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果てなきは空の彼方  作者: 天野 みなも
21/56

選択②

※ ※ ※ ※


「リン、僕はね、怒ってるんだよ。」


それはリンが今まで見たことのないくらいの怒りようだった。


「でも!!」


「でもじゃない!今何が起こってるか分かってる?もし、こいつがいなかったら、リン、君はここにいなかった。死んでたんだよ!」


「……!!」


サイソルフィンの瞳には憤りと安堵が見えて、リンは何も言えなくなった。


俯くと自分が血に塗れていることに気づいた。


目の前で失われた命。


初めて見るイシューに自分は手も足も出ないどころか逃げるだけで必死だった。


使い手になりたい。母の様になって村を守るだなんて、なんていう思い上がり。そんな実力も度胸もないのに。


アンリがいなければ自分もイシューの餌食になっていたのだ。


その事実を認めたら急に涙が溢れてきた。


「ごめ……んなさ……い……。」


あまりの事の重大さを感じて、リンはどうしようもなく、ただ泣くしかなかった。


ポツリポツリと地面に涙が吸い込まれていく。


「サイ、もういいでしょう?リンにも事情があっあのだと思います。それに貴方に心配をかけたくなかったんでしょう。ね、リン。」


アンリの言葉にただ泣きながらリンは頷くしかなかった。一度泣くと涙が止まらない。


その様子を見てサイソルフィンはリンを抱きしめた。


「でも……本当に無事で良かった。」


「おおーい、大丈夫かぁ?!」


遠くから声がする。やがて茂みから自衛団の団員が数名でてきた。


「サイソルフィン、状況は?」


「やっぱり結界の歪みはこの館近辺に起因しています。」


「そうか……。被害者は他にいないか?」


自衛団の男がリンに問いかける。リンは言葉を紡ぎたかったが、嗚咽を堪えるのに必死でうまく言葉にできなかったがなんとか返答した。


「二人……イシューに連れ去られました。」


「なんてことだ!」


「助けてあげてください!」


ジャンもタングも仲が良かったという関係では無かったが、それでもクラスメイトだ。自分が助けられない以上、使い手で構成される自衛団に頼るしかなかった。


「見回りを兼ねて周辺は捜索するが、状況からして生存は厳しいだろうなぁ。」


自衛団の面子も渋い顔をしながらそう言った。


「そんな……。」


「君達はまず帰りなさい。リコも心配をしてるだろう。」


「……でも。」


まだ食い下がるリンの肩にアンリがそっと手を置いた。


「リン、ここは帰りましょう。いつまたイシューが来るとも限りません。その時は私とて貴女を庇って戦えるか分かりません。いいですね。」


元は自分に原因がある。ここはアンリの言葉に従うしかないだろう。リンは俯いたままアンリに促されるように家路へとついた。



※ ※ ※ ※


家に帰ってお風呂に入り直してから自室のベットに潜り込むが眠れない。


体にまだ血の匂いかついている気がする。


目を閉じればジャンとタングの事が思い出されて目を開けてしまう。


「私が……強ければ助けられた?」


普段から鍛錬しているつもりだった。剣技はサイソルフィンと母親相手にしか練習はしてなかったけど、それでもあの場面で手も足も出せないという根性なしだとは思ってなかった。


それに比べアンリの戦い方。全てが洗練され、隙はなかった。リーチで不利な短刀をあれだけの正確さで投げイシューを倒す姿は美しささえ感じられた。


リンはゴロゴロと寝返りをうち、やがて寝るのを諦めてベッドから起き上がると、手早く着替えると外へ出た。


外は雨がぱらついていたが、リンは傘もささず歩いた。目指すは村の中心にある宿屋だ。


深夜ではあったが、飲み屋や食べ物屋が何件か営業していた。


店の中からザワザワとした喧騒が聞こえているのも気にせずリンは足早に歩いた。


通りすがる村人が、傘もささずにずぶ濡れになって歩くリンを奇異な目で見てきたが気にしなかった。


やがて宿屋に着くと二階に上がり、目的の部屋のドアを叩いた。


コンコン


程なくして扉が開く。中から出てきたのはアンリだった。


「リン……こんな夜更けに。それにずぶ濡れじゃないですか。」


アンリが目を見開いて驚いている。出会ってから飄々としているアンリが驚いているのはこの時間に尋ねたことなのか、雨に濡れているからか、それとも両方か。


無言のまま立ち尽くしているとアンリはリンを部屋に招きいれた。


「こんな時間に女性が男性の部屋をたずねるのはあまり感心しませんね。はい、タオルです。これを使ってください。」


頭からタオルを被る。


アンリは暖炉に火をつけるとお湯を沸かし始めた。


リンは燃える暖炉の火を見つめながら傍の椅子に座った。


暫くは互いに黙っていた。部屋には薪が爆ぜる音だけが響いていた。


「アンリ……私、強くなりたいの。剣術を、教えて。」


火を見つめたまま、ぽつりリンはアンリに言った。


アンリは暫く無言で茶器を暖めたのち、ティーカップにお茶を入れるとリンへと運んだ。


「リン、カモミールティーです。温まりますし、良く眠れますよ。」


「アンリ、私は強くなりたいの。」


「なぜ強さを望むのですか?あれは事故です。たまたま女神の結界が揺らぎ、たまたまイシューがいて、たまたま貴女たちがあの館を訪れた。すべては偶然であり、あれは事故なのです。貴女が責任を感じる必要はありませんよ。」


「でも!!あの時私には聖具を手にしていた。もしあの武器の使い方を知っていれば助けられたかもしれない!!」


「あれは単なる武器ではありません。訓練を積み、素質がある人間にしか操れません。」


「でも……!!」


アンリの言うことはもっともだった。だけど、自分だけが難を逃れられたのは聖具のダメだ。もし自分に力と勇気があれば、ジャンとタングは助かったのかもしれないという結論に辿り着いてしまう。


悔しくて、また嗚咽が出てくる。


「……分かりました。それが貴女の望みであれば。」


見兼ねた様子でアンリが承諾した。


「ありがとう!アンリ!」


「ですが条件があります。」


「条件?」


「決して無茶をしないでください。貴女は一つの物事に集中すると周りを見れない場合があります。なにかあっても一人で抱え込まず、私を呼んでください。」


まだ一日程度しか行動を共にしていないのに、この男はなかなか鋭いところを突いてくる。


「いいですね。」


「わ……分かったわ。」


「では明日から。今日はもうお帰りなさい。送ってあげますから。」


「嫌、今がいいの!!」


自分でも無茶なお願いだとは分かっているが今はゆっくり寝てられなかった。


「……はぁ。仕方のない人ですね。では、聖具の使い方をお教えしましょう。」


「聖具の?」


まずは素振りなどの基礎を教えてもらうつもりだったが、聖具の使い方は早く知りたかったのでリンにとっては願ったりだったが、いきなりの展開で驚きを隠せなかった。


「いいですか。聖具は女神ラーダの力を召喚することとなります。呪文を詠唱し、求める武器をイメージします。」


「分かったわ。」


「私に続いて詠唱してください。」


リンは持ってきた聖具を身につけ、アンリの言葉を復唱した。



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