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果てなきは空の彼方  作者: 天野 みなも
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変化③

コンコン


軽いノックの音がして、外から呼びかけられる。


「リコ、いるのかい?」


声で誰が来たのかはすぐに分かった。リコは包帯で不自由ながらゆっくりと体を起こしドアに向かって声をかけた。


「セシルか?鍵は開いている。入っていいぞ。」


そう声をかけるとドアがキイと鳴りながら開き、見知った顔が入ってきた。


「気分はどうだい?」


「早く治って身軽になりたいものだな。」


セシルはドアに背をもたれながら、腕を組んで言った。


「まぁ、そう言うな。今まで仕事で家も空けがちだったんだから、たまには家族サービスでもしな。」


「まあな。それより見舞いに来た、という訳ではないだろ?」


本題を促すリコにセシルの顔つきが変わった。


「今日、アンタの娘と聖騎士を名乗る男が自衛団本部に連行されて来た。」


「リンが……?まさか結界の揺らぎを起こした犯人だとでも?」


「まさか、そうは思って居ないよ。ただ、聖騎士団を名乗る……アンリ、だったかな?あいつはまだなんとも言えない。」


「アンリが?それはない。あいつは本当に聖騎士だ。」


「その証拠は?」


「聖具と聖騎士の正装と……。」


言い淀んだリコにセシルはその先を促した。


「それと、なんだい?」


「いや、それで十分だろ?」


「……。リコ。私はアンタを信頼している。その腕もこれまでの実績も、共に戦った仲だしね。でも今回の件はシビアな話だ。結界が揺らいでいる以上いつイシューに侵入されてもおかしくないんだよ。」


「分かっている。」


「じゃあ、隠し事は無しだ。」


しばらく沈黙が続いた。公にすればリコ自身隠していた事が明るみにされてしまう。


戸惑うリコをセシルはじっと見つめた。


やがて沈黙を破ったのはセシルのため息だった。


「分かったよ。どうやらとんでもない事が隠されているようだね。」


「……すまない。」


「まぁいいさ。こっちも謝らなくちゃならない事もあるしね。」


「ん?なんだ?」


何か嫌な予感がする。リコはそう直感した。そしてセシルの次の言葉を聞いて、その予感は実現された。


「あの聖騎士さんの疑いを晴らすために一週間以内に結界を揺らがせた犯人を見つけるようアンタの娘と賭けをした。」


「なんだと?!お前は他人の子を勝手に事件に巻き込んだのか!?分かってるか?相手はまだ子供なんだぞ?」


「まあ、そんなにカッカしなくてもいいだろう?あのままではアンタの子も犯人にされてたところだったんだよ。」


「で、リンは引き受けたんだな。」


「ご明察。なかなか面白い子だね。アンタにはあまり似てないけどね。」


リンのことだ。自分の事を助けてくれたアンリを放って置けなかったのだろう。


「それに、今は何かに集中しないとたぶんあの子は潰れる。」


セシルは冷静だ。その指摘はリコ自身も思っていた事だった。リコはなるべくリンを日常に戻す事で、この事件から遠ざけたかった。反対にセシルは今ある問題に向き合う事であの惨劇を忘れさせようとした。たぶんそれはどちらもリンを慮った行為だがどちらが正解ということはない。いや、強いていうならリン自身が決めることだろう。


そして、リンは向き合うことを選んだ。


「……全く、あの子らしいな。ただ、子供達を危険に晒すのは困るな。」


「まぁ、身の安全は守る必要があると思ってね。ウチのエルマーとゲートルトを見張りにつけるつもりさ。」


確か二度か三度くらい同じ仕事をした自衛団のメンバーだ。エルマーというのは長髪の切れ目の男で、ゲートルトは額に大きな傷のある男だったか。


「何故その二人なんだ?腕の立つのは他にもいるだろう?」


「まぁ、これは自衛団の問題でね。丁度奴らが夜勤で自衛団本部に居たのに結界の揺らぎに気づかずに酒を飲んで居たんだよ。彼らには汚名返上の機会を与えてやりたくてな。」


「それは優しい事だな。」


リコは皮肉交じりに言ったが、セシルは悪びれもせずに豪快に笑って言った。


「奴らも自衛団の端くれだ。それなりに対イシュー戦闘の経験もある。」


それでもやはり心配は拭えない。自分が全うに動ければリン達を直接守る事も出来たのだが、それがこの傷の所為で叶わず、リコは悔しみのあまり奥歯を噛み締めた。


「ま、報告したいのはそのくらいか。後は情報は適度に教えてやってもいいよ。」


「適度に?」


「判断はアンタに任せる。これ以上娘を危険にあわせたくなければ何も言わずに黙っていればいい。そうすればアンタの娘の捜査は行き詰まって、あっという間に一周間が過ぎる。あの聖騎士さんは処刑になるが、仕方がない。だけど、もし娘の願いを叶えたいなら基盤石の事を教えてもいい。」


「基盤石が埋められている場所は私も知らない。……教会か。でもあの場所は秘密の場所だし、私自身も入った事などないが。」


「ま、そうだろうね。私だってなかなか入ることはないさ。ただ、それを教えることで何かが変わるかもしれない。」


「分かった。状況を見て考えることにする。アンリとは旧知のなかだからな。処刑されるのは夢見が悪い。」


「じゃあ、後は任せたよ。団長という立場上、私はあの聖騎士さんを助けることは出来ないんでね。ま、捜査は私もするけどね。」


「あぁ、分かった。」


リコの返事を聞くと、セシルはヒラヒラと適当に手を振ってそのまま部屋から出て言った。


再びの静寂が部屋を支配する。リコはしばしセシルの出て行ったドアを見つめ、小さくため息をついた。


「さて、どうしたものかな。」


リンを事件から遠ざけたい思いと、アンリを救いたい思いと。


「クリス、お前の子供達は、なかなか厄介だぞ。お前に似て真っ直ぐだな。」


思わず愚痴が漏れる。


どこかで誰かが笑ったような気がした。




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