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果てなきは空の彼方  作者: 天野 みなも
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惨劇の始まり④


「うあああああああああああ」


自分を襲ったイシューははじかれたが、今度はジャンを狙ってイシューが襲い掛かってきたのだ。


「ジャン!」


手を伸ばそうとし、ジャンも手を伸ばしたが、右足をイシューに捕らわれそのまま引きずられていく。


伸ばした手は触れ合うこともなくジャンは暗闇に消えていった。


鈍い音と断末魔の叫びに似た声が闇夜に響く。


助けに行かねば。思っているが自分の目の前にもイシューが間合いを詰めながらリンの様子をうかがっている。


聖具をギュッと握る。このまま踵を返して逃げ出したい衝動に駆られる。が、その瞬間イシューの鋭い爪がリンの背中を割き切るのではないかという不安もあった。


イシューはたまりかねた様にその黒い羽を飛躍させて上昇したかと思うとリンめがけて急降下してきた。


その時、銀色の閃光が闇夜を切り裂いた。


バランスを失ったイシューがリンの目の前に落ちてくる。見れば羽と胴の一部に銀色のナイフが深々と刺さっていた。


「女神ノ狗ガ……。」


忌々しそうに呟いたイシューの視線の先には、アンリがいた。


「リン、大丈夫ですか?」


「アンリ……?」


状況が呑み込めず、リンはアンリを呆然と見つめるしかなかった。


アンリはイシューから目を離さず、リンを庇うようにイシューの前に立ちはだかって言った。


「探しましたよ。まったく貴女は仕方のない人ですね。」


「どうして……。」


戸惑うリンを尻目に、アンリは唇に笑みをたたえて言っているのが微かに見えた。


「それは……秘密です。」


いつもの調子で返してくるので、一瞬今イシューとの戦いが行わられるのを忘れるくらいだった。


「さて……さっさと片付けてしまいましょう。」



慈悲深き女神ラーダよ

暁の光の如く

その聖なる力で闇を切り裂く力を

我が手に


 「聖具・解放!」


アンリが力ある言葉を口にした時だった。その手に銀色に光り輝くいくつもの短刀が現れた。


体制を立て直そうとするイシューの動きを封じるように容赦なくアンリは短刀をイシューに投げつける。


それはイシューに深々と突き刺さり、真紅の血が漆黒の体毛とまじりあい、どす黒く濡れているのが分かった。


だがイシューはゆっくり起き上がりアンリへと牙を向けた。


なんという生命力だろうか。人間はこの生き物には勝てなのか。


「アンリ!!」


リンの角度からは、アンリがイシューに嚙みつかれているように見えた。


「グ……グルグル……」


小さくイシューが鳴き声を立てたと。見ると、噛みつかれ寸でのところで、アンリの担当がイシューの心臓を突き刺していた。


「アンリ、大丈夫!?」


リンがアンリのもとに駆け付けようとしたが、アンリはそれを制した。


「まだです。イシューは死にません。すぐに傷は回復してしまうでしょう。」


この状態でまた復活するというのか。なんという生命力。


「でも……どうしたら?」


「そのための聖具です。」


妹神に創られし、哀れな化け物よ。

女神の腕に抱かれ、暫しの眠りを。


 「縛!」



アンリの詠唱が終わった刹那だった。イシューの傷口から赤い滴に似た光が夜空に広がった後思うと、アンリの左手にはめられた聖具にそれが吸い込まれていった。


「これが……イシュー……。これが聖具の力。」


視線は自分の持つ聖具に行ってしまう。まるで夢を見ているようだった。


「ジャンとタングが!!」


助けねばと思ってレディー・マースの館へと向かおうとするリンの肩をアンリは掴んだ。


リンが振り向くとそこにはアンリの真剣な顔があった。そして首を左右に振る。


「でも!!生きているかも!」


状況からして二人の生存が絶望的なのは分かっている。それでも、生きているかもしれない。そう信じたかった。


「例え生きていたとしても、戦えるのが私一人では難しいです。」


「でもアンリは聖騎士なんでしょ?イシューを倒せる最強の使い手組織の人間なんでしょ?」


「はい。でも聖騎士とて万能ではないのです。戦いも小隊を組むのが普通ですし。」


「そんな……」


「それに、過保護な保護者がそれを許しませんよ。」


「えっ?」


「リン!!リン!!無事か!?」


遠くから聞こえたのはサイソルフィンの声だった。普段は大きな声など出さないサイソルフィンだけにリンは一瞬その声に驚いてしまった。


「兄さん?」

「リン!!」


茂みからサイソルフィンがリンを認めると一目散に駆け寄り、そしてリンをギュッと抱きしめた。


「良かった……無事でよかった……。」


サイソルフィンの呼吸が荒い。心臓の音もバクバクしているのが伝わってきた。


「兄さん……?」


居心地が悪くてサイソルフィンの腕をのけた時だった。


パチリ、と音がしてリンの頬に痛みが走った。


「え?」


そしてそこには鬼の形相をしたサイソルフィンの姿があった。


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