろう。そう言う雰囲気をサイソルフィンは醸し出していた。


「ん、さすが兄さんは皮むきが上手いなぁって思って。」


「はあ?そんなこと?」


「私はピーラーじゃないと皮むきできないもの。……練習すれば上手くなるかしら?」


「そんなのピーラーで剥けるならいいじゃない?」


「だって包丁で皮むき出来た方がカッコいいもの。」


「料理に格好良さなんて関係ないだろ。」


「私もやって見たい。」


「分かったよ。気をつけて。」


そう言って手渡された包丁を右手に握りしめ、左手には人参をもって、いざ皮むきに挑戦する。


最初は薄く細く人参が剥かれる。だがすぐに途切れてしまう。次は少し厚めに向いてしまいやはりすぐに切れてしまった。


「それじゃあどっちが皮でどっちが実か分からないよ」


サイソルフィンが呆れ顔で言う。


「い、今のは練習!これからだから!!」


「指、気をつけて。」


「分かってる!!」


真剣な表情でリンは再び包丁を強く握りしめる。ゆっくりと人参に刃を当てて、剥き始めた時だった。チクリと親指に痛みが走る。思わず包丁から手を離す。ゴロンと人参が落ちる音と、カチャリと包丁が落ちる音がリンの耳に届く。


気づけば親指からは真紅の血が一滴流れていた。


「痛いっ!!」


「だから言ったでしょ!!」


サイソルフィンが慌ててリンの手を掴んだ。


そして素早く台所にあったタオルを傷に充てがう。白いタオル地がみるみる紅く染まっていった。


「とりあえず消毒して。ほらほらここぎゅっと抑えて。」


「ごめんね、兄さん。」


幸いハミルトン家では、剣の稽古やリコの仕事、活動的なリンの行動などで生傷が絶えないため、軽傷であれば十分対応できるスキルがサイソルフィンにはあった。


今回もお手の物で、リンをリビングに招くと、手早く処置をした。


サイソルフィンが消毒液を吹きかけるとリンは痛みに顔を歪めた。


「痛い……。」


「そりゃそうでしょ?切り傷だもの。思ったより傷は浅いみたいだね。ほら、もう大丈夫だよ。暫くすれば血も止まると思うし。」


そう言いながら処置を終えたサイソルフィンが、薬草を片付けながら言ったのを聞いて、リンは何かを思い出しかけていた。


それは、不思議な感覚だった。


懐かしいような、もどかしいような、そんな感覚。


「リン?」


突然ぼうっとしたリンを見てサイソルフィンが尋ねた。


「あ、なんでもない。」


「そう?後は僕が料理つくるから、リンは待ってて。」


「でも!」


「いいから。これ以上怪我人が増えるほうが心配だよ。」


「……分かった。部屋で休んでるね。」


そう言ってリンはリビングから出ていくこととなった。



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