異世界の神
ここは一体どこなのだろうか、俺は確かあのアニメ信者に殺されて……。
ネットではあまり狂信者を刺激しない、これはネットの初歩中の初歩なのだが俺はそんな事も忘れていたのか。しかし何も見えなかった暗闇だけの視界からは少しずつ色彩が露わとなってくる。
目前には人間、いやどこかがおかしい。
「僕のどこがおかしいっていうの? 僕はちゃんとした人間だよ」
「いや、お前は人間ではないだろどう考えても」
「どう考えても? 例えばどこら辺が人間じゃないの?」
何を俺は咄嗟に彼女の言葉に答えているのか、この矛盾に対しての違和感の相殺。
これは長年俺がネットをやってきて身に付けたものだ、ちょっとした違いが放っとけないのである。
俺と今喋っている彼女には頭に耳が生えていた、もうこの時点で人間じゃないというものだ。
だがそれだけじゃ根拠が足りない、人間の定義が頭の上に耳が生えていない事だと断定するのは明らかな決めつけだ、もしそういう例外がいるのだとするなら、そしてその例外が彼女なのかもしれないのだ。
「言ってみてよ~僕のどこら辺が人間じゃないっていうのさ?」
「人間の定義は……これだああ!!!」
俺は一直線に向かって右手を彼女のある部分に触れると共に勢いを殺す。
それは胸である、彼女のお胸は見事にぺったんこだった。
「ん? まあ確かに僕の胸は無いに等しいけど成長期かもよ」
「それだ! お前は何故俺が胸を触ったのに対して恥じていない」
「え? 恥じるのが人間っぽいの?」
やはり猫耳をつけた人間の皮を被った化け猫だった、恥じる事なんてありえない。
だが恥じないなんてのはビッチなら至極当然、彼女が間違いを起こしたのは人間がどうあるか俺に問うた事。
「へえ、だから僕は人間じゃないってことか」
「そしてお前は俺の心を読んでいる、これも人間の定義から言ってありえない!」
「はっはっはっは、そんな特殊能力持ってる人間かもよ、っていうのは野暮かもね、まあまあいいか。ようこそ僕の部屋へ」
認めた……やはり彼女は人間ではない、いやそれは当たり前の事か。
しかし当たり前の事ですら引き合いにだし議論を吹っかけてくるのはネット世界では日常茶飯事、はた迷惑というか完全な時間の無駄ではあるがなんとか揚げ足を取る材料は行動で露わにしなければならない。
「それであんたの目的はなんだ、ここはどこなんだ」
「あんたっていうのは堅苦しいからやめてよね、僕はレオナでいいよ」
「レオナか、俺の心が読めるのなら今俺が困惑しているのは分かるだろ」
「勿論分かるさ、だが君は鋭いから八割は君の今想像している事があってるよ」
俺の想像している事、それは大抵こういうパターンが来た場合はどこか別世界に連れていかれる。
頭がメルヘンなのは少し恥ずかしいが彼女が合っているというのなら大体そうか、そして剣士やら魔法やら場合によってはチート能力を手にいれられる筈だが……。
「はいそこ、ちっちっち、そこが違うんだよね」
「どこがだ」
「チートなんてありませ~ん、むしろ魔物達がチートすぎて僕としては少々厄介な世界にしちゃったんだよね」
何の話をしているのか、世界をめちゃくちゃ? こいつは神にでもなったつもりか?
「こいつじゃなくてレオナね、まあ神っていうのは半ばあってるけど半ば違うかな、君達の世界でいう運営というのがあっているよ」
だったら合ってるじゃないか、それにしても言葉が先々に読まれるのはなんとも気味が悪いな。
「運営ではあるんだけど直接干渉する事はできないんだよね、言うならば魔物や亜人、人間はプレイヤー? だからこそ遠回りで君のような立派な戦士を呼び寄せなければならないんだよね」
「俺が戦士? ニートで何の取柄も無い俺が?」
「そうは言うけれど君は心のどこかで自信を持っている、僕に隠し事は無駄だよ。僕は君を買っているんだ、現実世界で暴れたネットでは数々の伝説を残している、それにも関わらずスレスレの煽りで訴訟はされたことがない。二つ名は狂犬ストーム」
「うわあああああああああ、やめてくれえええええ、黒歴史を……」
「そんな効いちゃうなんて、この弱点は隠さないとね、本当に大丈夫?」
誰でも一つは傷は持っているものだと信じたいものだ、自称情強であるこの俺ですら感情的な部分を探られるのは古傷が痛むというものである。
俺の心が読めるのなら今すぐ俺の黒歴史を掘り返す行為はやめろ、今すぐやめろ!
「ははっ、まあ僕以外今から行く世界で君の過去を知る者はいないから安心してね」
「ほっ」
「君が今から行く世界は文字通り魔物が強くなりすぎた世界、人間は地図上に外れている隠された街にほとんどが住んでいる、勿論それ以外の街に住む者もいるにはいるけど誰も魔物達には手出しできない状況なんだ」
「それで、一体俺にどうやってその化け物共を倒せっていうんだ」
「君のステータスを開いて欲しい、念じれば出るようになっている」
なんだ、ステータスオープンとでも心の中で言えばいいのか?
次の瞬間目前に出てきたのは文字通りのステータス、文字が宙に浮いているため原理は分からないが手で触れても透き通り、引き離しても文字が表記されていた。
蜂内 論吉(21) ←おっと、これは俺の本名である。
攻撃10
耐久 15
・
・
・
どれもこれも非常に微妙である、だがユニークスキルと書かれているものは読むのも面倒な程溢れていた。
言葉の力、神語、エルフ語、ヒューマン語、ドワーフ語、ビースト語、魔族語……。これの100倍くらいの文字が書かれていたのでここら辺で読むのはやめておこう。
「ついでに今僕と喋れているのも神語を君が習得しているからだよ、僕は日本語が喋れないからね、君は相手の波長に合わそうとするだけで瞬時にユニークスキルが発動される訳だよ、そして君が言葉で相手を負かす事ができたら言葉の力が発動し僕みたく体力が削られるんだ」
「おいおい大丈夫かよ、どの世界であれ神に歯向かうなんて縁起が悪いぞ」
「それは大丈夫、とりあえず君には人間と亜人達が平和を保てる均衡を保つ要となってほしいんだよ! 行ってくれるよね?」
「どうせ拒否権は無いんだろ、それに俺は言葉でねじ伏せたつもりが暴力という最も下らないもので人生が終了したんだ、言葉が暴力と同等になるのならその世界に行くのも悪くないね」
「君ならそういうと思ってたよ、じゃあもう一度眠ってもらうよ」
彼女が俺の瞼に手の平を当て視界を塞ぐ、それは人間の手では無かったがどこか温かい。
レオナという女は何かをブツブツと言っていたが、彼女の声が聞こえると共に瞼にあった温かい感触は消えていた。
「ここが異世界ねえ……」
ガルル……!!!
それは突如として聞こえた猛獣のような響き、これが人間じゃないという事は言うまでもないか。
「ニンゲン……コロス……」
「おいおい、いきなり物騒な魔族だな、さて、やりますか」