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№1~№16 はじまりの話

1.まだ少し肌寒い風がかさかさと木葉をならす。

4月になれば大学生。

今日から一人暮らしを始める。

それにしても田舎だ。

アパートも激安。

隣町へ行かないと遊ぶところもなさそうだ。

荷ほどきが面倒になり、気分転換に散歩。

山の方へ行く。

少し登ると着物姿の白い女性がベンチに腰掛けていた。

目が合った。



2.「もしかして、私が見えるのか?」と、女。

「え、見えますけど……」

色鮮やかな着物、白い髪と肌、赤色の瞳。

それは美しく目を奪われた。

と、同時に思い当たる節が俺にはあった。

幽霊。

それに違いない。

「あ、やっぱ見えてないです。俺見えない人なので」

「何を言っとるの。私と話しているじゃないか」



3.「名は何と言うんだ?」

「いやほんと、そういうのノーサンキューで」

「教えろよ」

「いやです」

「いいじゃないか、減るものじゃないんだし」

「いや、だって、俺のこと呪うんでしょ。無理ですやめてください幽霊さん」

「私は幽霊ではない!あやかしだ!!」

「何のあやかしなんです?」

「人のあやかしだ」



4.めちゃくちゃ押しの強い幽霊だ。

「あのね、それは幽霊と言うと思うのです……」

「すまない、久しぶりに人と話して興奮していたよ。私は蛇のあやかしだった」

「思っていた謝罪とは違うのですが……」

「ほら、こうすると頬に蛇の鱗が!」

ピースの指の間に鱗が浮き上がってくる。

「ほんとだ、じゃなくて」



5.実は一人暮らしは親に強制的にさせられたのだ。

その理由は見えないから。

見えないものというのはあやかしとか、幽霊とか、世間一般ではそもそも視認出来ないものだ。

俺の一家は代々見える人たちで、兄も見えるし妹も見える。

俺だけどうしても見えなかった。

親曰く、「見えるようになるまで帰るな」だ。



6.「いや、見える見えないは生まれつきでしょ……。今まで見えなかったのに見えるようになるなんてそんなことない……」

「何を言っているんだ?」

赤い相貌が俺の顔を覗く。

吸い込まれそうな綺麗な赤。

「お前は私が見えているよ。で、そろそろ名前教えて?お前って呼ばれるの、嫌だろ?」

「別にいいです」



7.「ふむ、ならばお前の家に行こう」

腕を組んでえっへん、じゃないよ、やめろ。

「塩、撒きます」

「塩か、塩ぐらい大丈夫だ、行くぞ」

「わかった、名前教えますから!」

「よし!」

「ええと、カズ」

「そうかそうか、私の名は呉葉だ。よろしくな、カズ!」

人間より先にあやかしの知り合いができてしまった。



8.「ここがカズの家か!風呂・トイレ付きのワンルーム。洗濯機は外」

「言うなよ!出ていってくれ!」

「いいじゃないか」

着いてくるな、いや、憑いてくるなが正しいか。

そう言いながら道中歩いてきたのだが、すれ違う人たちは訝しげな目で俺を見てきた。

本当に俺は見えるようになってしまったのだろうか。



9.「そういや呉葉だったっけ。人間と話すのは久しぶりって言ってたよな。妖怪とは話しているのか?」

「そういうことになるな。これでも友人は多いんだ」

「じゃあ誰かと会えないかな」

「お!見えるようになったことを信じることにしたのか!」

「いや、見えないことを確認しようかと」

「……呼んでこよう」



10.「ほら、連れてきたぞ。見えるか?」

呉葉の隣には水色の長髪をゆらりと揺らす着物姿の色白女が立っている。

「うっ、どう見ても雪女」

「せいか~い」

見えているじゃないか!と呉葉がはしゃぐ。

「どうも、セツナと申します」

「あっ、カズです……」

「呉葉がお世話になっています」

「いいえ、こちらこそ」



11.何で見えるんだよ、全く。

「あ、あの。俺は見えないはずなんですけど」

「あら、呉葉の言った通り否定されるのですね。私も見えているではありませんか」とセツナ。

「その、あなた方が大物だから見えるとかそういうのは……」

「それはあるかもしれんな。私の手の上のあやかしは見えていないのだろう?」



12.「そこで悪さをしていた悪戯あやかしだよ」

俺には呉葉が手のひらを差し出したようにしか見えない。

「うん、ダメだな」

小さなモノなのだろうが、人に害を為すあやかしが見えないようでは家には帰れなさそうだ。

かといって、特に家にどうしても帰りたいわけではない。

修行させられるのは目に見えている。



13.「あらまあこんなに小さく……。呉葉、だいぶ搾ったでしょう。干からびているではありませんか。なかなかにグロテスク」

「ちょっとやり過ぎたかな」

呉葉は笑顔で窓から見えないあやかしを投げ捨てた。

「まあこれはさておき」

おくなよ。

「なかなか散らばっているな。ついでに私が片付けていってやろう」



14.「私も手伝いましょう」

セツナもどこか乗り気だ。

この段ボール箱は食器だ、服だと言っているうちにどんどん部屋は片付いていく。

いや、弱いあやかしを、見えなかったけど干からびさせるような奴だ。

信用していいのだろうか。

フルネームではないが名前も教えてしまった。

親に連絡した方がいいだろうか。



15.「お悩みごとですか?」

セツナが聞いてきた。

「いや、気を悪くしてほしくないのだけど、この状況自体がというか……」

セツナは困り笑顔を見せた。

「すみません。呉葉が嬉しそうなもので。あなたはどこか、呉葉の思い人に似ているのですよ」

彼女が耳元で囁いた。

「終わったぞ、カズ!」と、呉葉が笑う。



16.「それじゃ、邪魔したな。帰るとするよ」

「いや、こちらこそ助かったよ」

時計は19時過ぎを差している。

そういや真っ昼間から二人は行動していたのか。

「ふふん、私たちは眠らなくても大丈夫さ。まだまだ夜はこれからだ」

俺は近くのコンビニ飯で夕食を済ませた。セツナのあの言葉が頭から離れなかった。



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