№69~№77 3人の日常の話
69.「おかえり!」
「おかえりなさいませ」
次の日帰宅すると、何食わぬ顔で呉葉が米を研いでいた。
セツナはカップ入りアイスを食べている。
「えっなにこれ、ただいま?!昨日来なかった説明とかは?」
呉葉が手を止めた。
俯いた顔をガバッと上げて言った。
「そうかそうか!私たちがいなくて寂しかったか!」
70.「いや別に寂しかった訳ではないけど、あんなに毎日来てたのに急にいなくなるとビックリするというか」
「カズ、ここは御世辞でも寂しかったと言うところですよ」
「そうだぞ、カズ」
頬をぷくっと膨らました呉葉は笑いの顔が勝ってた。
うわ、なんか謝りたくない。
「本当の事をいうと私も来たかったんだ」
71.「昨日、呉葉は悪いあやかしを封印したのです。疲れたからまた明日、ということで昨日来なかったのですよ」
「そういや最初の頃も悪いやつを潰してたな。今回のは俺でも見えるようなやつだったのか?」
「見ない方がいいやつだと思うぞ。あと今回は潰してはないからな」
「ああ、そういや封印だったっけ」
72.「そうそう……って、なんか他のあやかしの臭いがする」
あっ、もしかしてさっちゃんこと、沙弥か。
ちゃんとシャワー浴びたのにな。
呉葉は近くによってくんくんしてる。
犬か。
「この感じ……抱き付かれたな?!上書きだ!!」
「痛い痛い痛い!」
何でわかるんだ。
呉葉の愛が重いことはよくわかったけど。
73.「私という存在がありながら……およよ……」
わざと過ぎる演技をする呉葉は無視。
研ぎ途中の米を炊飯器にセットしスイッチを押した。
「これはこれは、昨日の出来事について聞かなければなりませんね」
と、アイスを食べ終わったセツナ。
「そうだな、そこに座るんだ、カズ」
なんで家でも質問攻めなんだ。
74.「……ということで、さっちゃんが抱き付いてきて、これは故意ではないし、恋でもありません」
なぜ土下座してるのかはわからないが、呪われたり憑かれたりしなければそれでいいです。
はい。
「ほお、それでは判決を下す!有罪!」
なんでだよ。
「抱き締めの刑を実行する!」
いや、さっきもやったじゃん!
75.ピロリロリ。
炊飯器の音に助けられた。
呉葉の抱擁が解ける。
「あっ、ご飯炊けた。装うか。ええと、茶碗は」
「カズ、これをレンジで1分温めてください」
「あっ、はい」
あっという間に、小さなテーブルの上には3人分の食事が並べられた。
「いただきまーす」
賑やかな食卓。
1日ぶりの日常は大切に思えた。
76.最初の頃は今まで見えなかったのに、とか二人を信用していいのかとか、色々悩んでいたのに、数日後にはそれが馬鹿らしくなった。
大学での「見える疑惑」も、そろそろどうでもよくなりそうだ。
だって事実だし。
それにコウキやアキは見えることに好意的だから、話しても大丈夫だろう。
時刻は深夜1時半。
77.「じゃあ、そろそろ帰るとするよ」
あの日から続いている呉葉とセツナの訪問。
だけど彼女たちが家に泊まったことは1度もない。
ずっと居座られるのも困るが、呉葉の図々しさなら一緒に寝る、とか言い出してもおかしくないのに、とも思う。
「お邪魔しました」
二人を見送り、寝支度を済ませ眠りについた。