ベルりんの壁
山田ベルちゃんのことを僕は『ベルりん』と呼んでいるが、僕にも誰にも一切、心を開かない。
山田の山という漢字の左側のくぼみに僕らが居て、右側のくぼみに山田さんがいる感じだ。
僕と山田さんは同じアパート。
山田の田という漢字で説明すると、僕が二階の右の部屋で、山田さんは一階の左の部屋だ。
僕と山田さんの心もそんな感じだ。
『心』という漢字には本来、山田の『田』のように完全に覆われている空間、いわゆる密室はない。
だが、山田さんの『心』は上と右にある二つの線が中心に寄り過ぎていて『心』は塞がってしまっている。
僕たち二人は『二』という漢字の線のようなもので、このままでは上の僕と下の山田さんが永遠に交わることはない。
飄飄としている山田さんは『飄飄』という漢字のような密集した場所を嫌うが、僕も少しだけ分かる気がする。
ただ、周りにいる人々は『人々』という漢字の通り、優しい印象で全然難しくないということを分かってもらいたい。
山田さんの故郷のドイツは漢字で『独逸』と書くが、いつの日か山田さんが独りを逸することが出来るようにと祈っている。
幼馴染みの僕はベルりんと隣り合うその日まで、呼び鈴を鳴らし続ける。