№51~№62 初めてのオカ研の話2
51.あかりはついていない。
カーテンが光を遮り部屋は暗い。
ぼんやりと円形に並べられた8つの事務椅子や壁に据え付けられた本棚が見えた。
奥には人影。
「あ、オカルト研究会のメンバーの方ですか?で、電気は……」
影が動く。
返事はない。
「えとあの、勝手に入ってすみません」
「驚いた。私が見えるの?」
52.「えっ」
「電気はそこ。つけたけりゃつけなさい」
スイッチはすぐ隣にあった。
つけても暗っぽいのはオカ研だからか。
「私の声もちゃんと聞こえているのね」
そこにはお下げの髪型をした女子が立っていた。
身長は大体150センチくらい。
さっちゃんって感じがする。
「……もしかしてあやかし?」
「そうよ」
53.「……今私のこと、さっちゃんって思ったでしょ」
「えっ」
「正解よ」
「もしかして、バナナ好き?」
「嫌いじゃないわ」
話は通じる。
呉葉みたいに害はないあやかし、と考えていいのだろうか。
「あなた、怖くはないの?」
「うん、まあ。大丈夫」
「そう」
「あっ、でも君この大学の学生ではないんだよね?」
54.「何を言っているの。当たり前でしょ」
一昔前の高校っぽい制服を来たあやかしが事務椅子に座る。
手には本。
「私は力が衰えてしまった。昔は幼い子たちに混じってよく遊んだのだけれど、今や外で遊ぶ子など殆どいないわ」
「うん」
「だから私は子どもに姿を見せる力を失ってしまった。時は残酷なものね」
55.「君は子どものあやかしで、力が衰えたから大人になったっていうこと?」
「そうね。そういえばさっきあなたバナナが好きか聞いたでしょう。何故かしら」
パラリとページが捲れる音。
「いや、なんとなくそんな感じがして」
「私は恐らく概念のあやかしなの。だからそれが曖昧になるほど弱くなってしまう」
56.「あやかしも色々大変なんだな」
「どうかしらね」
仮名さっちゃんはふふ、と微笑んだ。
「嫌になるわよね、昔はあんなに人の子と遊んだのに。力が衰えて会えなくなって、寂しくなってこんなところに来てしまった。すぐ隣にいるというのに、あやかしを信じている人にも私が見えないの」
彼女は涙を流した。
57.どうしたらいいのだろう。
彼女は本を机に置いて、俺に抱きついてきた。
ラッキー、じゃなくて。
忘れてはいけない。
彼女もあやかしだ。
一瞬手が迷ったが、この状況なら抱き締め返していいと思う。
しばらくして彼女が離れた。
「久しぶりに人と会えて、こうして話せて嬉しい。愚痴になってしまったけれど」
58.「構わないよ」
「ありがとう、また会ってもいいかしら」
あっ、どうしよう。
呉葉が怒るかな。
「うーん、家には来ないでくれるとありがたい」
「でしょうね。他のあやかしの匂いがするもの」
「えっ」
「ああ、人が来てしまう。そうだ、名前忘れていたわ。私は沙弥。また会いましょう」
彼女はふっと消えた。
59.部屋のドアノブがガチャと音を立てた。
「おかしいな、閉めたはずなのに鍵開いてる」
ドアが開いて、知らない人が入ってきた。
というか多分先輩。
「うわっ、誰だお前!」
「先輩、あれがカズくんです!でもなんで中にいるの?!」
すかさずアキが紹介してくれて助かった。
「すみません!開いていたので!」
60.「そんなわけ……だって俺とアキちゃんとであんなに確かめたのに」とコウキも中へ入ってきた。
「いや、ほんと開いていたし、勝手に入ったのは、えと、あの、ごめんなさい」
先輩がブッ、と吹き出した。
「確かにお前ピッキングなんてできなさそうな顔してるもんな。これも超常現象ってやつか!面白い!」
61.「ありがとうございます……?」
助かった、と思うのは早かった。
「二人から聞いたぜ。この件も含めて、後でじっくりと聞かせてもらうとするか!俺は鴈野だ!」
「カズです。よろしくお願いします。でも話すのは勘弁してください……!」
しかし抵抗も虚しく、体育会系な先輩の質問攻めに遭ったのだった。
62.「おつかれ~!」
アキが手を振って合流したリンと帰っていく。
二人は電車で数駅のところから通っているらしい。
「た、大変だった……」
俺とコウキは一人暮らし。
方向も大体同じだ。
「認めてしまいなよ、見えるってさ」
「ははは」
どうにかごまかして帰宅した。
「ただいま」
珍しく家に呉葉はいなかった。