№28~№40 オリエンテーションの話
28.薄いカーテンの隙間から光が差し込む。
眩しい。
朝だ。
大あくびをして身体を起こした。
冷凍したごはんを解凍して食べる。
準備を整えても1限の時間まで少しあった。
早めに大学へ行ってオリエンテーションの講義室を確認し、少し付近を散策することにした。
流石、田舎。
広い。
「あ、カズ」
コウキだった。
29.「コウキ、おはよう」
「おはよう。昨日はありがとう、俺の家まで運んでくれて」
ああ、と相槌を打ちにこやかな笑顔を振り撒いてみる。
オカルト研究会のことを是非忘れていて欲しい。
そんな笑みも虚しく、5限後オカ研な!と言われてしまった。
どうやらコウキは酔っ払っていても覚えているタイプらしい。
30.「お、9時まであと15分か。そういや学科同じだったな。一緒に行こう」
講義室に着くと既に半分ほど席が埋まっていた。
うーん、錯覚かな。
後ろの方の席に呉葉が座っているように見える。
隣にはコウキがいる。
決めた。
ここは全力で無視。
「あの中段ぐらいのとこにしておかないか?」
「ああ、そうしよう」
31.平常心。
コウキに悟られるな。
呉葉はいない、呉葉はいない。
「おーい、カズ?聞かれてるぞ」
「えっ?」
振り返ると、女子の顔がのぞいた。
「隣いいですか?」
「えっあっ勿論!」
「ありがとう」
彼女が座ると、ふわりといい香りがした。
「実は昨日二人の斜め後ろの席に座ってて」
まずい。
雲行きが怪しい。
32.やめてくれ。
可愛い子だし、俺に興味を持ってくれるというのなら大歓迎ではあるけれど。
「……お二人のお話面白くて。私もオカルト研興味あるんだ」
ああ~!
これは喜んでいいのかどうなのか。
「おっ、じゃあ一緒に行こ!」
コウキがいきいきしている。
「ほんと、好きだよね」
奥に座った女子が言った。
33.「君は?一緒に来ない?」
俺と隣の子を挟んでコウキが誘う。
「私はいいよ。それよりアキ、自己紹介飛ばしてるよ」
「ほんとだ!」
低い位置でまとめたセミショートの髪が揺れた。
「アキちゃんか。俺はコウキ」
「俺はカズ。よろしく」
「私はリン。アキは幼馴染み。昔からあやかしの話を聞かされてきたの」
34.「リンは昔からあやかしとか幽霊とか信じてくれないんだよ」
「だって怖いものは見たくないし」
少し切れ長の目をしていて、髪を団子にまとめたリンはお姉さんって感じがする。
「俺はいると思うけどなぁ。ま、そこは合わないかもだけど、同学科だし何かの縁、ってことでよろしくな」
「ええ、こちらこそ」
35.なんだかコウキの返答が大人に感じた。
まあ少々不安は残るが友だちは増えたし、女の子だし、大学生活の出だしは順調だと思う。
「コウキ君とカズ君とオカルト研行くの、楽しみだなぁ」
う、本当はあまり行きたくないんだとはもう言いづらい。
「はは……そうだね」
「何を見たのか教えてね」
素敵な笑顔だ。
36.「プリントを配るので後ろへ回してください」
学科主任の教授が登壇してオリエンテーションが始まった。
そういや呉葉が後ろの方にいるっぽいのだった。
どうしているかな。
プリントを後ろへ渡す動作を利用して、こそっと呉葉の方に目をやった。
わっ、真顔でガン見してる。
一瞬目が合ってしまった。
怖い。
37.いるよ、今にも怨念を飛ばしてきそうな呉葉とか雪女のセツナとか、よくはわからないけど見えないモノはちゃんといるよ。
強い視線を送ってくる呉葉をチラ見して、そうリンちゃんに伝えてあげたかった。
けれどそれはあとの二人を喜ばすだけだろうなと考えて言わないことにした。
「ここで休憩をとります」
38.「ふぅ」
「まだあと1時間半も話あるのか……」
皆疲れた顔。
席を外す人もちらほらいる。
「ねぇ、なんだか背筋が寒いよ……お化けかな?!」
「いるわけないでしょ。風邪かなんかじゃない」
ああっ、いる!
いるよ!
多分後ろにいる呉葉の所為!
「寒いならこれ掛けてなよ」
リンは膝掛けをアキの背に掛けた。
39.「リン母さん……」
「なぁにアキちゃまうぐっ」
アキが高速でリンに抱きついた。
「仲良しだなー」
なんて言いながらコウキがまじまじと見ている。
「どいて、邪魔、私は暑いの」
あれ?
なんだかこの光景デジャヴ。
「休憩は終わりです。席に着いて」
「ほら始まるじゃん、どけっ」
「ふぁい」
さて、あと4限。
40.午前の2限が終わり、初めての学食を体験した。
美味しい。
コンビニ弁当を食べるぐらいなら、毎日学食にしよう。
そう思った。
3、4限は身体測定と健康診断。
身長は伸びていたが体重も増加。
受験期に運動していなかった自分を恨んだ。
5限は英語のテスト。
難しかった。
そしていよいよオカ研へ行く時がきた。