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果てなきは空の彼方  作者: 天野 みなも
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惨劇の始まり①

学校付近に着いたあたりでリンはアンリに切り出した。


「そろそろ学校だし、アンリはここで待ってて。」


「分かりました。寂しいですが仕方ないですね。」


アンリの言葉にリンはあっけにとらわれた。


「寂しいって……ちょっとの時間でしょ?」


「ふふ。いいんです。貴女を困らせたいわけじゃないので。行ってらっしゃい。」


「じゃあ、ここに居てね。絶対よ!」


「はい。」


学校に付いて来そうな予感がよぎり、リンはきつめにお願いしたが、アンリは表情を変えず、ニコニコとリンを見送った。


アンリと別れて校門をくぐり、校庭を抜けたところだった。

ジャンとダンクがカティスを引き連れて裏庭に行くところをリンは見てしまった。


何となく嫌な予感がする。


リンは踵を返すと、裏庭にジャン達を追いかけて行った。


※ ※ ※ ※


カティスはリンが出て行った教室の扉を見つめ一つため息をついた。


リンが教室を飛び出して行って暫くは教室内は騒然としていた。


それはそうだ。


あれだけの美形。そして聖騎士となれば生徒が騒ぐのもうなずける。


暫くしてリンの姿もアンリの姿もなくなった後は、窓に集まっていた生徒も三々五々別れて行った。


リンの席を見つめる。


空席に荷物が置かれたままである。きっと猪突猛進なリンのことだ。今時アンリ連れだって行ったことを考えると、きっと荷物のことなど忘れているだろう。


まぁ、これからいつもの丘で落ち合うのだろうから、自分が持っていくことにしよう。


そう思ってリンの机に歩みよろうとした時だった。


「おい、カティス。ちょっと来いよ。」


不意にジャンに呼び止められる。正直またかとカティスは思った。


また難癖つけられて暴言を吐かれることは目に見えていた。


ジャンを見るとドキドキと動機が止まらない。体が震える。妙な汗もかく。だけど「行かない。私に構わないで」とはジャンに向かっては言えなかった。


うつむき、泣きそうになることだけは最近我慢できるようになっていた。


だが、今回は黙ってついていく。そして罵倒されるのをじっと待つことにしよう。それが波風を立てない唯一の方法だと思った。


カティスはジャンとタングに腕をつかまれて校舎裏まで連れていかれることになった。


人気のない校舎裏まで着くと、掴まれていた腕を乱暴に投げ捨てられ、カティスは思わず地面に倒れこんだ。


ジャンの顔が逆光になってよく見えないが、瞳だけがぎらぎらとして見えた。


まるでシカを狩る肉食獣のような目だった。


ジャンはじわじわとカティスとの距離を縮める。カティスは恐怖で立つことも出来ず、座りながらなんとか後退したが、すぐに校舎の壁にあたり逃げられない状況になっていた。


「お前、ウザいんだよ。学校はお前みたいな人間が来るところじゃねーんだよ。」


ドンと、カティスの顔の脇の壁をジャンが叩く。


その音にカティスは思わず身を竦めた。


「今日だって聖騎士が知り合いですみたいな態度しやがって、何様のつもりなんだよ!」


「私は……そんな……」


「その目が気にくわない。態度が気にくわない。学校になんてお前の居場所なんてないんだよ!」


「これなーんだ」


その時、タングが持ち出したのはカティスの鞄だった。


そしてタングは鞄をさかさまにしたかと思うと、ノートをびりびりと破り始めた。


「これで、気兼ねなく学校辞めれるよな?」


「ひどい……」


ポツリつぶやいた言葉にジャンはさらに激高した。


「はぁ?誰がひどいって?すべてお前が悪いんじゃないか?」


「なんだ、これ。ポプリなんて持ち歩いてんのかよ。古臭くて汚ねーな」


それは幼い頃にサイソルフィンからもらっていたもので、カティスにとっては宝物であり、自分という人間が個として認められたと思える証でもあった。


だが、ジャンはそんなカティスの表情を見逃さなかった。


「これ、こうすれば綺麗になるんじゃねー?」


「やめて!!」


カティスが悲痛な叫びをあげたが、ジャンはそれを逆に好機ととらえた。そういうとジャンは地面に落ちたポプリをグリグリと足で地面にこすりつける。


みるみると生成りのポプリ入れが汚れ、もうどうにもならない状態になった。


大切な思い出までも否定されたようで、でもそんな状況でも何もできない自分が情けなくてカティスは涙が溢れて止まらなかった。


その時、思わず発作が出た瞬間のことだった。


「ジャン、タング何をしてるのよ!!」


間に入ってきたのはリンだった。


「そんな卑劣な顔して貴方たち人間以下ね。」


「はぁ、リンには関係ないだろ?」


「関係あるわ。私はカティスの親友だもの。」


「親友ね。あぶれ者同士が傷なめあっているだけの自己満足だろう?」


ジャンが嘲笑するのを尻目に、リンはカティスのもとに歩み寄った。


「カティス、大丈夫?医務室行こう。」


「あぁ、リン。来てくれたのね。」


「大丈夫。あとは私が何とかするわ。」


そして、リンはカティスを庇うように立ち上がると、ジャン達に向かって言った。


「ジャン、勝負しよう。」


「勝負?」


「もし私が勝ったら、もう私たちに構わないで。」


「もし負けたら?」


「一生あなたの言いなりになるわ。」


「ふーん、なかなか悪くない話だな。……じゃあ、こうしよう。村と森のはざまにある『レディ・マースの館』って知ってるよな。」


レディ・マースの館は村からだいぶ離れたことがあり、森に近いことからイシューが出る可能性があり、子供たちが行くのを禁止されている廃屋である。


あくまでくイシューが出るらしいという噂ではあるが、そこには村人も近づかない。


「もちろん知っているわ。」


「じゃあ、そこで肝試しだ。屋敷の最奥にあるという燭台を持ってきたほうが勝ちな」


「分かったわ。時間は?」


「22時に屋敷前に集合。」


「ぜってー来いよ!」


「そっちこそ、さっきの約束、忘れないでよね。」


そう言ってジャンとタングは帰って行った。


カティスとリンは残され、カティスはリンに心配そうな言葉を投げかけた。


「リン……もしリンに何かあったら私は!!」


「大丈夫。でもサイには言わないで。心配させるといけないから。……それより医務室に行こう。」


「えぇ。」


「立てる?」


「うん……何とか……。」


そう言って立ち上がろうとしたカティスの体の力が抜けるように、倒れこんだ。


「カティス!?大丈夫!!」


そんな彼女を支えたのはなんとアンリだった。


「アンリ!?学校には来ないでっていったでしょ?」


「今はそれどころじゃないでしょ。カティスさんを医務室に連れて行きましょう。」


アンリはカティスの体を軽々と持ち上げて、医務室に向かうことにした。


※ ※ ※ ※


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