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エルフに足を折られる


 俺の目前に表れたのはまるで狼の姿、四本足に鋭い糸のような眼で牙を見せつけてくる猛獣である。

 一歩も歩を進めていないにも関わらずその迫力は恐ろしく今にでも食いついてきそうだ。


「コロス……!コロシテヤル……!」

「まっ待てっ!」


 猛獣が俺の言葉なんかを聞く筈は当然なく鋭い爪を宙高く上げ、首を割こうとする。

 もう第二の人生終了の時かと思ったが、あまりの恐ろしさに腰が抜けて尻もちが地についた時、その動作のおかげで奇跡的に猛獣のぶん回された腕を避ける事ができる。

 しかし束の間の休息は許さない、猛獣の二段目の攻撃は容赦なく俺の顔面へと狙いを定め放たれた。


「その汚い爪で人間様に指一本触れるんじゃねえ!」


 目を瞑って咄嗟に叫んだその一言だったが、あまりにも苦し紛れである。

 このまま話し合いをする事なくこの世界でドロップアウトしてしまうのだろうか、こんな事ならいっそのことあのアマのいう事なんて聞かず大人しく天国でも地獄にでも連れて行ってもらいたかった。

 だがしかし、これだけ時が進んでいるにも関わらず痛みは感じない。

 ゆっくりと、ゆっくりと眼を開けた時、目前にはガタガタと震える猛獣が立ち尽くしていた、奇跡的に生きる事ができたのか?


「コノオレガキタナイ……?ニンゲンノブンザイデ……」

「その人間様に劣ってるって言ったんだよ汚い化け物」

「ナニ……?」


 予想以上に猛獣への悪口は効いているようだ、だとするならばこのまま悪口を続ける他ない。


「てめえ風呂入った事あるのか? どうせいつも汚い溝川どぶがわで体をゴシゴシしてるんだろ、さっきからプンプン臭うんだよね、不潔だから近寄らないでくれるかな? くっさいくっさい」

「キサマ……ニンゲンノブンザイデ……」

「さっきからそればっかだけどお前らが人間を見下せる部分なんて腕力だけだろ? でも残念だったな、俺は言っとくがお前らより遥かに強い新種の人間なんだ」

「フザケタコトヲ……」

「だったら試してみるか? あ、でもお前のその汚い体に触れたくないからちゃんと人間と同じ技術を持って体洗ってから出直してよね」


 何とか鼻を押さえ、いつものネットで返しているような減らず口で猛獣の人格、否、獣格を貶した時、奴の身体はあっさりと地面に倒れ、泡を吹いていた。

 まさかこうも簡単にいくとは、そもそも野生の生物ってそんなに自分の臭いとか気にしてるのか。


『やほやほ! どうやら早速勝てたみたいだね、えっと名前は……』


 論吉だ、その声はレオナか?


『そうそう! 凄いね、あっとういう間に一体倒しちゃうなんて、オルトロス、この世界じゃあ人間の上級兵士百人で歯向かっても掠り傷つけられないよ』


本当かよ、手ごたえが無さすぎだぜ神様、大体ネットの人間はある程度話し合いできるのがほとんどだったんだ、皆こんなのっていうのか。


『ははっ、それはまあ血の気が多い野生のオルトロスだからね、街に住んでいる亜人は多少知性が高い、特にエルフは人間とも敵対している上に知性が高いからね、絶対に近寄らないようこれだけは注意してね』


 よし、じゃあ行くか、そのエルフの所に。


『人の話聞いてた!?』


 どっち道会う事になるんだろ、それに本当にあいつらの頭がいいのなら人間は認めなくても俺は認めてくれるだろう、レベルが低い他の人間共とは違うんだから希少な価値だって事でな。


『いやー……向こうが敵対心剥き出しならその前に襲ってくると思うんだけど、野生のオルトロスと違ってエルフはそんな低レベルな攻撃じゃダメージを受ける事はないんだけどね』


 大丈夫だって、危なくなれば逃げればいいんだから、それよりエルフの場所はどこなんだ?


『……… そのまま北を真っ直ぐ行けば着くよ、城塞都市だからまずは門番から出し抜かなきゃね。でも本当に気を付けて、エルフは僕でも手を焼いたくらいの力を身に付けたんだ、この世界の神と全てのエルフが互角って事はどれだけ脅威か分かってるよね?』


 任せとけって!

 レオナとの会話は途切れ、俺はひたすら彼女の言う通りに真っ直ぐ歩く事となった。

 しばらくすると城塞都市が目に映る、それは思った以上にでかく街中は壁によって一切見る事ができなかった。

 彼らは一体何から身を守っているのだろう、なんにせよこのこの世界を少しずつ知っていくにはこの中にエルフを仲間に引き入れるのは不可欠だ。

 別に自分が人間と亜人達の架け橋なんて大層な事を考えている訳では無い、単にゲームなんかで見た事がある幻の生物を目の当たりにできるのは憧れでもあるのだ。


「そこのあんた! ここを入れてくれ!」

「っな!? ヒューマンが何故ここに……?」


 エルフの男は口を呆然と開けてその場で固まっていた、この反応からするに人間が絶滅したとでも思っているのだろうか。


「容赦はせん! 殺す!」

「おっかねえな、でも本当に良いのか? 俺に指一本でも触れればレオナを呼んで今すぐここを血祭にあげてやる、あの頃のようにな」

「な、何故貴様がそれを!?」


 『あの頃』というのは適当に出た言葉だったが予想通り狼狽えてやがる。

 そりゃあそうだよな、エルフ総力と神のレオナが互角となればこんな一匹のエルフくらい殺されても訳無い筈だ。レオナは確か『エルフは僕でも手を焼いたくらいの力を身に付けたんだ』、と言っていた。これは明らかに元格上の台詞、だとするならエルフが警戒しているのは間違いないと踏んだ。

 そして決めてはユニークスキル『言葉の力』だ、男エルフの体はブルブルと震えていた。


「今すぐ俺を客人として迎え入れろ、お前一人の対応で一国が滅ぶかもしれんのだ、急げ!!!」

「ひいっ!? しょ、少々お待ちを!!!」


 男エルフは門を開くと一人で城塞都市の中にへと消えてゆく。

 この城塞都市はあまりにも広く彼がもし代表的人間に報告しに行ったのだとするまでしばらく時間がかかる筈だ、俺はここでじっくりと待機する事となった。

 一番厄介なのはここから戦争になる事、エルフ一匹ならなんとか逃げる事ができたかもしれないが、戦闘モードのエルフが大量に押し寄せて来るのだとしたらこっちとしても逃げようがない。

 

 数時間が経った、そこに立っていた巨人が出入りするような扉が開かれ先程の門番である男エルフが出てくる。


「いいぞ、許可はもらった、入るがいい」

「利口な判断だ」


 レオナの言葉に釣られ勢いに乗ってきてしまったはいいが、喋りあいに発展しなければ俺は子供エルフにすら勝てる可能性は低いのだ。

 おまけに周囲のエルフは俺の方へ視線が釘付けと言わんばかりである、老けたじじいエルフにばばあエルフ、巨乳エルフまでいて千差万別だ。

 仮にいたずらで足を蹴られるなんて事があれば重症だろうな、まあそんな事滅多に無いだろう……。


「ヒューマン退治キーック!!!」

「へ? ぐぎゃああああああああああ」


 まるでこのためのフラグだったかのように、子供エルフが旗を回収しにくる。

 子供エルフは飛び蹴りを俺の膝関節部分に決め込み、勢いはしばらく止まる事なく膝に変な音が響いたのだった。気のせいじゃなくても折れてるに違いない、膝関節の下部分はブランブランと振り子のように左右へと揺れている。


「ぎゃああああああああああああ!!!」

「すっすみません! うちの弟がヤンチャなもんでして」

「バカ者!!! こいつはあのレオナと友好関係にあるのだぞ! 今すぐ治せ、治癒師(ヒーラー)は今すぐここに現れてこのヒューマンの怪我を治すのだ!」


 痛みを振り切って怒鳴り声をあげようとしたが、それよりも先に怒声を振りまいたのは門番エルフである。やはりレオナという存在はそれほどエルフにとって脅威的なのだな、感心はしたので今すぐ治して下さい、あまりの痛さに今にでも気がぶっ飛びそうです、何でもするのでどうかお願いします!!!


完全再生(パーフェクトリボーン)!!!」


 こんな危機的状況で大声をあげたのはさっき飛び蹴りを決めてきたクソガキを弟と言っていた女エルフだった。そんな厨二的な台詞いらないんで今すぐにでも治療してくれませんか、あまりの痛さに何もかもがやばいんです!!!


「ってあれ!?」

「ふう、治療完了です!」

「おお!」


 不思議と痛みは消え、立てるくらいまで足の骨は完治していた。

 これが魔法という奴だろうか、長ったらしい詠唱を言わず一節で発動しちまうなんて流石エルフだ。

 彼女が治した事で周りからは拍手喝采である、俺に向けてるのか彼女に向けているのかは分からないのでとりあえず右手を頭部に回して日本式の『どうもどうも』という素振りで頭を上下に二回小刻みに振ってみる。


 この女エルフは弟が生意気だがとても優秀だ、結果的にそれでプラスマイナスゼロという事で許してやる、処なのだが……胸があまりにもでかくビッチと言わんばかりに谷間を露出しているので結果的に今回の出来事はプラスと見積もってもいいところだろう。


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