閑話3(№63~№68)
63.「で、面倒事というのは?」
「北東の山で悪鬼が暴れている、と見廻りのヤトから連絡がありまして」
カズの大学を後にして、セツナに連れられ山へと向かう。
「祓い人は?」
「数人若い者が怪我をして退散したと」
「そんなに強いのか」
「呉葉ならいけますよ」
セツナは不敵な笑みを見せた。
「着きましたね」
64.現場は瘴気が立ち込めており、酷い有り様だった。
春だというのに草木は枯れ、あちこちに人間とあやかしたちの血が飛び散っている。
倒れているモノもいる。
「あ、おつかれっす。姐さん」
「ヤトか」
「後は頼んます、俺こいつら連れていくんで」
彼は腕に小さなあやかしを抱き、黒い翼を広げ飛んでいった。
65.「さて、一丁やるとするか」
その昔、人間として生を受けた私は特殊な能力を授かっていた。
父は喜び、母は私の頭を撫でた。
とても昔の懐かしく優しい思い出。
「ここに結界を展開する」
悪鬼が異変に気付いたようだ。
此方へ向かってくる。
だがもう遅い。
「結界封印」
悪鬼は空間の裂け目へと消えていった。
66.「お見事です、呉葉。いつ見ても美しい。それにしてもとても鮮やかでしたね」
「ありがとう、最近調子がいいんだ。そうだな、カズと会ったときぐらいからだろうか」
「そうなんですね。では、あれは?」
生まれもった特殊な能力は二つ。
もう一つはあの日以来失ってしまった。
「出来たらもうやっているよ」
67.「ええ、早く感覚を取り戻してくださいね。まあいつまででも待てるだけは待ちますけれど」
「悪いな、セツナ。付き合わせてしまって」
「いいえ。構いませんよ」
倒れているあやかしたちを揺すると、大抵は飛び起き礼を言って去っていったが、既に事切れたモノもいた。
「弔ってやれれば良かったのだがな」
68.気付けば夕暮れ。
「さて、カズの家に行きますか?」
その問いに私は首を振った。
「カズの所はとても居心地がいい。けど、申し訳なくも思うんだ。それに力使って疲れたしな。今日は休養!」
「あの人の事、まだ想っているのですか」
そうだよ。
だからカズから一日離れて自分の本当の気持ちを知りたいんだ。