疑い②
それは街に入った時に起きた。
「リン・ハミルトンだな。」
「あなた方は確か……」
見覚えのある顔の男2人がリン達に声をかけてきた。1人は長い髪をポニーテールに纏め、切れ長の目が印象的な男だった。もう1人はがっしりとした体格で、鷲鼻で、額に古傷のある男だった。歳の頃は2人とも二十代半ばと言ったところだろうか。
「昨日の自衛団の方ですね。はい、私がリン・ハミルトンですが。」
そうリンが答えると、自衛団の男達は互いに目配せをして、小さく頷いた。
「昨日の事で詳細な事情が知りたい。自衛団本部まで来てくれるね?」
切れ目の男が言う。意思を問うているがリンには拒否権がないような、有無を言わさない圧力を感じた。
「そして、あんたもだ。一緒に来てくれ。」
今度は古傷のある男がアンリに向かって言った。
「私……ですか?」
「あぁ。」
「いいですよ。もとよりリン1人では行かせるつもりもありませんでしたし。」
「おい、ちょっと待ってよ。僕も行くよ。」
「なら、私も。」
「いや、この2人だけでいい。君達は家に帰りなさい。朝とはいえ、何かと物騒だ。」
サイソルフィンとカティスも同行しようとしたが、自衛団の男達に阻まれた。
「さっ、行くぞ。」
アンリとリンは男達にがっちりと肩を掴まれ、半ば連行されるように連れて行かれてしまった。
「ちょっと、待ってください。」
追いかけるサイソルィンを傷のある男が振り払う。バランスを崩したサイソルィンが、放り投げられるように地面へと倒れ込んだ。
「サイ!!大丈夫?」
カティスが駆け寄る。
「カティス、サイ、大丈夫。事情説明すればいいだけだし。すぐ戻れるから安心して。」
「リン……。」
カティスとサイソルィンはそれを見送るしかできなかった。
自衛団本部に着くとすぐ通されたのはある一室だった。だが通されたのはというにはあまりにも乱暴だった。
「ほら、入るんだよ!!」
古傷を持つ男が乱暴にアンリを部屋に放り込んだ。
「アンリ?!」
「ほら、お前もだ!」
続いて切れ目の男がリンを部屋に押し込む。部屋は煉瓦で作られており、窓は手が届かないほど高くに小さなものがあるだけだった。そして、窓には鉄格子がはめられていた。扉は木製だったが、見張り用なのかやはり格子付きの小さな小口が目線の高さについていた。
明らかに尋問をするための部屋だ。
その部屋にリンは押し込まれバランスを崩した。それをアンリが優しく抱きとめた。
「リン、大丈夫ですか?」
「う、うん。ありがとう、アンリ。」
男達の態度の豹変ぶりに内心動揺しつつ、リンは答えた。
「お前、村の者じゃないな。」
切れ目の男が話の口火を切った。アンリを見つめながら冷たい視線で問いかける。
「はい。」
「いつからこの村に来た?」
「3日前からですね。」
「目的は?」
「それは言えません。ただ言えるのは聖騎士としてある任務があったからです。」
「お前が聖騎士?」
意外な回答に男達の表情が変わった。
「はい、そうですが。」
「制服はどうした?その格好は制服じゃないだろ?」
「まぁ、色々ありまして。村では目立つということで、今はこの格好を。」
「怪しいな。」
「というと?」
「お前がラーダの守りを弱めたんじゃないか?」
「私が……ですか?まさか。」
「しらばっくれるのもいい加減にしろ!!」
それまで黙っていた古傷の男が怒鳴ると、突然アンリを殴った。
「お前がラーダの守りを弱めて、イシューを呼び込んだんだろ!?」
「アンリ!?」
吹き飛ばされたアンリにリンが駆け寄る。
「大丈夫です。」
「でも、血が……。」
「口を少し切っただけです。」
アンリはそう言うと口から出た血を拭った。
「アンリが聖騎士なのは本当です。私がその格好では目立つからと着替えてもらったんです!」
リンがたまらず反論すると、古傷の男がリンの胸ぐらを掴み、無理矢理立たせた。
「お前もこいつの仲間か?お前もイシューなのか?」
「く……苦しい……。」
「リンからその手を離してください。」
ふらりと立ち上がったアンリの目が冷たく、今までの紳士的な様子とは打って変わった様子に男達のもリンも驚いた。
「な、なんだよ。やろうって言うのか!?」
「一つ忠告します。リンに何かしたら、あなた方の命はないと思ってください。」
「くそっ!」
その言葉を聞いた男は、リンを乱暴な突き放した。
「ゲホゲホっ」
「リン、大丈夫ですか?」
「え、ええ。」
「あの時既にラーダの守りは揺らいでいた。それを検知できなかったのは、あなた方の怠慢なのでは?」
「うるさい!!」
図星を指されたらしく、男達がアンリを再び殴ろうとしたのをアンリは軽く受け流し、古傷の男の腕を後ろ手に締め上げた。
「うあああ。」
苦痛のあまり古傷の男の叫び声が部屋中に響いた。
するとその時だった。
「その辺で止めときな」
凛としただけど凄みを感じさせる女の声がアンリを抑止した。
「団長……。」
アンリから解放された古傷の男は床に倒れながらその女を見た。
赤髪を無造作にまとめたリコくらいの歳の女だった。だが、眼光は鋭く、露出した胸元には大きな古い傷跡が残っていた。
「私はこの村の自衛団団長セシルだ。お前はリコの娘だな。」
「は、はい……。」
「ほう。随分見ないうちに大きくなったな!それで、この男とはどんな関係かい?」
「母に用事があってここに来たみたいです。そして昨日のイシューが現れた時、助けてくれました。」
「そもそもなんであんな夜更けに子供達だけでよりによってあんなところにいたんだ?」
リンはジャンとタングの件について簡単に説明した。
「なるほどね。ただラーダの守りが揺らいでいることに気づかなかったのは私達自衛団の落ち度だ。だが、ラーダのは守りが揺らいだ原因はかならずある。しかもイシューが出たのはこの男が来てからだ。容疑者というのは妥当だろう?」
「つまり、ラーダの守りを弱くし、イシューを招き入れた人間がいるってことですか?そしてそれはアンリだと?」
「流石リコの子だな。話が分かる。」
セシルは満足そうに言った。
「アンリは私を助けてくれたわ。犯人ではないわ!」
「でではこうしよう。もし、お前がこいつの無実を証明できたのなら、こいつを自由なしよう。」
「な……。」
「どうだ?できるかい?」
突然の申し出に動揺し、リンは目を剥いた。セシルの問いかけに、自問自答する。
アンリのことを信じられるか?ただならぬこの男のことを。だが、なにかアンリには懐かしいような不思議な気持ちにさせる何かがある。母親とも面識があるようだったし、素性は確かなのかもしれない。
そして自分は真犯人を見つけることができるのか?それだけの能力があるか正直不安だ。出来なかったらアンリは一生とらわれの身、もしくは死罪。人の命がかかる重要な仕事だ。
「リン?無理しなくてもいい。私は大丈夫です。」
アンリはいつものように微笑んだ。それを見て、リンは覚悟を決めた。
「……分かったわ。やる。絶対に犯人を見つけるわ!」
「ほう?面白いねぇー。じゃ、やってやろう。期間は一週間だ。」
「一週間……。」
あまりのんびりしている暇はないようだ。
「村人は昨日の惨事で怯えてる。それにジャンとタングの親が納得していない。今すぐにでも、犯人を八つ裂きにしたいといってやっきになってる。誰がなんの目的でこんな事をしたのかは分からないが、犯人を見つけられなければ村は混乱のまま治らないだろう。」
「分かったわ。」
「では、お手並み拝見といこうかね。」
セシルは挑発的な笑みを浮かべて言ったのだった。
その光景をみてアンリは心配そうにリンを見つめて言った。
「リン、信じてくれてありがとうございます。私は大丈夫です。」
「でも、無実の罪で処罰されるなんて黙ってみてられない。」
「本当に、貴女という人は仕方のない人ですね。分かりました。でもリン、決して無茶はしないでください。そして、サイと協力してください。貴女一人ではまたきっと無茶をするでしょう。」
「分かったわ……。」
アンリの真摯なまなざしを受け、リンは小さく頷いた。
「さっ!賭けの始まりだ!気張って行ってきな!!」
こうしてリンはセシルに押し出されるように自衛団を後にした。
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