アンリ③
※ ※ ※ ※
終業のベルが鳴り響くと、これまで静かだった構内が一気ににぎやかになる。
さて、退屈だった授業も終わり、リンは大きく伸びをした
「はぁ~やっと授業終わったー」
「リン、お疲れ様。そろそろアンリさんも来る時間かしらね。」
「……。うーん、そうかな?」
「あれ?リンはアンリさんが嫌いなの?」
言葉を濁すような話し方は竹を切って割ったような性格のリンにしては珍しい反応だった。
「嫌いってわけじゃないけど、得体がしれないっていうか。」
「まぁ、ちょっと不思議な雰囲気のある人だもんね。」
「そうなの。それにね、アンリは過去に私と会ったことがあるとか契約がどうのとか言われているんだけど、記憶にないんだよね。」
「これから仲良くなっていけばいいんじゃない?徐々に分かることもあるだろうし。悪い人じゃなさそうだもんね。」
「確かに……。」
その時だった。
窓際に座っていた一人の生徒が大きな声を上げた。
「あ!なんか校門にかっこいい人いるんだけど!」
「マジで!?」
「あの服って、聖騎士じゃあない?」
「えっ!?聖騎士なんて使い手の超エリートじゃん。なんでこんな村いるんだろう!?」
教室中の生徒が一斉に窓に向かって行った。
人が群がった窓際に向けて、リンとカティスも行ってみる。そして皆の視線の先に居たのはアンリだった。
見れば、校門の前に立っていたアンリはやはり生徒に群がられて多少困惑しているようだった。
ふと、気づくとアンリの視線がリンを取られえた。
その瞬間アンリが叫んだ。
「リーン、約束のスコーンと紅茶持ってきましたよ!」
刹那、周りの生徒の視線がリンに突き刺さる。
「え?リン!?どういうことだよ!」
「リンの知り合いなの?」
わらわらとリンへ質疑がぶつけられるのを振り切るようにリンは外に出た。
走って転びそうになるのも気にせず、階段もすっ飛ばしてアンリに駆け寄る。
アンリに群がっていた女子生徒の間をかき分けて、ようやくリンはアンリのもとに行くとグイっとその腕をつかんだ。
「あ、リン!」
アンリがリンを認めて破顔するのも気にせず、リンはアンリを連れて駆け出した。
ヒューとある男子学生が口笛を吹いたのが聞こえたが、それを無視してリンは歩みを進めた。
「ちょっと、どうしたのですか、リン?」
アンリが困惑するのも気にせず、リンはその腕をつかんだままいつもカティス達とピクニックをする丘までやってくると、大きく息をついた。
「だって、目立つよ!聖騎士って本当なの?」
「そうですよ。」
あっさり認められてリンは拍子抜けした。昨日家で何かを隠していた様子だったのに今日はすんなり白状するとは。
「案外、すぐに認めるのね?」
「はい。貴女に隠し事をするのは本意ではありませんから。本当はすべてを話したいくらいです。」
「じゃあ教えて。アンリがこの村に来た本当の理由は?」
「それは……そうですね。少し昔話をしましょう。」
「昔話?」
「はい。貴女は女神ラーダと妹神の伝説って知っていますか?」
「そうねぇ。詳しくは分からないわ。ただラーダって教会に祭っている女神様でしょ?」
「なるほど。最近では女神ラーダと妹神の神話でさえ知っている人が少なくなりましたからね。知らなくても無理はないでしょう。」
そう愁いを帯びた瞳でアンリは静かに話始めた。
女神ラーダ。
このエンティア国で厚く信仰されている愛と豊穣の女神にしてエンティア国の始祖となった存在。
そしてその妹神は女神ラーダの美しさに嫉妬し、イシューという化け物を生み出した。
人を喰らう化け物。漆黒の翼と赤い瞳を持ち森に棲むそれらに喰われる人間を哀れんだ女神は己が力を人々に授けた。
それが「使い手」と呼ばれるイシューに対峙できる唯一の力。




