プロローグ「狂信者を刺激させすぎるのは良くない」
インターネットを手にしたのはいつだったか、LINEなどのSNSがまだできていない頃俺はパソコンというものに熱中していた。2013年末は5000万人を超す人口がSNSをやっていた事になるが、それよりももっと前のネットはまだ娯楽がオンラインゲームと掲示板サイトばかりだった。
そんな時代、小学生低学年から外にも遊ばず廃人の如くインターネットというものの魅力に気付かされた俺は、ただひたすらパソコンの前で一日中ゲーム、他の友人達はスマ○ラなどに夢中になっていた筈だ(勿論俺もやっていたのだが)。
「『今期アニメは外ればかりです、まあ原作はざっと目を通しましたがほとんどアレなものが多いので、見る価値はないですよ』っと、送信!」
長い事誰もいない一人部屋に居座ってパソコンをカタカタ打っているとつい声に出てしまうものである。
今俺が何をしているかというと今期アニメをサラッとディすったのだ、本来アニメは楽しむためにあるが今期は言わずもがな外れ、誰でもそんな事は分かっている事だろう。
しかし……。
『それはあなたの意見ですよね、今期アニメは異世界~~もあるので完璧だと思うのですが』
やれやれ、こういう輩はたまにいるものだ、あなたの意見ですね理論。
勿論これは自分の持論、そして相手の持論も貶すつもりはないのだがこれは俺の書き込み。
「『これは俺の書き込みです、だとするなら自由の筈。あなたにどうこういわれる筋合いはない。それと異世界~~は紛れもないク○です』送信っと!」
まあ確かに彼が怒る理由も分からなくもない、俺も好きなアニメを批判されれば恐らくムクっとしてしまうだろう、だが子供の如く八つ当たりのように書き込む事は当然ない。
嫌なら見るなとまでは言わないが俺は居酒屋でぶつぶつ独り言を呟いているようなものなのだ、だとするならばそこに突っかかっていくのはもはや価値観の押しつけ。
こういう輩がいるからこそアニオタは嫌われるんじゃないかと個人的に俺はそう考える。
『あなたネットでイキってクソきもいです、どうか○んでください』
はあ……。何をアニメにここまで真剣になる必要がある、大体作品を貶すという事は法律的に禁止はされてないのだ、表現の自由は憲法にも書かれているのに何故ここまで突っかかってくるのか。
まあこいつには何を言っても水掛け論になるだろう、それに俺を登録してくれている方々にもこんな争いを見せれば申し訳が立たない。
一体こんな信者を生み出してしまってるこの異世界なんたらの作者はどんな呟きをしているのやら。
あなたはブロックされています。
こいつ……俺が見ていたアニメの作者がまさかの俺をブロックしやがった……。
一体理由はなんなんだ、こいつに突っかかった覚えはないぞ。
別垢を開き、即その作者を開けば衝撃の言葉が出てくる。
『私の作品をディすった奴がいたからそいつをブロックしてやりました笑』
プロとしての自覚が全くないのか、仮にもあんた作家だろう。
憤怒に憤怒を重ねた俺はパソコンにあれこれと奴の悪口を書く事を決意した。
「『異世界~~なんたらの作者がこの俺をブロックした、理由は自分の作品を貶されたかららしい、彼にプロとしての自覚はあるのやら?』送信っと」
プロとしての自覚は即ちファンを裏切らないという事にある、俺もこのアニメを見ていたのなら一応彼のファンだった筈だ。もし俺が彼の小説を読んでいたらどうなっていたのか彼は想像しただろうか、ここまでの俺の言い分は何も悪くない筈。
『あなたなんですかその書き込みは、完全に馬鹿にしてますよね?』
なんだ、さっきの異世界~~の信者か。
こいつとの会話は一応冷戦に終わった筈だ、という事はこの発言が彼の怒りを再熱させてしまったのか。
『あなたの画像一覧を見ていて家を特定しましたよ、○○区○○○○ー○ー○○ですね、大人しくそこで待っていて下さい』
な、何を言っているのだこいつは。これは紛れもない俺の住所だ、そういえば鍵は!?
鍵が空いている、急いで閉めなければ。
こんな一大事今までに起きたことがない、とにかく鍵を閉めて警察に電話電話、これは紛れもない脅迫な筈……。
だがしかし扉の鍵を俺が閉める前に誰かに開けられる、そして鋭利なナイフが俺の心臓に向かって突き刺さった。
「信者を敵に回すとこうなるんだよ、覚えとけクソがっ!!!」