最悪な仕事
初投稿です。毎日更新できるように頑張ります。
簡単な仕事のはずだった。商家の娘を攫い身代金をせしめる、ただそれだけだ。しかしジャック = シルヴェストルの目の前には剣を持つ少女と、仲間の死体が転がっていた。
凍える真冬の様な冷気があたりに漂う。
さらりと流れる碧髪にサファイアの瞳は、こちらを見極めるようにじっと見つめていた。
そこには商家の娘の雰囲気など消え失せ、ジャックにわかることこいつは只者ではないということだけだった。
「探し物をしていてな」
少女は剣をこちらの首筋に向ける。
「ひぃ」
殺される。心臓がバクバクなり呼吸が浅くなる。
「ここで襲ってくる男の中に運命の子がいる。お前か?」
剣の切っ先がゆらゆらと揺れる。
「うぁ」
「……おい」
話の通じないジャックに段々イラついてきたのだろうか。
少女の包む冷気が徐々に強くなっていく。
「知らない!!お前は何だ。ドン商店の娘じゃないのか」
震える声で必死に答える。寒さと恐怖で金縛りにでもあったかのようだ。
「まあいい、死んでみろ」
少女はこちらに剣を振り下ろす。
世界がスローモーションになる。自らの生命の終わりを感じる。
――糞みたいな人生だったが死ぬのは嫌だな。
十数年の短い人生の回顧。しかし、それが済んでも命の終わりが訪れることはなかった。
「っ!?やっぱり、お前じゃないか」
少女の声に、気が付く。剣はジャックの身体を貫くことなく、首のすぐ横で運動を停止していた。まるで見えない鎧に阻まれたかのように。
「帰るか」
少女は小さく呟いた。すると剣はさっきの障害が嘘のように空間を切り裂いた。
「え」
剣が首筋に触る。鋭利な刃物が何の抵抗もなく体にずぶずぶと沈み込んでいく。
そして、底を失ったバケツの様に意識は零れ落ちていった。




