選択①
死……。
それはどんなものだろうか?カティスはぼんやりとそんなことを考えていた。
この世から消えた先には何があるの?生まれ変わりってあるのかしら?
考えても詮のないこととはわかっていてもグルグル頭を駆け巡る。
何も成し遂げていない、これからの人生もリンやサイソルフィンといつもみたいにずっと一緒にいて過ごせると思っていたのに。
ふと、時計を見ると21時30分。そろそろリンはレディ・マースの屋敷に向かっているだろうか。
家には帰りたいような帰りたくないような。
所詮私が死んでも家では厄介者が居なくなったというくらいにしか思われてないのだ。
風が強いのかガタガタと窓ガラスが揺れている。
そろそろリンの勝負の時間か。リンは大丈夫だろうか。無茶をしなければいいのだが。
自分も駆けつけたい。だけどこの体ではリンの足手まといにしかならないだろう。
医務室はがらんとしていた。ウラニア先生も帰ってしまったのだろうか。
「カティス!!いる!?」
突然医務室の扉がガラガラと開いてサイソルフィンが入ってきた。
「リンが来てない?!」
息を切らし、肩でゼイゼイと息をているサイソルフィンの様子を見てただ事ではない感じを受けた。
「リンが、居なくなった。こんな遅くに家からいないなんて。あのアンリとかいう男もいないし、なんか事件に巻き込まれたんじゃないかって。」
ジワリと背中に汗が流れる。
全ては私の責任。
事情を説明したらきっとサイは自分を嫌うかもしれない。それが怖くてカティスは真相を告げれずに言い淀んだ。
それをサイソルフィンは見逃しはしなかった。
「カティス、何か知ってるの?」
「……。」
「答えて。何を知ってるの?」
サイソルフィンはカティスの両肩をがちりと捕まえてその瞳を覗き込む。
あぁ、もう逃げれない。
カティスはそう悟ると震える声で言った。
「レディ・マースの館……。」
「なんでこんな夜に!?」
「ジャンとの肝試しを。勝ったら私へのいじめを止めるようにって……。」
その一言でサイソルフィンは全てを悟ったようだった。
「でもリンには内緒にしてって言われてて……。」
その時カティスの心臓がきゅうと締め付けられるように痛んだ。そして上手く呼吸が出来なくなる。
「カティス?!カティス!!」
「大……丈夫……」
このまま死んでしまう?
急に不安に襲われる。
「僕はリンを探すけど、カティスは一人で大丈夫?」
「嫌!側にいて!!」
思わず漏れた本音。
掴まれていたサイソルフィンの腕を逆に強く握る。本当は今すぐにもリンの元に行きたいというサイソルフィンの思いは重々伝わってきたけど、今ここに一人でいることに対する不安と恐怖がそれを阻んだ。
「一人に……しないで……」
「カティス……。」
困らせたい訳じゃない。でも側にいて欲しい。
「ねえ……リンと私、どっちが大切?」
それは禁忌の質問。
でも死の恐怖を前にしたカティスは聞かざるを得なかった。
「カティス……。ごめん。リンを探さないと。今は結界が揺らいでるし、イシューに襲われるかもしれない」
「答えて……。」
「リンは……家族だよ。でももちろんカティスのことも大切な幼なじみだよ。」
「リンが妹じゃなくても?」
その言葉にサイソルフィンが目を剥く。
「……なんで……それを……。」
あぁ、全てが終わってしまった。
あの楽しかった時間はもう戻らない。
カティスの心が締め付けられる思いがした。
大好きだったサイ。
大好きだったリン。
大好きだったあの日々はもう失われてしまった。
「サイの好きな人は、私じゃないのね。」
涙が溢れてくる。
余命宣告を受けて、好きな人の心が自分にはないと知って。今日はなんという絶望的な日なのか。
「あら?お取り込み中かしら?」
突然妖艶な声が医務室に響いた。
ハッとしたように見やるとそこにはウラニアが立っていた。
「先生、良かった。カティスのこと、頼みます。」
「あら、どこに行くの?村外れにイシューの反応があったらしくて、外を出歩くのは危ないわよ。」
「でも、妹を探してるので」
そう言って部屋を飛び出そうとしたサイソルフィンは、一瞬カティスを見た。そして、何かを言いかけ、そして一瞬の躊躇いの後、部屋を出て行った。
「今日の天気は荒れそうね……。」
気まづい空気になったのを気にしてか否か、ウラニアはのんびりとそう言った。
まるで自分の心のようだ、とカティスは思った。
ガタガタとまた窓ガラスが揺れる。
大雨の兆し。
スベテステテシマエ
誰かが囁いた気がした。
友情も、恋慕も、命さえも無くなるのなら
アタラシイ命ガ欲シイデショ
そしてカティスは一つの選択をした。
もう戻れない選択を。
「カティス・ブライトンとしてはすべてを失い、新たな命を手に入れるか。それともカティス・ブライトンとして生き、半年後に死ぬか。いづれかをお選びなさいな。」
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