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果てなきは空の彼方  作者: 天野 みなも
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疑い③

自衛団から解放されたのは昼過ぎだった。朝早く、低かった太陽は頭上に登り、雨上がりの空に燦燦と照り輝いていた。


「リン!!大丈夫だった?」


そう言って来たのはサイソルフィンとカティスだった。二人ともずっと外で待ってたのだろうか。二人はリンを認めると、自衛団本部の向かい側にあった木のそばから走って駆け寄って来た。


「サイ、カティス、待っててくれたの?ありがとう。」


「あんな連れ去れ方されたら心配にもなるよ。で、あの男は?」


「それがサイ、聞いてよ!!自衛団の人はアンリを犯人に仕立て上げようとしてるの!」


「待って、状況が分からないんだけど。」


「まぁ、詳しくは後で話すけど、今はアンリの無実の証明をしなくちゃならなくて。」


「あんな男ほっとけば?」


「サイ、そんなこと言わないで。アンリは昨日私を助けてくれたの。その借りは返さなきゃ!」


「またまた、面倒なことになったな。それで?僕たちにもあの男の無実を証明するために力を貸して欲しいのかい?」


「さすが兄さん、分かってる!」


そのリンの言葉を聞いて、サイソルフィンは大きなため息をついた。


「分かったよ。」


「ありがとう、兄さん。」


「私は反対よ!」


いつもは穏やかなカティスが声を荒げて反論した。


「カティス?」


「だって、危険よ!いつ犯人がリンを狙うかもしれないし、またイシューに襲われるかもしれないでしょ?アンリさんには悪いけど、リンが危険を冒してまで助けるのは無謀だと思うわ!」


「カティス……。でも、私は私を助けてくれたアンリを助けたいの。多分それが出来るのは私しかいないから。」


「お願い、リン。よく考えて。私はあなたが危険に晒されるのは見たくないの。」


「ありがとう。でも、私はやるわ。」


「そう……。私が言っても聞いてくれないのね。」


それまでカティスはリンの腕を掴んで一生懸命訴えたが、それが叶わないと知ると伏し目がちに呟いた。


「私は、ただ三人でいたいだけなのに。」


「え?」


その時だった。ヒソヒソと話し声が聞こえて来た。見れば50歳くらいの主婦と思われる女性がこちらを見ながら何やら話している。


「あの子よ、昨日の生き残り。」


「よく生き残ったわね。」


「なんでも、イシューを引き込んだ犯人だとか。」


「おぉ、恐ろしいわ。自衛団がよく野放しにしてるわね。」


ふと、リンと目が合うとそそくさと主婦達はどこかに言ってしまった。


セシルが言っていたのはこういう事だろう。犯人が見つからなくては村人達は誰かに罪を擦りつけてでもしないと安寧の日々が来たと思えないのだろう。


「なんなの!?あのオバさん!」


怒りで声を震わせたのはカティスだった。今までとは違うカティスの反応にリンとサイソルフィンは戸惑い、顔を見合わせた。


「カティス、どうしたの?今日のカティスは変だよ?」


リンが思わず言うと、カティスは今までの怒りはどこに言ったのか満面の笑みを浮かべた。


「私は今までの私を辞めたの。新しく自分の意思で生きないと。だからね、リン。今度は私がリンを守ってあげる。リンとサイとずっと三人で居られるように……。」


そう言ってカティスはリンの手を握りその瞳を見つめた。


「う、うん……。」


戸惑うリンであったが、カティスの確固たる意志を持った瞳に囚われて目が離せない。それはなんとなく狂気すらも感じられ、リンは身動きさえ取れなかった。


「それで?リンは結局どうするの?」


サイソルフィンが二人をみながら軽くため息をつきながら言った。


「カティスには悪いけど、私も譲れないの。アンリを助けるわ。」


「そう……。そうまでするなら自由にするといいわ。でも、私は手伝えない。」


「うん。カティスには迷惑掛けれないし。体調良くなって来てても無理はいけないから。」


「じゃあ、私は先に帰るね。」


「もう?」


「うん、寄りたい所があるの。」


「そう?気をつけてね」


そう言ってリンはカティスと分かれた。ふと、気になってリンはカティスの方を振り向いたが、カティスはズンズンと早足で進んで居た。が、その顔には不敵な笑みが浮かんでいることには、リンは気づく由もなかった。


※ ※ ※ ※


今日はいい天気だ。雨上がり特有の空気を感じる。澄んでいて晴れ渡るような、心から新しく何かが芽吹くようなそんな気分。


あんな事件があった後だというのに気分は高揚している。いや、あの事件があったからか。


思わず鼻歌を口ずさんでしまい、カティスはハタと気づいた。自分が笑っていることに。


「ご機嫌ね、カティス・レイノー」


学校の医務室に向かうといつもの席にウラニアが居て、嬉しそうに声を掛けてきた。


「ウラニア先生。」


「もう体の調子はいいのかしら?」


「えぇ、すっかり。今ままでは鉛を着込んだみたいな体だったけど、今は空も飛べそうなほど軽いんです。」


「そう、良かったわ。…で、何か用かしら?もう薬は必要ないでしょ?」


「はい。でも私、先生のお役にも立ちたいんです。」


「そう…可愛いこと。」


ウラニアは徐に立ち上がり、カティスの栗毛の髪を一つ掬った。


怪しげに歪む唇は妖艶で、同性であるカティスでさえドキドキしてしまう。


「そうねぇ。これから先はカティスが頼りなの。」



―…ヲミツケテ…―


「それは…!!」


「大丈夫。貴方ならできるは。だって私の可愛い生徒よ。できるわ。」


その言葉は絶対だった。


あの夜からウラニアの言葉に逆らえない自分がいた。それが変なことなのかもわからなくなっていた。


ただウラニアの命に従うのみ。絶対服従の関係。


「分かり…ました…」


「もう戻れないのよ。分かってるわね。」


「はい…。」


そう、もう戻れないのだ。だけど自分は守りたいのだ。この気持ちがどんなに歪んだ気持ちだとしても。



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